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DeNA、朝日新聞社等から資金調達。イラスト・マンガが無料で学べる動画サイトPalmie(パルミー)とは?

2016.09.12 

漫画家になりたいと思って福岡から東京の美大へ入学し、行き着いた仕事はなんと起業家。

今回インタビューした伊藤貴広さんは、動画配信によって自宅にいながらイラストやマンガの描き方を学べるPalmie(パルミー)というサイトを運営しています。どのような思いで事業をスタートし、これからの未来をつくろうとしているのかお聞きしました。

伊藤 貴広さん

株式会社パルミー代表・伊藤 貴広さん

Palmieは「未来の手塚治虫」を育てる事業

― はじめにPalmieの事業内容について教えてください。

 

イラストやマンガの描き方を動画で学べるPalmie(パルミー)というWEBサイトを運営しています。ネットに繋がりさえすれば、漫画家やクリエイターを目指す方が全国どこからでも、いつでも絵を学ぶことができるサイトです。

無料の動画に加えて、より実践的な内容が学べる「プレミアム講座」では生放送での授業を行っていて、自宅にいながら第一線のクリエイターに質問をしたりしながら絵の描き方を学ぶことができます。

Palmie(パルミー)サービスイメージ

Palmie(パルミー)サービスイメージ

カリキュラムページ

無料で体系的に学習できるカリキュラムページ

僕はこの事業を通じて、生まれた場所や経済的な理由、時間の問題などで絵の学校に通えない方たちが持つ「クリエイターを目指すスタートラインにすら立てない」という課題を、インターネットを使って解決することを目指しています。

 

― この事業はどんな未来をつくろうとしているのでしょうか? たとえば10年後、どうありたいというビジョンはありますか?

 

10年後の環境というのは、大学に通って就職するという流れではなく必要な能力を自分に合ったかたちで身につけて仕事をする、という状況が当たり前になっていると思います。そんななかでPalmieは、漫画家やイラストレーター、アニメーターなどを養成するオンラインスクールNo.1になろうとしているんです。そういう意味で、Palmieという事業は「未来の手塚治虫」を育てる事業だと自負しています! 伊藤さん

人生の大きな転機は、ONE PIECEとの出会いと美大に入学してからの違和感

― なぜイラストや漫画を軸として事業をはじめようと思ったのでしょうか?

 

もともとは、自分自身が漫画家になりたかったことが原点になっています。小学生のときに友達にONE PIECEを借りて読んだらすごく面白くて。それがきっかけで漫画を描きはじめたんです。昔から絵を描くのは好きでしたが、ONE PIECEを読んだときに初めて、自分が想像していることを、こういうかたちで表現できるんだなとピンとくるものがありました。それで小・中・高と漫画を描き続けて、最終的には福岡から東京の美大に進学することを決めました。

 

― 美大には進学されて、最終的には漫画家ではなく起業家になったんですね。これはなぜでしょうか?

 

大学入学後、けっこう頑張って出版社へ持ち込みを続けたのですが駄目だった…というのもあるのですが(笑)、いざ美大に入学してみると違和感があった、というのが僕の1つの転換点になりました。僕自身が高校は理系だったからというのもあるかもしれませんが、美大の環境では内輪で固まりがちな感じがしてしまって…。美大生以外から特殊な目で見られることも少なくないですし、自分の絵をわかってもらえない、みたいな意識もあるのかもしれません。

そんな違和感から、美大以外の学生と喋りたいと思って学外のイベントサークルに入りました。サークルに入ったことは、すごく良いきっかけになりました。絵の話とかあんまり出てこないですし(笑)、それぞれが違った関心あることをやっていて、面白いなと思って。起業したり、留学したり、ですね。僕にとっては、「そんなことできるんだな」とすごく新鮮でした。そこで、起業という選択肢がはじめて身近になりました。「会社って意外につくれちゃうんだなー」と。

ただ、その時点では実行するまでには至らなかったです。 会社をつくった人たちと話していて、自分もテーマを持っていたし起業には憧れたのですが、自分と相手の能力を比較してやっぱり起業家はロジカルという意味で頭がいいな、自分は力不足だなと感じてしまって。当時は、「自分とは違うな」という気持ちが先行していました。一方でそうした経験をきっかけに、まずはちゃんとビジネスを学びたいなと思い、DeNAに入社することに決めたんです。 伊藤さん ― DeNAに入社されていかがでしたか?

 

DeNAでの経験は、今のところ人生のなかでも1番の転換点です。最初の1年目は同期のなかでもダントツに仕事ができなくって……。友人と飲んだりしたときや仕事中にトイレで泣いたりしていました(笑)。仕事が進められないのもそうですし、同僚との会話でも「伊藤の日本語はよくわからない」と日本人に言われて、悔しさや情けなさでとてもつらかったですね。

でもここで辞めたらビジネスマンとして絶対モノにならないなと思っていたので、とにかく必死に頑張りました。振り返ってみて、この期間はとても貴重だったと思います。この経験がなかったら、自分で事業をつくることもできなかったと思います。

自分に正直に考えれば、会社や仕事をつくることは自然なことだと思えた

― 独立起業されるまでは、どのような道のりを歩まれたのでしょうか?

 

3年で独立しようと考えていましたが、最終的にはDeNAに4年弱いました。アバターの事業や新規のアプリとかも作ったんですけど、最後の方はクリエイターの支援をやらせていただいていました。そのときはもう、今の会社と掛け持ちで仕事をやらせていただいて。 そのゲームを作ったときに感じたのが、イラストレーターの名前が表に出てこないことに対する違和感です。

社内のクリエイターの人たちが個人の名前で勝負できず、クリエイターとしての認知が広まらないんですね。展覧会を開くなど、その人たちの名前を出していく必要があると思いました。そういったIT業界におけるクリエイターの地位向上を、DeNAやほかの会社を引き込んでやっていました。 なので、会社員からいきなり起業家になったわけではなく並行しつつの独立で、テーマも「クリエイター支援」という視点でみたら、アプローチ方法は変わりましたが変わっていません。 伊藤さん ― 事業をはじめるときは、どなたに相談しましたか?

 

まずは事業としてやっていけるのかを判断したいと思い、投資家や色々な会社の社長に相談をしました。そういったディスカッションをするなかで、なんとかやっていけるかなと思ったので、一緒に仕事をしたことがあるエンジニアに声をかけてPalmieのプロトタイプをつくりはじめました。

 

― 「クリエイター支援」自体はDeNAでもできていたのに、退職されて自分で新しい事業をはじめる際に迷いはありませんでしたか?

 

自分に対して素直に考えると、起業してPalmieをつくることは正しいと思えたので事業自体には不安はありませんでした。 人に言われたことをやるよりも、自分で何か考えてやった方が楽しいという原体験の影響が大きかったと思います。

それは、小学校や中学校に通っていたときに、例えば文化祭で必要な装飾があって、それを誰かに指示されてパーツを塗るよりも、自分で装飾全体をデザインして皆で作っていく方が楽しいと感じる……みたいなものですが、自分に正直に考えれば、会社や仕事をつくることは自然なことだと思えたんです。

そういった部分と、自分が漫画家を目指していたときに感じた課題感、福岡の田舎で本を頼って絵を学ぶしかなくて、筆の動きが分かりづらかったり編集が悪いと工程が理解しづらくて、田舎にいるだけでリアルな学びの場がたくさんある都会の人たちと差がついてしまうという憤りが重なって、当時の自分が喜んでくれるものをつくろうと会社をつくりました。

逆に不安だったのは、会社を辞めることで経済的に不安定になることや自分の人材価値が下がるのではといったことでした。とはいえ、経済的な不安については自分が自由に使えるお金が減るだけなので、とるべきリスクかなと割り切れました。人材価値については、起業前に実際に興味のある会社を2社受けたら受かったのと、起業当時26歳だったので後からどうとでもなるだろうと思って自分の気持ちを保っていました。 伊藤さん

「無料で絵が学べる神サイト」は自分がほしかった未来

― 動画によるサービスという現在の事業のかたちに至ったのは、そういったご経験からだったのですね。

 

もちろん、横にいて実践してくれるのが一番いいんですけど、動画は僕自身が福岡で困っていたことを十分解消してくれるし、多くの人にとって役立つ自信があったんです。

 

― いざ事業を立ち上げるとなると困難は付き物だと思いますが、これまでに苦労された点はどのようなことだったのでしょうか?

 

これまで事業が成り立たなくなるような、いわゆる「ピンチ」みたいなものはありませんでした。そういった大きな課題ではなく、もっと小さな課題がとめどなく常に降りかかってくるというのがスタートアップなのかなという感じがしています。

そうした小さな課題に対して決まった答えがあるわけではないので、いかに確からしい答えをテンポよく出していくかが大事なのかなと思っています。例えば、デザイナーがいない問題をどうするかとか、3か月後にキャッシュが尽きるとか、そういうことを淡々と解決していく以外に前に進む方法はないのかなと。

 

― 想定外の課題を日々解消するという大変な面がある一方で、それを乗り越えたときには達成感も大きそうですね。どんなときが仕事をしていて楽しいですか?

 

事業をやっていて楽しいのは、自分が本当に必要だと感じるプロダクトを自らつくって、それが利用者の方に受け入れられるときですね。例えば毎月の利用者数が増えるといった定量的な部分もそうですし、Twitterなんかで「無料で絵が学べる神サイト」と口コミが広がっていく様子を見るのもとても楽しいです。

僕自身も大学まで漫画家を目指していたわけですが、その頃にはPalmieのようなサービスはなくて。自分がほしかった未来を自分でつくっているという楽しさを感じて事業をやれているのは本当に幸せです。 伊藤さん ― 未来を自分で作っている……非常に手応えがありそうですね!

 

そうですね。それにこれからの時代、動画や生放送で学ぶスタイルがもっと一般的になれば、学び方の常識そのものが変わっていくと思うんです。クリエイターという職業に関わらずだと思いますが、例えば今はアメリカの大学が授業をすべてオンラインで、しかも無料で見られるようにしていたりするじゃないですか。

これが何を意味するかというと、大学は通って学位をとって、という常識が変わろうとしているんじゃないかと思っています。そうするとクリエイターだって、今後は大学で学んでいくのかというと、そうではないかもしれない。そもそも仕事をするにしたって、クラウドソーシングみたいなかたちでできる業務だって今ならたくさんありますから。

 

― となると、これからのクリエイター支援という観点では、どんなことが必要になってくるのでしょうか?

 

ビジネスを理解できるクリエイターが多くなるといいなと思います。日本の出版社が海外に相手にされない理由の1つに、ビジネスモデルを構築できないということがあります。アニメや映画もそういうケースが多いんです。日本のもったいないところは、つくる人の割合は多いのに、ビジネスに結びつけられないから、書いて終わっちゃうんですよ。

版権をハリウッドが買って大きい方法で儲ける…までスケールが大きくなくとも、絵を描く人のこともわかっていて、ビジネスを組み立てられる人が増えると良いと思います。TwitterやLINEスタンプのような稼ぎ口もすごく増えていますから、やり方次第で活動の幅は広がるはずなんです。

クリエイターの人たちは、契約書のチェックとか、下手するとメールを返すこともできないケースがあるので、わかる人とタッグを組んでいけたらいいと思います。僕らとしては、こうした点をまずは動画の授業を活用して、クリエイターさん自身に知ってもらうという支援は必要になってくるのではと思っています。

事業をつくることで、「ピカソになりたい」。

― 今事業に取り組む中で、影響を受けているものはありますか?

 

僕は、ずっと「ピカソのようになりたい」と思っていて…あと岡本太郎さんも大好きで。もちろん彼らと直接話して何かをもらったことはありませんが、彼らの作品から一方的にバトンを剥ぎとって頑張っている感じはしています。彼らの作品を見ると、一瞬で魂を鷲掴みにされた感じがするんです。そういった経験からも、「綺麗なものをつくりたい」という感覚とは違ったものを持っていて。

たとえば、ピカソの作品は「上手だな」という感じはしないじゃないじゃないですか?(笑)。けれど、なぜか人の心を動かす凄さがある。そういった心に触れる作品は、言い換えればコミュニケーションができる作品だと思うんです。起業家にとっては、サービスでしょうか。そして、そういうものが本質的に美しいのかなと思っています。僕はそういう意味で、「美しいものをつくりたい」と思っているんです。 結果的に漫画ではそれが実現できなかったんですが、自分がつくる事業では彼らのように人の心に触れるものがつくれると信じて、チャレンジしているところです。 伊藤さん ― 最後の質問です。もしも今、18歳の自分に会ったらどんなアドバイスをしますか?

 

人と違う視点を持つことと、自分に素直にやっていくことを勧めたいですね。例えば最近はプログラミング教育が盛んで、義務教育にも入っていますが、「自分もプログラマーとして活躍するぜ!」というよりは、増えていくプログラマーをどう活かすか、活かせる側にいくかというような一味違った視点で世の中を見た方がおもしろいと感じているので。

あとは素直さですね。子どものころに色々な漫画やアニメが勇気やチャレンジの大事さを教えてくれているのに、大人になると「それは漫画の世界だから…」と切り離して考えてしまいます。せっかく学んだ大事なことを曲げてしまうのはもったいないので、子どものころに学んだ大事なことをそのまま素直に考えてやっていけばいいと伝えたいです。

起業して事業をやっていく楽しさは、自分がつくりたい未来を自分でつくれるということに尽きます。自分のなかで旬ではない仕事に時間を費やしてしまうのって、全然ワクワクしないですよね。自分がイケてると素直に思えることを1番やりやすいのが起業というかたちだと思うので、その点をオススメしたいです。

 

― ありがとうございました!

株式会社パルミー 代表/伊藤貴広

1988年生まれ。福岡県出身。幼い頃より絵を描くことが好きで漫画家を志し、武蔵野美術大学造形学部に入学。上京したことで起業家という職業を知り、大学卒業後、起業とビジネスへの興味から株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。mobageアバターサービスのチームリーダー、新規アプリのプロデューサーを経験。2014年DeNAを退職し、同年10月に株式会社SUPERFLATを創業。マンガやイラストの描き方が学べるPalmie(パルミー)を運営中。日本のマンガ文化と共にグローバルサービスを目指す。TOKYO STARTUP GATEWAY2014ファイナリスト。

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この記事を書いたユーザー
村上 萌

村上 萌

1988年静岡県生まれ。高校卒業後、管楽器の修理人を3年間経験後一念発起して大学へ。法政大学卒業後は人材系企業で自社運営の新卒採用求人サイトの大学・学生向けプロモーションや、中途採用人材紹介の法人営業に従事。2015年3月より、配偶者の転勤により南アフリカ共和国在住。現在はクラウドソーシングでコラム執筆などを行っている。

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