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「中国のリーダー達の"大局観"」沸き立つアジアのソーシャルアントレプレナーたち(2)加藤轍生さん寄稿

2014.03.28 197view 

前編:「なぜ、僕は社会起業家に投資するのか?」沸き立つアジアのソーシャルアントレプレナーたち(1)

もし、世界が10倍の早さで変わるとすれば

ここ最近の日本の経済成長率は、1%前後をうろうろしているけれど、途上国の経済成長は、時に10%を越える早さだ。今日の市場と明日の市場は連続していない。今年あったことが、来年もあるのだ、という前提にたった戦略は意味をもたない。高度経済成長と人口爆発を同時に迎える途上国では、購買の意志決定者そのものがころころ変わる。貧困層は明日の中間層であり、出稼ぎ労働者は明日の起業家だ。ふと目を外した隙に、世界は変わっていて、僕らが「進んでいる」と思っていた場所は、もう周回遅れになっているかもしれない。

台頭する中国の社会起業家たち

さて、話を始めるのは中国からにしよう。単純に、他を圧倒するスピードで社会が変わり始めているからだ。ご存じだろうか?世界の貧困層の減少の大半は中国で起こったのだ、ということを(例えば、Chen & Ravallion 2008 を読んでほしい)。その意味では、中国政府は効率よく機能している。

だが、社会問題の多様化と格差の拡大の中で、中国の社会的事業は更なる進展を迫られている。個人的な印象では、社会起業の発信源であるアメリカやイギリスよりもその速度は速いかもしれない。それを可能にしたのは、世界の他の地域と大きく異なる社会的背景にあった。ソーシャル・アントレプレナーシップというコンセプトが、「成功した」アントレプレナーたちとこれから挑戦する若者たちに”同時”に受け入れられつつあるのは中国特有の状況でもある。高度資本主義の浸透と、社会起業の普及が同時に起こっているのだ。

これは、日本で言えば、現在の「社会起業家」と呼ばれる30代前後のプレイヤーの一つ上の世代に松下幸之助や稲森和夫が居て、必要とあれば直談判できる、というような距離感を想像すればいい。まさに松下幸之助が「水道哲学」で挑戦したように、財界の力あるリーダーたちがそれぞれの感覚で社会性と収益性を両立させようとしていたのだ。

中国社会起業家たちの思考回路

中国の新しい幕開けを象徴するのは、中国のマイクロファイナンスや社会的投資の先駆者となった富平学校の沈東曙だ。彼は世代を越えた社会企業のムーブメントをつくろうとしている振付師の一人だ。彼は成功した起業家でもあり、中国のファイナンシャルセクターを牽引する若きトップエリートの一人だった。彼は北京大学を飛び級で卒業、フルブライト奨学金に選ばれ、天安門事件で中米関係が悪化し、ビジネスの道へ。起業家として成功を修め、そして、シティバンク・チャイナの創設メンバーの一人へ。

日本を代表する環境教育のプレイヤー、ホールアースを訪れた際の沈東曙。左が沈氏。次世代の若手を連れて、日本のモデルを回った。2009年

これを聞けば、沈のことを「天才」と理解してしまって、彼の成功を彼だからできる、と理解して終わることも多い。ただ、彼は自分の能力で成し遂げる程度の何かを面白いと思う男ではなかった。沈は「ソーシャル・インダストリーを創ることだ、そこからだよね」と僕に語った。

沈は壮大な目標を掲げるがゆえに、力ある人々と共に歩まねばないという前提に立つ。彼は、中国を代表する経済学者、茅于?の「中国の貧困を解消する」という理念の継承者という立ち位置を選んだ。中国全域の貧困層に資するには、中国財界の重鎮たちを巻き込んで、ようやくことが始まり出す、と沈は考えていた。彼は常に、自身の能力を遙かに超えた目標を設定する。そして、愚直に全力を尽くす。その余白に可能性を感じた、中国のリーダー達が集まる。そこに強いチームが産まれ、さらに、彼はスピードを上げていく。とてもシンプルなアプローチだ。

スケールを構想するのは簡単なことだけれど、それに備える、というのはとても難しい。例えば、米国半導体メーカー・インテル創業者のアンディ・グローブが ”パラノイア(偏執症)”という言葉を使ったのは、正気では利害関係にとらわれた意志決定しかできないからだ。それは、起業家も決して例外ではない。

沈は備えるということに対して戦略的だった。ボードメンバー(理事会)に巨大ITベンチャー・アリババの創業者ジャック・マーを招待し、また、マイクロファイナンスの法制度化に富平学校参画時から時間をかけた。それはあくまで、構造的な変化を予期していたからであり、そして、迫り来る拡大に耐え、成長を共にする人を選び、失敗も含めた試行錯誤を繰り返していた。世界を本当に変えつつある社会起業家を見ると、いいところまで来るには、やはり10年かけている。3年で変えれることと、10年で変えれることは違う。

沈から僕が教わったのは、10年の賭け方だかもしれない。未来を想像し、それに身を委ねる。そして自分と同じくらいの力のパートナーを選ぶのではなく、自分よりずっと前に進んでいる人を選んでチームを創るということだった。(富平学校の詳細は著書、「辺境から世界を変える」を読んで頂くと有り難い。)

更なる新世代の台頭 人生の意味は何か、と問い始めた中国の若者たち

そういった、中国の第ゼロ世代の社会起業家たちに加え、彼らが作り出した波の上で新たなイノベーションを目論む若手が続々と加わりつつある。どこの国に行ってもこの社会起業という領域に飛び込む若者たちの多さ、そして、彼らのしなやかさには感嘆するばかりだ。NGO上がりから、はたまた、国際機関を辞めたり、ビジネスセクターを早々と卒業したプレイヤーたち。バックグラウンドや経済発展の度合いによって毛色は違うが、社会を変えるには、自分の人生を全うするには、このアプローチなのだ、という確信めいた選択をしてきた連中ばかりだ。

中国のソーシャル・アントレプレナーの裾野を理解するためにも、社会創新中心という新興の社会起業のインキュベーション組織が主催したアワードの受賞リストを見てみよう。以下は、一部を抜粋して翻訳したものだ。

・一万人の移民女性に対するオンライン・トレーニング ・P2P型の奨学金 ・インターネットを通じたボランティア学習の機会提供 ・NPOのためのクラウド翻訳システム ・農村部の建設需要に対するICT ・難病のための病院ネットワーク ・ウェブベースの植林プラットフォーム ・都市交通における二酸化炭素計測システム ・貧困削減のための参加型アプローチ ・聴覚障害者のための職業訓練

国や地域によって、流行の社会起業の傾向というのは、たしかにある。しかし、中国のそれは、もっと、混沌としたものだった。ベーシック・ヒューマン・ニーズ(衣食住にはじまる基本的な人間のニーズ)のような、途上国でありがちな問題のフレームじゃなくて、先進国にありがちなマイナーな問題へのフォーカスでもなく、自分たちが変えたいと思う、1番大きな問題。そんなまなざしを確かに感じる。「ITはITの業界だ、」「インフラは土建屋がやればいい」、「植林はボランティアのためのもの」、「障碍者は戦力にならない」、そんな、「あたりまえ」はまだない。

そう思わせてくれたのは、?吟という女性だ。彼女と出会ったのはタイで行われたソーシャル・イノベーションの国際会議だった。皆が「きれいな」プレゼンテーションをこなしていく中、彼女のプレゼンテーションは際だっていた。未知なる出会いが、新しい変革を生むんじゃないか、そんな信念をもって、彼女は闘っていた。「計画する、計画できるなんてことはほとんど意味がないんだ、プロセスも、成果も、Unknown(未知)でいいんだ」

?吟はそう言って、自身のプレゼンテーションを終えた。後で聞くと、40名の参加者を集め、48時間で5つのアプリケーション、ウェアラブル・コンピューティングのデバイスが開発されたという。これは、エンジニアやアントレプレナーが集中作業してプロトタイプを開発するハッカソンと呼ばれる類のプログラムだ。マラソンとハッキングを掛け合わせた造語だが、彼女は、これを中国の社会問題、そして、ソーシャル・イノベーションを生み出すには、最高の入り口と捉え、まずはやってみせれるものを大量に、そして、一気に創り出すということを選んだ。

48時間で開発をやってのける、ということを経験した、中国のエンジニア達はさらに進んでいくのだろう。日本国内では、まだまだITと社会起業の距離は遠いが、アジアの多くの国では、状況は逆転している。社会起業、もしくは、社会の問題解決の手法としての技術、そのコンテクストがゆるく共有され、そこから新しいアプリケーションやサービスが続々と産まれつつある。技術を追い風にする、というのはすべてのアントレプレナーが考慮すべき原理の一つだ。

?吟のプレゼンテーションのスライドから抜粋したもの。こんなプレゼンテーションを国際会議で堂々とする彼女が面白くて、彼女を訪ねて北京に遊びに行くことにした。

「自分の人生の意味って何なんだろう」

?吟は、自身にこう問いかける。?吟は英国に留学して、コミュニケーション政策を学び、中国に戻ってメディアでの情報発信やイベントのプロデュースの経験を積んだ女性だ。それは、彼女が娘の出産を終え、次の挑戦を探して居たタイミングだった。彼女は、インテル・チャイナと協働し、起業家やエンジニアの化学反応のための場を始める。

その背景には、剥き出しの社会問題と高度経済成長のジレンマがあった。あたりまえの安全、安心、そして、環境問題。かつて世界最大の貧困層を抱えた国では、経済格差や所得の向上のみならず、社会を社会としてどうつくっていくのか、そして、急速に高齢化を迎える貧困層を抱え、脆弱な社会福祉のもとに、社会を社会としてどう維持していくかという現実がある。中国の社会起業家たちはそれに向き合っている。

その後、彼女は息子を産んだ。そのタイミングで、子どもの将来と社会の未来を紐付けて考え始めた。バブル経済だけではなくて、食の安心、コミュニティの問題、格差、福祉、教育、安全。剥き出しの問題が今にもはじけ飛びそうな状況が続いている。彼女の人生の意味が、母親としての未来、自らのリーダーとしての未来と重なった。アジアの大都市で暮らす僕の友人達は「子供達のためには、未来をつくる必要がある」と口を揃えたように言う。彼女は楽しそうに、各国からのアントレプレナーの席を巡り、「何ができると思う?あなたはどうしてこの道を選んだの?」と尋ね回っていた。そんな彼女はワインを飲み過ぎて、真っ赤な顔をしながら、ケラケラと笑う。「この仕事、楽しいよね」と。

中国の若きリーダー達と話すと、大局観のようなものを確かに感じる。時間的視野が長く、自分たちが考え至らないことがある、という前提で物を考える。?吟はたしかに、その一人で、自分ができることよりもできないことを。わかることよりもわからないことを愛していた。

これは、中国だけで起こっていることではない。アジアのほぼすべての地域で、違った色彩を見せながら、社会起業というムーブメントは加速化しつつある。これから、東南アジア、南アジアで起きている出来事にも触れながら、アジアの今起こっている変化を紹介していこう。

前編:「なぜ、僕は社会起業家に投資するのか?」沸き立つアジアのソーシャルアントレプレナーたち(1)

この記事を書いたユーザー

加藤 轍生

加藤 轍生

WIA Lab Inc.代表取締役/1980年大阪市に生まれる。喘息患者として公害病認定され、小学校時代の3年間を療養生活に費やす。経済成長の渦中のアジアを旅する中で、過去の日本と同じ構造の社会問題が再生産されているにも関わらず、それを解決するイノベーションが移転されてないことを知る。 大学在学中より、独立系のベンチャーキャピタルで事業開発の経験を積み、経営コンサルタントとして独立。その後、非営利セクターの事業開発に転じる。09年より、アジア圏での事業開発に軸足を移し、2011年に震災復興に挑戦する社会起業家への投資を行うWorld in Asiaを立ち上げ。以降、アジアの社会的投資のアクターとして活動する。著書に「辺境から世界を変える」(ダイヤモンド社)

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