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「巨大化する南アジアの社会的企業と金融の混血化」沸き立つアジアのソーシャルアントレプレナーたち(4)加藤轍生さん寄稿

2014.05.16 133view 

あらゆるビジネスプレイヤーは新興国で台頭する巨人たちや世界中の飢えた野心的なアントレプレナーたちと競争するしかなくなってきた。組織の中の細かい葛藤なんて置いておいて、ソーシャル・イノベーションにあこがれるなら、前線に身をおいてみるといいのではないか、と思うのだ。

アジアを周る中で、僕が驚いたのは、遠隔教育や遠隔医療のイノベーションの多くが南アジアの貧国地域から生まれていることだった。世界最大のNGO、BRAC(ブラック)は12万人を雇用し、1億3500万人に人口にサービスを提供する、事業規模79億円の組織体だ。この規模になれば、投資戦略を考え始める。そして、BRACは米国のベンチャーキャピタルとの合弁企業を設立してワイヤレスの通信網をアジアの最貧国バングラデシュ全土に張り巡らせようとする。南アジアでは、NGOを主要なビジネスプレイヤーの一人で、むしろ、彼らを抜きにゲームを考える方が不自然だったりする。

ソーシャル・イノベーションの聖地はむしろ、途上国にあった

イノベーションのインパクトをもし計れるとすれば、もっとも上手く行っているのは南アジアじゃないだろうか。個人的な認識では、インドとバングラデシュがもっとも進んでいる。好奇心だけを求めるなら、シリコンバレーよりずっと面白いと思う。

世界の人々に奉仕するような技術や製品をというスローガンで「90%の人たちのためのデザイン」なんて言葉がはやっていたけれど、インドの社会起業家たちは、「イノベーションを富裕層に独占させない」というスタンスがとても強い。例えば、個人的にも親しくしている「ドリシテ」という企業の進化は盲信から始まった。彼らはインドの貧困層、インドの僻地に住む貧しい人々が、文化的で健康的かつ持続可能な暮らしをするにはどうすればいいか、と考えた。

彼らは、流通網が必要だ、という結論に達した。経済原理にまかせていては届かない僻地に物流のネットワークを築き上げようとした。全くもって、非合理な発想だった。都市ですら流通網が未熟な時代に、あえて、僻地だけを対象にビジネスを始めた。

利益を出すのに10年かかった。しかし、彼等は、そこに市場があるということを証明した。インドの市場の半数は農村部にあった。そこにもし物流網を築き上げることができれば、彼らは市場の趨勢を決める唯一のプレイヤーになる。彼らは築き上げた「パイプライン」を武器に、農村に求められる資本、物資、知識を提供し始めた。僕が最初にドリシテを訪問した2010年には、その仕組みが形を見せ始めていた。昨年、再会した際には、ドリシテはインド政府と連携し、数百万人規模(インド政府のターゲットは億人規模だ)の職業訓練に挑戦していた。

彼等は現代社会から隔絶された地域にイノベーションを運ぶ、新たなパイオニアになった。彼等のアプローチは、サード・パーティー・ロジスティクス(第三者による物流の最適化)と呼ばれる使い古されたビジネスモデルだ。誰かのところから、誰かのところまで、商品毎に行って往復するなんてことをずっとやっていたら、物流コストが上がって仕方がない。買い手と売り手をまとめあげて、流通網でつないだだけ、と言えば簡単だけれど、それをやってのけたのは世界では彼等だけだ。最初に出会ってから、4年も経ってしまったけれど、今年は彼等とようやく仕事を始めることができそうだ。

フィランソロピー・マネー(慈善資金)と営利投資のハイブリッド

ここまで東アジア、東南アジア、南アジアの状況を概観してきたけれど、これは、社会企業が見せるムーブメントの一旦でしかない。交通、教育、農業、電子政府、インフラなど、あらゆる領域で”社会”というものの想像の仕方は覆されつつある。

他にも、ユニークな取組も数多い。売春という産業を、売春婦にとって安全でレスポンシブルなものに変えれないかという試みがチャレンジされていたり、法規制の強化の中で産業を奪われた少数民族の伝統を活用した産業の開発、移民という社会的リソースを活用した多文化レストランの経営、「弱者には何もできない」というレッテルを覆すような試みもなされている。

社会企業というムーブメントの変化は、非営利から、そして営利から、両方から眺めるといい。営利のビジネスが企業の存在意義を証明する手段として、社会的インパクトを求め始めただけではなく、弱者には本来力があったのだ、と信じ続けた非営利セクターのプレイヤー達がビジネスという手段を欲し始めたのだ、という変化でもある。「良い社会」をつくりたい、というシンプルな目的は主義や利害を横断することができる。

こういった社会企業の躍進を支える背景には、営利と非営利が入り交じる投資の仕組みがあることも知って頂きたい。例えば、ソーシャル・ベンチャー・パートナーズ・インディア(Social Venture Partners India)SVPインディアを立ち上げたアラティ・ラクシマンは、「事業を立ち上げる時は非営利の資金を活用する。成長後はビジネスによる投資が効果的」と言い切る。彼女はバンガロールを拠点とするITベンチャーで事業開発の責任者として活躍した後、早々にソーシャルセクターに転じた。そして、「インド社会をなんとかしたい」と思っていたビジネス・プロフェッショナル達を巻き込み、彼等と共に時間とスキルを社会起業に投資している。

そして、「貧困層」のための銀行と呼ばれるマイクロファイナンス機関が上場することもある、ということをご存じだろうか。例えば最近では、インドのマイクロファイナンス機関、SKSマイクロファイナンスの上場が話題となった。非営利の資本だけでは、貧困層の資金需要を満たすことはできないという判断からだという。

ビジネスセクターを早々に卒業し、インドのプロフェッショナルたちと社会企業に投資するアラティ・ラクシマン。(国際交流基金のプログラムでバンガロールを訪れた際に)

金融の世界においても、営利と非営利の境界線は崩れてきている。財団が企業に出資するというケースも増えたし、前述のBRACのように、企業と合弁を組むという事例も増えてきた。むしろ、こういった分野を横断してビジネスモデルや新しい投資のメカニズムを構想することにチャンスはある。

日本のイノベーションの可能性を再定義する機会としてのアジア

日本の話に戻ると、僕は日本の技術や社会起業家の実践、もしくは過去の先駆者が立ち上げてきた「ソーシャルビジネス」と呼ばれる事例の中には、アジアで展開することによる大きな成果が望めるものもたくさんあるんじゃないか、なんて思っている。

そもそも日本のソーシャルビジネスの多くはサービス業だ。サービス業という業態は労働集約的で、工賃が安くつく途上国の方がレバレッジを利かせやすい。逆に環境問題は技術のレバレッジが利かせやすい分野であり、特許の商品としての寿命が切れたひと昔の前のテクノロジーでも、社会的インパクトを生み出せるものは多数あるだろう。例えば、有機野菜を販売し、農家を守る活動で知られる「大地を守る会」は前述の富平学校と北京に合弁企業を設立し、中国の「食の安全」の問題に既に挑戦している。

日本はアジア諸国に先駆けて、高齢化社会と縮小する経済という問題に立ち向かいつつある。そして、東日本大震災を契機に多くのビジネス・プロフェッショナルが非営利セクターに身を投じた。そこで紡がれた可能性の芽がアジアで花開くならば、面白いかな、と思っている。

この記事を書いたユーザー

加藤 轍生

加藤 轍生

WIA Lab Inc.代表取締役/1980年大阪市に生まれる。喘息患者として公害病認定され、小学校時代の3年間を療養生活に費やす。経済成長の渦中のアジアを旅する中で、過去の日本と同じ構造の社会問題が再生産されているにも関わらず、それを解決するイノベーションが移転されてないことを知る。 大学在学中より、独立系のベンチャーキャピタルで事業開発の経験を積み、経営コンサルタントとして独立。その後、非営利セクターの事業開発に転じる。09年より、アジア圏での事業開発に軸足を移し、2011年に震災復興に挑戦する社会起業家への投資を行うWorld in Asiaを立ち上げ。以降、アジアの社会的投資のアクターとして活動する。著書に「辺境から世界を変える」(ダイヤモンド社)

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