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全国の教育長・校長が集い、学びの未来を考える場「School Platformプロジェクト」の3年間

2020.06.04 

2017年5月に発表され、ネット上を皮切りに話題をさらった、経済産業省の若手有志による官僚ペーパー「不安な個人、立ちすくむ国家」についてご記憶の方も多いと思います。あえてタブーとされてきたテーマ等にも切り込んで、社会への問題提起を迫る内容が多くの反響を生みました。

 

実はそれから約半年後の2017年末頃に、文部科学省においても、若手官僚によるプロジェクトが立ち上がっています。それが「教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム(通称:School Platformプロジェクト)」です。このプロジェクト事務局には文科省の若手官僚有志と、私たちETIC.のスタッフ有志が参画しています。メンバーは15人程度で入職3年目くらいから10年目くらいまでの若手職員が中心で、有志という性質上、打ち合わせ等も全て平日夜間、週末等の業務時間外に活動が行われています。

 

本稿では、ETIC.側スタッフとしてSchool Platformプロジェクトに伴走した筆者が立ち上げからの3年間を振り返りつつ、新型コロナウイルスの感染拡大に揺れる今の日本の教育の変革期に感じる、この活動の可能性や兆しについて、紹介していきたいと思います。

 

集合写真

本番は毎度、お揃いのTシャツでイベントに臨んでいるスタッフの皆さん

「つながりから、コトが起きる」活動を目指した3年間

まず、活動の実態ですが、これまでの3年間は春と秋の年2回、プロジェクトメンバーがイベント企画・広報・運営等を担い、主に全国の教育長・校長等、教育関係者のみなさんを対象に、対話と熟議の場を提供してきました。企画されたイベントには、改革派と自認している教育長や校長の皆さんをはじめ、まさに地に足がついた取組を日々行っておられる実践者が全国から多数自らの意志で集い、「学力向上」や「地域との連携」「カリキュラムマネジメント」等の教育テーマについて活発な意見交換を重ねてきています。趣旨によっては民間の企業やNPO等と意見を交わすイベントの場合もあり、ETIC.は、趣旨や目的に応じたイベント設計等のノウハウを提供し、共に場づくりや企画運営、集客の一端を担ってきています。このようにこのプロジェクトが他省の官僚による有志プロジェクトと違う特筆すべき点は、現場の第一線で活躍する教育長・校長が自発的につながり、情報交換し合える「場づくり」を活動の主軸に据えている点です。

 

なぜ「場づくり」にこだわってきたのか、を紐解く意味で、School Platformプロジェクトが、活動開始当初から3年目を迎える今まで、大切にしてきた3つのコンセプトについて紹介しておきたいと思います。

 

1つ目は、「答えは現場にある」。文科省で業務に取り組む上で、直面する課題のほとんどは既に教育現場で実践されていることであり、その珠玉の実践にこそ学び次の挑戦につなげていきたい、という意思を表現しています。

 

2つ目は、『「●●だからできる」という言葉を使わない』。教育界ではともすると「あそこだからできる」「あの人だからできる」という言葉を使って自校・自地域での実践をあきらめてしまいがちなところがあるそうですが、「特別なケース」に終わらせず、産・学・官の実践者同士がケースをもって集い、互いに生きた情報を交換しあって学び合うことで、各地の現場でのさらなる実践につながるという循環を目指しています。

 

最後の1つは、「一点突破、全面展開」。まずはそれぞれが可能性があると思うところに注力し、そこで生まれた成果を広く展開して日本の教育を進化させていくことを目指しています。

 

このコンセプトは、メンバーのディスカッションの中から生み出されました。志を持って入省した皆さんですが、実は普段、目の前の仕事に忙殺されて、なかなか学校現場のリアルを知ることや新しい取り組みをさらに盛り上げていくこと等に注力しきれないジレンマを抱えているのだそうです。プロボノのような形で業務時間外の活動をすることは、ただでさえ忙しい官僚の皆さんにとっては肉体的にも精神的にも大変なのではないかと傍目には感じるのですが、ミーティングやイベント等でのメンバーの皆さんの様子は和気あいあい、かつ溌剌としています。熱い想いを持った教育関係者と直接、つながりを持つことができるのもこの活動があってのこと。また、現場で生まれている新しい試みを知ることは、主業務にも知見を活かしていく事につながるのだとの手ごたえを感じているようです。

 

一方、イベント参加者の皆さんも、組織としての文科省ではなく、志を持った若手官僚と出会い、つながれることにも魅力を感じてくださっている一面があるようです。

 

ディスカッション

2019年3月に行われた総会のディスカッションタイムの様子

意思ある教育関係者が出会いつながる、創発の土壌としてのプラットフォーム

これまでのこうした地道な場づくりが実を結び、口コミやFacebookでの活動広報を通じて少しずつ認知が広がり、3年間でイベントに参加してくださった教育長・校長はのべ200人余りに上ります。イベントをきっかけに他の地域の校長先生の実践例を自校に持ち帰り、新たな試みを始めたという参加者や、民間と連携し「先生方の働き方改革」等の新しいプロジェクトを立ち上げた参加者もいます。

 

さらには2018年頃から少しずつ、School Platformプロジェクトの地方版ともいえる「地方本部」を立ち上げたいとの声が参加者から自然と上がるようになってきました。主にSchool Platform事務局主催のイベントに参加したことのある教育長・校長が発起人となって、自地域の他の教育長・校長たちに呼びかけを行い、自主的に意見交換のイベントを主催するもので、これまでに、足立区・秋田県・神奈川県・戸田市等で地方本部主催のイベントが複数回開催されています。このように本プロジェクトが蒔いた種は、日本全国各地の教育界で少しずつ確かな芽を出し、波紋のように新たなつながりを生み出し始めているのです。

教育界を襲った新型コロナウイルス感染拡大による試練

さて、ここまでSchool Platformプロジェクトの活動経緯や成果等について振り返ってきましたが、 今年、日本の教育界は新型コロナウイルス感染拡大による突然の全国一斉休校措置という未曾有の事態に見舞われました。年度末であり新年度を迎える時期の長引く休校は、大きな混乱を生み、休校措置による緊急受け入れ、成績評価、家庭学習のための教材準備、ICTへの対応等、刻々と変わる状況の中で前例のない対応に追われてきた数か月間でした。

 

また6月頭現在は緊急事態宣言の終了により、各地によって状況にばらつきが出始めている一方、第二波・第三波への懸念は払拭されておらず、依然として「子ども達の安全確保」と「学びを止めないこと・学習保障」を両立するために、各学校や各自治体で細心の注意を払いつつ、不測の事態に備える必要が指摘されています。

 

何に優先的に取り組むべきかは、各地域・学校ごとに異なるため、まさに今、教育界においても学校や自治体のリーダーシップが問われているといっても過言ではありません。

 

ズーム

3月8日に予定していたイベントは感染拡大により急遽、オンライン化へ。ここでも活発な議論が交わされた

災禍は、ブレイクスルーのきっかけになり得るのか

2020年、School Platformプロジェクトでは、例年のように春と秋の対面でのイベント開催の当初計画を修正し、6月21日(日)を皮切りに、隔月でオンラインでのイベントを予定しています。こうした状況下でこそ、全国各地の現場で奮闘している教育関係者をつないだ、フラットで忌憚なく行える議論の場が有効だろうということで企画されたものです。3年間地道に築いてきたネットワークがあるためオンライン化にあたっても、全国各地の多数の教育関係者に参加を呼び掛けることができています。前提をとっぱらった前向きな教育リーダー達による熟議は、これから始まる分散登校や感染予防対策を講じての学習の在り方、ICT教育の導入等、話題に事欠かず、未来の教育へのブレイクスルーを生んでいく可能性もあります。

 

例えば、ICT教育の活用手法が充実することは、これまで学校に通うことが難しい状況に置かれてきた児童生徒の学びの在り方を変えていく可能性があるでしょうし、授業日数が奪われている中で効率的に授業を組む等カリキュラムマネジメントにおいても創意工夫が増えていくことにつながるかもしれません。もともと2020年は、「主体的・対話的で深い学びの実現」が謳われている「戦後最大の教育改革」元年になるはずだった年です。未来を見据えた教育のための大切なメッセージが「教科学習の時間確保・取戻し」のために、おざなりにされることのないよう、少ない時間でも充実した学びの在り方を、学校でも家庭でも試行錯誤の中で創っていくような、未来につながる2020年にしていきたいものです。

 

このプロジェクトが今後、日本の教育界にどんな変化の兆しを生んでいくのか、引き続き事務局の一端を担うETIC.としてもコミットを続けていきたいと考えています。

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教育
この記事を書いたユーザー
田中 多恵

田中 多恵

1983年千葉県出身。大学卒業後、㈱リクルートマネジメントソリューションズで組織/人材開発のコンサルティング営業を経て、2009年よりETIC.横浜ブランチ立ち上げに携わる。主に大学生のキャリア支援や起業相談を担当。プライベートでは、横浜在住で2児の母。

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