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「大きいもの」だけに頼らない、レジリエンスのある地域社会を目指して~ジャパン・ソサエティー(NY)日米リーダー対談vol.3~

2021.04.06 

第3回対談表紙

 

東日本大震災から10年。節目を迎えるにあたって、日米社会起業家の対談企画を3回にわたってお届けします。

 

NPO法人ETIC.(エティック)では、2013年から3年間、ジャパン・ソサエティーと協働し、東北の社会起業家達と、災害や経済危機からの復興に取り組んできた米国の社会起業家達との交流プログラムを実施してきました。

 

第3回は、宮城県石巻市で空き家再生事業に取り組む渡邊享子さんと、アメリカのオハイオ州クリントン郡ウィルミントン市で経済危機を乗り越えるための様々なプロジェクトを展開してきた、テイラー・スタカートさんの対談です。2008年、まちの経済の中心を担っていた国際航空貨物大手DHL(本社ドイツ)の撤退を機に、ウィルミントン市は突如として経済危機に陥りました。

 

この危機を受けて、テイラーさんは「バイローカルキャンペーン」の展開やファーマーズマーケットの開始など、地域の購買力をなるべく地域内で循環させるような取組を次々と仕掛けていきました。ウィルミントンを視察した、株式会社キャッセン大船渡の臂徹(ひじ・とおる)さんをファシリテーターに迎え、「クリエィティブの力による地域づくりーポスト資本主義を目指しての社会実験ー」について語っていただきます。

 

渡邊享子氏

■渡邊享子(わたなべ・きょうこ)

合同会社巻組代表。2011年、大学院在学中に東日本大震災が発生、石巻へ支援に入る。そのまま移住し、石巻市中心市街地の再生に関わりつつ、被災した空き家を改修して若手の移住者に活動拠点を提供するプロジェクトをスタート。2015年3月に合同会社巻組を設立。絶望的条件の不動産を流動化する仕組み作りに取り組む。2016年、日本都市計画学会計画設計賞受賞。2019年、日本政策投資銀行主催の「第7回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」で「女性起業大賞」を受賞。

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■Taylor Stuckert(テイラー・スタカート)

クリントン郡地域計画委員会の代表を務める。

Energize Clinton County (ECC)ディレクター。ウィルミントン高校を2003年に卒業。2005年にバトラー大学を卒業。哲学専攻。卒業後はニューヨーク市に移り、国際弁護士事務所勤務。2008年1月に米国平和部隊のボランティアとしてボリビアへ行き、農村で活動。同年9月にボリビアで戒厳令が発令され、活動期間終了前に脱出。再び平和部隊での活動も考えたが、ECCの活動のためにクリントン郡に留まることを決め現在に至る。

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■臂徹(ひじ・とおる)

群馬県出身。筑波大学大学院修士課程修了後、都内の建設コンサルタント会社等に勤務。東日本大震災発災を受け、業務として岩手県大槌町の復興計画策定に携わる傍ら、2011年「おらが大槌夢広場」を設立し、理事として復興ツーリズム等に取り組む。2013年、岩手県盛岡市を拠点にプランニングとデザインの会社「株式会社Next Cabinet IWATE」を設立。会社経営と並行し、2015年より大船渡の中心市街地の再生を担う「株式会社キャッセン大船渡」取締役に就任。

コロナ禍における日米の課題とは

 

臂:今私は岩手県大船渡市で、まちづくりの全体的なプランニングに関わっています。テイラーさんは行政側として、ウィルミントンにおけるまちづくりの全体計画から各施設の活用イメージ提案まで幅広く携わっているとのことですが、具体的にどんなことをされているんでしょうか?

 

スタカート:私は現在、クリントン郡地域計画委員会の代表として、10~20年後の郡全体のビジョンづくりに取り組んでいます。住民自身がクリントン郡をどのような地域にしていきたいのか話し合う、またとない機会です。

 

ただ、大都市を目指して成長していきたいという人もいれば、現状維持を望む人達もいます。双方が共有できるようなビジョンを描いていくことが大切です。こういった課題は世界の地方都市に共通のものではないでしょうか。

 

例えば都市部より地方の方が高齢化も進行していますよね。高齢化社会では、どの年代にとっても暮らしやすい「エイジ・フレンドリー」な地域づくりを目指す必要があると思います。

 

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もう1点、私が課題に感じているのがインターネット環境です。アメリカでは大容量データをやり取りできるブロードバンドが普及しておらず、多くの地域ではWeb会議システムを利用することもままならないんです。リモートワークが増えたコロナ禍においてはもちろん、起業家誘致等の施策を考える上ではネット環境の整備は死活問題です。

 

渡邊:それは問題ですね。コロナ禍を受けて日本でも教育分野でのICT活用が課題になっていますが、アメリカではどういった分野に影響があるんでしょうか?

 

スタカート:特に教育、リモートワーク、遠隔医療の3つの分野で深刻な影響が出ていると感じます。遠隔医療の問題は見過ごされがちですが、自宅で治療を受けられるよう今から準備すべきでしょう。 高齢者の孤立は以前から問題視されていましたが、コロナ禍で悪化しています。遠隔治療を受けられないだけでなく、子どもや家族と話すことすら難しい状況ですから。

 

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渡邊:ネット環境の整備はもちろんですが、日本だと「個人で働く」ということがまだまだ社会に浸透していない印象ですね。これまで普通に会社勤めをしていた人達が急にリモートワークになって、どう働いたらいいかわからないといった問題が起き始めています。リモートで孤立化しがちだからこそ、個人の生き方や働き方が問われていると思います。

 

若手クリエイターが、多世代交流や地域の潜在力を引き出す存在に

 

臂:続いて享子さんからも活動紹介をお願いします。

 

渡邊:私達は宮城県石巻市で、「巻組」という不動産と人をつなぐプラットフォームを作っています。石巻は東日本大震災で死者4000人、全壊家屋2万戸という大きな被害を受け、被災後は28万人ものボランティアが現地入りしました。震災から10年が経った現在は、その一部に私のように地域に根付いて起業する人や、若手のクリエイターが集まってきている状況です。

 

一方、震災で大きな被害を受けたので人口流出も激しく、元々16万人程度だった人口が震災以降は約2万人減っています。全壊家屋も2万戸あったので、復興予算で7000戸が新たに供給されたんですが、人口自体が減っているため約20%が空き家となってしまいました。

 

中には「どうしようもない」と言われるような物件もあって、高齢の大家さんから「なんとかしてほしい」という相談が連日寄せられています。

 

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巻組では「絶望的」と言われるような物件を買い上げて、リノベーションして運用しているんですが、実はこういった物件は若手クリエイターと相性がいいんです。今まで40軒ほど手がけてきましたが、100人程が入れ代わり立ち代わり入居しています。

 

作品置き場やアトリエに使える広い場所がある、汚してもいい、大きな音を出しても気にならない、賃料が安いといった面が、彼らのニーズとがっちりハマるんです。東京や仙台といった都市部から移住してきてくれています。

 

こういった場所を都市部に構えようと思うと非常にコストがかかってしまうので、農山漁村部にあることが逆に魅力なのかな、ということがだんだんわかってきました。特にコロナ後は首都圏で不自由な生活が続いているので、人口減少地に目が向いていると感じます。

 

クリエイター層が入ってくることで、地域にも変化がありました。彼らは必ずしもプロフェッショナルなアーティストというわけではありませんが、私達が関わる案件では、できるだけその地域の高齢者の方に応援してもらったり、子ども達をワークショップに巻き込んだりということを意識しています。

 

これまでは地方創生と言うと、首都圏から地方に専門性をもった人材を呼びこんで解決しようという動きが多かったんですが、私はこれまでの経験から、地域の高齢者の方々や子ども達はまだまだパワーを持っていると思うんです。クリエイターを呼んできて何か課題を解決してもらうのではなく、一緒に成長していこうというような関係性を作っていくことで、多世代の共生が実現するのかなと感じています。これからは、こういった地域の潜在力を引き出すようなコミュニティづくりが求められてくるんじゃないでしょうか。

 

スタカート:ハブとなるような人を呼び込むというのは大切なポイントだと思います。コロナ禍を経てリモートワークが増えたことは、地方都市にとって大きなチャンスです。

もう1つ重要だと思ったのが多世代交流です。私にもかなり年の離れた友人がたくさんいますが、世代を超えた交流は地方ならではのユニークな魅力ですよね。

 

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定住クリエイター層の母体となる学生インターンシップ

 

臂:多世代交流という切り口だと、巻組の活動には学生インターンシップのみなさんも関わっていますよね。彼らは地域にどんなインパクトを与えているんでしょうか?

 

渡邊:巻組では、美大生等クリエイティブなことを勉強している学生に特化して、この4年間で約200人を地元の中小企業に派遣してきました。インターンをやろうと思ったのは、クリエイター層を呼び込みたいなら、その種になるような人材を集めてくることが重要だと思ったからです。実際にインターン生のうち1~5%くらいが定住してくれているような肌感覚ですね。

 

繰り返しになりますが、地域に来る時点でその人がスペシャリストである必要はありません。そういう人材を、地域の人と一緒に育てていくことが重要だと思っています。

 

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スタカート:日本でもアメリカでも課題は似ていますね。享子さんのアプローチはとても的を射ていると思います。若者と高齢者が一緒に取り組んでいけば、どの年代にとっても住みやすいコミュニティになるはずです。私達も地元の中小企業や非営利団体と若者をマッチングさせる活動を11年間続けていますが、その活動とも通じるものがあります。

私達が目指しているのは、「エイジ・フレンドリー」な地域づくりです。基本的には高齢者を中心に考えていますが、彼らのニーズに応えながら、どの年代の人にも住みやすいコミュニティにしていきたいです。

予測不可能な世界で国境を越えて学び合う

 

臂:これまでの活動を振り返って、その意義やこれからの展望をお聞かせください。

 

渡邊:震災から10年経ち、これまでのハード面やプラットフォームを整備するという方向性から、コンテンツの創造を重視する方向へシフトしていくと思います。これまでは大資本が大量に消費財を供給してきた分、失われていた活力があるんじゃないかと思うんです。例えば住居だって、建設会社が建てるだけのものではなくて、DIYで自分達の心地いいようにカスタマイズできます。そういうことにみんなが気付けば、空き家の活用も進むのではないでしょうか。

 

多世代交流の文脈でも同じことが言えます。高齢化や子育て環境が課題になったとき、日本だとすぐ福祉施設を増やそうという発想になるんですけど、地域の高齢者の方を見ていると、まだまだ元気でアクティブになり得ると思いますし、子どもを預ける場所もこども園や保育園に限らなくたっていいと思うんです。日本も人口減少社会に突入していますし、公共サービスで解消するだけではなく、課題を抱えた人達が自分達で解決していけるような潜在力をいかに引き出していくかが、非常に重要な視点になってくるだろうと感じています。

 

対談風景①

 

スタカート:この10年で特に重要だったのは、大企業頼りだったコミュニティの進路をシフトさせていくことでした。コミュニティにとっての優先事項を考えたり、過去の経験から得た教訓を次に活かしたり、課題解決に向けて活動する中で、地域社会との関わりもぐっと広がりました。

 

中でも東北での経験は、公私両面において私の価値観に衝撃を与えるものでした。人は大惨事に見舞われたとき、何ができるか想像力を働かせます。災害に対するレジリエンスやコミュニティが受ける影響についても、よく考えて長期的な計画を立てる必要があります。そして過ちから積極的に学び、解決策を柔軟に考えないといけません。そういった姿勢はこれまでも大切でしたが、昨今の情勢を考えるとますます重要になるでしょうね。

 

私は人と協力することや人から学ぶことを大事にしてきましたが、その大切さを教えてくれたのは日本の仲間達です。ウィルミントンと東北の課題は、重なる部分もあれば違う部分もありますが、みなさんとの交流の中で学んだことは、今の活動に十分活かされています。このような経験ができ、本当に感謝しています。

 

渡邊:レジリエンスというキーワードには非常に共感します。テイラーさんも私も、社会に出る頃にリーマンショックを経験し、直後に日本では東日本大震災が起こり、今はパンデミック真っただ中で、未来は予測不可能だということをまざまざと見てきた世代だと思います。これからのコミュニティや社会のあり方を考えていくことは非常に重要ですし、世界共通の課題ですよね。

 

実は今の巻組の活動も、各国のコミュニティからアイデアをもらっています。特にアメリカは、大量生産大量消費と言われる一方で、環境への意識が非常に高いコミュニティもあって、リユースやDIYの精神はアメリカから学んだところが大きかったです。他国での事例や学びを自分達の地域に置き換えて考えるということが重要だと思います。

 

臂:自分達のフィールドの外で得られる学びや、それを地域に持ち帰ることで生まれる価値は、これからも大切にしていきたいですね。いつかまた享子さんと一緒にウィルミントンに伺いたいと思います。今回は貴重な機会を本当にありがとうございました。

 

動画で見る渡邊さんとスタカートさん、臂さんの対談はこちら

 

※本対談企画は、ジャパン・ソサエティーが震災翌日に設立した震災基金の支援を受けて実施しています。


 

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この記事を書いたユーザー
茨木いずみ

茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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