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「子どもの立場から考える」。親の離婚を経験した子どもにとって、本当に必要な「支援」とは?―特定非営利活動法人ウィーズ

2023.05.25 

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特定非営利活動法人ウィーズ

・親の離婚が珍しくない今の社会に、子どもの視点に立って、LINE相談窓口などを通じて家庭環境や親との関係に悩む子どもたちをサポート。過去の家庭環境のトラウマから抜け出せない人たちにも対応している。

・「子どもからの依頼を受け入れられるように」と、2019年には民間で初めて面会交流(*1)支援の無料化に踏み切った。

・目指すのは、「ひとりひとりが価値ある自分を信じられる社会」。さまざまな活動を通じて自尊心をはぐくみ、家庭や命の尊厳が守られる社会づくりに取り組む。

 

「みてね基金」は、すべての子どもとその家族の幸せのために活動するNPO団体を支援しています。第二期ステップアップ助成では、団体が次の成長ステージへ進むため、中長期的な視点から事業や組織の基盤を強化する助成活動を行っています。採択した団体の一つ、「特定非営利活動法人ウィーズ」は、親の離婚・再婚や虐待など家庭環境に悩む子どもたちの支援活動として、居場所づくりやSNSを使った相談対応、面会交流支援、子どもの生きる力を育むプログラム実施などを手がけるNPO法人です。

理事長の光本歩さんに、活動への思いやご自身の原体験、家庭環境に悩む子どもとの接し方のヒントなどをお聞きしました。

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特定非営利活動法人ウィーズ代表 光本歩さん

 

※こちらは、「みてね基金」掲載記事からの転載です。NPO法人ETIC.は、みてね基金に運営協力をしています。

目の前の状況や気持ちを吐き出せる場所を大切に

 

約19万3000組――。厚生労働省が発表した、2020年に離婚した夫婦の数です(*2)。

 

図

厚生労働省 令和4年度「離婚に関する統計」の概況 人口動態統計特殊報告(p.2)

(最終閲覧日:2023年5月15日)

 

親の離婚を経験する子どもたちがたくさんいるなか、「ウィーズ」は親の離婚をはじめさまざまな家庭環境に悩む子どもたちを支援する団体です。活動を通じて何より大切にしているのは、「子どもの視点に立つこと」。理事長の光本歩さんが2009年に活動を始めてから今日に至るまで、およそ6,000人の子どもたちをサポートしてきました。

 

「ウィーズ」の活動の柱は主に三つあります。

 

一つは、「家庭環境に悩む子どもたちのトータルサポート」事業です。親の離婚や両親の不仲に悩む子どもは、夫婦円満の家庭で育った友だちと自分を比べて「私は普通じゃない」と思ったり、離れて暮らす親に自由に会えなくてモヤモヤしていたり、両親の喧嘩や暴力に不安やストレスを抱えていたり……。「ウィーズ」はLINE相談窓口を通じて、そんな子どもたちや過去の家庭環境のトラウマから抜け出せない人たちの相談に乗っています。

 

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LINEを窓口に相談に乗る

 

2021年には千葉県松戸市、2023年春には東京都練馬区に、子どもたちの心身の安心と安全を確保し、健全な自立を後押しするための一時利用型施設「みちくさハウス」をオープン。一人でも多くの子どもたちに伴走できるよう、オンラインとリアルの両面から支援を手掛けています。

 

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千葉県松戸市の「みちくさハウス」

 

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「みちくさハウス」は、日々子どもや親が訪れる居場所となっている

 

活動の柱の二つ目は、「離婚や別居で離れて暮らすことになった子どもと親の面会交流支援」事業です。

 

面会交流支援とは、子どもの両親が離婚後、子どもが、子どもと離れて暮らしている親(別居親)と会う機会を、両親の間に入り調整し、支援する仕組みです。面会交流の多くは、離婚調停中や成立後の夫婦が、家庭裁判所の指示に基づき第三者機関を通じ要請されることを背景に実施されます。こうした第三者機関による支援は、一般的に、面会交流支援は、有料の場合がほとんどです。そんななか、「ウィーズ」は2019年に民間で初めて面会交流支援の無料化に踏み切りました。

 

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面会交流支援の現場

離婚した家族にとって第三者となる支援員が、

子どもが別居親に無事に会い時間を過ごすお手伝いをする

 

「有料では、まずお金を払える大人の意思が先に来るので、子どもの本当の思いに必ずしも寄り添ったかたちならないからです。例えば、お父さんに会いたいけれど会えない子どもや、親に会うことにしんどさを抱えている子どもが第三者に入ってもらいたいと思っても、有料だと依頼できません。子どもの視点に立ったときにどんな面会支援が必要なのかを考えた結果、思い切って無料にすると決めました。これは『ウィーズ』にしかできないし、私たちがやらなくてはいけないことだという強い信念がありました」

 

それは団体にとって大きな決断だったに違いありません。しかし結果的に、子どもの視点で支援するという「ウィーズ」のスタンスと本気度が多くの人に伝わり、「活動をサポートしてくださる方の輪も広がりました。思い切って良かったと思います」と光本さんは話します。

 

活動の三つ目の柱が、「子どもの生きる力を育む教育支援」事業です。学校では教わらないけれど生きていくために必要なお金や法律の知識の提供や、自尊心を育むためのプログラム、さまざまな体験をする場づくりなどを実践しています。

 

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「ウィーズ」が提供する教育支援プログラム

(左上から時計回りに)子ども向けプログラミング体験教室、小旅行、料理体験教室

 

親の選択で子どもの夢や希望が制限されない社会を

 

子どもの視点に立って、家庭環境に悩む子どもたちを幅広く支援する。その揺るぎない信念の背景には、光本さん自身の原体験があります。

 

父、母、妹の4人家族で育った光本さんでしたが、中学2年生のときに両親が離婚。光本さんと妹は父に引き取られました。小学生の頃から「学校の先生になりたい」と思っていた光本さんでしたが、家計は逼迫し、夢を抱くことができないほどに追い込まれていきます。

 

「この頃から、家庭環境や親の選択によって子どもの夢や希望が制限される社会はおかしいんじゃないかなという思いが、いつも心のなかにありました」

 

奨学金などを得て大学に進学したものの、入学から3ヶ月が過ぎたときに父が倒れます。中学1年生だった妹と父の生活を支えるために光本さんは大学を中退し、アルバイトをしていたコールセンター会社の正社員として働き始めました。

 

それでもやはり、子どもに関わる仕事がしたいという思いは高まるばかり。そこで、仕事を続けながらマンションの一室で学習塾を始めました。離婚家庭の子どもたちには低料金で勉強を教えるなか、家でも学校でもない「第三の場所」だからこそ言える話がたくさんあると感じたと言います。

 

「私は高校生のときにたまたま担任の先生が親の離婚を経験していて、たくさん話を聞いてもらい、学校が逃げ場になっていました。でも、そうではない子どももたくさんいるのだと気づきました。そして、子どもたちの話を聞くなかで面会交流やお金のこと、お父さんとお母さんの不仲など、子どもたちが抱えているさまざまな事情が見えてきました。それらの問題や課題に対して何ができるのかを考えて、一つずつ事業をつくっていった結果が今につながっています」

 

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「ウィーズ」の活動の軸は、子どもの気持ち、子ども視点

 

どんな状況も、まずは子どもの立場で「受け止める」

 

2016年3月のNPO法人化から、今春で7周年を迎えた「ウィーズ」。これまでの活動を通じて特に印象に残っているエピソードを聞くと、光本さんは「活動の限界を感じた失敗談」として、当時中学3年生だった女の子との出来事を話してくれました。

 

母子家庭で暮らす女の子とは、LINE相談がきっかけで交流が始まったと言います。その子は光本さんや「ウィーズ」のスタッフと打ち解け、電話やオンラインで頻繁に話をするようになりました。

 

高校進学も決まった矢先のこと。お母さんに新たなパートナーができました。彼を頻繁に自宅に招き入れる姿を見て、お母さんのことが大好きだったその子は「ウィーズ」のスタッフに「お母さんが嫌いになった」と話していたと言います。

 

そして突然、その子との連絡が途絶えます。電話をしても通じません。1週間ほどしてようやく彼女からメッセージが届きました。

 

「そこには、年齢を偽って繁華街にある夜のお店で働いていると書かれていました。『お店はどこなの?』『危ないからダメだよ』。私たちがそんなメッセージを送ると、彼女は完全に私たちとの関係を遮断してしまいました。あれほど頻繁にやりとりしていたのに、ぷっつりと切れてしまった。ほどなくして、高校にも行っていないことがわかりました。彼女がどこで何をしているのかは、今でもわかりません。どうしているだろうと、すごく思います」

 

そこから光本さんたちが学んだ教訓。それは「自分たちの価値観を即座に押し付けてはいけない」ということだったと言います。

 

「彼女の身の危険を思ってのことだったとしても、いったんは、そうしなくてはならなかった子どもの立場を受け止めるべきでした。対面のカウンセリングと同じように、まずは受け止めて、『そうしなくてはいけないほど、つらかったんだね』としっかり言葉で伝えることが必要だったんです」

 

「今起きている問題や行動が命に関わりそうなときは特に、早くやめさせなくてはとか、対面できる場所につながなくてはといった意識が働きがちです。でも、その子が話せる場所、開示できる場所はここしかないのかもしれない。このつながりが絶たれてしまったら、ほかの人に言ったり知ってもらったりする機会はないかもしれないという視点を持つことはすごく大事です。たとえ命に関わることだったとしても、焦って関係が切れてどうにもならなくなるほうがリスクは高い。まずは受け止めて、信頼関係を築くことに注力することが大切だとあらためて思います」

 

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みちくさハウスの温かい雰囲気のなか、親子の相談に乗るスタッフ

 

最後に、これからの「ウィーズ」の活動の目標や、ありたい姿を聞きました。

 

「私たちは、『崩壊しない家庭』をつくらなくてはいけないと思っています。離婚や障がいの有無など、さまざまな理由から家族に歪みが生まれ、家庭が崩壊するという状況が至るところで起きています。離婚は絶対悪ではありませんが、経験しなくて済むならそれに越したことはありません。

 

離婚を目指して結婚をする夫婦はいないと思いますが、たとえどんなことが起きても、崩壊しない家庭をつくる。そのためには、結婚や家族をもつことに必要な学びやケア・お互いの価値観への理解が少ない状況を変えていかなければいけないという強い思いを持っています。

 

そして、たとえ家庭が崩壊しそうな時にも頼れる人がいる、また紡ぎなおすための助けがあることがとても大切だと考えています」

 

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メンバーみんなで「ウィーズ」の「W」

 

「『ウィーズ』が目指すのは『ひとりひとりが価値ある自分を信じられる社会』です。そこには子どもはもちろん、親御さんや、そのまた親も含まれます。全員に価値があるということをしっかり認識できる社会になることで自尊心が育まれると同時に、家庭や命の尊厳が守られる社会につながると思います」

取材後記

 

代表光本さんの「子どもファースト」な揺るぎない信念の元、多くの賛同者が集まり活動がムーブメントのように動き出しているように思えます。取材中何度も、自身の子育てにも当てはめ、う〜んと唸り勉強になる取材でした。これからも応援してます!

(みてね基金事務局 関まり)

 

***

 

フォトグラファー

鳥野みるめ

Lovegraph(ラブグラフ)フォトグラファー。「写真を残すことを楽しんでもらいたい」をコンセプトに家族を残す写真を中心に由比ヶ浜のアトリエで暮らすフリーランスのカメラマン。

 

*1: 面会交流:子どもと離れて暮らしている父母の一方が子どもと定期的,継続的に,会って話をしたり,一緒に遊んだり,電話や手紙などの方法で交流すること(法務省HP)

*2: 厚生労働省 令和4年度「離婚に関する統計」の概況 人口動態統計特殊報告

 


 

団体名

特定非営利活動法人ウィーズ

申請事業名

親の別居・離婚後の子どもの養育支援活動促進事業

 

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みてね基金

『すべての子ども、その家族が幸せに暮らせる世界を目指して』〜「みてね基金」は、「家族アルバム みてね」が、5周年を迎えた2020年4月13日に設立しました。子どもやその家族の課題を支援している各種団体様への助成活動を行っています。

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