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町長とDMOがタッグを組んで実現する「挑戦を生み出すまち」南小国。コロナ禍での取り組みは?

2021.01.22 

コロナ禍で生まれた「脱都市」志向は、逆に人を呼び込みたい地方にとってはチャンスにもなり得ます。本シリーズでは、そんな状況下、地域おこしの最前線で働く地方自治体職員、および行政と協働する民間団体の方々の「あたまのなか」に迫ります。

 

第9弾は、2018年度からローカルベンチャー協議会(以下、LV協議会)に幹事自治体として参画した熊本県南小国町(みなみおぐにまち)です。南小国町は九州を代表する黒川温泉等の温泉地を擁し、中山間地域にありながら多くの観光客が訪れる町です。林業等の一次産業も盛んで、小国杉は高品質な木材として知られています。

 

民間の中間支援組織として南小国町とタッグを組んでいるのが、上質な里山を維持管理しながら次の世代につないでいくことを目指す日本版DMO(観光地域づくり法人)である、「株式会社SMO南小国」です。南小国町のふるさと納税事務局も担当しており、事務局がSMO南小国になって以来、同町へのふるさと納税額が飛躍的に伸びていることでも注目を集めています。

 

今回は本特集で初めて、首長自ら行政の「あたまのなか」を語ってくださいました。南小国町長の髙橋周二さん、SMO南小国の安部千尋さんにお話を伺いました。

 

2ショットバストアップ

髙橋周二(たかはし・しゅうじ)/熊本県南小国町長(写真右)

南小国町生まれ。明治学院大学卒業後、実家の商店の跡継ぎとしてUターン。家業を継ぐ傍ら、商工会活動等を通して地域づくりにも精力的に取り組み、「地域を元気にする」ことへの情熱を高めていく。町議会議員を経て、平成27年に町の歴代最年少町長として就任して以降、「学び、挑み、創る町」をスローガンに日々奮闘中!

安部千尋(あべ・ちひろ)/株式会社SMO南小国 未来づくり事業部(写真左)

東京都八王子市出身。早稲田大学 国際教養部 卒業。大学卒業後に起業支援系NPOにて半年間フルタイムインターン後、東京都・港区役所に入庁。社会事業コーディネーターとして東京から東北の地方創生業務に取り組む(一社)RCFに転職。東北での起業支援、コミュニティ事業事務局、政策提言サポートを担当。2018年の東京のイベントにて南小国町とのご縁を得、2019年春に家族で南小国町へ移住。

町長自らが挑戦を牽引する南小国町

 

――南小国町はLV協議会に2018年度から中途加入されていますが、まずはなぜ参画することになったのか教えてください。

 

髙橋町長(以下、髙橋):まちを変えていくにはやはり人です。挑戦しようとする個人や団体をどれだけこの地域に生み出せるかが、この町の将来を大きく左右するという思いが私の考えのベースにあります。

 

種火をもった人達や、0から1を創る人達を応援するのが自分のミッションだと思っていますので、就任2年目に町内での起業を後押しする「南小国町夢チャレンジ推進事業補助金」を作りました。私の任期も2期目を迎え、こういった補助金の利用頻度もだいぶ上がってきました。チャレンジする機運が町内に育ってきたところで、熊本市内の中間支援組織から紹介してもらったのがLV協議会です。

 

行政は補助金を出すことはできますが、やはり役場職員だけでは限界があります。ノウハウもない中で、所定の業務をやりながら創業後のサポートや、外から入ってきた人のフォローまで対応することは難しい。LV協議会のような枠組みに入ることで、先進的な地域に学びながら、南小国の挑戦をさらに加速させられるのではないかという思いで、参画を決めました。

 

町長1

 

南小国町に東京での自主イベント企画を提案。役場のスピード感と熱意が移住の決定打に

 

――町長からの信頼も厚い安部さんですが、南小国とはどのような縁があったのでしょうか?

 

安部さん(以下、安部):実は当時夫がNPO法人ETIC.(エティック)に勤めておりまして、LV協議会の事務局メンバーとして南小国町を担当していたんです。「地域仕掛け人市」で実際に町の方々とお話ししたり、夫の帰省のついでに遊びに行ったりする中で、すっかり南小国のファンになっていきました。そんな中で、私も南小国のために何かできることはないかなと思うようになっていったんです。

 

南小国はLV協議会に参画する前から、黒川温泉「第二村民」構想など、町民主体の取組が盛んでした。これまでの積み上げがあったからこそ、LV協議会への参画をきっかけに、黒川温泉だけではなく町一丸となって挑戦的な取り組みをやっていこうという機運が生まれたんだと思います。そこで2018年の10月に、これまでつながりができた方々に向けて東京で現在の南小国町のお披露目をしませんか、ボランティアでやらせていただきます、と企画書を作って出したんです。

 

そしたら2日後くらいに役場から「今課長と町長が隣にいるんですけど、すごくいい企画なので後援します!」という電話がかかってきて、そのスピード感には正直驚きました(笑)。企画の段階から、「せっかくだからおもてなししたい。赤牛のローストビーフを持っていきたいんだけどできますか?」「おでんも持っていきたいんですけど」と南小国側からも次々に提案があって、「なんとかします!」と対応して……という感じで密に連絡を取りながら準備を進めました。12月の東京でのイベントには、髙橋町長や黒川温泉旅館組合長、観光協会長まで7~8人が手弁当で来てくださったんです。南小国と縁のある方だけでなく、会場となったコワーキングスペースに居合わせた方も含めて、約50人が興味をもって南小国の話を聞いてくれました。

 

このイベントを通じて、「めちゃくちゃ素敵な人達だな。この人達と仕事がしたい」という気持ちが育っていたんですが、イベント後には完全に「これはもう行ける(移住したい)!」ってなってましたね(笑)。そこから本格的に南小国町で仕事をする方法を探り始めました。

 

2ショットマスク対談

 

ご縁とタイミングに恵まれ、官民連携のまちづくりが動き出す

 

――そこで着任されたのが、SMOの未来づくり事業部だったんですね。

 

髙橋:当初は熊本市内にある中間支援組織の力を借りて進めていたLV推進事業ですが、地元にSMOができたので、この事業を引き継げないかという議論が起こっていた時期でした。ただ、LV推進事業を担えるメンバーが当時はいなかった。そこに来てくれたのが安部さんだったんです。人にもタイミングにも恵まれました。

 

安部:東京でのイベントを終えて、2019年の1~2月頃、南小国町にヒアリングをさせてもらいました。その上で、LV推進事業としてやりたいことを企画書に落として、提案書を提出させていただきました。2月末にSMOと面談をして、次年度からLV推進事業を引き継ぐことが決まり、2019年4月から主担当として未来づくり事業部に着任することになりました。前職が地方創生関係の仕事でしたし、ETIC.を通じてLV推進事業の概要もわかっていたので、そこまでは比較的スムーズでしたね。着任してからは約2ヶ月でコワーキングスペースを立ち上げたりと手探りの日々ですが……(笑)。

 

SMOはSatoyama(里山) Management/Marketing Organizationの名前の通り、観光地域づくりの舵取り役となる会社です。元々物産館の運営も担っていましたが、その2つの機能をただくっつけるのは難しいんですよね。そこに横串として人材育成が入ったことで、両者がうまくつながりました。例えば起業型地域おこし協力隊として町に入った人が新たに商品開発をする場合、物産館があるので最初からそこで販売することまでセットで設計できます。さらに南小国町のふるさと納税事務局も担っているので、返礼品として出品するなど、開拓しなくても販路がある点は強みです。また、南小国町には黒川温泉郷という集客力の高い観光資源がありますから、観光客向けのツアー等の企画も実践イメージを持つことができます。

 

 髙橋:SMOには新たに情報発信事業部もできて、スピード感をもって事業を進めてくれているという印象です。役場との情報の共有も早いですね。

 

安部:繰り返しになりますが、今までの町の取組の積み重ねがあったからこそですね。ゼロからLV推進事業をやっても、成果を出すのは難しかったと思います。

 

千尋さん1

 

コロナ禍でいち早く生まれた「逆境克服補助金」

 

――様々な要素がうまくかみ合って、事業が回り始めたんですね。そのような中でコロナショックが起こってしまいましたが、南小国町は観光が町の基幹産業となっています。影響も大きかったのではないでしょうか。

 

髙橋:おっしゃる通り、観光業の落ち込みが一気に来ました。本来であれば一番の稼ぎ時でもある、ゴールデンウィーク前に緊急事態宣言が発出されましたので、その頃が特に深刻でした。

 

安部:いつもは満杯の黒川温泉の駐車場がからっぽになっていたのはショックでしたね。

 

髙橋:緊急事態宣言の発出後、国レベルで休業要請と補償はセットであるべきだという議論がなされていましたが、県の方は4月中旬頃は休業までは要請しないというスタンスでした。ただ補償がなければどこも休めないですし、そうなるとゴールデンウィーク中にかなり人が入ってくる可能性が高いですよね。観光協会、旅館組合、商工会等、関係者で頻繫に協議した結果、やはりゴールデンウィークに人を入れてはいけないとの判断で、町独自で休業給付金を出すことを決めました。県内では一番早かったのではないかと思います。2月下旬から6月中旬までトータルで30日休業した場合、上限100万円で年間売上の1ヵ月分を支給すると決めたのが、4月22日頃でした。それと前後して、県からも休業要請が発令された形です。

 

安部:2016年4月の熊本地震からようやく復活してきたところでのコロナ禍でした。精神的にもきつい状況でしたが、そんな中だからこそ何かできないかということで、6月末には「南小国町協働型逆境克服チャレンジ支援事業補助金(以下、逆境克服補助金)」という、町独自の補助金もできました。これは先ほど町長がお話しした、「夢チャレンジ補助金」をアレンジしたものです。

 

髙橋:逆境克服補助金は5者が連携して申請する仕組みで、メインが南小国町内の事業者であれば、近隣地域の事業者も申請メンバーに加えることができます。1人だったら難しいけど、連携して知恵を出し、多職種でやれば何か生まれるのではないか、逆境だからこそ何かを生み出してもらいたいという思いで立ち上げました。

 

安部: 3者ならなんとかできそうだけど、5者集めるのは大変ですよね。そのハードルを越えてくるところはやりきれるんじゃないかということで、南小国町からの相談を受けて、5者がいいのではないかと提案させてもらいました。

 

逆境克服補助金は、南小国のファンをつくるような取組に対して、200万円を上限に8割まで補助するもので、SMOが組成に関わった案件については、コーディネーターとして応募者の伴走支援をしています。南小国の場合、コロナ禍はもちろんですが、2020年7月には熊本豪雨の被害もありました。応募主体の1つである「山鳥の森オートキャンプ場」も、ちょうど代替わりのタイミングで豪雨に見舞われています。地域内外から支援したいという声を受けて立ち上がろうとしていたのですが、それを取りまとめるのは大変ということで、SMOにご相談いただいたんです。

 

この地域では今後も災害が起こりえます。南小国にはFabLab(ファブラボ。多様な工作機械を備え、あらゆるものを個人で制作できる工房)もありますし、デジタルファブリケーションの技術を活かして自分達の手で建てられるバンガローを作るなど、単なる復興ではなく、自然との共存をテーマにした防災体験キャンプ場としてパワーアップしようというプロジェクトになっていきました。FabLab、製材所、デザイナーと様々な人を巻き込んでのこの取組自体を広く知ってほしいということで、広報のノウハウをもつSMOのスタッフがコーディネーターとして入って、クラウドファンディングに挑戦することになったんです。

 

結果、410人の方からご支援いただき、660万円以上を集めることができました。まだクラウドファンディングが目新しかった数年前、東日本大震災の被災地で350万円を集めたのがすごいと言われていたので、あまり知名度のない町のキャンプ場がこれだけの額を集めているのは本当に驚異的なことだと思います。他にも採択された事業からは、この危機の中でも挑戦しようという方がいるんだという、地域のポテンシャルを感じました。

 

町長2

 

人生はチャレンジの連続。「とりあえずやってみよう精神」で動いてみる

 

――行政によるコロナ禍に対応した補助金創設のスピーディーさ、そしてそれを活かして危機から立ち上がろうとする市民力の両方を感じます。こういった機動力の高さはどのように育まれたのでしょうか?

 

安部:南小国のスピード感は、プロボノでイベントを企画したときから感じていました。レスポンスが早いですし、やるとなったら機動力があるんです。

 

髙橋:これだけ緊急性が高い、国難ともいうべき事態ですから、悠長に構えていてもしかたない。担当者レベルでこまめに相談はしていましたが、私も含め「とりあえずそれ1回やってみようや」というタイプが多いから早いのかもしれませんね。動いてみないとわからないことも多いですし、やってダメだったら修正すればいいんです。だから財政担当からは「財源どこからもってくるんですか!」っていつも怒られているんですが(笑)。

 

人生ってチャレンジじゃないのかなって思うんですよね。選ぶのは有権者ですから、やるだけやってダメだったら落選するだけです(笑)。そのときそのときで、やるべきことをやらないと悔いが残るような気がする。自分自身が「挑戦を生み出すまち」というモットーを掲げていますから、まずは動いてみようという姿勢を大切にしています。

 

それから職員の意識もずいぶん変わってきたように思います。小さな町だからこそ、役場職員の動きは大事なんです。役場職員がどう動くかで方向性が変わる。首長は4年単位で変わりますが、役場職員は長い人だと40年近くいますよね。彼らがどう考えてどう行動するかを尊重するようにしています。逆境克服補助金も、担当者レベルから出てきたアイデアでした。そういう動きが出てきたことがうれしいですね。

 

2ショット全身

 

――元々地域のポテンシャルが高かったところに、コロナ禍を契機としてチャレンジする気風がますます育まれているんですね。最後に、今後挑戦したいことがあれば教えてください。

 

髙橋:今回のコロナ禍で痛感したのは、地域内の経済循環を高めることの重要性です。その影響は思いのほか大きい。産業連関表を作ったんですが、地域内のお金が外に漏れている部分が結構あるんですね。今後は外から人が入ってこなくなったときでも耐えうるような、地域経済の循環を作っていくことに力を入れていきたいと思っています。

 

またコロナ禍を経たからこそ、都会から地方へという人の流れも生まれつつあります。ですが南小国は住まいの部分が非常に弱い。住まいの課題についても、LV協議会の力を借りつつ整えていきたいですね。

 

安部:コワーキングスペースも手狭になってきて、働ける場所の確保も必要となっています。SMOができたことで、農家や旅館関係だけではなく、パソコンでデスクワークをするような人も町内に増えてきました。SMOのふるさと納税チームが入っている新オフィスは、あえてガラス張りにしてあります。すぐ近くに小学校もありますし、南小国で挑戦したいという人達が集まってきているんだというところを、地域の子ども達にも見せていきたいですね。挑戦を生み出す場を作っていきたいです。

 

それから、まちの人事部機能も強化していきたいですね。町内の事業者さんは、数十年来人手不足の悩みを抱えています。今はパラレルキャリアやワークシェアリングも注目されるようになってきましたし、業種横断的に仕事をかけもちしたり、農業や旅館業を手伝いながら起業の種を見つけられたり、多様な働き方を提案することで人材を確保できるようになるかもしれません。自分はこういうことができます、こういう人材を求めています、というような、働く側・雇う側双方のデータバンクを作って、それをマッチングするような事業も検討しています。LV推進事業のもう一歩先を見据えて挑戦していきたいと思っています。

 

――髙橋町長、安部さん、ありがとうございました!

 

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>> 行政のあたまのなか。コロナ禍と最前線で向き合う自治体職員の考え、アクションに迫る!

 

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この記事を書いたユーザー
茨木いずみ

茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2015年4月より、東京大学大学院総合文化研究科修士課程に在籍。

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