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「学生を、価値の消費者から生産者に変える」DRIVE×NEWVERYトークライブ"いま、キャリア教育を考える"レポート(2)

2013.10.13 

有山篤利先生(聖泉大学教授)、今井紀明さん(NPO法人D×P 共同代表)、岩切準さん(NPO法人夢職人 代表理事)、斉藤寛子さん(フリーキャリアアドバイザー)、山本繁さん(NPO法人NEWVERY 理事長)、渡辺一馬さん(一般社団法人ワカツク 代表理事)ら6名のキャリア教育実務家が集まり、これからのキャリア教育を考える機会となったDRIVE×NEWVERYトークライブ「いま、キャリア教育を考える」。

前編に引き続き、どんなやりとりがなされていたかを、紹介します。

価値の消費者から生産者に変えるのが、キャリア教育

山本:いろんな学校から選んでもいいし、不登校でも問題ないと思うんですが、とりあえず生きていく上で、最低限食うことに困らないようにしてあげなきゃいけないですよね。では次は聖泉大学の有山先生、お話いただけますでしょうか。

 

有山:私は大学の教員ですが、キャリア教育を研究としてではなく、実践としてやってます。うちは小さな小さな大学で、1学年は150人ぐらいで、うちの学部の学生は70人ちょっと。私はグローバル人材育成なんて一切考えていませんし、生徒を大企業に入れるつもりもまったくないです(笑)。

 

この町のためだけにある大学っていうのを目指していて、町のために役立つ人材を作りたいと考えています。 あと、「学生を育てる」って言うけれど、「受け入れてくれる地域を育てているのか、企業を育てているのか」っていうことをすごく考えました。うちの学生をしっかり受け止めてくれる地域やいい企業も作らずに、後ろから学生のおしりを押すばっかりではダメじゃないですか。すごく欲張りなんですが、だったら両方いっぺんに出来るキャリア教育をしたらええなと考えたんです。

 

うちの大学のプログラムの一番の特徴だと思うんですが、学生の成長ということを目的や狙いにしていないんです。「あなたがたは、町の役に立つんですか」ということだけが狙いなんです。学生は、社会人と何が一番違うかずっと考えていましたが、結局、彼ら学生は消費者だという事実に行きつきました。親から小遣いをもらい、大学から単位をもらい、先生から知識をもらい、企業からスキルをもらい…もらい倒して「成長しました」って大学を卒業する。

 

そんな貰えますかモードで社会に出て、いきなり職業人として「みんなにどんな価値を作って供与できるんですか」となるからミスマッチが起こるわけです。社会は、もらうよりあげるほうが先に来る世界ですからね。 だから、キャリア教育は「価値の消費者から生産者に変える」ことやと思っています。

 

この原理やマインドを教えることが一番です。たとえば会社のお給料って、自分の作った価値から、会社のコストや国の税金を引いた残りなんですよね。給料が安いのは当たり前で、仲間の給料と国の税金の分も、価値を作っているわけです。言い換えたら、自分の幸せ、会社の幸せ、仲間の幸せ、それだけ余分に作って人にあげるってことがわからないと、働くことは一生わからないままです。

遺伝子レベルで持っている、人類の「利他の力」を活かす

有山:私なりの理解ですが、なんでキャリア教育が始まったかと言うと、豊かになったからです。昔だったら、自分が頑張って勉強して職に就くことが、家族や親兄弟を養うことがコールだった。

 

ところが、そこそこの生活だったら、別に頑張らなくても飯を食える時代になってしまいましたね。その結果、働く意義やモチベーションの出所が、自分の夢だけになってしまった。私の夢を叶えることだけ、私の生活だけが目的だったら、ほとんどの人は「そこそこ」でいいでしょう。経済や産業構造も、それを支援しました。契約社員やバイト、フリーターなどがまさにそうです。あとは自分の夢を追い続けるニートや、夢をもらえない会社を辞めてしまう早期退職者も増えた。

 

じゃあ何がダメなのかって言うと、働いてお金を回せる人が減ってきたということだと思います。税金は誰が納めるのか、物を誰が買ってくれるのか、産業は潰れてしまう、国が潰れてしまう。そういった背景から、みんなを働かせるためにキャリア教育が生まれたのではと僕は考えています。だったら、根幹の部分で「人にあげる」ことの大事さや、人にあげることは自分の幸せにつながっていることを教えることが大事だと思っています。

 

人類が何でこんなに発展したのかを調べたのですが、最終的にこれだと思ったのが「利他の力」です。言葉でも火でも道具でもありません。ネアンデルタール人は現代人とほとんど能力は変わらないですが、みんなで生活している痕跡がなく単独行動を好んだ。協力しあえない人類だったわけです。私たちは、人になにかしてあげたら相手が喜んでくれるし、自分もうれしくなる。よく考えれば不思議な感情です。自分は何も得していないのですから。

 

でも、そのおかげで協力や共感が出来る集団を人類はつくりあげた。これは遺伝子レベルのことです。ということは、仕事って、人間のそういう遺伝子を最大限にうまく発揮させることができれば、たぶん幸せに働けるんじゃないかな。

 

NPOの仕事も、お金は安くて割にあわないけれど、誰かに喜んでもらいたくて夢中になるわけですよね。そういった遺伝子にあうようなキャリア教育をしてやろうと思っています。 一般的なインターンシップは、学生は「いい会社に入るために自分を磨きたい」、会社は「少しでもいい学生を見つけたい」というもので、つまり利己的なwin-winでやってるんです。うちの大学はこれをやめようと考えました。学生にははっきり「能力なんかを伸ばしても単位はやらない」って言います。行った先の人が大学に来てくれて、「助かった、ありがとう」って言葉を私が聞いたら、単位をあげるんです。

 

たぶんその時には、結果として力が伸びているはずだと思います。学生たちには「企業のためにがんばれ。『お前たちのおかげで未来に期待が持てるわ』と思ってもらえるようなことをやってこい!」と話す。一方、会社には「ただのバイトだと思ってこき使ってくれ。そのかわり期待と感謝だけは欠かすことなく与えてやってほしい」と話します。お互いに相手のために利他的なwin-winをつくろうというのが、うちの大学のインターンなんです。

地域の若者を地域で育てる、互助意識を持ったまちをつくる

有山:1年生は、市民活動にインターンを何ヶ月かさせて、活動を見てきて発表会をしてもらう。2年生は会社にインターンに行くのではなくて、会社そのものを学生自身に作らせます。

 

地域の大イベントとして市民講座の大会を企画運営する会社なんですが、学生が講師を依頼して,勉強したい市民を集めてもらいます。広報も集客も講師依頼も、お金がない中で全部やりなさいというわけです。ちゃんと代表取締役社長、取締役部長、課長、係長みたいな役職も作って、組織も作る。これを1年間やると、学生が成長しますね。大学の雰囲気もまったく変わりました。この前アンケートをしたら、「人のために役に立てる」と確信が持てたという人ほど、「自分は成長した」「未来は明るい」ということに対する相関がすごく高かったです。

 

今井:それは面白いですね。

 

有山:逆に、「やり遂げた感があった」ということには何の相関もでなかった。つまり、矢印が自分に向いている場合は成長に何の相関も出なかったのですが、「人のために役に立つ」とすごく能力も上がり、仲間も信頼できるようになり、未来は明るくなる、という相関が出たわけです。これはまだ1回だけの調査ですので、参考として聞いてもらえればと思いますが、面白い結果でした。

 

3年生では、中小企業と若者をつなげようじゃないかというプログラムなんです。マイナビ、リクナビでは中小企業の魅力が伝わらないし、若者はなかなか目が向かないですよね。だから、「この地域でこんな意味を持って事業をやっているんだ」ということを社長に語ってもらって、その魅力を発信するというのをやります。

 

これは、若者を育てるのが企業の使命だってことに気がついてくれ、という意味もあります。学生たちを最後に引き受けないといけないのは地域の企業なんですよ。うちの学生の7割は地域に就職します。だから地域で学生を育てるという意識を持ってもらいたい。大学だけでキャリア教育ができるなんておこがましいですしね。「隣の人の会社のために若者を育ててやろう」という互助意識を持ったまちをつくりたいなと、私は思っています。

 

山本:利他的な人材を育てるという話を、有山先生はずっとされていますね。最近読んだ、二村ヒトシさんという方が著書で同じようなことを述べていて、「人間が真に求めていることは、与えられる人間になることである」というものなんです。こういうプログラムをやっていて、利他的に変わっていくきっかけはどこなんでしょう。感謝されると変わるのでしょうか。

 

有山:やっぱり感謝の力はすごいですね。うちのプログラムには「ありがとう」に出会える仕掛けをいっぱいつくっているんです。最初はもう嫌だ嫌だばっかりなんですけど、感謝されると学生のモチベーションがどんどんあがるんですよ。

 

先日、市役所の方が「ボランティアが欲しいときにはまず聖泉大学に声をかける。よその大学のひとは、興味のあることは一生懸命やってくれるけど、聖泉の学生はどんな仕事でも喜んでやってくれる。まず手伝ってやろうが先にくるんだよね」と言ってもらえたんです。地域にもそういった学生の変化が伝わってきたかなと思います。

「即戦力」「グローバル化」でなく、所属意識や関係性を育てる

岩切:今、人類の法則だという話がありましたが、僕はやっぱり「所属」っていうことが大事だと思うんですね。それで、よくあのマズローの三角形を出す人がいますけど、あれで自爆テロを論理的に説明できるかというとできない。所属のために人間は死ねるし、「所属欲求」というのは大きいんですよね。人間にとっては生命の維持よりも、「そこにいる」という所属の価値の方が、もう何事にも替えがたいのです。

 

いわゆる、就職ができなくて4月1日になったときに何が怖いのかって、その「所属がなくなること」への恐怖だと思うんです。キャリア教育を最前線でやることのすごさっていうのは、その所属感をもたせられることなんですよね。私の地域、私の大学、私のゼミみたいに、一種の所属感を掻き立てて、この場に貢献をしたい、という気持ちを生み出せる。

 

あと、もうひとつは、サポートとエンパワーメントは、全然違うものなんですね。「支援する側」にいることを考えがちですが、「支援される側」に立った時、どのように感じるのでしょうか?「タダで一所懸命あなたのために善意で支援してるんです」って言われると、申し訳ない気持ちが出てきますし、自尊心は下がります。ですが、有山先生がやっていらっしゃることはサポートではなくて、まさに、エンパワーメントだと思っています。その子自身がアウトプットをして、力試しを何度も何度もしていく中で、自分に自信がつき、力を育むことに、すごく繋がっているんだなと感じました。

 

有山:関係性の中でエンパワーメントが成り立つんですよね。だから岩切さんがおっしゃっていた、都市部では子ども内や地域との関係性が断ち切られているという事実は、キャリア教育にとっては危機なわけです。今進んでいるグローバル化っていうのは、もしかしたらキャリア教育の概念に反することなんじゃないかなと僕は思ってます。関係性や所属を世界のみんなに薄めて、平準化した中で競おうという行為ですから。安易にいくととんでもない人ができるなと、僕はすごい危機感を持っています。

 

岩切:昨今、企業の採用担当者とお話すると、「即戦力」という言葉がよく話題になるんですけれども、でも、あれってフローを促進しているだけで、結果的に会社は損をすると思います。ある程度の人間を採用して、コミットさせるために所属感を持たせて、ちゃんとトレーニングすれば継続しようという気持ちは高まるでしょう。

 

即戦力採用というのは、トレーニングする必要がない人材ですから、特に会社の世話になる必要も恩もなく、少しやって次に歩合のいいものがあればそちらに移動するでしょう。ある種、会社の流動性を高めすぎてしまうところが一部あるんじゃないかと思っています。

 

むしろ中小企業とかで、ちゃんと温かく育ててコミットさせて、少しでも長く仕事をしてもらい活躍してもらうというのが、企業戦略のひとつとしてありえるんじゃないかと思いますね。先生が言っていた地域で学生や人材を育てるというのが、これからの企業にすごく求められるんじゃないかなと切実に感じました。

 

有山:企業の賞味期限が20?30年って言われているのは、創業者はそういったマインドを持っているんだけれども、そういう人がいなくなったら潰れるということだと思います。いかに即戦力を企業に入れても、次世代を育てていないとダメなんですよね。企業を見ていて、なんでこのことに気がつかないんだと思うことがよくあります。

 

■「社会関係資本が、生徒のレジリエンスに影響する」トークライブ・レポート(1)

■「1人が複数の仕事を持つことで、地域を維持できる」トークライブ”・レポート(3)

■「何がやりたいかわからない大人を生まないトークライブ”・レポート(4)

 

<本記事にメイン登場する有山篤利先生の活動や情報は下記よりご覧ください>

聖泉CLCセミナー WEBサイト (昨年度の地域力循環型キャリア教育の取り組みが掲載されています)

中長期・実践型インターンシップに大学はどのように向き合うか? (10/20(日)に行われる地域仕事づくりコーディネーター戦略会議に登壇されます!)

 

協力:本記事の文字おこしは、竹田周平さん、溝渕加純さん、渡部寛史さんにサポートいただきました。

この記事を書いたユーザー
田村 真菜

田村 真菜

フリーランス/1988年生まれ、国際基督教大学卒。12歳まで義務教育を受けずに育ち、野宿での日本一周等を経験。311後にNPO法人ETIC.に参画し、「みちのく仕事」「DRIVE」の立ち上げや事務局を担当。2015年より独立、現在は狩猟・農山漁村関連のプロマネ兼ボディセラピスト。趣味は、鹿の解体や狩猟と、霊性・シャーマニズムの探究および実践。

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