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「もっと病院の売店は面白くなるし、収益化もできる!」株式会社P-Nexが取り組む病院の売店の改革〜連載"いいお店"第1回

2017.05.02 

いいお店は、来る人を楽しくしてくれる。元気にしてくれたり、リセットしてくれたり、少し前向きに変えてくれたりするお店。そんな街の”いいお店”を紹介していくこのシリーズ、第一回は、浜松市の病院の売店です。

大きな病院の一角にあって、小さいスペースでお菓子や食べもの、生活用品などを販売している病院の売店。小さい頃学校を休んで病院に行った時、マンガやお菓子を買ってもらった記憶がある人もいるかもしれません。

考えてみると、たしかに入院している人にとっては社会との大事な接点であり、ほぼ唯一の買い物の場所です。病院に集まる患者さんたちが、楽しく、元気になれる場所として、病院の売店を生まれ変わらせている、株式会社P-Nexの佐藤真琴さんにお話を伺いました。(*佐藤真琴さんの記事はこちらもどうぞ!)

もっと病院の売店は面白くなるし、収益化もできる!

ーーお店について教えてください。

 

佐藤真琴さん(以下敬称略):浜松市にある十全記念病院5階にある、売店花まるというお店を担当しています。

十全病院は、一般病棟 95床、療養病棟 154床、回復 期病棟 50床 計 299床というサイズの病院で、営業時間は平日は8時から19時、土日祝日は8時から17時まで。仕入れは山崎製パン株式会社の小売店支援システム「Yショップ」をベースに、コンビニで販売しているような商品のほか、医療雑貨(ガーゼや特殊なテープなど、患者さんが使う医療商材)、大人用おむつ、患者さん向けの衣類やリハビリつえ、靴、本、雑誌、中古本等を販売しています。

現場で必要なもの、入れたほうが良いと考えるものは原則なんでも取り扱いしています。そしてお客様のリクエストにも積極的に対応しています。患者さんや家族はもちろんですが、毎日寄ってくれるスタッフさんが多いのが特徴です。患者さんが1人で息抜きに来てくれることも多く、リハビリの散歩がてらでお茶を買いに来たり、スタッフとお話をしたりするような、ゆっくりとした時間がながれているショップです。

1-店景

お店の入り口から。”本日はいなりデー”でした

ーーそもそもなぜ、病院の売店をはじめようと思ったんですか?

 

佐藤:もともとは、株式会社PEERの自社商品(DRIVE過去記事をご参照ください)を患者さんへスムーズにお届けするための アンテナショップとして、病院の売店への関わりがはじまっているんですが、数年前から、「もっと病院の売店は面白くなるし、それは収益化できる!」と周りに言い続けていました。

そうしたら、十全病院の移転新設に伴って売店業者を募集する、という話をいただいた。よく考えると、うちはもともと売店業者ではないのですけど、そこはなんとも思いませんでした(笑)。

 

ーーなるほど(笑)。

 

佐藤:それより前の自分の中でのきっかけとしては、2007年、わたしの母が寝たきりになり、4年間入退院を繰り返しました。亡くなるまでの4年間で、いろいろな病院にお世話になりましたが、ほっとするような院内の売店はひとつもありませんでした。

母の状況について、頭では理解してわかっていても、病院にいくとやっぱりどっと疲れる。そのまま病院を出てすっと現実社会に帰る、という感じではなかったんですよね。そんな状態で、日常的に病院の売店に買い物に行っても、たのしい工夫は特にされていない。私には、投資をしなくても運営の姿勢を変えたら、売店は生まれ変わるような気がしました。

入院している人、その家族にとっての売店は、ただ物を買うだけではなく、一般社会の普通の風を感じる貴重な場所です。売店をやれるチャンスなんてもう二度とないかもしれない。「だからやろう!しかも多分めちゃくちゃ面白いよ!!」と根拠もないのに社内のキーマンを半ばだましてはじめましたね(笑)。

 

ーーだまして(笑)。拝見すると、売店が身近になる仕掛けだったり、お客さんに楽しんでもらう工夫がたくさんあるようにお見受けします。売っているものや工夫していることを教えてください。

ワンピースから六法全書まで

佐藤:主力のパンは焼き立てが每日届きます。それに各種弁当や惣菜、食品、飲料、雑貨まで幅広く販売しています。リハビリシューズ、おむつ、医療雑貨、お客さまのリクエストにがあればなんでも探します。年配のお客様向けに、昭和の懐かしいおやつなどは独自流通で取り寄せています。

あと書籍と雑誌は定期購読と院内配達も承っていますし、前のインタビューでもお話しましたが、古物商を取って中古本の販売もやっています。ワンピースから六法全書まで(笑)、意外な本が人気になったり、ドクターが患者さんに読んで欲しい本なんかを置きに来てくれたりもしますね。

工夫としてはたとえば、小分け販売なんかも喜んでいただいています。おむつ、おやつ、小さめのパンなどを小分けにして、ほしい分だけ、少しだけ。そうすると毎日お買い物を楽しんでいただける、そのための工夫です。

2-店内2

豆がたくさんの"ぴ〜ぴ〜フェスティバル"

あとは「地元のお店が売店にやってくる!」ということで、地域の食堂がつくっている大学芋や、地域の洋菓子屋さんのオリジナル焼き菓子やアイス、福祉施設のお菓子やお茶の販売など、いろいろな企画をやっていますね。時節も意識して、土用の丑の日にはうなぎの予約販売もしますし、季節のおやつフェアなんかもよく展開しています。

そして”花まるだより”という月刊の通信を作成・配布しています。手書きで、わかりやすく、売上をあげるPRとしてではなく、みなさんに売店の楽しみ方を提案するつもりでつくっています。

「売店でしょ?」という患者さんの心のなかにある諦めを無くして、「あそこの売店に言ったら、何かやってくれるかも」という期待を持ってもらえるようになるのが目的ですね。とにかく、店に来る皆さんとの距離を縮めて、前向きな声を聞きたいんです。

 

ーー店舗のレイアウトもふつうのお店とは違った工夫がありそうです。

 

佐藤:車椅子や歩行器をご利用のお客さま、点滴スタンドをご利用のお客さまに配慮して、扉の開閉を必要としないオープンタイプの冷蔵庫の設置や、低い目線でも見やすいPOPの設置などもしていますね。通路についてはなるべく広く確保するようにいたしますが、店舗面積が限られているので、スタッフから声をかけさせていただき、一緒に商品をお探しするなどの対応もしています。

4-看板all

お店の入り口にある看板も楽しい

お店は社会の課題とつながっている

ーー徹底して患者さんを楽しませる、おせっかいなくらいの売店ですね。看板などを見てもその雰囲気が伝わってきます。販売を通してどんなニーズが見えてきましたか?

 

佐藤:病院の中のお店として、やれることは多様だなということがよくわかりました。そして、裏側のニーズが社会課題と密接だということがわかりましたね。

買い物は、ほぼすべてのおとなが日常を維持するために行なうことですが、病気によってそれができなくなる人がいる。長い慢性疾患で通院する人や、透析の患者さんもいるし、介護を受けている人もいる。また病気ではなくても、年齢とともに遠くに買い物に行くのが難しくなる、買い物難民という存在もいる。 そういう人たちにとっては通院も外出であり、ひとつの娯楽でもある。自分の目で見て好きなものを選ぶというのは、必要なものが買えるということの他に、楽しんで欲しいものを選ぶ快楽や、いつものスタッフとちょっとお話をする娯楽にもなる。そんなニーズもあることが見えてきました。

通院なら、家族やヘルパーさんが一緒だから、大きなおむつや大袋のおやつも買えるし、「孫にあげるから」と小さなおやつをいくつも買っていく方もいる。ふつうのスーパーでもなかなか扱わなくなった懐かしいおやつも、問屋さんにお願いして店に入れてもらう。そうするとそれがお客さんの間で話題になって、売店に来る楽しみを作る。そして来てくれたら確実に楽しい空間を作る。

こうした店舗運営としては当たり前のことを、丁寧にスタッフ全員でやることで、病院売店らしくないけれど、必要なものは揃っていて、それ以外でもなんだか楽しくて、時間が潰せるような場所になって、それが愛されている。 病院に来る人にも楽しい場はあったほうがいいし、それは、その人の日常に浸透してしまうくらいさりげないほうがいい。さりげない場所で人につながることで、いろいろ話をしてくれる。そして新しいニーズが見えてくる。それをまた実行する。売店は、ITではリーチが難しい層の、コアなニーズにリーチできる貴重な場だと思います。

5-うなぎさんた

お話を伺った佐藤さん。うなぎサンタが楽しそうです

ーー今後の展開については?

 

佐藤:おかげさまで2017年5月に、2店舗目の売店をOPENすることになりました。

ここで私たちがやっている売店がおもしろいよ、という情報が担当者の耳に届いて、公開プロポーザルの参加依頼をいただきました。中山間地域にある公立病院で、病院に用がなくても来たくなるような売店、そして外に出ていく(アウトリーチする)売店をやりたい、という病院側の意向を受けて、運営を担うことになりました。

病院の売店は、現状そこにあるだけでも十分、役割は果たしているかも知れません。でも、もっとできることがあります。病院の中で一つしかない、という地の利に甘えているのではなく、患者さんや周りの人に、「この売店があってよかった」、と言ってもらえるような店になりたいと思います。 患者さんはもちろんですが、看護師はじめスタッフの皆さんの食事や物品購入も、病院の売店は担っています。小ロットだし、人数は限られるので、ものすごく利益の上がる商売は難しいかもしれない。でも、みんなが工夫して、アイデアを出し合い、それを実行して、改善していけば、運営できる。

病院売店のマーケットは、病院の中にいる人のその時ちょっと欲しいものを揃えるところから脱却して、もっと出ていけばいい。 少なくとも、病院にくるのは少し不便があるときです。その不便な時に関わる責任を感じ、お客様も、売店を運営する弊社も、納入業者さんも三方よしな場所を目指したいです。クローズドマーケットを担う責任を大事にしたいのです。

 

ーー最後に、”いいお店”ってどんな場所だと思いますか?

 

佐藤:いいお店とは…必要を満たしつつ、さらにお客さまの期待に対して、斜め方向の価値提案ができるお店、って感じですかね。

 

ーー斜め方向…。お客さんからしたら、”わあ!”という感じでしょうか。なんとなく、そこには笑顔がありそうですね。今日はいいお話をありがとうございました!

 

 

連載"いいお店"第2回はこちら

>>スーパー「ひまわり市場」の熱血社長ナワさんが語る「お客様は神様じゃなくて王様」の意味とは?~連載"いいお店"第2回

 

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DRIVEメディア編集部です。未来の兆しを示すアイデア・トレンドや起業家のインタビューなど、これからを創る人たちを後押しする記事を発信しています。 運営:NPO法人ETIC. ( https://www.etic.or.jp/ )

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