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それぞれのこころざしが集まる(=コレクティブ)と社会は変わる〜新公益連盟経営者合宿レポート

2017.09.29 

10年以上放置された銀行の預金を、民間の公益活動の資金として活用するという、休眠預金活用法案が2016年12月に成立し、年間500億円程度の資金が、今後ソーシャルセクターに接続されていくことになりそうです。高齢化、少子化、地域社会の縮小といった日本社会の重い課題を背景に、新しい資金を活用しながら、今後さらに広がってていく様々な社会課題の解決を担うNPOや社会的企業のプレイヤーがこれまで以上に求められています。

 

しかし個々の組織が独立して活動しているだけではおそらく「間に合わない」かもしれない、そういう認識も広がっています。行政や企業、そしてソーシャルセクターが力を合わせ、全面的に取り組む必要があるだろうという現実を前に、キーワードとなるのは”コレクティブインパクト”。

 

社会問題の解決にあたる社会的企業と事業型NPOが集まって起ち上がった団体、新公益連盟で、この”コレクティブインパクト”をテーマとする合宿が行われました。

 

合宿に集ったのはまず新公連の理事・幹事の皆さん(カッコ内は所属団体)で、代表理事の駒崎弘樹さん(フローレンス)、藤沢烈さん(RCF)、小沼大地さん(クロスフィールズ)、白井智子さん(トイボックス)、工藤 啓さん(育て上げネット)、岡本拓也さん(ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京)、佐藤大吾さん(一般財団法人ジャパンギビング)、宮城治男(ETIC.)、鵜尾雅隆さん(日本ファンドレイジング協会)、関口宏聡さん(シーズ・市民活動を支える制度をつくる会)といった面々。そして正会員の方々などを含め総勢約100名超。社会課題の解決に取り組み、日本の未来を創ろうとする屈指の熱い想いと活動をしてきた人たちが勢揃いしました。

 

彼らが見ている未来はどんなものなのか? ダイジェストでお届けします。

コレクティブインパクトとはなにか?

合宿のオープニングは、駒崎さんからコレクティブインパクトについての共有から。

koma

・コレクティブインパクトとは、特定の社会課題について、ひとつの組織の力ではなく、行政、企業、NPO、基金、市民などがセクターを越えて強みやノウハウを持ち寄り、課題に対して働きかけを行うことでその解決と社会変革を目指すアプローチのこと。

 

・新公連という団体の発足にあたっても、NPOやソーシャルビジネスのプレイヤーとしてそれぞれ活動を続けてきて、個別には成果を出してきたが、根本的な解決に繋がる大きなインパクトは出せていないのではないか、という問題意識がある。

 

・なぜ大きなインパクトを出しづらい、出せていないのか。その理由としては:

1-社会課題が複雑化し、深刻化の速度が個別の取り組みで解決できるスピードよりも早いこと

2-個別の組織では資金獲得のために、個別の活動を強化する傾向が強いこと。

 

・そこで必要とされるアプローチがコレクティブインパクト。特徴としては以下のようなポイントがある:

1-異なるセクターのプレイヤーたちが、共通のアジェンダのもとで、共に問題解決を行う

2-単なる協力、協働ではなく、評価システムを共有し、互いを強化しあうような関係性を持ち、進捗を共有しながら継続的にコミュニケーションをとる、ことなどにフォーカスする

3-ビジョンや戦略を導き、コレクティブな活動をサポートし、評価の仕組みを確立し、政策を促進したり必要なりソースを集めるといったサポートを行うバックボーン組織が重要

*注:コレクティブインパクトについては、以下のリンクなどを参照

"collective_impact" (Stanford Social Innovation Review )

"あらためて「コレクティブ・インパクト」とは?"(Publicoジャーナル)

 

・新公連という存在自体もコレクティブ・インパクト的なものであり、ここに集まっている人たちも多くがそれを意識しているはず。インパクトを増やしていくことで、次のフェーズにいけるかもしれない。そのためにはまず実例を作り、成功事例を作ることが大切。

 

駒崎氏のオープニングに続き、日本におけるコレクティブインパクト事例として、今村久美さん(カタリバ)から海士町の事例、今井悠介さん(チャンス・フォー・チルドレン)から尼崎のコレクティブフォーチルドレンの事例が紹介されました。

今井悠介さんと今村久美さん

今井悠介さんと今村久美さん

その後は分科会へ。行われたセッションは、「行政/政治連携」、「国際事業展開、国際協力NGOの学び」、「子どもの貧困・教育」、「ローカルから社会を変える」、「お金」、「人材」というどれも重要なテーマ。時に笑いも交じりつつ多様な議論が飛び交いましたが、コレクティブインパクトという視点からいくつか議論をピックアップしてみます。(*いくつかの分科会については別記事で紹介予定です)

 

【分科会テーマ:「国際事業展開、国際協力NGOの学び」】

・国内の社会課題にそれぞれ取り組んでいるソーシャルセクターも、意識して海外へ出て繋がっていく必要があるのではないか。

 

・特に「2030年にどんな世界でありたいか?」を国連が決めてみんなが目指すことにしたものであるSDGsは、ユニバーサルなルールとして世界では認知されており、多様なプレイヤーがともに取り組むコレクティブインパクト的なマーケットができている。

 

・自分たちの活動をSDGsの文脈に乗せてみることで、企業や行政などとのコレクティブな連携がやりやすくなる。日本は課題先進国として、他国に展開できるモデルや事例もある。海外でパートナーをみつけていくようなアクションを増やしていくべき。

 

【分科会テーマ:「子どもの貧困・教育」】

・貧困と教育の分野で、国、行政、そして公教育とともに(コレクティブに)仕掛けることの重要性と難しさについての議論。

 

・アメリカのTeach for America(以下TFA)は、ニューオーリンズで5万人の教員を地域に送り込み、高校生の卒業率が10 数%から70%台に上昇。校長先生の 50%、 先生の 30%がTFAのプログラムの卒業生となっていて、公教育との連携が進んでいる。

 

・予防接種と教育を受けさせることを条件に、教育資金を親に提供しているというブラジルの事例の紹介。家庭という領域、教育だけでなく他の分野にも踏み込んでコレクティブなアプローチが必要ではないか。

 

・「行政連携は難しいというマインドセットを突破せよ」という松田 悠介さん(Teach For Japan 前代表理事)の指摘。

 

【分科会テーマ:「ローカルから社会を変える」】

・地域におけるコレクティブインパクト的アプローチでは、行政や事業者等の関係者との共通言語として、”収益をどうあげるか?”、がやはり問われるのではないか。

 

・地域におカネは眠っているが、回っておらず、活用されていない部分も多い。地域にはどんな課題があり、どんなお金を使って、どう解決したのかをわかりやすく見せていく必要がある。

 

・「地域でテーマと解決に賛同する人たち1000人から寄付を集めた」という事例があったとしたら、それは政治家としても無視できないし、議会でも話をしてくれる。ローカルのコレクティブインパクトでは寄付という動きは重要。

 

【分科会テーマ:「お金」】

・休眠預金関連の動きや今後のスケジュールについての共有。

 

・尼崎でのソーシャルインパクトボンド事例(参考)での事例紹介。行政はお金を出していないのに行政を巻き込んで取り組める利点。ただしインパクト評価のためのデータ取得負担は大きい。

 

・クラウドファンディングについて社会の理解は随分進んだが、現状ではどういう動機で人がお金を出すか、まだ右脳的なエモーショナルが多い。より左脳的に可視化していくツールとしてインパクト評価は重要。

 

・地域におけるコミュニティ財団の存在意義。行政に1億円寄付するおばあさんがいる。イシューと解決に向けたインパクトが明確なのはNPOだが、”この地域をよくしたい”という大きなモチベーションの資金受け皿としてはコミュニティ財団が重要。

 

・遺贈寄付の増加や今後訪れる休眠預金という資金の流れ。今後NPOの信頼が問われる。

 

【分科会テーマ:「人材」】

・多様な人材がソーシャルセクターに関わっているという”コレクティブ”な状態に向けて、新公連人材分科会として2030年までに起こしたい変化、欲しい未来を共有。その実現のための3つの行動宣言:

A 働き方改革とソーシャルセクター参画の促進

B 行政サービスへの市民参画の促進

C プロボノ・ボランティア税制の改正

 

・リクルートが取り組んでいるB2S(Business to Social)プロジェクトでは、ソーシャルセクターの30 団体の求人に対して、3000名の関心層へのリーチ、最終的に8名の採用に繋がった。今後ビジネスセクターからソーシャルセクターへの転職還流は上昇するであろうという認識。その理由として、

1 ソーシャルセクターが伸びる産業である

2 仕事そのものへの価値が高い

3 経営者自身が人材育成に長けている

コレクティブな"こころざし"の場として

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明るく前向きなエネルギーに満ちた二日間でした。消極的な態度、否定的な姿勢などは一切無い、でも地に足の着いた人たちが集まって、未来についてひたすら議論していた二日間。それぞれ自分たちの普段の現場では日々全力で、それぞれ違う社会課題の解決に取り組んでいるプレイヤーたちが集まっていました。彼らは経営者としての苦労や悲しみ、喜びを共有できる仲間たちと時を共にして、笑いながら、でも前のめりで思い切り想いをぶつけ合う場所が出現していました。

 

ほぼすべての参加者に共通する問題意識は、個々のプレイヤーが独立して活動しているだけでは「間に合わない」かもしれないということ。それくらい大きな課題を前にしていることを自覚したプレイヤーたちが、面となり束になって、コレクティブに前に進んでいくことで「間に合う」かもしれない。そんな明るい予兆を、集まった人たち全員で示しているようにも見えました。新公益連盟という団体に集う人たち全員が、明るく、力強く、前に進んでいること、自分たちもその中の一つの歩みを積み重ねていこうと確認できた合宿でした。

 

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