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延ばしたい健康寿命!これからに必要な医療・福祉のあり方とは?ー2020 and Beyond レポート

2018.05.10 

 

2017年12月3日に実施した"Social Impact for 2020 and Beyond"の第二部・第三部では、NPOや社会的企業などのソーシャルセクターをはじめ、民間企業・行政・学生・クリエイターなど全国各地から550人以上が集まり、合計38のラウンドテーブルを行いました。

 

ETIC.では本イベントに先立って「社会課題解決中マップ」を公開。マップでは、世界共通の目標"SDGs 持続可能な開発目標"ともリンクした31個のアジェンダを提示し、国内外の様々なアクションを紹介しています。

 

本イベントでも31個のアジェンダにもとづいたラウンドテーブルを開催!なんらかのアクションを先導している"アジェンダオーナー"が旗振り役となり、多様な領域・セクターの方々をあえてごちゃ混ぜにした参加者とともに未来へのアクションに向けた議論を進めました。そんなラウンドテーブルをさらにテーマ別にまとめ直しお伝えしていきます!

日本が世界に一歩先をゆく”超高齢化”社会。ポジティブに解決する試みとは?

 

世界一の長寿社会、日本。2016年の厚労省の調査では、平均寿命が男性80.98年、女性87.14年と、いずれも過去最高を更新しています。そんな中で、日常生活に制限のある「不健康な期間」は伸びてきています。平成13年から平成22年の4年で比べると、男女ともに、約1年間伸びています。

 

そのままの予測では、こうした平均寿命の延伸とともに、健康な期間だけではなく、不健康な期間も延びることが予想されます。一人ひとりが老後の暮らしを心豊かに楽しみ、社会的負担を軽減するために、健康に老いられる社会をどうやってつくっていけるでしょうか?今回のレポートでは、医療や福祉をテーマとした二つのラウンドテーブルを取り上げます。

>社会課題解決中マップ「伸ばしたい健康寿命」はこちらから

 

(1)最期まで住み慣れた町で暮らせる仕組みづくり〜訪問看護カバー率99%へ〜

(市橋亮一氏 / 総合在宅医療クリニック 代表)

 

(2)ワクワクする介護予防を通じて、最期まで自分の可能性をあきらめない環境を作りたい。

(杉村卓哉 氏 / 光プロジェクト株式会社 代表取締役)

 

最期まで住み慣れた町で暮らせる仕組みづくり〜訪問看護カバー率99%へ〜

 

2025年、約800万人と言われる団塊の世代が75歳以上となり、医療・介護のニーズが今以上に膨らんでいくことは間違いありません。そんな中、病院のベッド不足など、より深刻になる医療・介護の問題を解決するだけでなく、患者の希望を叶えることもできる方法として、在宅医療の普及が進められています。

 

こちらのラウンドテーブルのアジェンダオーナーは、岐阜県初の、外来を持たない在宅医療専門クリニックを岐阜県羽島郡に開設した、医療法人かがやき 総合在宅医療クリニック 代表の市橋亮一さん。市橋さんから提示された議論のテーマは「最期まで住み慣れた場所で暮らせる「まち」と、その仕組みをつくる「ひと」を、地域はどのように育て、支えていくか?」。

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在宅医療とは、通院できない患者さんのお宅に医師や看護師が訪問して、家での生活を支えるものです。訪問看護師は、患者さんが、住み慣れた家でその人らしく療養を続けていくための心身のケアを行います。

 

現在、地方では病院不足によって訪問看護の需要が高まっている一方、医師や関係機関との連携、さまざまな在宅ケアサービスの使い方の提案、24時間365日の対応など多岐にわたる業務に対応できる看護師・訪問看護ステーションはまだまだ少なく、供給は不足していると言われています。

 

ただでさえ不足している医師が人口の多い地域に集まるため、人口減少地域では医師不足がさらに加速することが予想されており、人口減少地域における訪問看護師の役割はよりいっそう重要さを増していきます。

 

平成28年の数字を見てみると、訪問看護ステーションは9070カ所稼働しており、その15%にあたる1384カ所が、1年以内に新規開設されたステーションです。一方、同年に425カ所が廃止、236カ所が休止となり、合計661箇所が閉鎖しています。1年で全体の15%が新規に立ち上がり、7%が閉鎖するという多産多死の状態なのです。

 

そんな中、市橋さんは人口減少地域で在宅医療の主役になる訪問看護ステーションの多産多死を改善し、訪問看護によるサービスが行き渡るように、「東海三県訪問看護99%プロジェクト」という愛知・岐阜・三重のさまざまな関連職種からなる「コレクティブインパクト」をまさに始めようとしています。平成29年度に実施した島根・雲南市での合宿などを経て、平成30年2月10日に東海地区の関係者による初会合を持ち、今後行政、関連団体などとともに定期的なミーティングを開催することになりました。

 

【テーブルでの議論・意見】

◯訪問看護や訪問診療が行き届いていない場所がある事自体が「憲法違反」なのではないか?

「国民健康保険や介護保険などで負担を強いているにも関わらず、人口が少ない地域で基本的な医療や介護を受けることができないという現状は、憲法違反とも言うべき重大な状態。これを改善することは緊急の課題であるのではないか。」(看護師)

◯看護師が持つ、へき地・人口減少地域での訪問看護に対するイメージを刷新するには?

「例えば、無医村でのケアの必要性に関する新しい"言葉"をつくり普及させるなど、クリエイティブな力で新しい医療・福祉の形を普及していく必要があるのではないか」。(まちづくり事業者)

ふるさと納税との協働はどうか? 地域の医療や福祉の現状を伝え、このくらい納税されると必要な施設やサービスをつくることができる、などを具体的にアピールするとよいのではないか」。(医師)

 

◯人材育成の問題について

「遠隔での対応や、看護師でなくても行えるケアの拡大など、規制の緩和も必要なのではないか。看護師や介護士以外で、この領域に関わりたい人材もいるはず。NPOなどと連携してもっと多面的な動きが取れるようにしてほしい」。(NPO職員)

「スリーピングナース(看護師の有資格者が看護師として就業していない)の問題は、テクノロジーを使ったコミュニケーションを導入するなどしてコストを下げられないか。」(医師)

 

【テーブルから生まれたネクストアクション・アイデア】

市橋さんは、こう語ります。

 

「この分野にこそコレクティブ・インパクトが必要です。東海3県がばらばらに動くのではなく、例えば、愛知・岐阜・三重エリアの関係者を一同に集め、訪問看護師のステーションを作りたい看護師さんと、来てもらいたい病院や自治体とのマッチングを行う。さらには、東海3県以外で働いている看護師のU・I・Jターンを3県合同で行う。そういった試みを続けながら、訪問看護が自然に増えていくような生態系をどのように作っていくか検討していく。

 

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訪問看護のステーションを作り、維持していくことは難しいことです。人口が少なくて働く人を確保しづらいのに24時間体制を作らなければいけないこと、質の高い看護を提供するためには研修が必要なのに看護師の人数が少ないから研修に行けないこと、地域の医療との連携が不足していることなど問題は山積みで多岐にわたります。このような難しい分野だからこそ、地域のステークホルダーが一同に介して共通の課題に取り組んでいく必要があるのではないかと考えています」。

>医療法人かがやき 総合在宅医療クリニックについて詳しくはこちら

 

ワクワクする介護予防を通じて、最期まで自分の可能性をあきらめない環境を作りたい。

 

こちらのラウンドテーブルのアジェンダオーナーは光プロジェクト株式会社 代表取締役の杉村卓哉さん。

 

「高齢者が活き活きと輝く世界をつくりだしたい」との強い信念で、2010 年にプロダクト・アクシィー社を起ち上げ、高齢者支援事業で多くの行政・民間企業とコラボレーションし、地域に求められる介護サービスづくりに尽力されています。

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社会保障費が2025年に150兆円に達すると予想されるなか、介護予防の重要性が増していますが、介護予防参加者は対象者の10%未満という現状。

 

杉村さんは「病院・施設・公民館といった特別な空間で"一生懸命"するこれまでの介護予防・リハビリのかわりに、日常生活の延長線上にある商業施設での介護予防・リハビリを提案したいのです。開放的な商業施設での買い物を通して運動をすれば、楽しみながら身体機能の改善が期待でき、久しぶりの知人と再開したり、諦めていた趣味に再挑戦したくなったりと、役割・生きがいを再獲得する場ともなります。」と話します。

 

杉村さんから提示された議論のテーマは、「高齢化率100%になっても、元気にイキイキと役割を発揮して、病気になる暇がない地域をつくるアイデア下さい!」。

テーブルではどのような意見やアイデアが出たのでしょうか?

 

【テーブルでの議論・意見】

 

杉村さんは日常生活に近いかたちでの商業施設での運動、"ショッピングリハビリ"のサービスを提供しています。買い物や歩いた数に合わせてスタンプを押し、スタンプを10個集めると商品券(500円)をもらえる、という内容のサービスです。議論では、サービス自体の価値を見つめ、どのようにしたらより良くなるかという視点でアイデアが集まりました。

 

◯従来の高齢者向けサービスに集まらなかった層を巻き込むことができるかも?

「地域の公民館での体操教室などに集まるのはアクティブシニアの方々で、無関心な人をどう巻き込むか? ということが課題だと思っていた。日常で運動ができると自然に誰でも参加できるようになっていい」。

 

◯"日常での介護予防"という観点だと他のやり方もある?

「高齢者の家に、共働きで帰りが遅い家庭の子供たちが遊びに来る仕組みを作れないか? 子供を預かることで、高齢者も話し相手ができ、子供たちも寂しい思いをしなくて済む。地域密着型のサービスにすることができるのではないか」。

 

◯より参加したくなる場所にするためのアイディア・おばあちゃんアイドルを結成

・コミュニティ内で家電などのシェアリング

・漬物や味噌の教室

など」

 

【テーブルから生まれたネクストアクション・アイデア】

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杉村さんは、「高齢者の方々の日常の延長線上に、生きがいにつながる活動をつくり、介護予防を行うことを通して、年間150兆円の社会保障費を少しでも削減したい。一人一人のやりたいことにフォーカスしていくことが必要だと改めて感じました。今日出でたアイデアを最大限生かしていくために、まずは現在の利用者さんにヒアリングをして、趣味の集まりを作るなど実践に変えていきたい。」と話します。

 

1月以降も議論のメンバーで集まり、改善に向けてブレストを予定!今後の取り組みにも注目です。

 

>光プロジェクトの詳細はこちらから

 

今回のレポートでは、新しい医療や福祉に向けた活動をご紹介しました。総務省では、日本の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が過去最高の26.7%となり、国内における80歳以上の高齢者の人口が1千万人を超えたことを発表しています。「社会課題解決中マップ」でも、<延ばしたい健康寿命><日本が一歩先ゆく超高齢化社会>など医療や福祉に関するアジェンダで国内外の活動をご紹介しています。

 

一見ネガティブな話題にも思えますが、超高齢化社会の世界での先陣を切っている日本だからこそ、世界が参考にできる社会モデルを創出できる可能性があると考えることもできます。"老い"や"死"という、全ての人が向き合うことになるアジェンダ。一人一人ができることはどのようなことでしょうか? 今回とりあげた二つの議論の今後の進捗もふくめて、超高齢化社会へのポジティブな取り組みを今後も発信していきます。

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DRIVEメディア編集部です。未来の兆しを示すアイデア・トレンドや起業家のインタビューなど、これからを創る人たちを後押しする記事を発信しています。 運営:NPO法人ETIC. ( https://www.etic.or.jp/ )

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