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「強み×強み」の連携へ。自治体・企業・社員から見る「地域おこし企業人」制度 ~ローカルベンチャーサミット2019レポート(2)

2019.12.24 

自治体、企業、起業家の連携による、地方での新たな事業創出を目指した“作戦会議”「ローカルベンチャーサミット2019」。3度目の開催となる2019年は、主催団体である「ローカルベンチャー協議会」の参画自治体に加えて、今後の参画を検討する約20の自治体が参加。今年度から共催に環境省や一般社団法人シェアリングエコノミー協会が加わったことでそれぞれのつながりがある企業への呼びかけも行われ、300名を超える参加者が会場に集った。

 

>>ローカルベンチャーサミット2019レポート(1) オープニングトーク編はこちら

 

オープニングトークに続く18もの分科会は、サミットの主催者である「ローカルベンチャー協議会」の10の幹事自治体が企画運営を担当したものだ。テーマは地域ごとの特徴や重点施策の多様性を反映し、地域おこし企業人/協力隊の活用、再生エネルギー、ふるさと納税の活用法、教育、防災、不動産、アート、地域福祉から、事業承継、兼業・副業など多岐にわたった。

 

それらの中から、この記事では「企業・行政双方から見る『地域おこし企業人』のすべて」と題された分科会をレポートしたい。

 

<登壇者>

株式会社LIFULL地方創生推進部部長 渡辺昌宏氏

釜石市地域おこし企業人(株式会社LIFULL出向) 北辻巧多郎氏

釜石市オープンシティ推進室室長 石井重成氏

総務省地域力創造グループ地域自立応援課理事官 梶原清氏

「地域おこし企業人」は企業が地域と関わるインパクトを最大化する仕組みの一つ/釜石市オープンシティ推進室室長 石井重成氏

写真左から石井重成氏、北辻巧多郎氏、渡辺昌宏氏、梶原清氏

写真左から石井重成氏、北辻巧多郎氏、渡辺昌宏氏、梶原清氏

冒頭、「この分科会では自治体・企業双方にとっての地域おこし企業人制度の意義、今後の活用の可能性について考えることを大上段に置いています」と語ったのは釜石市オープンシティ推進室室長・石井重成氏。この分科会では、地域おこし企業人の受け入れ自治体として釜石市の説明を担当する。

 

「開かれた街をつくろう」を合言葉に、オープンシティとして多様な企業・人材と共にまちづくりに取り組んできた釜石市。東日本大震災では1,000名以上の方が命を落とし、3年間で10万人以上がボランティアに訪れた地域だ。

 

「企業から個人のボランティアまで、将来的に移住につながるような交流を続ける中でまちづくりの調整役を施策的に設置してきたのが釜石市です。様々なセクターの強みを掛け合わせ、どのようにしたら化学変化が起こるのか検討し、そのインパクトが最大化する仕組みをつくってきました」

 

釜石市にとっての地方創生とは、「人や企業が地域と関わるインパクトを最大化する仕組みづくり」とも言い換えられるという石井氏。実際に釜石市では民間人材が官民問わずに活躍している。大企業から市役所や企業への出向、「釜援隊」と呼ばれる半民半官の地域コーディネーターの存在。これら人材の流動性は、「地域課題を色んな人が関われる余白にしてきた結果」だと石井氏は語る。

2そのような背景の中、2017年12月に締結されたのが株式会社LIFULL、楽天LIFULL STAY株式会社、釜石市による「空き家利活用を通じた地域活性化連携協定」だ。今回の分科会登壇者である株式会社LIFULL北辻巧多郎氏は、その協定のもと地域おこし企業人として2018年4月から釜石市に出向している。

 

北辻氏の釜石市でのミッションは、1)空き家の情報収集・情報発信、2)遊休不動産の利活用、3)空き家利活用に関して推進する引継人材を育成すること だ。

 

北辻氏出向後、空き家バンクの掲載数は2.1倍に、成約数は1.5倍に改善。この成果を踏まえ「地元の不動産としっかりコミュニケーションをとり情報チャネルを増やしていく大事さが浮き彫りになりました。さらに、行政による仕組みづくりも大事ですが、その中で誰がやっていくのかも大事なのかもしれないと改めて学ばせていただく経験になりました」と石井氏は語る。

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また、北辻氏のこの2年間の取り組みにより他地方と比較し家賃が高いという課題に解決の道筋が見えてきたと続ける。2017年には0店舗となってしまっていた仲見世商店街で三陸地方初となるリノベーションスクールを開催、空き家に安価で地域おこし協力隊員に住んでもらい、空きスペースをシェアハウス化するなど、遊休不動産の利活用が推進されるような成果も生まれている。出向期間終了後の後継の人材育成もミッションに含まれており、「釜石市としては今回の企業人受け入れに関しプラスの側面しかない」と石井氏は語る。

ヒアリングでは把握できない課題を知り、新たなサービスが生まれる機会/株式会社LIFULL地方創生推進部部長 渡辺昌宏氏

次は派遣側企業の体験談として、株式会社LIFULL地方創生推進部部長 渡辺昌宏氏の発表へ。

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設立から約20年超になる「株式会社LIFULL」。世界一のライフデータベース&ソリューション・カンパニーを掲げ、不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」の運営など、数々の暮らしを豊かにする事業を運営している。そんなLIFULLが2017年にスタートしたのが、空き家の再生を軸に日本に新しいライフスタイルを提案しようという「LIFULL地方創生」だ。

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2017年、野村総合研究所により2033年には日本の全物件の約3軒に1軒が空き家になるという予測が発表された。総務省統計局による2019年4月の報道資料によると、平成 30 年住宅・土地統計調査では約846万軒のもの空き家数が明らかにされている。それらの社会課題を解決しようと、「未来は空き家にあった」というコンセプトを掲げ物件情報の全データベース化を目指したのが「LIFULL地方創生」だ。

 

「社会課題解決も企業にとっては持続可能なビジネスで成立させることが大事」だとし、ヒト・モノ・カネが持続可能であることを目指したその事業内容は多岐に渡る(下図参照)。

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その中の一つ、全国版空き家バンク「LIFULL HOME’S空き家バンク」は、自治体ごとに存在しているローカル版空き家バンクをより標準化してまとめたサービスになる。毎月およそ1万人ペースでユニークユーザー数が増えているというこのサービスについて、今後さらに成長させていくにあたり

 

1)空き家物件を情報として掘り起こしていく仕組みがないこと

2)自治体ごとに相談窓口はあるものの運用が各地域バラバラで使い勝手がいいとは言えないこと

3)空き家バンクのニーズはあるが人材不足で運用できていない自治体があること に課題を感じていたと語る渡辺氏。

 

LIFULLにとって2017年に釜石市と結んだ協定は、これらの課題を解決するための一つの施作に当たる。

 

北辻氏派遣後、ヒアリングだけでは把握しきれなかった現場の実態を目の当たりにし、社の仮説を超える課題が明らかになり一層適切な打ち手を考えられるようになったと語る渡辺氏。釜石市で北辻氏が見出した課題は、

1)人材不足

2)マニュアルが存在しない

3)人事異動があるためノウハウが蓄積しない

4)結果、窓口機能が運営できていない

5)物件の掘り起こしも、マッチングも十分に手が回らない ということだった。

 

現在はこれらの課題を解決するため、マニュアルの作成、担い手となる専門人材の育成、彼らのための研修、サポートデスクの設置に向けた動きを開始していると続ける。

 

「最初は空き家の専門知識を持っていなくても、想いがあれば育成講座やサポートデスクを活用することで運用可能になる仕組みを作ることを目指しています。具体的には地域おこし協力隊制度を活用し、3年後には自立できるような人材育成、マニュアル、研修の準備を進めています」

 

現時点でのサービスの受益者の7割は全国の自治体職員だが、窓口の専門サポートデスクを設置し、遠隔のOJTでありながら実践しながら学び続けられる仕組みになっている。同時に空き家所有者に向けた啓蒙や相談活動も始めているそうだ。

 

最後に、地域おこし企業人という制度について「自治体にとっても企業にとってもメリットがありつつ、派遣された本人が一番学びになるという素晴らしい仕組みだと感じている」と渡辺氏は締めくくった。

「地域おこし企業人」制度を活用する企業・社員にとってのメリットとは

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登壇者全員によるクロストークでは、2014年度から始まったものの自治体・企業双方にとって未だ活用しきれているとは言い難い「地域おこし企業人」制度について、その活用の可能性が議論された。

 

▷社員にとってのメリット

 

「自治体にとってのメリットは伝えられたと思うので、社員本人と企業にとってのメリットをここでは探っていきたい」と切り口を提示した石井氏。

 

北辻氏は「新卒で入社し転職したことがなかったので、IT企業から地方自治体へ転職のような体験をできたのは稀有なことでした。行政では利益にならないからこそ着手していることが多く、企業での経験しかなかった身としては新鮮な思いでした。それに『北辻です』と名乗っても地方の高齢の方はお宅に入れてくれませんが、『釜石市の職員です』と名乗ると受け入れてくれるんですよ」と語り、さらに業務を続ける中で空き家問題は本来行政がやるべきなのかと疑問を抱くようになったと続けた。

 

「地域の不動産会社が全部やってくれたらいいのにと思うことがありました。ビジネスにならないからという理由で着手されていないのですが、行政を支えるサービスを企業として生み出すことで地域が活性化するストーリーがしっかり見えたのは大きな収穫でしたね」

 

北辻氏を送り出した張本人である上司の渡辺氏は、そんな北辻氏についてこう語る。

 

「社名のLIFULLには、世の中の人々の「LIFE」を「FULL」にしたい、生き生きさせたいという意味が込められています。今の話を聞いていると彼の人生がより生き生き輝くようになったように感じられて嬉しい限りですし、社内に戻ってもより一層活躍していってくれるのではと感じます。実際、派遣後からLIFULLの各種サービスの考え方をより深く理解しようと努めていることが伝わる質問が増えましたし、その前提も釜石市の役に立とうというもの。とてもいい自己成長の場になっているのではないかと思っています」

 

▷企業にとってのメリット

 

これまでに経験のない環境、新しい人たちの中に飛び込んでいくので武者修行になるのは間違いないと続ける石井氏。

 

「その武者修行は企業にとってのロイヤルティにもなり得るんですね。社外に出たからこそ、自社のサービスを知り、そこで貢献できることを考えるようになるのだなと感じました。とはいえ、実際の制度活用にはハードルがあるだろうと感じますが、その点はどうされていますか?」

 

そうした石井氏の問いかけに対し、「事業の構造上課題解決のベストパートナーが自治体さんなので、派遣中にその実態を把握できるという意味でこちら側にとってもいい仕組みになっています」と答える渡辺氏。結果的に「強み×強みの連携」になっていると語る。

 

「課題を把握、実証実験、商品化のプロセスを今回の地域おこし企業人としての派遣中に結果として体験でき、さらに自治体の状況が把握できるようになっているので、北辻は他自治体からの信頼も得られるのではないかと感じています。これからLIFULLに戻り、仕組みを多方面に導入していくという展開は、本人も楽しみながら結果に繋げてくれるのではないかと思います」

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総務省地域力創造グループ地域自立応援課理事官 梶原清氏は、「今日のような場を持っていただけて我々としては大変嬉しく思います。地道に事例紹介に取り組み、もっとこの仕組みについて広めていきたい」と語る。石井氏も「今年から受け入れの経費負担が上限560万円にまで引き上げられるなど、内閣府によるサポートも増え自治体にとっても活用しやすくなっています。ぜひ検討を」とクロストークを締めくくった。

自治体側は積極的な案件化、そして外部人材を受け入れる環境づくりを

最後に、会場からの質疑応答を記したい。

 

Q.LIFULLと釜石市が協定を実現した理由、なぜ釜石市なのか

 

石井:LIFULLさんに関しては東北復興で繋がった人のご縁です。

 

北辻:なぜ釜石市にと聞かれることは多いです。震災の影響で空き家は少ないのではないかと言われますし、実際に岩手県でも内陸部の方が空き家は多いです。ただ、私が社の方針として聞いているのは、「重視したのは自治体の実態を知る」ということであり、派遣されたメンバーが馴染める環境かどうかだったということ。外部人材との協働経験を多く持ち、現在も外部人材が多く活躍するコミュニティがある釜石市は適切な環境だと判断されたのだと思います。

 

企業人受け入れを検討している自治体には、ぜひ入ったときに安心できる要素を準備していただくなり、馴染みやすく動きやすい雰囲気を作っていただくことが大事なのかなと感じています。

 

 

Q.今回の派遣である程度実態を把握されたかと思いますが、LIFULLとしては地域おこし企業人は今後も派遣予定か

 

渡辺:結論としては派遣する可能性も派遣しない可能性もあります。地方の皆さんと連携して課題解決しようと「LIFULL地方創生」を始めたとき、地方創生という大きな枠組みの中で入口として空き家の課題を選んだだけなので、今後テーマは広がっていくと思っています。その中で自治体が課題解決の第一人者であるということは変わりないと思うので、今後も連携はマストでしょう。ただその際、企業人制度なのか協力隊制度なのか別の制度なのか、実態を把握し正しい打ち手を目指していくために結果的に色んな選択肢があると思っています。

 

 

Q.自治体側としてはどうしたら企業が人材を派遣してくれると思うか

 

石井:自治体側も企画を担当する部署などが案件化していくのがポイントになるのかもしれません。こちらが何を求めているのかを可視化させるということです。また今回に関しては、相手がLIFULLさんだったので事業内容に合わせて空き家問題に関する案件になりました。

 

*

 

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この記事を書いたユーザー
桐田理恵

桐田理恵

1986年生まれ、茨城県育ち。医学書専門出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2017年からはフリーランスのライターとして活動している。

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