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企業版ふるさと納税を使い倒す!税制改正に伴う攻めの活用方法 ~ローカルベンチャーサミット2019レポート(3)

2020.01.23 

自治体、企業、起業家の連携による、地方での新たな事業創出を目指した“作戦会議”「ローカルベンチャーサミット2019」。3度目の開催となる2019年は、23の地方自治体や大手企業など、300名を超える参加者が会場に集った。

 

>>ローカルベンチャーサミット2019レポート(1) オープニングトーク編はこちら

 

オープニングトークに続く18もの分科会は、サミットの主催者である「ローカルベンチャー協議会」の10の幹事自治体が企画運営を担当したものだ。テーマは地域ごとの特徴や重点施策の多様性を反映し、地域おこし企業人/協力隊の活用、再生エネルギー、ふるさと納税の活用法、教育、防災、不動産、アート、地域福祉から、事業承継、兼業・副業など多岐にわたった。

 

それらの中から、この記事では「企業版ふるさと納税を使い倒す!税制改正に伴う攻めの活用方法」と題された分科会をレポートしたい。

 

<登壇者>

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局参事官 島田 勝則氏

株式会社SMO南小国COO 安部 浩二氏

南小国町役場まちづくり課企画商工観光係長 穴井 幸太郎氏

企業版ふるさと納税の概要/内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局参事官 島田 勝則氏

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局参事官 島田 勝則氏

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局参事官 島田 勝則氏

まずは、この分科会のメインテーマである「企業版ふるさと納税」の制度概要について、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局参事官 島田勝則氏からの説明が行われた。

 

▷「まち・ひと・しごと創生総合戦略」とは

 

2014年、各地域がそれぞれの特徴を活かし自律的で持続的な社会を創生することを目指し設立された「内閣官房まち・ひと・しごと創生本部」。2014〜19年の5か年計画で策定された国と地方が共に地方創生に取り組む「第1期まち・ひと・しごと創生総合戦略」も終わりを迎え、来年度から地方創生第2フェーズがスタートする。現在、第1期総合戦略から継続された以下4大目標

 

1.地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする

2.地方への新しいひとの流れをつくる

3.若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる

4.時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する

 

に沿った戦略づくりが進められている最中だ。

 

また、島田氏は「まち・ひと・しごと創生総合戦略」のそもそもの捉え方について、国はこうした戦略を“メニュー”として提示することはできるがその全てを実践してもらいたいのではないとし、自地域にとって必要な部分を上手に取捨選択し、各地域で戦略を作成してもらうことを期待しているものであると語る。その上で国は情報・人材・財政面から各地域を支援していくことを想定している。

 

▷「企業版ふるさと納税」制度概要、今後の改善点

 

2016年度に生まれた「企業版ふるさと納税」は、そうした財政支援の一つの選択肢であり、来年度からスタートする「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略」においてその内容が大きく改められようとしている制度だ(2019年12月の税制改正大綱において、制度の延長・拡充が盛り込まれた。関係法令の公布・施行を経て、実施されることとなる)。

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制度改正要望の背景について、島田氏はこう語る。

 

「企業の地方移転を推進するための税制も設けているのですが、やはり物理的な移動は簡単にはいきません。そこで第2期総合戦略では寄付にも焦点を当て、企業版ふるさと納税制度の改善に注力しています」

 

これまでも企業の自治体への寄付は損金算入という形で寄付額の約3割に相当する額の税負担が軽減されていたが、「企業版ふるさと納税」の登場により新たに寄付額の3割が控除され、あわせて税負担の軽減効果が2倍の約6割となった。例えば100万円寄付すると法人関係税において約60万円の税が軽減されるという仕組みになっている。そして現在、その期間を令和6年度まで延長、控除割合も3割から6割に増やし、損金算入3割+控除6割で実質寄付の最大9割が戻ってくる仕組みにできるよう要望中だという。

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▷「企業版ふるさと納税」現在の実績

 

現在の認定実績(令和元年度第2回認定後)は 644事業、総事業費1,333億円、 40道府県374市町村となっているが、純粋な寄付額のみでみれば2018年度で34億5,400万円と、個人のふるさと納税5,100億円と比較すればまだまだこの仕組みを活用し切れているとは言えないと島田氏は語る。1,000万円を超える大口寄付も5%ほど、8割以上は100万円以下の寄付額だという。

 

一方で好事例としては、秋田県の事例が一つ挙げられる。白神山地の麓に研究所がある株式会社アルビオンや白神山地周辺の法面工事等を行う株式会社アイビックらが、秋田県担当部署からの事業説明や呼びかけを受け白神山地の保全事業へ寄付を決定。アルビオン社においては、寄付だけでなく藤里町と包括連携協定を結び、地域文化の共有や防災・災害対策、人材交流・養成といった地域振興にも協力しているのだそうだ。

 

続いて二つ目に岡山県玉野市の事例が挙げられる。造船業を基幹産業とした企業城下町の玉野市だが、市内に工業高校が存在しないため工業系企業への就職者不足が深刻化。20 代の転出超過数も多く、若者の地元定着を推進するため市立商業高校に機械科を新設することになったという。その際に同市で創業した株式会社三井E&S ホールディングスが創立100 周 年 を 記 念 し  6,500 万円の寄付および実習施設の新設等、総額1億円相当の支援を決定したそうだ。

 

また、災害後の寄付事例も多い。その中でも、1億円の寄付を予定していた企業が企業版ふるさと納税の存在を知りその額を2億5,000万円まで引き上げた事例もあるという(その他、企業版ふるさと納税事例はこちらにも掲載されている)。

 

▷「企業版ふるさと納税」活用方法

 

「SDGsの取り組みを進めたくとも何をすればいいのか分からないという企業の方々に、ぜひこの制度を利用していただきたいと思っています。例えば11番目の目標として掲げられている『住み続けられるまちづくりを』は地方創生そのもの。また、南小国町であれば森林保護など、各地域それぞれがSDGsに紐づく課題を抱えています。さらに17番目の目標『パートナーシップで目標を達成しよう』は、企業と地方自治体の協働として達成されるのではないでしょうか」

 

2018年に内閣府地方創生推進室から生まれた、SDGsを共通言語とした課題解決に取り組む官民の連携創出支援「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」には、既に900近い自治体と民間団体が加盟している。その中には企業版ふるさと納税の分科会もあり、マッチングの場となっているようだ。

 

最後に、島田氏は制度への思いをこう語る。

 

「企業側のメリットも一層生まれるようにしつつ、制度がますます活用されるよう引き続き改善に努めます。また個人的には、自治体には財源確保という側面だけでなく、企業の人々と様々な絆を構築していく機会にしていただければと思っています。そうして企業との連携を通し、各地域の事業の質向上が期待できるいい仕組みなのではないかと感じています」

一地方の取り組みを素材に、企業版ふるさと納税の可能性を考える/南小国町役場まちづくり課企画商工観光係長 穴井 幸太郎氏、株式会社SMO南小国 安部 浩二氏・安部千尋氏

南小国町役場まちづくり課企画商工観光係長 穴井 幸太郎氏

南小国町役場まちづくり課企画商工観光係長 穴井 幸太郎氏

次に、この分科会の企画運営を担当した熊本県南小国町を舞台に企業版ふるさと納税の可能性を考えていきたい。

 

熊本空港から車で1時間15分ほど、阿蘇外輪山のふもとに位置する南小国町は、人口およそ4000人を有し高齢化率は38.9%だ。主産業は観光と農業、そして林業。黒川温泉を代表とした泉質の異なる6つの温泉地に、原木しいたけやまいたけ、小国杉が主な特産品だ。また、美しい里山を有する同町は「日本で最も美しい村」連合に加盟しており、国際連合食糧農業機関が2002年に開始した世界農業遺産においても、阿蘇地域世界農業遺産として認定されている。現在では阿蘇地域文化遺産の認定へ向けて取り組みを進めているのだそうだ。

 

そうした背景を持つ南小国町は、「上質な里山」をコンセプトにこれまで各々独立した動きをしていた地域産業と観光産業を融合させ、地域の経済循環を生み出していく南小国版DMO(Destination Management Organization:当該地域にある観光資源に精通し地域と協働し観光地域づくりを行う法人)「SMO(Satoyama Marketing/Mnagement Organization)南小国」を2018年7月に設立した。

 

1)地域商社として物産館の企画運営・ふるさと納税の運用、2)観光振興として観光協会と協働した情報発信、3)地域づくりとしてローカルベンチャー事業推進という3軸でそのチャレンジをスタートしたSMO南小国。同社COO安部 浩二氏は、「地域外の金融・物的資本、機会などを投資家として集め、地域に還元していくことを目指していく」と語る。

6

さて、そんなSMO南小国が構想している「まちの人事部」という人材育成のプロジェクトがある。

 

「まちの人事部」は、ローカルベンチャー協議会の財源を活用し地域外からの移住・起業を含めた新しいチャレンジをする人を町に増やすというプロジェクトだ。現在も阿蘇地域における仕事や暮らしのニーズはあるものの、仕事の案件発掘の困難さを理由に人口流出が多いのだそうだ。この課題を解決するため、地域内の仕事におけるニーズを掘り起こし、マッチングを推進するのが「まちの人事部」構想になる。

 

すでに2019年4月から実践をし、移住者が生まれる結果を出しているが、担当者である安部千尋氏は以下のような課題を語る。

 

「これから人材の流れが増えていく中、空き家の整備が追いつかず住宅が圧倒的に足りないんです。また移住者の住宅の場所も転々としていて、コミュニティになることがありません。新しい挑戦をしたい人のために、衣食住の『住』の部分を整え、安心して挑戦できる環境を整えることが大切だと感じています。これから町内の空き家をシェアハウス化したり、集合住宅化するなどの取り組みを進めていくことを考えていますが、こうしたことも企業版ふるさと納税を活用できるのでしょうか」

 

これら南小国町側からの話をもとに、企業版ふるさと納税制度を活用して何かできる可能性はないのか、島田氏による考察は以下のようなものになった。

 

▷可能性1:森林資源活用の視点

 

SDGsの観点からも、森林資源の活用に着目してはどうか。具体的には、廃校活用などは企業にとっても成果が見えやすいので好ましいと思われる。

 

▷可能性2:人材育成の視点

 

事例集(当日配布されたもの。データはこちらから)の目次でこれまでの取り組みの分類が確認できるが、人材育成の分野で多く活用されている。移住者への職業訓練や、その指導者として寄付企業から地域おこし企業人を派遣してもらうなどはどうだろうか。

 

▷可能性3:水源地を活かす視点

 

水源地としての魅力を活かして飲料メーカーとのコラボレーション、あるいはエネルギーという視点から小水力発電の実験場として電力会社とコラボレーションもできるのでは。

 

▷可能性4:新しい働き方の実験場という視点

 

企業にとってもメリットが必要だと考えると、住宅メーカーよりも人材派遣会社などに対し新しい働き方の実験場として提案できる可能性もあるのでは。

 

▷可能性5:暮らし方変化の研究としての視点

 

住宅の整備という点を考えると、働き方が変われば暮らし方が変わり、まちの在り方も変わるということを不動産会社などデベロッパーと研究してみるのはどうだろうか。

質疑応答

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以上で登壇者の発表を終え、会場からの島田氏への質疑応答タイムへ。制度の具体的な活用方法についての問いが多く投げかけられ、制度活用への関心の高さが伺える時間となった。

 

▷計画書について

 

Q:制度を利用する際に作る計画書が、非常にハードルが高いと耳にしました。

 

反省とお詫びを込めてお伝えすると、実際にこれまで細かな点について求めすぎていたところがあり、現在認定手続きの簡素化を進めています。今後、個別相談にも寄り添い進めていくことをお約束します。様々改善点はありますが、基本的には寄付内容の妥当性、寄付額のオーバーフローがないことのチェックなどを事後に確認していければいいと思っています。こうした改正要望の内容をお伝えしだしてから、企業や自治体の方からの問い合わせも増え、それならば来年度は検討するという声をいただくようになりました。

 

▷行政から企業側への営業について

 

Q:一般のふるさと納税では募集や広報にかける予算は集金分のいくらかから出すことができたと思いますが、企業版ふるさと納税でもそういった予算の使い方は可能なのでしょうか。

 

できます。1年前に自治体向けのQ&Aにも記載いたしましたので、ぜひご確認ください。

 

Q:それを踏まえると、企業へ「企業版ふるさと納税制度を活用してこんなことができます」と営業すればかなりマッチングの可能性が上がるのではと感じます。行政の作った案件にお金を集めていくよりは、企業がこうしたことを望んでいそうだという視点から営業して案件組成していく方法もありなのでしょうか?

 

おっしゃる通りです。ただ、そうした事例はまだ生まれていないのが実情です。企業からすれば「そんなものには寄付は出せない」と言いたくなるような行政側のプレゼンもありますので、企業側から先に「このようなものならば寄付が出せる」と提案してもうなど、企業にイニシアティブのあるプロジェクトが生まれ、もっと制度を活用してほしいと思っています。

 

▷これまでのマッチング事例

 

Q:具体的にどのようなマッチングが生まれてきたのか、前例を教えてください。

 

残念ながらマッチングの場での成果は少なく、県人会で出会うなど出身者のつながりであったり、非常にアグレッシブな市長のもとで多くの営業活動が功を成した例であったり、市長だけでなく職員が1,000件以上のリストを作成し組織的に営業をかけ成功した例があります。

 

▷リターンについて

 

Q:寄付していただいた企業に対するリターンはどこまでやれるのでしょうか。

 

寄付企業への返礼品などの経済的な見返りは禁止されています。これが一般的なふるさと納税との一番大きな違いになります。例えば目録贈呈式、知事からの感謝状贈呈などをネタにローカル局や新聞に取材してもらうなどは、大いに取り組んでいただければと思います。

 


 

【関連記事】

>> 若者の働き方が変わり、地方が変わる。「自治体×企業×起業家」で新たな事業創出を 〜ローカルベンチャーサミット2019 レポート(1)

>> 「強み×強み」の連携へ。自治体・企業・社員から見る「地域おこし企業人」制度 ~ローカルベンチャーサミット2019レポート(2)

 

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この記事を書いたユーザー
桐田理恵

桐田理恵

1986年生まれ、茨城県育ち。医学書専門出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2017年からはフリーランスのライターとして活動している。

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