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感情をマネジメントし、本質的に望む結果を得るには?セルフマネジメント研究の第一人者ジェレミー・ハンター氏に聞く

2020.06.30 

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新型コロナウイルスの流行により、私たちの働き方や生活のあり方は、大きな変化を迫られています。外出することが減り、自分と向き合う時間が増えた方も多いかもしれません。

 

そんな方にお伝えしたいのが、自分自身をマネジメントする「セルフマネジメント」という考え方です。

 

このメディアを運営するNPO法人ETIC.(エティック)は、5年前より社会課題の解決に挑むリーダーを対象としたセルフマネジメントのセッションを開催してきました。講師はセルフマネジメント研究の第一人者であるジェレミー・ハンター氏。ジェレミー氏は米クレアモント大学院大学ピーター・ドラッカースクール准教授で、日本のソーシャルセクターのリーダーのよき伴走者でもあります。

 

不確実性の増す社会において、その重要性が注目されるセルフマネジメントとは、どのようなスキルで、どう活かせるのか、ジェレミー氏に伺いました。

 

ジェレミー・ハンター氏(Ph.D.) プロフィール

日本人力士のひ孫として誕生。

ピーターF.ドラッカー大学院の准教授であり、大学院のエグゼクティブ・マインド・リーダーシップ・インスティテュートの創設ディレクターを務める。東京にある合同会社Transform LLCの共同創設者でもある。20年近くにわたり、大きな変化と挑戦に向かうリーダーたちが、自分らしさを磨きながら変容するのをサポートしてきた。

リーダーシップ・プログラムを実施した団体は多岐にわたり、フォーチュン誌で全米上位200位に選出された航空宇宙会社や、同誌上位50位に選出された銀行・金融機関、会計事務所の他、芸術や非営利組織など多様な業界を含む。プログラムの効果は、プロフェッショナルとしての成果のみならず、参加者の個人的成長や経済的変化としても現れている。

彼が手掛けるリーダーシップ・プログラムは、17年間の間、末期症状と思われた自身の闘病生活の体験をもとに誕生。命に関わる手術を行った際は、大勢の過去の生徒たちが臓器提供者として手を上げた。シカゴ大学で人間発達学の博士号を取得。ハーバード大学の大学院ケネディスクールの修士とウィッテンバーグ大学の学位も有する。

セルフマネジメントはまず自分の状態の観察から

急速に世界が変化している今、あなたの状態はどれに一番近いですか?

 

・Collapse(破綻してどうしようもなくなっている)

・Cope(なんとかやっている)

・Transform(変化(変容)し、新たな可能性を生み出している)

 

では私たちが求めている状態は、この3つのうち、どれでしょうか?

まず、Collapse(破綻してどうしようもなくなっている状態)は、破滅につながるので、現実的な選択肢ではないでしょう。Cope(なんとかやっている状態)は、その場しのぎの解決策で、結局は元の状態に戻るということです。この元の状態というのは、変わりゆく世界において果たしてふさわしい状態といえるでしょうか? こう考えていくと、Transform(変化・変容し、新たな世界を生み出している状態)が、今の私たちに最も必要で唯一の現実的な選択肢なのです。私たちは、新しい環境に見合うよう、変化・変容していかなければなりません。そして意図して変化・変容を選択するためには、意識的に努力する必要があります。これこそが、私がリーダーたちに対して鍛えているスキルです。 

 

大きな社会の変化の中で、私たち自身も変わっていくこと。今回は、この新たな可能性を生み出す状態へ変化していくプロセス(変容)が、その人をより良くし、進化させる可能性があるということに注目したいと思います。ここで言う「より良い」状態というのは、例えば、今までの自分では考えなかったようなかたちで、より重要で、自分の成長につながることをするようになったり、忍耐を学んだり、適応能力を身に付けたり、変化をうまく扱えるようになったり、人間関係により感謝できるようになること等があげられます。

 

変化していく世界に適応する方法は多々考えられますが、自分が燃え尽きてしまう(バーンアウトする)ようなことなく、希望を常に持ち続けられる方法であることが大切です。予測ができないことに対して賢明に前に進んでいくためには、あるスキルが必要です。それは、恐れを受け入れ、目の前にある問題を否定せずにしっかりと向き合うというスキルです。

既存のルールが通用しなくなっている

変化に適応していくために、なぜ、目の前の問題を無視せずに向き合うというスキルが必要なのでしょうか。

 

たとえば、その問題に向き合うのが辛く、表面的にだけ見ていると、問題自体をないものとして無視したくなることがあったり、時には他人のせいにしたくなったりします。

 

これは、動物として自然な現象です。人は恐れと直面するとき、神経系が、逃げろと命令する仕組みになっているのです。この神経系を自分でマネジメントすることから、セルフマネジメントが始まります。正解の分からない状況において、自分がどうやって居心地よくいられるかを知るためには、まずは今いる状況に向き合うのです。

 

ここで質問です。自分の仕事でも、家族でも良いです。頭に浮かべてみてください。今の状況はどうなっていますか? 自分はその状況に対して、感情やアクションにおいてどのように反応していますか? そしてこの反応は理想的な、自分の求めている結果に繋がっていますか? もしも今、理想的な結果が得られていないとしたら、それを改善するために何を変えなければならないでしょうか。

 

ルールに則り、それに従って生きているだけだと、自分自身の行動や感覚が自動操縦状態に陥り、変化への適応能力が削がれていきます。既存の構造が変化し、これまでのルールが通用しなくなってしまった時、それに頼り続けることはできません。ルールに従うのではなく、目の前の現実に向き合い注視し、どう自分が変化すべきかを理解していく必要がある時代がきています。

 

例えば、日本の「はんこ文化」は、わかりやすい例です。オフィス出社が制限され、はんこを使うのが現実的ではなくなっている今、いかにこれまで通りに進めるかという問題に頭を悩ませることは意味がありません。新しい条件下に見合った方法で意識的に新しい選択肢を作り出す必要がでてきています。

 

こういったこれまでの常識が通用しない時代においては、今まで隠れていて、光が当てられてこなかった側面が明らかになっていくと思います。そこに、ソーシャルリーダーやソーシャルイノベーターにとっての大きなチャンスがあるかもしれません。劇的な変化や先の見えない社会の中では、自分のマインドをどう扱うかを知った上で、ものごとを見通す力が求められています。

 

現実に向き合って、これは世の中が本当に求めている結果なのか、そしてその結果を生み出している自分の行動は適切だったのか、と問う――これまで何百人もの日本のソーシャルリーダーとセッションを持ってきましたが、彼らにはそれができると思っています。

望む結果を得るための行動をしていますか? それとも、感情的に、やみくもに行動していますか?

さて、今は変容するチャンスであると言いましたが、あなたの行動は、状況を良くしたり、新しい何かを創造することに結びついているでしょうか? それとも感情の波に押し流され、やみくもに行動していますか?

 

感情的、反射的になっている場合は、感情をマネジメントする必要があります。以下のことを自分に問うてみてください。

 

1.Understand what you are experiencing now.(今何を体験しているか理解しましょう)

2.Is it helpful to be angry?(もし怒りを爆発させているとしたら、それは今の状況を良くするために役立ちますか?)

3.How are you dealing with your frustration productively?(自分のフラストレーションを、何かを生み出すために使えていますか?)

4.In the end, is it just harming yourself?(そのフラストレーションは自分自身にマイナスに働いているだけですか?)

5.What are your values?(自分の価値は何ですか?)

6.What’s essential in the situation?(今の状況で本質的に大切なことは何ですか?)

 

感情を押し殺せと言っているのではありません。もし、恐れやフラストレーションを感じている、と自分で認知できたら、それはセルフマネジメントへの第一歩を踏み出しているということです。感情を受け入れましょう。怒っていても、悲しんでいても、いいのです。自分の感情を理解したら、自分が生み出せる価値と、今の状況に本質的に必要とされているものは何か、問いかけてみましょう。そしてその本質的な部分に、自分の意識を向けてみてください。

 

本質的なもの、とは何でしょうか。私は「世界は何を求めていて、私はそのためにどうやって貢献できるのだろう」と自分に問いかけます。ピーター・ドラッカーも、優れたリーダーは「自分の所属している組織のパフォーマンスや結果に大きく貢献するために、私は何ができるか?」と問うと言っています。例えば今は新型コロナウイルスの流行により、多くの人と対面で会うことはできないけれど、インターネットを用いて別の手段で人と繋がりを持つことができます。このパンデミックにより、世界各地でこれまでと比較にならないくらい多くのウェビナーが開催されていることを考えれば、むしろ学びや交流の新しい選択肢ができたと言えます。制限の多い環境でも、学べること、貢献できることはたくさんあります。

 

最近、美術館に勤務している、ある女性が変容していく過程に立ち合いました。彼女は新しい美術館を作るプロジェクトに関わっていたのですが、新型コロナウイルスの影響によりプロジェクトは中止。当然、美術館を開くことがゴールだったので、とても苛立ちをおぼえたそうです。しかしここで彼女は、このプロジェクトで本質的に重要なことは「美術館を開くこと」ではなく、「市民に教育の場を提供すること」だと気づきました。こうして彼女はウェブ上でイベントを開催するようになったのです。これが物事の本質であり、彼女は自分の作り出していた決めつけに気づいて、自分の在り方を変えることができたのです。

 

トークセッション

ソーシャルリーダーを対象にした特別セッションでの一コマ

 

「本質的に望むことは何か」を認識し、それに向かう

「新型コロナウイルスによって何が変わるのか?」と問われると、明確には答えられません。ただ一つ言えるのは、今この時が「新しいやり方」を定義するチャンスだということです。

 

「正しいこと」「ちゃんとしていること」を追い求めるあまりに、固定されたやり方が主流になっていませんか。それゆえに、一体何が求められていて、どんなやり方が最も効果的なのかが忘れられていませんか。今こそ、自分の価値や、自分の組織にとっての本質がなんであるかを明確にする必要があります。今回お話しした方法が、あなたにとって「自分の持っているスキルや才能をもって新しいチャレンジにどう立ち向かえるか」を考え、新たな選択肢を増やすきっかけになれば嬉しいです。

 


 

ジェレミー・ハンター氏によるオンラインイベントのご案内

「自己認知を高め、高いパフォーマンスを発揮し続ける」

7月4日(土曜日)10:00~ 参加費3000円

詳細はこちら

 

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ジェレミー氏のセルフマネジメントについて詳しく知りたい方はこちらから:

・『ドラッカー・スクールのセルフマネジメント教室』ジ ェレミー・ハンター (著)、 稲墻 聡一郎 (著) 

ジェレミー氏がドラッカー・スクールで講義している授業が書籍になりました。予測不可能な世界に生きるわたしたちが、「望む結果」を出すためのセルフマネジメントのエッセンスが詰まっています。

・日本での一般公開セッションは、ジェレミー氏が共同創設したTransform LLCが開催しています。

 

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福井瑞葉

福井瑞葉

元ETIC.インターン生。大学在学中には、中東地域における草の根交流事業の運営や複数のNPOに従事。一般企業でのITコンサルタントと人事を経て、2020年から大学院で臨床心理学を専攻。

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