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“「子どもの不条理」解決マップ”で整理する、国内企業による子ども支援の現状

2020.07.17 

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前回の記事(子どもにまつわる不条理な課題を改善するには?―海外における子ども支援事例から考える)に続き、第3部となる今回は、「子どもの不条理」に関する課題の全体像を捉え、マルチセクター連携を推進する際に役立つフレームワーク(「子どもの不条理」解決マップ)と、日本国内における企業事例を紹介します。

(「子どもの不条理」の定義については、前回記事を参照 )

マルチセクター協働時の課題と「子どもの不条理」解決マップによる効果

前回の記事では子どもに関する社会課題に対し、海外ではどのような施策がとられているのかを、マルチセクター連携という観点から紹介しました。日本においても、子どもに関する社会課題の認知が高まっており、行政・教育機関・NPO・市民など様々な組織や個人が解決に向けて取り組みを進めています。その素地があるからこそ、ここから先は、セクターを超え、組織を超えて課題とビジョンを共有し、連携を進めていくことが課題解決を前進させる鍵になるのではないかと考えています。

 

今回は本質的な解決に向けて、以下の3つを課題に仮定し調査を進めました。

 

(1)課題を跨いだ連携の不足

・多数のプレイヤーが活動しているが、個別の活動に特化・独立するケース

例)子どもの貧困問題と虐待には関連性があるが、個別の現場支援者同士の協働が不足

 

(2)人的・経済的リソース最適配分の未実施

・誰がどのようなサービスを提供しているのか充分に共有されておらず、取り組み領域の重複などが発生しているケース

例)子どもの貧困問題への対応は、学習支援や子ども食堂など、子どもを対象としたものに偏り、親・家庭への支援は不足

 

(3)ビジネスセクター(企業)の参画の不足

・課題解決に向けた支援者は行政やNPOが中心であり、ビジネスセクターの関与が不足しているケース

例)教育関連事業を除き、直接的な支援者としての参画が不足。また、企業内における社員家庭への見守り体制・取り組みも未整備

 

これらの課題に対し、「子どもの不条理」解決に必要な活動とその達成具合、及び不足している活動に対して補うべき要素を明示し、実際の支援提供者と潜在的な支援者(企業含む)のマッチングをサポートする『「子どもの不条理」解決マップ』(以降、解決マップ)が構築されつつあります。このマップは、本テーマに初めて取り組む支援者が自身にどのような貢献ができるのか直感的に理解するのを助け、新たな関与者の拡大を期待できます。

 

解決マップは、「子どもの不条理」に関する課題解決の4つのプロセス:「予防」・「発見」・「対処」・「アフターケア」の各時点で必要となるアクションを、8つの特性(効率性、汎用性、網羅性、一貫性、先進性、持続性、安全性、常時性)ごとに整理しています。さらに、「施策の実施(マネジメント)」・「制度の整備」・「社会的ムーブメントの誘発」・「セクター間の連携強化」といった施策を加速、補助するアクションを詳細化することで、「子どもの不条理」解決に向けた全体的な方向性を網羅的に提案します。

 

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4つのプロセスを8種の特性に展開すると、下記(図2)の様に計64マスの施策方針へとマッピングされます。

 

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国内企業による子ども支援取り組みの事例

国内において既に「子どもの不条理」解決にむけて独自の取り組みを行っている企業事例を解決マップへと重ね合わせることで、すでに充足しているエリアはどこか、新たなプレイヤーの呼び込みが必要なエリアはどこかといった全体の進捗度合いを整理することができます。今回は、調査した中から具体事例として4企業の取り組みと解決マップへの展開例を紹介します。

 

図3

 

a.次世代を担う人材の育成 〈株式会社 東京スター銀行〉

東京スター銀行では、「シングルマザーの貧困」・「貧困/社会的養護下にある子どもの金融リテラシーの不足」を対象課題とし、金融機関としての特性を活かした母子自立支援プロジェクトを展開しています。シングルマザー向けには、NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむと協働し、オフィスワーク就労支援プログラムを実施しており、ビジネスマナー・PC スキル等のキャリアアップ講座と受講者を対象として同行の採用選考への参加機会を提供しています。子ども向けには、青少年支援団体と協働し、お金のスタートレーニング講座と題して、子どもたちが将来「⾃律的な収⽀管理・ライフプランの⽴案・職業選択」を行える力を身につけることを目的とした学習機会を提供しています。

 

b.ITキャリア教育機会の提供〈日本オラクル株式会社〉

日本オラクルでは、「社会的養護下の子どもたちのキャリア教育機会の欠如」を対象課題とし、自社リソースを活用してSTEM教育とIT人財育成の機会を提供しています。若者の自立支援を行う認定 NPO 法人ブリッジフォースマイル (Bridge for Smile:B4S)と協働し、児童養護施設で暮らす中高生向けにプログラミング教室を開催し、また、大学・専門学校でIT系分野を学ぶ施設出身の学生に対しては、職場体験・奨学金の提供を行っています。

 

c.地域住民の交流促進と見守り支援〈ファミリーマート株式会社〉

コンビニエンスストアチェーンであるファミリーマートでは、「地域の交流の希薄化」、及びそれに起因する「地域の見守り力の低下」を対象課題とし、地域密着型という事業特性を生かして子どもを中心とした地域住民の交流促進の場を提供しています。具体的には、近隣の子どもと保護者を対象に「ファミマこども食堂」と題して、イートインスペースでの低価格(未就学児無料、小学生100円、保護者400円)な食事の提供と、体験イベント(レジ打ちや、店内探検、商品補充等子ども向けイベント)を組み合わせた地域内の交流促進プログラムを展開しています。地域の繋がりを強化することで、子どもに対する見守りの目を増やし、支援体制が強化されることが期待されています。

 

d.幅広い層を対象とした児童福祉関連支援〈株式会社 資生堂〉

資生堂では、1972年に資生堂社会福祉事業財団を設立し、他社に先駆けて児童福祉分野の調査・報告/人財育成、施設養護下の子どもの自立・進学支援、親支援など幅広い取り組みを展開しています。中でも、「施設養護下の子どもにおける自立に関する知識習得機会の不足」、「児童福祉現場職員の抱える働きづらさと早期の離職」を対象課題とした取り組みを積極的に実施しています。社会的養護下の高校生向けには、「スターターズセミナー」と題した自立支援講座を開催し、お金の使い方、危機管理、スキンケアやメイクアップ等の身だしなみ、社会人としてのマナー等を学ぶ機会を設けており、一部の講座は、児童福祉関連のNPOや民間企業と協働実施しています。また、児童福祉施設で働く職員向けに欧米での海外福祉研修を提供しています。海外での先進事例を学んだ研修成果は、報告書にとまとめられ、全国の児童福祉施設や関係団体にも寄贈されています。職員自身が福祉の現場に学びを持ち帰り、刺激を共有することで、福祉サービスの質、及び現場のモチベーション向上が期待されます。

 

今回は限られた数の民間企業による取り組みを中心に現状把握を試みたため、行政・NPO等含め、すべての活動を網羅したものではありません。しかし、子どもの支援に関する構造をプロセスとアクション別に分けて可視化することは、現状どの施策領域にどのようなリソースが集中・不足しているかの把握に役立ちます。その上で、リソースの適切な分配を行ったり、類似の知見を持った全く新しい協力者の参画を促したりすることで、現場での新しいイノベーションが生まれるほか、社会全体で課題解決に向けた新しい一歩を踏み出すことが期待できます。

 

おわりに

これまで、特定非営利活動法人エティック(ETIC.)による「子どもの未来のための協働促進助成事業」の開始に先駆け、「子どもの不条理」をキーワードに2つのテーマに沿って調査を行ってきました。一つは、新型コロナウイルス感染症の発生に伴う海外での子ども支援施策の調査、もう一つは日本国内における「子どもの不条理」を取り巻く現状と因果関係の調査・分析を実施し、全3回にわたる連載にてその結果をご紹介してきました。

 

「子どもの不条理」の背景には、当事者とその家族に留まらない社会との複雑な関りが影響しており、真に持続的かつ包括的な解決策の導出には、多様な関係者の対話・相互理解・連携がより深化したエコシステムを構築する必要があります。そのためには、課題を構造化、関与者を網羅的に洗い出して共通理解を形成すること、ビジネスセクターをも巻き込みリソース分配の最適化を行うこと、そして、課題の啓蒙発信に留まらず、ルール形成による実行力の強化を行っていくことが求められます。

 

今回の調査結果は、「子どもの未来のための協働促進助成事業」の今後の展開におけるインプットとして、「子どもの不条理」を取り巻く諸問題の重なりや因果関係、関係アクターなどについて一定の示唆を提供しています。一方で、本調査の中には現れていない事例や現状、関係者の存在があることも事実です。本社会課題の領域で長年取り組まれてきた実践者のみなさまより、ご意見をお寄せいただき、この調査を進化させていきたく考えています。そして本調査が「子どもの不条理」に関する社会背景を体系的に見つめ直し、新しいヒントを得るきっかけとなれば幸いです。

 

デロイト トーマツ コンサルティング Social Impact Office による連載記事

【第1部】

>> 新型コロナ流行で深刻化する子どもの貧困、虐待、ストレス、教育機会の喪失…世界の支援策を緊急調査

【第2部】

>> 子どもにまつわる不条理な課題を改善するには?―海外における子ども支援事例から考える

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デロイト トーマツ コンサルティング Social Impact Office

国際的なビジネスプロフェッショナル・ネットワークであるデロイトの一員として日本におけるコンサルティングサービスを展開するデロイト トーマツ コンサルティングにおいて社会課題解決を推進するチーム。多様なバックグラウンドをもつメンバーがビジネスコンサルティングの専門知を生かし、「経済合理性のリ・デザイン」を活動コンセプトとしてNPO/NGOや企業・行政との連携を通じた課題解決活動に注力。

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