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「NPOの事業拡大において大切なこと」SVPI理事長・ランス・フォースさん、SVP東京代表理事・岡本拓也さん対談録

2014.05.01 

先日、ソーシャルベンチャー・パートナーズ・インターナショナル(Social Venture Partners International, SVPI)の理事長を務めるランス・フォースさんが来日されました。

今回は、早朝のカヤバ珈琲(東京都・谷中)で行われた「社会起業家支援のプロフェッショナル」として知られるランスさんと、ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(以下SVP東京)代表理事・岡本拓也さんとの対談の様子を紹介します。

 

・「ソーシャルセクターの3つのメガトレンド」ランス・フォース氏基調講演

・SVP東京代表理事・岡本拓也さんインタビュー

 

ランス・フォースさんについて:大学で分子生物学の博士号を取得しつつ、在学中に医療技術のバイオベンチャーを創業。CEOとして事業を拡大した後、同社を売却。その後は様々なNPOの現場に入り込みつつ、社会起業家の育成を開始。彼が理事を務めたNew Teacher Center(経験の浅い先生のためのトレーニングプログラムを提供する米国のNPO)では、事業規模を100倍以上に拡大することに成功。その後、SVPIにも参画し、2013年からは理事長を務めています。

ソーシャル・ベンチャー・パートナーズとは?:SVPは、1997年に米国で設立された、NPOや社会起業家を支援するプロフェッショナルのプラットフォーム。「パートナー」と呼ばれる参加メンバーは、本業以外の時間と自己資金を活用し、社会起業家を資金とスキルの両面から支援します。SVPIは、SVPのグローバル・ネットワーク組織であり、SVP東京は、2003年に発足したSVPIの東京ローカル・プラットフォーム。本稿に登場する岡本拓也さんは、2011年よりSVPの代表理事を勤めており、100名を超えるパートナーと、社会起業家支援の支援を実施しています。 対談するランスさんと岡本さん

SVPI理事長、ランス・フォースさんと、SVP東京代表理事、岡本拓也さん

社会貢献に必要なのは、お金か、それともエネルギーか

 

岡本:なぜランスさんは、シリコンバレーのベンチャーから社会起業家支援に活動のフィールドを移したのですか?

 

ランス:私はずっと「いずれ社会貢献に関わりたい」と思っていました。だから、学生時代に創業したビジネスを売却した後に自問したのです。「もっとベンチャーをつくってから社会貢献に取り組むか、それとも今やるか」と。

ビル・ゲイツのようにもっと多くのお金を稼いで、財団を設立するほうがインパクトが大きいのか、それとも、エネルギーに満ちている今、できることから始めるべきなのかを考えたのです。

 

岡本:結果、「エネルギーのほうが大切」ということになったのですか?

 

ランス:いえ、明確な答えは出ませんでした。それ以上自問したところで、答えにはたどり着かないだろうと思い、私は休みをとってNPOの世界に飛び込みました。自分の経験が、本当にNPOの役に立つのかどうかを試してみたかったのです。2つの教育系NPOに理事として関わり、事業拡大を支援した結果、ベンチャー経営についての専門性が、NPOの経営支援にも活きるということを、体感することができました。

 

岡本:その経験がもとになって、自分の時間とスキルをNPOに投資するようになったのですね。

 

ランス:そうです。まだまだ試行錯誤しているところなので、本当にお金とエネルギーのどちらが大切なのか、結論は出ていません。

ベンチャーを成功させるより、NPOを通して社会にインパクトを与えるほうが、はるかに難易度が高いと思います。ビル・ゲイツも「お金は、稼ぐよりもうまく使うほうが難しい」と言ったそうですが、そのとおりですね。NPOの支援というのは、それほど難しく、やりがいのある仕事だと思います。 対談するランスさんと岡本さん

和やか、かつ切れ味鋭く質問に答えるランスさん

「SVPとは何か」を明確にし、パートナーが活動する環境をつくる

 

岡本:次に、SVP東京の代表理事として、ぜひ聞いてみたいことがあります。ランスさんが支援に関わったNPOは、ものすごい勢いで拡大しています。支援されたNew Teacher Centerでは、事業規模を100倍に拡大していますし、SVPについても、北米と東京が中心だったネットワークが、インドや中国、その他各国へと急速に拡大しています。一体、どうやってそれを実現しているのでしょうか。

 

ランス:一般論で語ることは難しいので、SVPについてお話したいと思います。SVPのスケールアウト(*1)という点では、「SVPとは何か」をシンプルに語れるようになることと、各国のパートナーが活動しやすい環境をつくることが大切でした。

*1:スケールアップとスケールアウト:単一組織が拡大していくことをスケールアップ、あるモデルをベースとした複数の組織が自立的に拡大していくことをスケールアウトと表現している。元はIT用語。

 

岡本:それぞれ、お話いただけますか。

 

ランス:私たちは、「SVPとは何か」ということを2年間かけて議論しました。今、パートナー間で共有していることは、「SVPとは、人々の可能性を解き放つ存在である(SVP unleashes human potential)」という言葉です。

 

岡本:SVPのミッションも、「NPOの発展に貢献する」のみだった役割に、「パートナーの成長に貢献する」ことが加わり、その後、これらふたつを通して「ソーシャルセクターの発展に貢献する」へと進化していったと聞いています。

 

ランス:「我々は何者なのか」という問いに応えることは大切です。そうすることで、人々が関わりやすくなります。私はSVPに参画する人々に対して、「SVPはあなたの人生の旅(Life-time Journey)を支える仕組み」であると伝えています。成功して引退するのを待つことなく、いつでも社会貢献に参加できるし、いつでも離れて、また戻ってくることができますよと。

 

岡本:続いて、各地域のパートナーのための環境づくりについてお聞きしたいと思います。

 

ランス:SVPは世界中の都市に分散しています。ですので、全てのSVPパートナーがトレーニングを受けるために毎回シアトルに来ることは不可能です。しかし、パートナーがNPOの支援に携わる上で必要なマインドセット(意識・姿勢)やツール(スキルや知識)を獲得することは、成果を出す上でとても重要です。

ビジネスにおいてどれだけ実績のあるプロフェッショナルでも、NPOで活躍するための素養を全て備えているとは限りません。そこで、パートナーが世界のどこからでもオンラインで学べる仕組みを構築しました。基本的なファシリテーションの手法から、NPOのボードメンバーとして活動する上での心構えなど、実際の支援に先立って必要な様々なコースを提供しています。

NPOのガバナンスにおいて重要なのは、理事の活用

 

岡本:次に、組織運営についてうかがいたいと思います。急速な勢いで事業を拡大しておられますが、どのような運営体制でそれを支えているのでしょう。

 

ランス:そこについては、特に重要な点をひとつだけお伝えしたいと思います。それは、「理事をうまく活用する」ということです。ただ顔を出すだけの理事や職員兼務理事ばかりで形ばかりの理事会を実施していても、組織は成長しません。

 

岡本:SVP東京でも、パートナーが理事になるケースが増えてきています。理事活用によるメリットについて、どうお考えですか。

 

ランス:大切なのは、外部の専門家による視点を導入するということです。常に事業に関わっていないからこそ、中長期的な視点や常識を超えた提案ができることがありますし、往々にして立ち上げ期のNPOに備わっていない経営に関する専門性を理事会によって補完することができます。アショカ・フェロー(*2)をみると、理事会の重要性がよくわかるでしょう。世界中に3,000以上のアショカ・フェローがいますが、成果を出している上位1%は、実にうまく理事会を活用しています。

※2:アショカは、世界的な社会起業家支援機関。アショカ・フェローは、アショカによって認定、支援されている社会起業家のこと。 対談するランスさんと岡本さん

ソーシャルベンチャー支援のプロフェッショナルによる対談風景

ビジョンのもとにステークホルダーを結集し、社会課題に取り組む

 

岡本:組織内のチームについての質問から、組織を超えたチームについての質問に移っていきたいと思います。ランスさんは、アメリカ各地で「コレクティブ・インパクト(集合的なインパクト)」(*3)の仕組みづくりに取り組んでおられます。組織を超えて課題解決の生態系をつくるというアプローチを、どのように実践されているのでしょうか。

*3:コレクティブ・インパクトとは、NPOが単体で活動するのではなく、同じ課題に取り組む他のNPO、行政、企業などと連携してより大きな成果を目指す方法論のこと。

 

ランス:本当に世の中にインパクトを出したいと思うのであれば、「自分たちだけで成果を出す」という思考を脱することが大切ですね。単体での取り組みは、往々にして対処療法的になってしまいます。根本的に課題を解決していくには、課題を取り巻くステークホルダー(関係者)を巻き込み、社会の仕組みを創っていく必要があるでしょう。

 

岡本:実際の現場では、どのように人々を巻き込んでいくのですか。企業と違って、資本の力学がはたらかないため、NPO同士の連携は難しいという声もありますが。 ランス:まずは、ビジョンを共有するということが重要です。「私たちの目指すところは、どこにあるのか」ということを議論し、共有するのです。

これが曖昧であると好き嫌いの議論になってしまいますが、現実の数字にもとづいて状況を把握し、目標を設定することができれば、参加者それぞれのアプローチが異なっても、同じところを目指すことができます。 そして、目的地を設定し、共有できたならば、そこに至る真っ白なキャンバスを、それぞれの組織がどう埋めていくか、そのためには何が足りないのか、ということを建設的に議論し、実践していくだけです。

 

岡本:今後はSVP東京のパートナーにも、そういった役割を期待されることが増えていくと思います。

最後に、日本の社会起業家やパートナーと議論をした感想をうかがってもよいでしょうか。

 

ランス:SVP東京は、グローバルのSVPネットワークで初めてとなる金融手法を用いた革新的なチームですし、企業との豊富なネットワークも持っています。パートナーの成長とNPOへの貢献だけでなく、ソーシャルセクターを耕す役割を担っていると思います。今回の訪問で出会った日本の社会起業家も、革新的な予防医療の仕組みを提供していたり、新しい金融プラットフォームをつくるなど、とても興味深いものばかりでした。

今後は、課題を起点にコレクティブなアプローチが増えていくと思います。その中で、SVP東京のパートナーが重要な役割を果たしていくことに期待しています。

 

岡本:お話、ありがとうございました。

 

協力:SVP東京、モリジュンヤさん(写真)、カヤバ珈琲(会場)

 

投資・協働先となる、社会課題解決に取り組むソーシャルベンチャーを募集中 SVP東京

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Social Venture Partners International 理事長/ランス・フォース

パートナーの出資とビジネススキルによって社会起業家の成長を支援する、米国SVP Interntionalの理事長を務めるランスは、有能な社会起業家たちのメンターとなって、彼等のビジネスがスケールアップし、より大きなインパクトを生むためのサービス拡充に情熱を注いでいる。年間に数多くの組織に対し、資金・人材・事業モデルのあらゆる面からアドバイスをし、社会的インパクトをもたらす事業の成功を支えている。UCバークレー卒、カリフォルニア工科大学博士号取得(分子生物学)。在学中に、がん早期発見につながる医療技術のバイオベンチャー Third Wave Technologiesを創業、CEOとhして経営手腕をふるう。同社売却後は、社会起業家の育成に注力。数多くの非営利組織やスタートアップのリーダーシップ育成や、フィランソロピーの発展に尽力している。

SVP東京代表理事、NPOカタリバ常務理事・事務局長/岡本拓也

1977年大阪府生まれ。大学時代に1年間休学し、短期留学と海外約30ヶ国の旅を経験し、バングラデシュにてマイクロファイナンスと出会う。大学卒業後に公認会計士に合格し、大手監査法人にて監査やIPO支援等を担当。その後、同じPwCグループのコンサルティング会社・プライスウォーターハウスクーパース株式会社にて企業再生業務に従事。同社に在職中に出会ったソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(以下、SVP東京)を通じてソーシャルビジネスの世界に魅了され、震災直前の2011年3月に独立。同年4月よりSVP東京 代表理事(2011年6月〜)に就任し、5月よりNPOカタリバの理事 兼 事務局長に就任(2013年6月より常務理事)。現在に至る。その他、KIT虎ノ門大学院 客員教授、内閣府 共助社会づくり人材ワーキンググループ専門委員、東日本大震災復興支援財団「まなべる基金」選定委員なども務め、現場と支援の両面から、ソーシャルセクターの成長と成熟に尽力中。

この記事を書いたユーザー
石川 孔明

石川 孔明

1983年生まれ、愛知県吉良町(現西尾市)出身。アラスカにて卓球と狩猟に励み、その後、学業の傍ら海苔網や漁網を販売する事業を立ち上げる。その後、テキサスやスペインでの丁稚奉公期間を経て、2010年よりリサーチ担当としてNPO法人ETIC.に参画。企業や社会起業家が取り組む課題の調査やインパクト評価、政策提言支援等に取り組む。2011年、世界経済フォーラムによりグローバル・シェーパーズ・コミュニティに選出。出汁とオリーブ(樹木)とお茶と自然を愛する。

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