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副業・兼業人材の活用、ワーケーション推進… 能登の豊かな暮らしを武器に、石川県七尾市が始めていること

2020.10.29 

コロナ禍で生まれた「脱都市」志向は、逆に人を呼び込みたい地方にとってはチャンスにもなり得ます。本シリーズでは、そんな状況下、地域おこしの最前線で働く地方自治体職員、および行政と協働する民間団体の方々の「あたまのなか」に迫ります。

 

第8弾はローカルベンチャー協議会の幹事自治体のひとつ、石川県七尾市。能登半島の中ほどに位置し、豊富な海山の幸に恵まれた同市は、起業ベンチャーの育成のみならず、「Reベンチャー」と題して事業承継問題にも正面から取り組んでいます。産業部商工観光課の観音和繁さん、水谷尚由さん、そして七尾街づくりセンター株式会社でローカルベンチャー戦略アテンダントを務める友田景さんにお話を伺いました。(文中敬称略)

 

観音さん

観音和繁(かんのん・かずしげ)/七尾市産業部商工観光課 商工グループリーダー兼課長補佐

大学卒業後、民間企業を経て、1999年に入庁。住民福祉課、学校教育課、秘書人事課、防災交通課、地域づくり支援課を経て2020年度から現職。ローカルベンチャー推進事業、移住促進を含め商工関連の多岐にわたる事業をとりまとめている。

水谷さん

水谷尚由(みずたに・なおよし)/七尾市役所産業部商工観光課商工グループ 主査

大学卒業後、民間企業を経て、2010年入庁。産業部農林水産課、総務部企画財政課を経て、2019年度より商工観光課へ。市の移住促進に関する業務を中心に、今年4月からは新型コロナ対策の事業や起業・創業支援業務を担当している。

友田さまトリミング後

友田景(ともだ・けい)/七尾街づくりセンター株式会社 ローカルベンチャー戦略アテンダント

大学卒業後、テニスインストラクターを経て、大阪府柏原市議会議員選挙にてトップ当選。2007年より複数のコンサルティング会社にて、関西の中堅中小企業の再生や事業承継、グローバル企業の経営支援などに取り組む。2017年 株式会社ビズデザイン大阪を設立、同年10月より七尾街づくりセンターに着任。大阪と七尾の2拠点居住。七尾市のローカルベンチャー事業の責任者として、事業承継、地域事業者の新規事業開発などに力を入れる。

「カルテット」と「オーケストラ」。起業も事業承継も関係機関が全力で支援

 

――七尾市は、新規創業だけでなく事業承継の支援にも力を入れておられますね。

 

観音:はい。2014年から「ななお創業応援カルテッド」、2018年から「七尾事業承継オーケストラ」、という仕組みを作ってそれぞれ支援してきました。また移住促進は2017年から「移住コンシェルジュ」という事業を開始しています。このうちオーケストラとコンシェルジュについては、七尾街づくりセンターに実務を委託している形です。

 

オーケストラロゴ

 

七尾が事業承継に力を入れる理由は、毎年市内の50社以上が「後継者がいない」という理由で廃業している現実があるからです。これでは地域経済が地盤沈下してしまうという危機感から、地域の経済団体や金融機関、士業など関係機関が集まって事業承継オーケストラが組織されました。個別案件ごとにチームを作って、外部からの後継者採用も含め円滑な事業承継ができるよう支援しています。

 

友田:6年前に始まった創業応援カルテットの成果で、年に平均十数件ずつ開業しているのですが、廃業数がそれを上回っているので事業者数全体はどんどん減っていく。それで、3年前に今の私のポストが公募されたとき、事業承継にもテコ入れが必要ではないかと提案しました。そういう経緯で、七尾街づくりセンターではどちらかというと既存事業者支援をメインに力を入れています。

 

オーケストラの成果としては、これまでに後継者や経営幹部の募集情報を20社ほど公開し、2社の幹部採用が実現しました。実際に後継者にバトンタッチした事例はまだこれからです。コロナ禍で環境が変わり中断している案件もあって、足下では残念な状況ですが。

 

観音:事業承継は、そもそも短期間で成果を出すのが難しい仕事です。先手を打つといっても、まだ後継など考えていない事業主にいきなり「事業承継しませんか」と持ちかけても、まだ先だからと言われてしまう。もちろん一定の実績は追求しつつ、息の長い事業として継続していく必要があると思っています。

 

友田:これまでは「後を継ぐ子どもがいないから廃業する」というのが一般的でした。つまり事業承継=相続の問題だったのですが、親族でなく外部の第三者に継いでもらう方法もあるわけです。最近は少しずつこの考え方が浸透し、個人経営者の意識も徐々に変わってきている感覚はありますね。

 

――起業支援や移住促進の実績はいかがですか?

 

水谷:「ななお創業応援カルテッド」は、地元の商工会議所と信用金庫、日本政策金融公庫、七尾市の4機関が集まり、ワンストップで創業支援できるようにした仕組みで、セミナーや相談会のほか創業塾も定期的に開講しています。成果としては、2014年1月〜2019年9月までに92件が創業を果たしました。そのうち、県外からの移住を伴う創業は16件。UターンとIターンが半々という状況です。

 

移住者数全体で言うと、2013年~2019年に市の移住定住策を利用して移住した人の数は690人でした。移住支援補助金と併せて2017年10月に「移住コンシェルジュ」を配置以降は、県外からの移住者の伸びが顕著です。年代は20~40代前半と比較的若く、これから新しいことをやりたい層の移住が多いのも特徴と言えます。

 

ちなみに、県外からの移住は関西からが多いと思われがちですが、実は関東圏の方が多いんですよ。大阪の人にとって、北陸は「寒い雪国」というマイナスイメージが強いようですね。実際、それほど雪は降らないのですが。

 

友田:私も大阪の人間ですが、関西には「移住するなら瀬戸内海などあったかいところがいい」という人が多いかもしれません(笑)。

 

能登半島移住計画キャプチャ (1)

 

副業兼業人材の活用、ワーケーション推進。豊かな能登の暮らしを武器に次の一手を

 

――コロナ後、国の施策以外に市としてどのような事業者支援をされてきましたか?

 

観音:七尾の主要産業のひとつは和倉温泉を中心とした観光です。当然、コロナの影響は甚大でした。Go Toトラベルが始まって持ち直しているものの、和倉温泉ではいまだに一部休館している宿泊施設もあります。イベントも軒並み中止、一時は学校も休業で、まったく経済が回らなくなりました。

 

そこでまず、「コロナに負けるな七尾応援金」という、観光関連事業者向けの一時給付金を支給しました。さらに中長期的な支援として、半年間以上使えるプレミアム商品券事業を26億円という大規模で実施しています。

 

友田:民間の私たちとしては、まず4月初めに「がんばろう七尾!」というサイトを立ち上げ、「TakeOut七尾」、「SendHome七尾」と銘打って飲食店情報やお取り寄せ情報の配信を開始しました。

 

センドホームキャプチャ

 

その後、クラウドファンディング形式で「がんばろう七尾!飲食店・宿泊施設応援未来チケット」(市内の46店舗で2021年1月末まで使える前売り券)を発売。目標額770万円に対し1千万円を超える成果となりましたが、支援者の3分の2くらいは地元の皆さんだったんです。地元を応援したいという市民の気持ちが表れる結果でした。

 

――コロナ後、地方移住に関心が高まっていますが手ごたえは感じますか?

 

友田:問合せは増えています。私たちが打ち出している「事業承継」の可能性を最初から目指している方もいますし、起業を考えていた人が「なるほど事業承継という道もあるのか」と気づく場合もある。もちろん中には、以前に能登を旅行して気に入ったから、というユルい移住相談もあります。いずれにしても、暮らし方・働き方を考え直している人は確実に増えていると実感しますね。移動自粛で、せっかくオンラインで面談しても実際に七尾に来てもらいにくい状態でしたが、今後徐々に動きは再開すると思います。

 

ただ、起業や事業承継ではなく七尾で就職を希望する方の場合、雇用吸収力のあった観光業の体力がなくなっているのが厳しい。事業者は、新しいことを始めるために人は欲しいが人件費が出せない、という状態です。

 

そこで私たちがトライしていることの一つが、兼業副業人材のマッチングです。東京にいながら少しずつ七尾の事業者の仕事に関わってもらい、その事業がうまく軌道に乗って人件費が確保できるようになったら転職してもらうという方法。すでにそういう形でスタートしているケースもあります。

 

――まだ厳しい状況が続く中、次の一手をどう考えていますか?

 

水谷:ひとつはワーケーション誘致ですね。今年9月、市、商工会議所、七尾街づくりセンターで「能登七尾サスティナブルツーリズム推進協議会」を立ち上げ、体験型観光プログラムづくりに加えてワーケーションの受け入れ強化を目指しているところです。いきなり都市部の企業に拠点を移してもらうのは難しくても、たとえばオンピックの期間中、東京を離れて自然豊かな七尾で休暇をとりながら仕事もできる環境を体験してほしいと思います。

 

ホテル海望でのワーケーション

△和倉温泉のホテル海望でのワーケーションの様子

 

観音:ワーケーション推進が移住の増加につながり、それが結果として事業承継にもつながるよう力を入れたいですね。七尾単体ではなく近隣自治体を巻き込み、能登地方全体で効果的に情報発信していきたいと考えています。

 

友田: 観光地の宿泊はどうしても週末に需要過多になりますが、積極的に平日需要を高める意味でも、ワーケーション推進は効果があるでしょう。過去の大災害のときもそうでしたが、今回のコロナ禍で以前からあった課題が浮き彫りにされ、いよいよやらなければマズいと、人々の覚悟が決まった面があります。和倉温泉で伝統的に多かった1泊2日の団体旅行需要などは、もうおそらく戻ってきません。少人数・個人向けへの業態変更が求められる中で、七尾でしかできない体験メニューを充実させ、持続可能な観光をつくっていこうというのが、サスティナブルツーリズム推進協議会の目的です。

 

――最後に、改めて七尾の魅力・可能性をお聞かせください。

 

観音:能登は自然災害が少ないことで知られています。また今回のコロナ禍でも、石川県内で比較的感染確認が多かった南部の加賀地方と比べ、能登地方ではほとんど感染者が出ていません。このことは、起業にとっても個人にとっても、拠点を置く場所を考える際のプラス要素になり得ると思います。

 

友田:能登半島の暮らしは本当に豊かですよ。観光だけでなく農漁業も盛ん。海のイメージが強いかもしれませんが山の幸も豊富で、冬になるとマツタケより高価なシイタケがとれたりしますし、コメも名だたる産地と並ぶ品質です。なんでもありすぎて逆にポテンシャルを引き出し切れていない面もあるので、あとは私たちの努力次第だと思っています。

 

――ありがとうございました。

 


 

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DRIVEメディア編集部です。未来の兆しを示すアイデア・トレンドや起業家のインタビューなど、これからを創る人たちを後押しする記事を発信しています。 運営:NPO法人ETIC. ( https://www.etic.or.jp/ )

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