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災害からの復興で広がる格差。レジリエンスの鍵は、分断のない社会にあり―危機に立ち向かった日米の起業家が語る

2021.05.18 

10年の節目を迎えた2021年3月、3.11以降に14億円以上の寄付を米国および世界から集め、東北の復興支援に貢献したジャパン・ソサエティー(NY)と、NPO法人ETIC.(エティック)の共催で、「東日本大震災10年日米シンポジウム:レジリエンスと復興」を開催しました。

 

新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界中が長期に渡って苦しい状況と向き合い続けています。今回のシンポジウムには、そんな今だからこそ見つめ直したい、「危機的状況から立ち直る上で大切なこと」について考えるヒントがたくさん詰まっていました。

本記事では、パネルディスカッション「レジリエントな社会に向けて~東北、日米の視点~」の模様をご紹介します。

 

>> 前半の基調講演の記事はこちら

レジリエンスのある社会をめざして。3.11の教訓を振り返る~カタリバ今村さん&マインドフルネス研究者・ハンターさん対談~

 

日米シンポ後編プロフ画像

【パネルディスカッション】

モデレーター:ダニエル・アルドリッチ氏(ノースイースタン大学政治学・公共政策学教授、復興力専門家※写真左)

アメリカ側登壇者:アンドレア・チェン氏(プロペラ代表※写真中央左)

日本側登壇者:高橋 大就 氏(一般社団法人東の食の会 事務局代表※写真中央右)、岩崎 昭子氏(岩手県釜石市 宝来館女将※写真右)

 

 

回復の過程でよりよい社会を目指す

 

アルドリッチさん(以下敬称略):まずはみなさんのレジリエンスに対する考え方を教えていただけますか?

 

高橋さん(以下敬称略):私は主に東北の食産業の復興に取り組んできました。東北の震災が他と大きく違うのは、やはり原発事故だと思います。それによって、食の安全安心ということに対する信頼が失われてしまった。

信頼を回復する上で大事なことは、科学的に安全だと証明することでした。ただ、安全は科学で担保できても、それだけでは失われた信頼は取り戻せないんです。

それをどうやって乗り越えてきたかというと、結局は人でした。生産者と消費者が直接触れ合うことで初めて信頼を勝ち取り、今に至っていると感じます。彼らは犠牲者・被災者ではなく、信頼という失われたものを勝ち得たヒーローなんです。

 

岩崎さん(以下敬称略):私は岩手県の三陸海岸にある釜石市で宝来館という旅館を経営しています。震災のときは旅館にも津波が押し寄せ、私自身も津波にのまれるという経験をしました。残った建物と与えられた命に意味があるのかなと思い、同じ場所で9ヶ月後に再開しました。

コロナ禍においても東日本大震災で体験したような、地域全体が沈むような気持ちを味わってはおりますが、私たちの強みはあの10年前を経験しているということです。今はみんなで耐えて、互いに思いやる時期なんだという気持ちで過ごすことができています。必ず明日はやってくるという経験になったと思っております。

また震災以降は、2019年のラグビーワールドカップ誘致を始めとして、世界のみなさんとふるさとづくりをしていく機会も増えました。これもレジリエンスと言えるかもしれません。

 

後半②

宝来館は3週間ほど避難所として使われた

 

チェンさん(以下敬称略):2005年8月にアメリカ南部を襲ったハリケーン・カトリーナからの復興をめざして、ニューオーリンズで社会起業家の育成に取り組んでいます。ニューオーリンズでは、社会的に弱い立場にある人々が繰り返し被災するという課題が浮かび上がっています。特に有色人種がより深刻な被害を受けているんです。同じ人達が何度も被害に遭うというのはフェアではありません。回復に向けた公平なシステムが必要とされています。

何があれば幸福なのか?震災後の満足度調査から見えたもの

 

アルドリッチ:ニューオーリンズでも東北でも被災から10年以上が経ち、インフラなどハード面の再建はほぼ完了していると思いますが、ソフト面の回復についてはどのように思われますか?

 

チェン:データを見ると、成功した人はより成功し、黒人やラテン系の人々はより悪化しています。格差はむしろ拡大しているんです。学校の建設等、復興のための予算は何十億ドルもあったはずなのですが、地元企業で請け負えなかったことも一因です。地域内の経済が潤うような形で資金が使われなければ、効果は限定的なものになってしまいます。

 

岩崎:東北でも、一住民としては何にいくら使われたのかよくわかっていないという感覚があります。インフラ整備に多額の復興予算が使われてきたことは実感しているんですが、人任せで何かができるのを待っている自分達もいました。もっとこんなまちをつくりたいと提案したり、投入された復興予算の検証を求めたりといった面が足りなかったと反省しています。

ソーシャルビジネス等の横文字には弱いんですが、こういうつながりからみなさんの考え方を学んで、行動していかないといけませんね。

 

高橋:1つ興味深いデータを紹介させてください。震災後に、物質的な満足度と精神的な満足度の全国調査が行われた際、東北の被災3県は物質的な満足度が全国平均を大幅に下回った一方で、精神的な満足度は圧倒的に高かったんです。これは、人が幸せを感じる上では何が大事なのかを端的に表しているように思います。

東北には震災後いろんな人が入りました。様々なつながりの中で1つの目的に向かって活動するということを通じて、幸福度が上がっているんです。私も住まいは東京なんですが、東北に行ったときのほうが自分の幸福度が上がってるなというのを体感としても感じています。

もちろんまだ苦しんでいる方も大勢いますけれども、ソフト面の回復を示す示唆的なデータなのではないでしょうか。

 

Tohoku-Reneassaince_データ_物質的満足と精神的満足

 

レジリエンスのある社会は、一人勝ちではつくれない

 

アルドリッチ:日米両地域において、災害は繰り返し襲ってきていますが、東北における3.11、ニューオーリンズにおけるハリケーン・カトリーナは、これまでの災害と何が違ったのでしょうか?

 

高橋:先ほども挙げた通り、原発事故があったことですね。これによって幾何級数的に問題が複雑化しました。一方で課題が大きければ大きいほど、そこから立ち上がろうとする力も大きくなるというのも感じています。まさにレジリエンスですね。

東北の生産者さん達は、口をそろえて「一人勝ちじゃいけない」って言うんです。自分だけじゃなくて、周りの人も地域も一緒によくなっていこうということをごく自然に考えながらビジネスをやっている。

そうじゃなければ、ビジネスとしては成功しても社会の分断が起こって、全体としてはレジリエントじゃないと思うんです。自分だけ勝っても駄目で、みんなと一緒に復興していくんだということが社会全体のレジリエンスにつながっているんじゃないでしょうか。

 

岩崎:私達の地域は津波でゼロになり、そこからやり直すという経験を何度となく繰り返してきていますが、東日本大震災は千年単位の大きな津波でした。国を作り直すくらいの覚悟をもたなければいけないものでしたが、世界中とつながることで前を向くことができた。それもまた大きな違いだったのかもしれません。

 

チェン:ハリケーン被害や洪水、石油流出等は過去にもあったのですが、カトリーナはやはり破壊のスケールが大きかったですね。ただ、最も影響を受けたのはリソースのない人々だったという点は共通しています。リソースのない人達が、毎回毎回犠牲になり、それが繰り返されると地域社会からレジリエンスがなくなります。一方で、災害があったことで儲けた人もいるんです。

災害の歴史を振り返ると、常に同じことを繰り返しています。リソースのある人達はもっとリソースを得る。元々リソースをもたない人達はさらに立場が悪くなる。このような事態をこれまで克服できずにいます。レジリエンスを考える上では、回復のための復興資金を公平に分配するということが重要です。

日米に見る、クライシス後の価値観の変化とは?

 

アルドリッチ:カトリーナや3.11のような大きな災害は、社会全体の考え方に何か変化を与えたと思いますか?

 

チェン:変わったと願いたいです。カトリーナで被災した際の政府の対応は十分ではありませんでしたし、被災を機に人種差別問題も浮き彫りになりました。だからこそ、それを変えなければという気付きがあったはずです。ただ残念ながら、災害の記憶は風化してしまいます。

人種差別撤廃を訴えるブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter:BLM)運動は記憶に新しいですが、裏を返せば15年前に起きるべきことが今も続いているとも言えます。「変わらなければ」というモチベーションを多くの人にもち続けてほしいと思います。

 

岩崎:3.11のときは、被災している人達を助けたいと、全国各地のみなさんが自分の意思で動いていたのを感じることができました。日本は自然災害の多い国です。今もコロナ禍で先の見えない世の中ですが、これから起こりうる災害に対しても、みんなで備えていこう、チャレンジしていこうというきっかけになっていれば、そこに3.11の意義があったのではないかと思います。

 

高橋:日本の地方全般に当てはまると思いますが、元々お上意識というか、行政がやってくれるという意識が強かったと思うんです。ただ3.11のときは、役所自体も被災していましたし、行政が全部やってくれるなんてことは到底望めるような状況ではありませんでした。そこから普通の市民が、自分事としてどうやって地域を回復するのかということを本気で考え始めたんだと思います。

「新しい公共」という言われ方もしますが、自分達の手でやっていくんだという意識が、特に被災したエリアでは強くなったと感じています。まだ日本中で起こっているわけじゃないんですけど、特に厳しい状況にある地域からそういった動きが起こり始めているのは、ものすごく大きな変化だと思います。

岩崎さんはまさにそんな市民の代表ですが、あれだけのことが起きたんだから、これからは自分達の手で自分達のまちを、幸福をつくっていくんだという意思があちこちで芽吹いていることに、私はすごく希望を感じています。

 

後半③

 

危機的状況だからこそ顕在化した、差別問題に立ち向かう

 

アルドリッチ:続いてはタフな質問ですが、差別問題についてです。アメリカでは、コロナ禍において人種差別的な動きも起こっています。福島でも放射能による風評被害や差別がありました。こういった災害に端を発する社会的差別には、どのように対応していけばいいのでしょうか?

 

チェン:まずは歴史を理解することが大事だと思います。特にアメリカにおける差別問題は、歴史的・構造的問題があることが多いですね。どのようなルーツをもつグループなのか、どういった政策が取られてきたかといったことを知り、問題の構造を理解することが大切です。

エスニック・グループを超えて支え合うということも必要だと思います。どのグループが攻撃された場合も、連帯感をもって対応していかなければならないと思います。

 

高橋:私にとっても思い入れの強い問題です。やめようと言うのは簡単だけど、本当に乗り越えるのはすごく難しい。特に今は、フィルター・バブルもしくはエコー・チェンバーと言われるような現象が起こっています。情報をどんどんオンラインで得るようになり、自分にとって耳障りのいい情報ばかりを見聞きすることで、偏った考え方になってしまう現象です。これが世界中で起こっている。

私達が具体的にできることとしては、二元論的な発信の仕方に対して一人一人が抑制的になるということだと思います。どんな問題も本当に当事者性をもって深く考えたら、黒か白かだけでは語れないはずなんですよね。情報収集の際も、できる限り広く、意図的に自分の所属してないコミュニティ発の情報に触れようとする姿勢も大切かと思います。

 

もう1つ、そこに大きく関連してくるのは貧困の問題です。チェンさんが冒頭から強調されていることですが、一人勝ちの競争を加速させていくと、個としては強くなっても社会全体のレジリエンスが大きく減じてしまうと思います。こういった分断が人種だけではなく、貧富、宗教と様々な分野に広がってしまう恐れもあるので、経済の仕組みを根本から考え直すということも必要なのではないでしょうか。

評論するのは簡単ですが、大事なのはどうやってそれを実践していくかです。東北は大きな震災、そして原発事故のような非常に難しい問題を経験しました。だからこそ、それを乗り越えて分断のない社会をつくるというロールモデルを、東北からつくれたらいいなと思っています。

自分の価値観、ワクワク感を大切に挑戦を続けよう

 

後半① 候補2

 

アルドリッチ:最後に、若い起業家のみなさんへのアドバイスをお願いします。

 

チェン:社会には様々な課題があります。それを全部ひとりでなんとかしようというのは不可能です。まずは課題に対する理解を深め、他者と協働しながら解決に向けて取り組んでいくことが大切だと思います。自分の価値観を大切に、あきらめないで挑戦し続けてください。

 

高橋:特に若年層では、当事者性というか、オーナーシップを持って社会課題に関心をもつ人が増えてますよね。それはすごくいいことだと思います。チェンさんも言ったように、自分の関心を大事にすること、それにもう1つ付け加えるなら、楽しむことがすごく重要です。

課題によっては難しいかもしれませんが、他の人もワクワクさせる、エキサイトさせられるプロジェクトには、人・モノ・金が集まってきて、より大きな活動になっていくんです。そういうワクワク感は、自己犠牲からは生まれません。自分がそれをやりたいから、解決したいから、自分自身がエキサイトしているから。そういう熱意が人をワクワクさせるんだと思います。

人口減少が進んでいる地域は多いですが、そういうエリアで自己満足なものではなく、社会課題と関連してワクワクを生み出せることが、変化につながっていくのではないでしょうか。

 

岩崎:高橋さんがおっしゃるように、ワクワク感にひかれて若い人達が来てくれることで、地域で生きている私達も背中を押してもらえています。若い人達が何かを見つけようとやって来たときに、よくも悪くも「この地域に必要な人」という立場を与えるのが被災地なんです。ですから勇気をもって、自分の力を信じて挑戦しに来てください。

ニューオーリンズに視察に行ったとき、ここは失敗しても次々挑戦していい場所なんだと教わりました。その姿勢を見本に、釜石でも挑戦し続ける地域をつくりたいと思っています。

 

アルドリッチ:すばらしいパネラーのみなさんをお迎えし、多くの学びがある時間となりました。本日はありがとうございました。

 


 

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この記事を書いたユーザー
茨木いずみ

茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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