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コロナ禍の海外で活動するNPO<後編> 「子どもが売られない世界」を目指し、 ”サバイバー”の「生きる力」を支援―特定非営利活動法人ACE ・ 認定NPO法人かものはしプロジェクト

2021.06.14 

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新型コロナウイルスの影響で、さらなる困難に直面する海外の子ども、家族を支援しようと積極的な動きを見せてきた「特定非営利法人ACE」と「認定NPO法人かものはしプロジェクト」。

 

前編の記事では、両団体の活動内容を紹介した上で、「みてね基金」の助成対象となったコロナ禍での緊急支援について「ACE」の取り組みを中心に伺いました。続く後編では、「かものはしプロジェクト」がこの1年で注力した緊急支援について、現地の活動を束ねる清水友美さんに伺います。

 

※こちらは、「みてね基金」掲載記事からの転載です。NPO法人ETIC.は、みてね基金に運営協力をしています。

「かものはしプロジェクト」インド事業部ディレクターの清水友美さんのお話

 

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私たちは「子どもが売られない世界」を目指して、主にインドで活動している団体です。

 

事業の柱は2つあって、一つは、子どもが売られない社会を実現するエコシステムづくり。非常にショックな現実ですが、幼い子どもたちが売られる先の大半は売春宿です。私たちはこの許しがたい 人身売買の被害にあった女性たちの裁判支援や、彼女たちが正当に被害者補償を受けられる制度を整える活動をしています。

 

もう一つは、リーダーシップ育成です。私たちは、彼女たち自身の“生きる力”を信じ、「被害者」ではなく「サバイバー」と呼んでいます。サバイバー が生きる自信を取り戻し、能力を発揮しながら社会に参加するためのプログラムを行ってきました。

 

現在、私たちが直接関わりながらリーダーシップ育成の支援をしているサバイバーは180人。トラウマを克服し、仲間を得た彼女たちはパワフルに社会に働きかける可能性を秘めています。さまざまな体験を通じ、その芽はぐんぐんと伸び、地域のコミュニティでリーダーシップを発揮したり、人身売買撲滅のための政策提言活動にも参加したりと、まさに彼女たちの“生きる力”が開花している――そんな矢先に、新型コロナウイルスという問題に襲われました。

 

2020年3月下旬、インド政府は全土ロックダウンを決定。サバイバーの女性たちの中には、メイドや病院スタッフなどの職で収入を得て家族を支えている人もいるのですが、「仕事が止まって収入がなくなった。都会に出稼ぎで働いていた家族も戻ってきてしまった。食料品のストックも尽き、お金もない」といった深刻なピンチに。私の携帯に続々と届くSOSのメッセージに胸が押しつぶされそうになりながら、すぐに状況をリサーチし、困窮家庭にスマートフォンを支給しました。

 

なぜスマートフォンだったのかというと「つながり」を絶やさないためです。かつての被害の経験から、彼女たちは外の世界と断絶した状況に恐怖を感じます。スマートフォンの画面を通じて仲間の顔を見て話をしたり、私たちが紹介するカウンセラーのセッションも受けられたりすることで、孤立化の防止につながったと思います。

 

しかしながら試練はさらに続きました。西ベンガル地方に大型サイクロンが直撃し、サバイバーの大半の家屋が全壊・半壊し、電気・水道などのインフラも止まるという事態に。家計がさらに悪化した状況を受け、私たちは「みてね基金」の助成を活用する形で、2020年4月から8カ月間、緊急支援として現金給付を実施しました。

 

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安定的にお金が入ってくるという安心感が、彼女たちをどれだけ勇気づけたか分かりません。インド国内の他のサバイバーグループと比較しても、私たちが現金給付を届けられた236人の女性たちは非常にエネルギッシュにリーダーシップ活動を続けることができました。1年経った今でも、「他の州で困っている人たちを助けたい」という他者への愛情に満ちた行動へとつながっています。

 

「みてね基金」の助成を活用してもう一つ実施できたのは、彼女たちを支えるソーシャルワーカーの支援です。災害時には、被災者を支援する側のケアも重要と言われています。サバイバーを必死に支援してきたソーシャルワーカーに対して、メンタルヘルスケアを提供できたことは、オーク財団やハミングバード財団といった欧米の関係団体からも高く評価されました。誰もが余裕のない時に、支援が行き届きにくいところまで手を差し伸べられたことに誇りを感じています。

 

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日本から海外へ支援する意味や価値

 

新型コロナウイルスという未曾有の危機を前に、より困難な状況にさらされる子どもと家族に寄り添い、支援を続けてきた「ACE」と「かものはしプロジェクト」。それぞれのお話から、「みてね基金」を通じての支援が効果を挙げていることが伝わってきました。

 

一方で、国内に目を向けても、困窮する子どもや家族が存在するのも事実です。今、日本から海外へ支援する意味や価値とは何なのか。対話形式で語っていただきました。

 

岩附さん(「ACE」代表理事):

日本も大変なときに、海外の支援をする意味について、私も聞かれることがあります。私たちの感覚としては、これまで支援を続け、直接つながりを持ってきた国・地域の人たちが困っている時に支援を続けるのは当たり前。これまでの延長として、できることを最大限したいという、ごく自然な行動なんです。国をまたぐか、またがないかはあまり関係なく、同じ世界に生きる人間同士として助け合いたいという感覚です。昨年6月に当団体でクラウドファンディングを実施した際に、参加してくださった方から「自分のことばかり考えていたけれど、世界に目を向けて同じように苦労をしている人たちがいると気づきました」という感想がいくつも届いたんです。私たちの活動を知った方が、普段は考えなかった誰かのことを思いやったり、共感したりする。そんな機会をつくれる活動をしていきたいです。

 

本木さん(「かものはしプロジェクト」代表理事):

岩附さんの意見にとても共感します。僕たちも、自分たちの取り組みを通じて“心のつながり”を生むきっかけを増やしていきたいと願いながら活動しています。コロナ禍で新たに開設したサイト「空と手」を、よかったら見てください。インドと日本の双方から、空に手をかざした写真とメッセージを自由と投稿できるようになっているんです。「空は世界に繋がっている。どこかで誰かがあなたのことを想っていますよ」と伝え合うためのサイトとして作りました。もちろん、日本のNGOとして国際社会にどう貢献していくかという戦略面の議論もありますが、その前のベースとして「国籍や民族などの違いを越えて助け合い、一緒に生きられる社会をつくっていこう」という意思の交換が大切だと感じています。

 

田柳さん(「ACE」インド事業担当):

「なぜ海外へ支援するのか」と聞かれたとき、素直に出てきた答えは「出会ってしまったから」でした。現地の子どもたちに直接出会い、その現状を知ってしまった一人として、行動を起こさざるを得なかったというのが正直な気持ちです。例えば、ずっと学校に通わず働いていた状態から支援により学校に通うようになった女の子。「働いていた時お兄ちゃんは学校に行っていたのに、あなたは行きたいと思わなかったの?」と聞くと、少し寂しそうに笑いながら「私は女の子だから学校に行きたいとも思わなかった」と答えてきて。世界には何かを実現したいと思い描くこともできない“諦める以前”の子どもがたくさんいるのだと、私は教わってきました。「諦めなくていいんだ。私もできるんだ。」と立ち上がった子たちが、コロナの影響でまた諦めてしまうような世界にはしたくないという思いで、この1年は取り組んできました。

 

清水さん(「かものはしプロジェクト」インド事業担当):

「もうダメだ」「私は一人かもしれない」と絶望を感じかけた時に、「大丈夫。私が手を握っているから。」と言ってくれる人がいるだけで、“生きる力”を取り戻せる。そんなシーンを、コロナ禍のインドで何度も見ることができました。インドで困難に負けず、誰かの手を借りながら前に進もうとするサバイバーリーダーたちの姿が、日本で苦しい立場にある人たちを勇気づけることもあるように感じています。

 

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岩附さん:

日本という遠い国から支援が届くという事実が、現地の子どもたちに「自分は誰かに大切にしてもらえる価値のある存在なんだ」と気づかせて、自己肯定感を育てていく。その逆もまた、あるのだと思います。繰り返しになりますが、私は国際協力の活動を日常と離れた特別な社会貢献だとは考えていません。子どもや家族を想う気持ちは、どこの国であっても同じ。「みてね」で家族と写真を共有しながら、子どもたちの成長を見守るときの目線と、海外の子どもたちの安全のために環境を整えながら成長を見守っていく目線は何も変わらない。私たちがやっていることは、「みてね」の延長線上にあるような気がします。

 

本木さん:

たしかにそうですね。国際協力の活動を重ねるほど、「僕たちは同じ人間だな」と感じます。最近、清水さんからシェアしてもらったサバイバーリーダーのメッセージには、ワーキングマザーの葛藤が綴られていたんです。「罪悪感でいっぱいです。母親になったことは嬉しいけれど、思うように仕事ができない現実に……。でも、きっと時間が経てば解決するはずだと、後に続く女性たちには伝えたい」と。これを読んだとき、日本の親と同じ悩みを抱えているんだなと、ぐっと距離が縮まりました。僕も「みてね」のヘビーユーザーなのですが、子育ての喜びや苦しさを誰かと分かち合える時に豊かさを感じられます。遠い空の下にいる誰かを想い、共感を響き合わせて、生きる力を育む。そんな関係を世界に増やしていけるよう、僕たちも視野を広げて頑張っていきたいと思います。

取材して感じたこと

 

“遠い世界”と考えがちな国際協力の現場と、日本の子育て家庭の日常が同一線上でつながっていく。皆さんの対話を通して、世界がぐんと近づくような感覚がありました。インタビュー中、困難な状況から立ち上がろうとする現地の人々のパワーについて語る清水さんや田柳さんの目の輝きが印象的でした。

 


 

団体名

特定非営利活動法人ACE

申請事業名

ガーナ・インドで教育格差や貧困に立ち向かう親子の支援事業

 

………

 

団体名

認定NPO法人かものはしプロジェクト

申請事業名

インド全土封鎖により困窮した人身売買サバイバーへの緊急支援

 

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みてね基金新型コロナ
この記事を書いたユーザー
宮本恵理子

宮本恵理子

1978年福岡県生まれ。筑波大学国際総合学類卒業後、出版社にて雑誌編集を経て、2009年末にフリーランスとして独立。主に「働き方」「生き方」「夫婦・家族関係」のテーマで人物インタビューを中心に執筆。家族のための本づくりプロジェクト「家族製本」主宰。主な著書に『大人はどうして働くの?』『子育て経営学』など。

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