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若者が「助けて」と言える社会に。ゲーム感覚で学べるキャリア教育プログラム「ライフコネクション」とは?

2022.04.21 

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経済的に困窮し、母親を殺害した長男は、生活保護を知らなかった――昨年、こんなニュースが報じられ、注目を集めました。

 

貧困から抜け出せず死を望む母親を、同居する20代の長男が殺害する痛ましい事件。母親は病気を患っており無職で、長男も昨年、勤務先を解雇されていたといいます。長男は、生活保護だけではなく、失業保険についても知らなかったとのこと。

 

SNSでは、「学校教育の中で、困ったときに頼れる支援制度があることをもっと伝えるべきではないか」という声をよく目にしました。まさにここに取り組んでいるのが、今回お伝えする認定NPO法人育て上げネットさんです。

 

人生の中で起こる困難な事態と、そのときに頼れる制度や機関があることを、楽しみながら学べるプログラム。このキャリア教育プログラムの普及に取り組むNPO法人育て上げネットの横山さんにお話を伺いました。

 

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横山 理恵(よこやま りえ)/認定特定非営利活動法人 育て上げネット ポピュレーションアプローチ担当 プロジェクトマネージャー

大学卒業後、旅行関連の小売業にて経理・総務・人事・販売・営業などを15年間経験。その後はキャリアコンサルタントとして、学生・若者・シニア・外国人留学生の就労支援や、中小企業の人材確保支援事業に従事。またファイナンシャル・プランナーとして、主に奨学金などの教育資金領域やライフプラン領域を中心に活動。それらの活動の中で、若者への予防支援の必要性を感じ、認定NPO法人育て上げネットに入職。現在に至る。

ゲーム感覚で、困ったときに頼れる「社会資源」について学ぶ

 

――若者が学校を出たあと、孤立してしまったり、仕事がなかったりする問題をよく耳にします。

 

横山さん(以下、敬称略)  : 私たち認定NPO法人育て上げネットは、「若者と社会をつなぐ」という理念のもと、無業の若者の支援を中心に取り組む団体です。就労へ向けたトレーニングの提供や、保護者の方の相談窓口の運営、行政連携事業などを行っています。

 

今日お話しするキャリア教育プログラムの「ライフコネクション」は、つまずいてしまう前のもう少し早い段階から、必要な情報を若者に届けていくことを目的につくられました。

一言でいうと、若者の将来の孤立化予防のためのプログラムです。人生ゲームのような形でシミュレーションをしながら、想定外のトラブルが起こったときにどんな「社会資源」――公的・私的な機関や制度、サービスを利用できるかについて知ってもらえるようになっています。

 

――ゲーム形式で学べるのは、若者たちにとってもありがたいですね。

 

横山 : そうですね。楽しんで参加してもらえていると思います。

ルールはシンプルで、数字のカードをひいてもらうとそれによって「無職」「大学生」「正社員」のような「ソーシャル」と、「就活」「模索」「交際」のような「ライフ」が決まります。そのあと「ハプニングカード」をひいてもらいます。これには「給料が振り込まれない」「SNSで炎上した」「入院が必要な病気になった」などのトラブル事例が書かれています。

 

そして「お助けカード」には、「ハローワーク」「法テラス」「こころの健康センター」のように、困ったときに頼れる社会資源が書かれています。それらを使いながら、グループメンバーで、どうトラブルを乗り越えられるかを話し合います。これを10代から60代までの人生でシミュレーションしてもらうワークになっています。

 

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動画『出張授業プログラム「ライフコネクション」紹介』より

 

――大人でも詳しく知らない支援制度や機関が多そうですね。

 

横山 : そうですよね。プログラムで出てくる支援制度や機関を、周囲の大人が知らないことも多いです。

プログラムでは、「あなたたちを助けてくれるような制度や機関がいっぱいあるんだよ」と伝えることをメインにしていて、1つ1つの詳細はあまり深堀りしていません。

生徒さんたちからは、「こんなにいろんなハプニングが人生には起こるんだと初めて知った」「でも助けてくれる場所はたくさんあるから、乗り越えていけそう」というような声をいただいています。

 

2015年からスタートした取り組みで、2021年の3月末までで、全国延べ137箇所、12,500名以上の若者に体験してもらえました

ほとんどの若者が「一度は所属する場所」高校でできること

 

――ライフコネクションは、どんな学校で実施されることが多いのでしょうか?

 

横山 : 主に高校で実施しています。なかでも卒業後の進路が多様な学校や、定時制や通信制、中退率が高い学校などからのご依頼が多いです。自治体の受託事業もありますので、その場合は進学校や、中高一貫校の中学生に実施することもあります。

 

時期は、高校卒業前、3年生のときが多いですね。先生方が、生徒たちを社会に送り出すに際して、生きていくために必要な情報をもっと教えてあげたいというお考えで導入していただくことが多いです。

 

日本では、高校までは98%以上の生徒が進学しますが、その先はばらばらで、進学・就職、そしてそのどちらにも進まず、所属がなくなってしまう場合もあります。そうなると、入ってくる情報も少なくなりがちです。

最後の所属になるかもしれない高校生のうちに、これから生きていくために必要な情報を届けることが、私たちの使命だと思っています。

 

また高校以外では、少年院や、児童養護施設、若者支援施設などでも実施してきました。

 

――プログラムを実施するときに、気をつけていることはありますか?

 

横山 : 経済的に困窮しているご家庭の生徒や、すでになんらかの困難な状況にいる生徒も参加していることが想定されますので、そのあたりに気をつけながら進めています。

 

プログラムの中では、自分とは全然別な人物になりきってもらい、その人物の人生のシミュレーションをする形を取ってもらっています。あんまり自分事になり過ぎるとつらくなってしまうと思うので。

 

また、先生とも相談して、その課題に関する当事者がクラスにいると分かっているときには、対象の「ハプニングカード」は抜いたりしています。フラッシュバックのような形で、生徒さんが辛い思いをしてしまうことを避けるためです。支援機関のカードを見ながら、「ここ、行ったことがある」って話してくれるような生徒もたまにいます。

 

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支援機関の役割・活用方法を知れる「SOSブック」

 

「自分はマイナスの地点にいる」と感じている若者にチャレンジの機会を

 

――今後はどんな取り組みをされる予定でしょうか。

 

横山 : 実はいま、三菱みらい育成財団様の助成をいただき、ライフコネクションの続編を準備しているところなんです。現状のものでは、支援機関について知ってもらうところまではできているんですが、その先、実際に相談するというアクションを起こすところは、まだしっかり伝えられていないと感じています。

 

また、困難な状況にあっても、それが当たり前になってしまっていて、まわりに助けてもらえる事柄だと気がついていない若者がいるのも課題だと思っています。例えば「ヤングケアラー」の問題がそうですね。

 

自分は困っていると認識してもらうこと、相談先も方法もひとつ「だけじゃない」ということを感じてもらい、相談するという成功体験を積んでもらうこと、こういった目的を盛り込んだプログラムを考えているところです。

 

――育て上げネットさんの取り組みを通して、若者たちに伝えたいことはなんでしょうか?

 

横山 : 今のキャリア教育も世の中も、進学や就職という、本当に目先のところを目標にしているように感じています。若者たちには、その先の人生はとても長く、いろんなことが起こるけれど、失敗してもまた再チャレンジできると伝えたいですね。

 

困難な状態は連鎖していってしまうことが多いので、「すでにもう、自分は世の中の普通と比較するとマイナスの地点にいる」という気持ちになってしまっている若者も多くいます

 

ライフコネクションのようなプログラムを受けることや、信頼できる大人と接すること、様々な情報を得ることで、スタートラインに立ち、さらにその先にいけると感じてもらえたらいいなと思っています。自分の力で未来を切り開いていけることを、このプログラムを通じて伝えられたらと。

 

将来、何年後かにでも、仕事や生活で行き詰まったときに、「そういえば、こんなときに助けてくれる場所があるって、高校のときに教えてもらったな」と思い出してもらって、「ちょっとどこかに相談してみようかな」と思ってもらえたら嬉しいですね。

 

――ライフコネクション、一人でも多くの若者に体験してもらえたらいいですね。本日はありがとうございました!

 


 

「ライフコネクション」の詳細・お問い合わせはこちらから

>> Life Connection | 認定NPO法人育て上げネット

ライフコネクション紹介動画

 

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佐藤茜

佐藤茜

当メディア(DRIVEメディア)の前編集長。男の子2人の子育てをしながら編集・マーケティングまわりで活動中。 福島県生まれ。大学卒業後、人材系ベンチャーで新規事業立ち上げやマーケティングを担当。ニューヨーク留学、東北復興支援NPO、サンフランシスコのクリエイティブ・エージェンシーでのインターン、衆議院議員の広報担当秘書等を経験。 Twitter:https://twitter.com/AkaneSato

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