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社会課題解決のための新規事業、時代の要請に応えるイノベーションには「越境」と「物語」が必要 【 Beyond Conference 2022 開催レポート】

2022.07.08 

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and Beyond(アンド ビヨンド)カンパニー(事務局NPO法人ETIC.(エティック))は、2022年4月12日~13日の2日間にわたり、「第1回 Beyond Conference 2022 」を開催した。

 

「越境で変わる人・コト・組織 ~ひとりでは、たどり着けない場所へ~」というサブタイトルが表す通り、and Beyond(アンド ビヨンド)カンパニー(以下、aBC) がこれまで行ってきた活動実績を踏まえて、そこから生まれた取り組みを加速させ、これからの社会・組織の在り方や企業人の働き方について討議するイベントだ。

 

会場となったのは鎌倉にある建長寺。オンラインとのハイブリッド開催だ。カンファレンスを寺社で開催するというユニークなアイデアもさることながら、人材の成長や組織の在り方が重要な経営課題となる中、イノベーションのヒントを求めて、多種多様な企業や団体から多くの人々が参加した。

 

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会場となったのは北鎌倉にある建長寺

 

※こちらは、「サステナブル・ブランド・ジャーニー」掲載記事からの転載です。

立場や組織の垣根を「越境」し、挑戦できる環境へ

 

aBCは、「意志ある挑戦が溢れる社会を創る」をミッションに、立場や枠組みにとらわれることなく自由に発想し、挑戦できる環境を提供するバーチャルカンパニーだ。一人ひとりの妄想を形にしていくことを目指し、企業・団体・一個人としての所属や肩書を超えた「越境」を支援する活動を行ってきた。

 

いまや企業においても、社会課題解決への要請や産業構造の急激な変化によって、人材の成長や組織の在り方が重要な経営課題になっている。そういったムーブメントのなか、組織を超えた共創の重要性は増すばかりだ。

 

一方で、「やり方がわからない」「一部の関連部署以外の社員は無関心」といった声も、よく聞かれる。

組織のなかからイノベーションをどう生み出すか

 

越境トークセッションとして開催された『組織の中からイノベーションをどう生み出すか? ~企業内で自己実現していく人の在り方に学ぶ~』は、まさに人材の成長や組織の在り方に課題を感じている人にとって重要な気づきが散りばめられた内容だった。

 

登壇者は、NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長 笹原優子氏、株式会社竹中工務店 まちづくり戦略室 副部長 岡 晴信氏、「スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版」共同発起人 井上 英之氏の3名だ。

 

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“越境経験”について語り合う笹原優子氏:左 と井上 英之氏:右

 

・「being」と「 doing 」両方あって初めて、それが生きていく

自分がどうありたいか、そしてこの事業のなかで何ができるのか。会社のなかで自分の人生をどうしていきたいのか、そのパーソナルなストーリーを「私」を主語に紡いでいく。そしてそれを誰かにアウトプットする(=話してみる)ことによって、「それ面白いね」と言われたり、事業としてのポテンシャルに気づかされたりもする。

 

「新規事業は、企画を経営層に通すまでが本当に大変です。そのためには、やりたいことをクリアにして、ストーリーをつくっていくことです。シナジーは後づけでいい。やったもの勝ちだと開き直って、とにかくいろんな人と話したり、壁打ちをしているうちに、必要なスキルやマインド、スキームもついているのではないかと思います。」

 

NTTドコモで新規事業創出プログラム「39works」を運営し、社内のメンバーがR&Dから立ち上げていく社内起業の過程を支援してきた笹原氏は、スキル育成やマインドセットをステップ・バイ・ステップで積み重ねていくことが大事だと説いた。

 

「とくに新規事業においては、結果ってすぐには出なくて、失敗が続くのは当然のこと。むしろ失敗は必然です。

だから、まずは失敗を恐れないで行動する。そして失敗してしまった場合は、その失敗の経路を経営層に伝えて、会社の知見・財産として共有できるようにしたいですね。新規事業の担当者って、本人はものすごくがんばっているのに、周りからは“あの人は何をしているの?”と言われがち。このプロジェクトで何をしているのか。なにを達成しようとしているのか。失敗も含めて、自分から積極的に伝えにいくことによって、周囲からの協力やアイデアも得られやすくなるように思います。」

 

戦略的不良社員が繰り出す、巻き込み型の新規事業

竹中工務店の岡氏は、自らを“戦略的不良社員”と称する。

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写真手前「戦略的不良社員」と称する 岡 晴信氏と、話に耳を傾ける笹原氏:中 と井上氏:右

 

創業120周年を記念して開催された新規事業コンペで企画が通り、2015年にたったひとりで新規事業担当として就任。以降、既存アセットを活かす事業から、これまでまったく企業としての知見がない分野まで、幅広い新規事業のローンチと運営に携わっている。

 

たとえば、歴史的建造物をシェアオフィスとして活かすレガシー活用事業。まちづくり戦略室では、奈良井宿の古民家をリノベーションし、キャンセル待ちが出るほどの高級宿として再生させた。

 

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奈良井宿の古民家再生プロジェクト

 

地熱発電に関しては、知識ゼロ、まさにゼロイチからのスタート。しかも一回掘るごとに数千万円かかるという多大なリスクがありながら、経営層を半ば強引に現地へ連れていき、何回もコミュニケーションのキャッチボールをくりかえしながら意思決定者を巻き込み、事業化の理解を得ていった。ビルの屋上でぶどうを育ててワインをつくる「アーバンワイナリー」というユニークな事例もある。

 

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知識も経験もゼロからスタートした地熱発電事業

 

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まちづくり戦略室の一環として行われているアーバンワイナリー事業

 

戦略的不良社員らしい“モチベーションの保ち方”としては「会社にできるだけ行かないこと」だと岡氏は笑う。

 

「会社(組織)の外にいる人とできるだけ話をするようにしています。同じ組織のなかにいると価値観が一極化しやすいから」という岡氏の働き方が許容される“流動性”や“寛容性”にイノベーションが起きやすい組織づくりのヒントがあると言えそうだ。

 

・失敗のない人生は、失敗だ

岡氏は現在、島根県雲南市へ在籍出向中。企業が実証実験できる場づくりとして「雲南ソーシャルチャレンジバレー構想」に参加している。

 

これは「小規模多機能自治」で全国に知られる島根県雲南市が、子ども・若者・大人それぞれを軸にした3つのチャレンジを推進。このチャレンジの連鎖で、持続可能なまちづくりを目指すというものだ。

 

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画像出典:「新たな社会デザインの実証実験 〜雲南ソーシャルチャレンジバレー構想〜」ローカルベンチャーラボ

 

人口4万人弱、高齢化率36.5%と高齢化社会が進む雲南市では、地域を学びの場とした「雲南コミュニティキャンパス(UCC.)」や、健康とまちづくりを融合させた「健築®」という概念から生まれたコミュニティナース事業が全国に展開するなど、すでに新規雇用や3億円を超える経済波及効果を実現している。

 

「面白いことを行動に移していけば注目が集まりますし、それによってイキイキと働く方が増えてくれたら嬉しいですね。その中で、雲南市の成功には竹中工務店が関わっているという印象が出てくるようになると、企業としても新しい可能性が広がっていく」と岡氏。

 

「計画やコスト構造が不明瞭だと方々から突っ込まれてしまうことはあると思いますが、失敗が怖いとか、NGだと考えるマインドがあると、どうしてもイノベーションに歯止めがかかってしまいます。雲南市では“失敗のない人生は失敗だ!”というメッセージを合言葉にしているんです」

心に感じたことを話し合える場があれば、組織はかわっていく

 

・「かつて自分が残したかった空き家」から生まれる共感と市場性

質疑応答の時間では、企業内の新規事業プロジェクトを任された担当者から、「空き家を活用して何かできないか、というアイデアまでたどり着いたものの、そこに自社の事業とのシナジー効果をどう生み出すかが思い浮かばなくて悩んでいる」という相談が寄せられた。

 

この質問に対し、井上氏からは「なぜ空き家で何かできないか、と考えたのか?」との問いが投げかけられた。

 

質問者は、その答えとして自身が人生において二度も「住む家を失った」経験があることを明かした。“空き家”は単なるビジネスの対象ではなく、ストーリー・オブ・セルフに強く結びつく原体験でもあったのだ。

 

井上氏はこれを受けて、一般的な「空き家」におさめないで、意味のイノベーションをひろげていく大切さを指摘。自分が大事だと感じているものは、何かに結びつく可能性があると語った。

 

たとえば空き家の問題であれば、空き家が再生し変わっていけば、町の雰囲気も変わっていく。すると空き家そのものが可能性になり、その場所に新たなストーリーが生まれていく。その場所で営まれてきた生活は、記憶の積み重ねだ。記憶や想いを受け継ぎ、伝える場所にして、そこから生まれる共感こそがニーズであり市場につながる。

 

「本人としての意味。事業としての意味。会社としての意味。この3つの整合性が最後に問われる」と、NTTドコモ・ベンチャーズの笹原氏も、自分自身が“やりたい”という熱意や、“なぜやりたいのか”という背景にある物語が新規事業や社内起業には欠かせない要素であることを語った。

 

・心に感じたことを話し合える場があれば、組織はかわっていく

上記のケースのように、ちょっと気になることを丁寧に聞き出し、語り合っていくことで、そこに内包される物語が引き出され、そこから共感やアイデアが生まれていく。さらにその共感が共鳴にかわることで周りに伝播し、賛同者や応援者が増え、組織の士気や風土までもが変化していく。

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カンファレンス会場でも「心に感じたことを話し合う」場が設けられた

 

Beyond Conference 2022 のオープニングセッション『企業・組織の“役割”をアップデートしよう!〜持続可能社会と個人のウェルビーイングの実現に向けて〜』のなかで、ロート製薬株式会社 代表取締役会長 山田邦雄氏は「心に感じたことを話し合える場があれば、組織はかわっていく」というメッセージと、このセッションの内容はピタリと符合する。

 

すなわち、個々の行動の積み重ねによって、これまでのコンテクストでは決して起きなかった変化が生じる。その変化こそが「イノベーション」の可能性をはらんでいるのだ。

 

・関わりあうことで何かが生まれていく

私たちは頭で考えるだけでなく、身体で感じる五感(ときには第六感と言われる直感も含めて)をもって毎日を過ごしている。

本来なら、誰かや何かと関わるときに自然に発生するある種のケミストリー、何かが生まれていくという感覚を誰しもが知っているはずなのに、予測をしすぎたり計画を決めすぎてしまうことで、「流動的に生まれる」アイデアやイノベーションの余地を狭めてしまっているのではないか。

 

気づきにくくなってしまっているだけで、私たちが当たり前に行っていることの一つ一つに、とても意味がある。

日々のくらしを営むなかで、ふと感じる違和感だったり、「こうだったらいいのにな」という願望。あるいは、コミュニケーションにおいて小さな変化を起こしたくて、自分の行動を変えてみたら相手も変わったというような出来事のなかにもイノベーションのヒントがある。

 

ふだんの“当たり前”を脇に置いて、自分たちが“こうありたい”と思うことについて話し合い、共有することから、力が湧いて、何かが始まっていく。組織のイノベーションやウェルビーイングな自己実現のための新しいセオリーを見つけ出す。

 

企業や団体が何らかの社会課題解決に取り組むときも、パートナーシップ連携をしていかなければ大きな変化を起こせず、大きな変化を起こせなければ結果にもつながらない。

 

いち個人であろうと、組織であろうと、関わり合いから生じる「何か」をとらえられる感性がキーポイントになりそうだ。そしてその感性を養い、アイデアの可能性を広げるために、多様な人たちと語り合えるBeyond Conference 2022 は、またとない貴重な機会であったと言えるだろう。

 

 

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Sustainable Brand Journey

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