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たたら製鉄は日本古来のサステナブルな産業なのか~神話の地・島根県雲南市で学んだ、“わからない”という態度とは

2023.04.05 

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(English version is available here.)

2022年11月26日 から 28日、島根県雲南市で『日本古来の森林活用とサーキュラーエコノミーを学ぶ』というエコツアーが開催されました。

 

森あそびラボキノマチプロジェクトの共催イベントであるこのツアーは、「山林空間を自由な発想で徹底的に活用をしたい」プレイヤーたちが全国各地から集まり、雲南市で古来より続く製鉄法「たたら製鉄」から、日本の森林活用について学ぶ贅沢なツアーです。その模様と学びの一端を、ツアーのいち参加者として感じたことを中心に紹介します。

僕たちは、そろそろ森林と関わりたくなってきた

 

僕と、このツアーを企画した「NPO法人おっちラボ」(以下おっちラボ)の皆さんとはかれこれ10年来の付き合いになります。彼らは、島根県雲南市において「幸雲南塾」というローカル版マイプロ塾の先駆けとして、地域の人のやりたいことを応援して形にする場を運営し続けてきた、地域の中間支援のお手本のような団体です。

 

その代表理事である小俣健三郎さんから「森林のことに興味があるんだよね」という話を聞いたのは2021年でした。聞けば雲南市の森林活用施策の一部として企業研修なども見据え、郡上市での取り組みキノマチプロジェクトの取り組みを教えてほしいというお話でした。

 

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ツアーの最初にバスの中で挨拶するNPO法人おっちラボ代表理事の小俣さん

 

相談内容以上に、おっちラボのみなさんと継続的にお話しする中で感じたのは、

「ひとと真剣に寄り添い、地域の課題解決に取り組みつづけてきた人々」がひとだけに向き合うのではなく、あいだに自然を介した三者関係を取り戻そうとしていることや他人の課題解決の前に、自分にとっての自然な状態や遊びを取り戻そうとしていることでした。

 

実際に、近所の竹を伐りだす話をするときの小俣さんの顔はまぶしいほど輝いていました。「僕たちはそろそろ森林と関わりたくなってきた」ことを改めて感じたのです。

 

おっちラボの皆さんとは雲南市において、「日本古来の森林との関わりかたが凝縮された<たたら製鉄>のことを学ぶツアーをやりましょう」ということになりました。集まった参加者の共通の問いは「今後僕たちは、いかに森林と関わっていくのか?」です。その問いのヒントになる出会いをツアーに組み込みました。

 

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雲南市を中心とした2泊3日のツアー行程

 

風土を感じられる身体を取り戻すこと

 

あまりにも濃いツアーだったので全てをここでご紹介することはかないませんが、森林と関わっていくために必要だと思った、象徴的な場面をいくつかお伝えしていきます。

 

雲南市には、斐伊川という宍道湖に流入する一級河川が流れており、この地に伝わる出雲神話に斐伊川と深くつながりのある「ヤマタノオロチ伝説」があります。

 

その昔、度々氾濫を繰り返し人々を困らせた斐伊川とその支流を「ヤマタノオロチ」にたとえ、その治水事業をオロチ退治と考える説や、須佐之男命(スサノオノミコト)がオロチ退治して剣を得ることなどから奥出雲地方のたたら製鉄集団と大和との抗争を意味した神話ではないかとする説など、様々な解釈がありますがたいへん興味深い伝説の一つです。(出典 : 雲南市HP)

 

ツアー初日に、このヤマタノオロチ伝説などを扱った出雲神楽を行う「西日登神楽社中」の皆さんより、基本の舞「陰陽」の一部をレクチャーしていただき、参加者が実際に神楽を舞うワークショップを行いました。また、その準備として、岐阜県郡上市在住のトランスナヴィゲーター井上博斗さんから、感応する身体を取り戻すためのボディワークの指南を受けました。

 

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山の上の美しい神楽殿にて。右から四番目が井上さん

 

井上さんは、

「現代の人が能や神楽を鑑賞する際、演者の動きが日常での自分の身のこなしとあまりにも違うので、演者と観客との境が溶けていくような鑑賞ができない。その動きをやってみたときにはじめて、頭ではなく身体から物語が流入してくる」といいます。

 

たしかに、ボディワークから神楽のレクチャーを受けた後、最後に雲南の美しい山並みを背景に出雲神楽「簸乃川大蛇退治」を実際に鑑賞させていただきましたが、その神楽をみたとき、スサノオノミコトやヤマタノオロチの動きが不思議と自身の身体と呼応するような感覚になりました。

 

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「簸乃川大蛇退治」の様子

 

「これは草木や川など自然を感じることと同じ」と井上さんはいいます。「1本の木と本気で出会おうと思ったら、その木の動きを真似してみるといい。どこに重心がかかっていて、どんな風の受け方、日光の浴び方をしているのかを理解することができる」という。

 

現代において、僕らが森林と関わろうとしたときに、

「あの人工林は●●haだから間伐していくと、CO2が●●トン吸収できるからカーボンクレジットにすると●●円分くらいかな」「企業研修において使ったり、植林していけば、水源涵養にも生物多様性にもつながるんじゃないか」などと、ついついビジネスの計算を頭でしてしまう場面があります。

 

けれど、その前に森林に実際に行き、時間をかけて、そこに生きる木々や沢山の生命たちと身体をとけあわせることから始める。つまり頭で山林のことを考える前に、まずはその場所と風土を感じられる身体を取り戻すことが、これからの森林と自分(自社?)とのサステナブルな関係が見えてくる最短距離かもしれません。神楽のワークショップはそんなことを教えてもらった時間でした。

たたら製鉄の世界

 

鉄はその昔“産業のコメ” とも呼ばれていたそうです。かつて日本の鉄の主要生産地が中国山地であったことはご存知でしょうか。明治の初期までの主流な鉄の精製方法は、今回のツアーの目的でもある「たたら製鉄」でした。

 

たたら製鉄とは砂鉄と木炭を原料として、粘土製の炉の中で燃焼させることによって鉄を生産する製鉄法です。その技術の源流は、紀元前2000年ごろに西アジアにおいて生まれ、紀元前1200年ごろ、ヨーロッパやアジアなどに技術が拡散したと言われており、少なくとも古墳時代には日本に伝来しました。(出典 : 奥出雲町HP)

 

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かつてのたたら製鉄を近代のやり方で復元した「近代たたら操業」を見学した

 

たたら製鉄が特に盛んだった江戸時代、松江藩には「鉄師御三家」と呼ばれる製鉄業に置いて中心的な役割を担った家が存在しました。その御三家は藩の財政を支え、文化拠点としても機能したそうです。その御三家のひとつが島根県雲南市吉田町でたたら製鉄を経営する田部家でした。

 

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たたら製鉄の文化をいまに伝える島根県雲南市吉田町

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吉田町の菅谷にはかつて鉄を精製していた施設「高殿」がある

 

今回のツアーでは、現在もこの田部家の協力で運営されている近代的なたたら操業を見学し、実際にかつてたたら製鉄が行われていた菅谷の「高殿」を見てまわりました。

サステナビリティという言葉にとらわれて、表面的な現象ばかり見ていないか

 

たたら製鉄は、日本古来のサステナブルな山林活用方法であったといわれます。それは鉄の主な原料となる「砂鉄」と「炭」の入手方法が大きく関わっていたようです。

 

「砂鉄」は山を削って水路に土砂を流す「鉄穴流し(かんなながし)」という方法で山土に微量に含まれる山砂鉄を採取していました。このとき大量の土砂を川の下流に流すため、農業かんがい用水に悪影響を与え、下流域の農民たちと争いになり、一時期禁止されたこともあったようです。

 

しかし、その後農閑期に操業することで農民にとってはありがたい冬場の仕事となり、また鉄穴流しを行ったあとの山を崩した土地には田畑をつくり、たたら周辺の地域の貴重な食糧となったそうです。

 

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鉄穴流し(山作業)の様子(出典 : 和鋼博物館HP)

 

「炭」の入手方法は、たたら周辺の広葉樹の山林を伐採する計画を鉄山師たちが緻密にたて、数十年かけて一順して元通りの豊かな山になるように自然の循環に合わせていたといわれています。

 

このあたりのことを雲南市吉田町の鉄の歴史博物館にて、研究員の岩城こよみさんにお話を伺いました。

 

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鉄の歴史博物館にて、研究員の岩城こよみさん(左)

 

「外から来た人はたたら製鉄鉄が環境破壊だったのではないか、などと思うかもしれませんが山を崩す鉄穴流しも元々崩れやすいところを崩していたりとか、工夫がありました」

 

岩城さんは、表面上の事象にとらわれすぎないことが重要だといいます。この町の周辺に美しい山の景色がいまだ残っており、この山奥に人が住み続けられること自体が何よりもサステナブルなやりかたをしていた証拠だといいます。事象の背景を想像することの大切さを岩城さんは教えてくださいました。

 

たとえば、膨大な量の砂鉄と炭を得るために、大勢の人が鉄穴流し、炭焼きなどの過酷な労働を行い、その末にようやく、たたら操業が行えます。その、表舞台だけを見るのではなく、背景では、残った史実だけでなく、そこにどんな人々の営みがあったのかを想像し、現在にまで、ここにどのような景色として残されているのかをこの目で見ること。

 

サステナビリティという言葉にとらわれて表面的な現象や情報ばかりを見て、本質から離れないよう、気候変動適応の時代を生きる僕たちは、気をつけたいと思いました。

わからないからこそ、小さくはじめてみる

 

ツアーの最後の夜、参加者たちで語りました。

 

「結局、サステナブルかどうかって、極論誰にも測れないし、わからないよね。人間が自然と向き合うときはどこまでいってもわからない」という前提にたって、それでもわかりたい、関わりたいという態度が大事

 

「宮崎駿の『もののけ姫』の最後のシーンも、たたらばのあった場所は豊かな山に戻っていっていた。確かに吉田町の菅谷たたら山内(たたらのあった集落のこと)もものすごく優しくて、平和な雰囲気に満ちていた

 

自分が死んだ後にどんな景色を次の代に見せたいのか。そのために今『森林』というより、小さくてもいいからなるべく具体的な『場所』との関わりに興味がある」

 

「森林に企業を呼び込んで研修したりする前に、まずは自分が家の周りなどで何が正解かはわからないけれども、『森あそび』をはじめてみたいと思った

 

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八重滝の近辺

 

そんなことを語った翌日の最終日、今回のツアーの案内人のひとりであるおっちラボの平井佑佳さんが、大好きだという場所にみんなを案内してくれました。八重滝という滝の前までの森林の散策。水面にキラキラと日が反射する沢の横を、ずっと登っていくその時間がご褒美のように感じられました。

 

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八重滝までの道

 

島根県雲南市で学んだことは本当に沢山ありましたが、わかったことは、まずは大好きな場所に大好きな人たちを連れてきて、その場所の景色をつくってくれた先人たちに思いを馳せ、自分の子どもや孫の代にどんな景色を残したいかを一緒に想像し、じぶんがいまが一番やってみたいと思っていることを「わからない」からこそ、みんな一緒にニヤニヤとはじめてしまえばいいということ。

 

「わからない」ことがわかった今後の森あそびラボと、キノマチプロジェクトの展開が楽しみです!

 

***

 

編集部追記

本ツアーを撮影した動画が公開されました。出雲神楽やワークショップの詳しい様子、ドローンから見渡せる雲南の美しい秋の山々など、動画ならではの魅力がたっぷり詰まっています。ぜひご覧になってみてください!

 

 

この記事を書いたユーザー
岡野春樹

岡野春樹

㈳長良川カンパニー代表理事 / ㈳Deep Japan Lab代表理事。 清流長良川の源流域岐阜県郡上市に家族5人で暮らす。岐阜県郡上市のローカルベンチャー創出施策「郡上カンパニー」などを手がけ、風土に根ざした事業のありかたを模索しつつ自身も東京から移住。竹中工務店との共同プロジェクトキノマチプロジェクトの運営メンバーでもあり、本ツアーの企画にも携わる。

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