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淡々と愚直に。ソーシャルキャピタルの積み重ねが中間支援機能を加速させる―合同会社ひとむすび 山田芳雅さん

2024.01.19 

まちづくりイベントの企画・運営に、WEBメディアの運営や市民団体の支援、人材育成、フードバンク等々……実に幅広い業務を一手に引き受けているのが、広島県東広島市を拠点に活動している「合同会社ひとむすび」です。ひと・もの・おかね・ありがとうが循環する地域を目指し、様々なプロジェクトを手がけています。

 

2016年2月に広島大学の学生団体として発足して以来、中間支援組織として成長を続けてきた「ひとむすび」。限られたメンバーでなぜこれほど多くの事業を回すことができるのか、代表の山田芳雅さんにお話を伺いました。

 

この記事は、【特集「自分らしさ」×「ローカル」で、生き方のような仕事をつくる】の連載として、地域に特化した6ヶ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム「ローカルベンチャーラボ」を受講したプログラム修了生の事業を紹介しています。

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山田芳雅(やまだ・よしまさ)さん 合同会社ひとむすび 代表/ローカルベンチャーラボ2期生

1993年生まれ。三重県四日市市出身。広島大学生物生産学部卒業。農業経済学を専攻する傍ら、社会学などを学ぶ。大学3年次に1年半休学し、海外農業研修プログラムに参加するため渡米。現地の「ファーマーズマーケット」に感銘を受ける。2017年4月から約3年間東広島市の地域おこし協力隊員として活動。2017年6月に合同会社「ひとむすび」を設立し、代表としてマーケット運営や地域活性化に取り組む。

ファーマーズマーケットに憧れて。学生団体として始まった「ひとむすび」の活動

 

山田さんが大学3年生で「東広島ひとむすび」を結成したのは、1年半にわたってアメリカの農家に住み込み、働きながら農業を学ぶという海外農業研修プログラムに参加したことがきっかけです。そこで出会ったファーマーズマーケットに感銘を受け、「日本でもこんな場をつくりたい!」と始めたのが「ひとむすびの場」でした。

 

東広島の有機農家や飲食店、ハンドメイド作家の方々が出店するマーケット「ひとむすびの場」は、西条中央公園にてこれまでに40回以上開催されており、現在は1,000人程が来場する地域に根付いた場となっています。

 

2017年6月の法人化から6年が経ち、「ひとむすび」が手がける事業はどのような広がりを見せているのでしょうか。

 

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「とにかく市民寄りの立場から子育て・福祉・環境・産業・国際といった分野をカバーしようと活動しています。必要に応じてなんでもやっていたら今の形になったと言う方が近いかもしれません」

自主事業は、マーケット、WEBメディア、フードバンクの3つの柱

 

「優先順位はあまり考えていませんが、事業を通じて東広島市内でのソーシャルキャピタルが確実にたまってきていると思います。様々な事業の中でも、現在自主事業として運営しているのがマーケット(ひとむすびの場)、WEBメディア『東広島まるひネット(以下まるひネット)』、フードバンクです」

 

東広島のお店紹介やイベント・グルメ情報を発信するWEBメディア「まるひネット」は、月間PV(ページビュー)数は約35万と、東広島の情報発信源として多くの市民が日常的にチェックしていることが伺えます。

 

「『まるひネット』は、学生やパートの方も含めて編集部3人、ライター5人で回しています。収支はプラマイゼロに近いですが、イベント等の際はここに記事を出すことで届けたい層に効果的に情報提供できるので、広告費をかけずにすみます。そこそこ発信力のあるメディアに育ってきているおかげで、他の事業との相乗効果が生まれているので、こういった点にまちづくり会社がメディアを運営するメリットを感じています」

 

フードバンクは2023年2月に、学生スタッフと一緒に立ち上げた事業です。東広島市高屋町の古民家を拠点として、毎月3回、8がつく日に開設されており、行政や社会福祉協議会、地域の小売店とも協力しながら、必要としている人は誰でも無償で寄付された食品を持ち帰ることができます。

 

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フードバンク事業では企業からも災害備蓄品等多くの食品が提供された

 

このような自主事業以外にも、「ひとむすび」では市内に48地区ある住民自治組織の支援や、市民協働センターの運営業務を通じた市民活動サポート、市内に4つある大学での講義、地域と学生をつなぐ活動の支援、各種ワークショップ等々、数多くの委託事業にも取り組んでいます。こういった事業のほとんどを、わずか3名の正社員と学生スタッフで担っているというのですから驚きです。

少人数で多くの事業を回す鍵はソーシャルキャピタルにあり

 

「ひとむすび」が中間支援組織として多くの事業に対応できているのは、これまでの活動の積み重ねで組織内に蓄積された、東広島のソーシャルキャピタル(地域での人々の信頼関係や結びつき)をうまく活用できているからだと言います。

 

「いろいろな事業を受託していますが、僕達も我が身を削って業務に当たっているというわけではないんです。

例えば、各地区で開催されているお祭の現状を報告してほしいという話があったとします。東広島のことを全く知らない事業者が48地区を回ってヒアリングするとなると、大変な労力ですよね。でも僕達はすでに住民自治組織の支援事業をやっているので、把握している情報を書面にまとめればそれで完了です。

 

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1,000人程が来場する「ひとむすびの場」

 

『ひとむすびの場』にしても同様で、30店舗出店者を集めて1,000人集客してくれと言われたら、普通はそれなりの人手と工数が必要ですが、すでに仕組み化されているのでイベントにかけるパワーは最小限ですみます。

 

全くのゼロから新しいことをやるのではなく、他の事業ですでに多くの人や組織と接点ができているのが僕達の強みですね。これまでの事業でソーシャルキャピタルを育んできたことは、金銭的なもの以上の価値があると思っています。だからこそ、メディア事業やフードバンク事業にも力を入れているんです」

事業の「適正規模」がわかった。ローカルベンチャーラボとの出会い

 

人材育成事業としては、他にも地域おこし協力隊の支援業務等を受託し、個別の伴走支援を行っています。実は山田さん自身も、大学在学中の2017年から3年間、東広島市豊栄(とよさか)町の地域おこし協力隊として活動していました。

 

「『ひとむすび』を立ち上げた当初から、地域と学生をつなぐことを活動の柱としていたんですが、それだけだと稼げなかったので協力隊の仕事を始めました。自分の力を試したいという思いもあったので、当時はいろいろなことに挑戦していましたね。その中で唯一今も残っているのが豊栄羊毛プロジェクトです」

 

羊毛プロジェクトは、地域の方が草刈り目的で羊を飼育していたものの、羊毛の方は活用されずに廃棄されているという状況に目をつけて始まったものでした。指導してくれる方を地域に呼んだり、自身も毛刈りや染色、糸つむぎのやり方を勉強したりと奮闘する中、稼げる事業に育てようと参加したのが、地域に特化した6ヶ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム「ローカルベンチャーラボ(以下LVラボ)」です。

 

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羊毛プロジェクトで制作された品々

 

「僕としては、最初は年間2,000万円くらい稼げる事業にしようと思って参加したんです。羊に田園風景を守ってもらうのは絵になるし、エリアブランディングにもつながると考えていました。ただ、『それは無理なんだな』とわかったというのが実際のところです(笑)。

 

『ストーリーないの?』とか『地域の宝を探して来い』と言われても、今ある以上のものは見つからないし、地域のおばちゃん達とも『お金がほしいんじゃない‼』とケンカになっちゃって……。そこにいる人達にとって、稼げることが必ずしもいいことではないんだなと気付きました。

 

おばちゃん達にとっては、がんばりすぎて疲れてしまうより楽しく続けることの方が大事だったんです。200万円くらい稼ぐのがこの事業の適正規模だと割り切ったからこそ、今も続いているんだと思います」

地域おこし協力隊の研修として毎年隊員を送り出す立場に

 

協力隊OBとして伴走支援をするようになった今では、毎年のように東広島市の協力隊員をLVラボに送り込んでいる山田さん。LVラボへの参加にはどのような期待があるのでしょうか。

 

「合う合わないもあるのでどういう影響を受けるかはその人次第ですが、外に出て東広島にはない人や機会と出会うことが大事だと思っています。

 

僕自身もLVラボに参加してみて、今の中間支援業務につながるようなロールモデルとの出会いがたくさんありました。直接お話しする機会は数年に1回ですが、『こんな風に生きてる人もいるんだ』と知れたことは大きいですね。

 

いいメンターや、叱ってくれるコーチの存在は本当に貴重です。特に、フィールドワーク帰りの新幹線で、ある人から『1円を大切にする大切さをもう一度学び直した方がいいよ』と言われたことは印象に残っています。ずっと思っていたことを、みんなの前でなくあえてここで言ってくれたんだろうなと。実業家としてはここが弱いというのを教えてくれたと思っています。

 

それから、ラボの期間が終われば会うことはなかなかありませんが、『きっと頑張ってるんだ』って思える同志が増えたのはよかったです」

 

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ローカルベンチャーラボ第2期開講式にて(2018年5月)

 

迷ったときは、信じられる誰かの声を大切に。日々の積み上げが社会的インパクトにつながる

 

最後に山田さんから、地方での起業や地域を対象とした事業構想を目指す方へのメッセージをいただきました。

 

「1~2年目はなんとかなっても、淡々とやる強さがなければ3年目を超えるのは難しい面があると感じます。組織に縛られず自由に働きたいのか、社会的インパクトを出したいのか、目標をどこに置くかは自分の中で考えておいた方がいいのではないでしょうか。

 

事業をやっていると、誰かともめたりトラブルが起こったり、どうしても自分の頭が回らないような局面にも出くわします。そんなときは、これまで出会った信頼できる他者5人くらいの意見の中間を取るようなこともあります。愛情をもって言ってくれている言葉はわかるものだと思うので、あえて鵜呑みにして進むというのは、僕の中で大事にしていることかもしれません。

 

僕達も小さな団体を後押ししていくというフェーズに来ているので、中間支援組織として5年後くらいには目に見えるような形でインパクトを生み出して行きたいですね。諦めちゃうしサボっちゃうし、途中で嫌になることもあるんだろうなと思いますけど、淡々と愚直に積み上げていくしか道はないと思っています」

 

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山田さんが受講されていた「ローカルベンチャーラボ」では、例年3~4月に受講生を募集していますので、気になった方はぜひ公式サイトをご覧ください。

 

▽ローカルベンチャーラボ公式サイト▽

https://localventures.jp/localventurelab

▽X(旧Twitter)▽

https://twitter.com/LvSummit2020

▽Facebook▽

https://www.facebook.com/localventurelab

 

 

この記事を書いたユーザー
茨木いずみ

茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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