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地域の関係人口を増やすには?時間や場所にとらわれない「フレキシブルワーク」が持つ可能性(前編)―Beyondカンファレンス2024レポート(7)

2024.08.02 

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Beyondカンファレンス2024(6月1日開催)で行われたセッション「ともに考える、関係人口拡大のために『フレキシブルワーク』ができること」では、重原圭さん(日本経済新聞社)、川元一峰さん(東急)、石井宏司さん(パーソルキャリア)、田中祐樹さん(トレジャーフット)が登壇し、地域のこれからと、関係人口・フレキシブルワークについて話し合いました。

 

フレキシブルワークが進み、時間や場所にとらわれない働き方が社会に拡がることは、地域が抱える問題の解決に繋がる可能性があります。フレキシブルワークを軸に、これからの地域を支える関係人口について、議論を深めます。

 

前半では、登壇者の事業説明や関係人口と地域をめぐる現状についてご紹介します。

 

<登壇者>

重原 圭(しげはら けい)さん

日本経済新聞社 人財・教育事業ユニット 副ユニット長 ワークシフトソリューション統括ディレクター 

広告事業を起点に、2010年の日経電子版立ち上げ以降はデジタルやIDをベースとし新規事業企画・開発・運営に従事。現在は、より自由で豊かな「はたらく」を実現するべく奮闘中。阪神ファン。

 

川元 一峰(かわもと かずみね)さん

東急 ホスピタリティ事業部 事業戦略グループ 主査 / 東急TsugiTsugiチーム 

「TsugiTsugi(ツギツギ)」は、東急の「社内起業家育成制度」から誕生した定額制回遊型宿泊サービス。「旅するように暮らす」が当たり前になる世界の実現に、ANAグループや各地のDMOらと共に邁進。日経とも絶賛提携中。

 

石井 宏司(いしい こうじ)さん

パーソルキャリア 経営戦略本部ゼネラルマネジャー 

リクルートを起点に野村総合研究所、ミクシィ等をへて現職。新規事業開発やスポーツマネジメントの経験が豊富で、2021年にはJ2ザスパクサツ群馬の代表取締役も務めた。現在は「はたらいて、笑おう。」を実践中。

 

田中 祐樹(たなか ゆうき)さん

トレジャーフット 代表取締役社長 

プテーニを起点に、パムローカルメディア代表取締役社長、ベネフィット・ワン新規事業開発責任者などを経て2018年にトレジャーフット設立。経営理念は「新しい働き方を創造し、地場産業の発展に貢献する」。

 

※記事中敬称略。

 

フレキシブルワークを推進する新しいサービスを利用して、全国で快適に働く

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重原 圭さん(日本経済新聞社)

 

重原 : みなさんは「なぜここに日本経済新聞社がいるのか」と思っているかもしれません。日経はメディアの会社ですが、昨今新しい事業領域として社会人向けのラーニング事業(学び事業)やキャリア開発する事業をグループ全体で取り組んでいます。「人材版伊藤レポート2.0」が2022年に経済産業省から出ているのですが、ここで提示された「人的資本経営が今後のカギである」というメッセージを基に、事業に取り組んでいます。

 

時間や場所にとらわれない働き方。すなわちフレキシブルワークですが、それに関連して「NIKKEI OFFICE PASS」というものをやっています。「NIKKEI OFFICE PASS」は全国で1,000以上のシェアオフィスやコワーキングスペースなどのワークスペースを予約なしで利用できるサービスで、提携している東急さんのホテルサブスク事業TsugiTsugiとともに大きく成長しており、手応えのある事業です。

 

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川元 一峰さん(東急)

 

川元 : 私の働く東急は沿線で仕事をすることが多いのですが、TsugiTsugiという事業では全国に打って出ています。TsugiTsugiは東急の社内ベンチャー制度から始まりました。このサービスは定額の利用料をお客様からいただくことで、一定期間内であれば全国211の宿泊施設に同じ値段でお泊まりいただけるというものです。会員様は就業者が8割です。会社員の方が全体の43%となっていて、宿泊先でのお仕事を含めて色々な使い方をしていただけます。

 

我々は「NIKKEI OFFICE PASS」とも連携していますが、何をやりたいのか疑問に感じる人がいるかもしれません。昨今、オーバーツーリズムが問題視されていますが、マスコミが主題として取り上げるのは、「地域の人々が混雑で困っている」だとか「地域の人々がアンチモラルな旅行者に困っている」といった側面です。しかし、実はそこにせっかく来てくれた人(旅行者)も、混雑や汚くなることを嫌がっているという事実があります。これは、二度とその地に来てくれない事態を引き起こす問題でもあります。

 

今回の話につなげると、嫌な思いをした人たちは、そのエリアの関係人口にならなくなってしまうということでもあります。そのような懸念を払拭するためにも、我々のサービスを使って平日に安くお泊まりいただき、宿泊の曜日を分散することで、混雑がなくて快適な旅を拡充する。それが観光需要の平準化に繋がると考えています。

 

TsugiTsugiを使って、平日にお泊まりいただく利用者様を増やすという点と、提携する多様なエアラインさんのもとで、お安く長距離移動もしていただくことで、移動のハードルを越えることができます。旅先では、「NIKKEI OFFICE PASS」と連携することで、お仕事をしていただく環境(ワークプレイス)も基本的には整っています。これらを利用することで、どこに行っても働ける満足度の高い旅を推進することで、再来訪や関係人口の拡大に寄与できるのではないかと考えております。

地域に人を集め、残すために

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石井 宏司さん(パーソルキャリア)

 

石井 : 私はこれまで事業再生の仕事をずっとやってきました。その知見から、上手くいっていない事業には集客の問題があると考えています。例えば、直近ではザスパクサツ群馬というサッカーチームで社長をしていましたが、少ない試合では観客が900人しかいませんでした。それまで働いていたFC東京では4万人に達することもあるのに、比べればもの凄い差があります。そのため、1年間色々な改革を実行してきました。

 

また、パーソルでは副業事業をやっていますが、実際にサービスに登録して副業をしている人は15%くらいです。残りは登録しているけれど、副業をしていない人。例えて言うと、サッカーに興味はあるけれど、サッカーを観に来ていない感じですね。では、残り85%を活性化させるためにどうするか。そこで、副業というものから少しズラして、「地元を助ける仕事をしない?」という名目で始めたのが、スキルリターンというサービスです。つまり、地元をフックにして副業に目覚めてもらうことで、結果的に地域の関係人口が増えるのではないかと考えています。

 

もう一つのフックはスポーツです。関係人口や地域については、ユーザーも登録者も関心が薄いのですが、「夢のスポーツビジネスを一度やってみませんか」というメッセージを出すと、もの凄く登録が増えます。Jリーグも全部で60クラブありますが、ほとんどが地方です。つまり、スポーツビジネスに誘導すると、結果的に地方でUIターンすることになるんです。今回は、集客をはじめとした知見をもとに、お話できればと思います。

 

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田中 祐樹さん(トレジャーフット)

 

田中 : 鎌倉に本社があるトレジャーフットでは、ずっと地域のことをやってきました。経営理念は「新しい働き方を創造し、地場産業の発展に貢献する」と掲げています。そのおかげで、行政からお金を貰って関係人口を増やすための仕事をさせてもらったりしています。

 

事業としては、抱えている5000人以上のフリーランスと共に、地域側に新規事業をつくったり、リブランディングをすることで、事業と雇用のゼロイチをつくっています。その他にも、育成事業として「スキルの地産地消」に取り組んでいます。地方で優秀な人を育てても、都市部に持っていかれるんです。それは大学も同じで、優秀な人たちは就活で東京に行ってしまいます。行政がお金を使って地域で優秀な人を育てても、結局は首都圏に行ってしまうという構図を変え、地域で育てたスキルを地域で循環させることを目指しています。

 

お金がなくなると縁の切れ目になるというのは関係人口も同じで、地域活性化の部分では特に言われています。そんな中で、僕たちは「どうすれば継続性があるか」「どうすれば世界を変えていけるか」を考えたとき、コミュニティにすることだと考えました。

 

関係人口もすべてコミュニティにすることで、どこに居ても高い知識レベルを維持できます。地方側と首都圏側で、そのようなコミュニティをつくり、循環させることで地域に落とし込んでいく。それによってゼロイチの場所をつくり、そこから人を育て、コミュニティをつくり、継続性をもたらしていく。今は行政と一緒にやることが多いですが、地域のパートナーと連携して、この活動を日本中に拡げていこうとしています。

関係人口と地域をめぐる課題について

重原 : みなさん、ありがとうございました。関係人口とは「特定の地域に多様な形で関わる者」という定義ですが、国土交通省による造語ということで、捉え方も多種多様です。地域を訪れるだけの交流人口から始まり、定住人口になるまでの過程にあるものですが、まさに我々も地域における関係人口の一員として、この場にいるつもりです。

 

関係人口にはファンベース(趣味・楽しみ・貢献など)と仕事ベース(ビジネス・プロボノ・腕試しなど)の関わり方があるのですが、ここでは前者についての会話が増えるのではないかと考えています。仕事で関わるなど、地域に粘着する仕組みづくりが大事である一方で、「緩く・不真面目に・続くものをやる・弱い繋がりの強さ」を大事にして、未顧客をどうつくるかも重要です。これらが偶発的に起こる点は集客の部分と繋がりますし、未顧客の人をマーケットインさせることによる影響などは、後ほど議論できればと思います。

 

実際、今も多くの方が関係人口を増やすことに取り組まれていますが、課題も出てきています。一つは手段の目的化です。関係人口を増やすことが目的になってしまっていて、「何をしたいか」の部分が疎かになっているケースです。

 

もう一つは役割分担や仕組みの部分です。先ほど仕組みづくりが大事だと言いましたが、意欲のある人や一生懸命な人の負担が先行して重くなりがちなので、その体制整備が必要です。

 

また、移動と時間のコストは無視できません。時間が有限ななかで、どのように移動を最適化していくかという問題です。そして、機会のコスト。地域と関わりを持ちたくても、どのように接点をつくればいいのか分からない人が多いという現状もあります。ボランティアなど、関わり方は様々ですがハードルは少し高い。「最初は不真面目でもいいよ」という姿勢で、機会のハードルを下げることが重要なのではないかと思っています。

 

その他にも、石山アンジュさん(Public Meets Innovation 代表) が「自治体同士で人口を奪い合うのではなくて、シェアをすることで人と活力が分散する形を目指しませんか」と仰っていたように、人材の問題もあります。東京都豊島区でさえ、消滅自治体に入っているという話もありますが、これは若年女性人口の減少により起きている現象で、こちらも同じように若年女性を自治体間で取り合うという構図が生まれてしまっています。人口減少は、もはや避けられないなかで、都会のワーカーが持つ時間を地域で上手くシェアするなど、解決策があるはずです。

 

フレキシブルワークというお題を出してはいますが、今日はみなさんと一緒に地域のことについて考えていきたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。

 

――後半では、「地域に人をどう増やしていくのか」という議論を皮切りに、関係人口について考えていきます。

 

取材・文・写真 : 浅野凜太郎

 


 

これまでのBeyondカンファレンスについての記事はこちらからお読みください。

 

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浅野凜太郎

浅野凜太郎

2001年千葉県生まれ。大学でジャーナリズムを学んだ後、サッカー記事を中心にフリーライターとして活動開始。音楽や映画、サーフィンにバイクなど趣味も多い。将来的にヨーロッパへ住んでみたいと考えており、目標は世界中を飛び回ること。なお、学生時代は焼き栗を売り歩いていた。

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