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#社会・公共

「NPOは水分と油をマヨネーズにする役割を」異なる居場所をつくる実践者たちが考える【居場所づくりは地域づくり(1)後編】

2024.09.17 

居場所づくりは地域づくり後編-re

認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえと、NPO法人エティックは、オンライン連続セミナー「居場所づくりは地域づくり―地域と居場所の新しい関係性を目指して」を開催しました(全7回)。

 

第1回では、対象も目的も異なる居場所づくりに取り組む実践者たちが、互いの活動を知る機会となりました。

 

前編では、「どんな要素があれば居場所づくりが地域づくりだといえるのだろうか」といった問いも投げかけられました。後編は、この問いの解を登壇者全員で考える場面からご紹介します。

 

zoom8(後編)

<パネリスト>

平岩 国泰(ひらいわ くにやす)さん 放課後NPOアフタースクール 代表理事

飛田 敦子(ひだ あつこ)さん 認定NPO法人コミュニティ・サポートセンター神戸 事務局長

中澤 ちひろ(なかざわ ちひろ)さん Community Nurse Company株式会社 取締役(現:株式会社CNC 顧問)

※Community Nurse Company株式会社は、2023年12月に株式会社CNCに社名変更しました。

 

<モデレーター>

湯浅 誠(ゆあさ まこと)さん 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事長

三島 理恵(みしま りえ)さん 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事

川島 菜穂(かわしま なほ) NPO法人エティック ソーシャルイノベーション事業部

 

※記事中敬称略。

※イベントは、2022年に開催されました。本記事では当時の内容をもとに編集しています。

 

居場所とは、「場」と「人との関係性」、どちらなのか

湯浅 : 最初に、みなさんと「居場所」について考えたいと思います。まず、Community Nurse Company 株式会社(現:株式会社CNC)(※)の中澤さんは、コミュニティナースの活動と同時に、地域のおせっかいな人たちを活動に巻き込む「地域おせっかい会議」の可能性を開いています。地域への思いを持つおせっかいな人たちが居場所づくりの担い手になるこの事例から、僕は、「誰もが誰かの居場所をつくることができる」と感じました。

(※)Community Nurse Companyのサイトは、コミュニティナースポータルサイトに変わりました。

 

地域おせっかい会議HP

地域おせっかい会議」公式サイト

 

湯浅 : 一方、認定NPO法人コミュニティ・サポートセンター神戸(以下、CS神戸)の飛田さんは、対象者を限定しない居場所づくりと、子どもの見守りや地区清掃など地域のニーズを汲み取った支援活動を合わせて行うことで、居場所にプラスして地域課題の解決につながる「地域づくり」になっているかもしれないと話してくれました。居場所とは、「場」、または「人との関係性」、どちらなのでしょうか。

 

飛田 : 難しいです。いずれも包括的にいえると思うのですが、「心の居場所」、または「機能としての居場所」もあると思います。

 

中澤 : 「場」と「人との関係性」、どちらも必要だと感じています。私たちもコミュニティナースや地域おせっかい会議の活動を通して、人と人との関係性をつくりながらサテライト拠点のような「場」も増やしています。例えば、現在、郵便局と連携して、地域おせっかい会議の活動拠点をつくっています。

 

平岩 : 放課後NPOアフタースクールの活動では、子どもたちが自由に遊ぶ場所を作っていますが、子どもたちの中にはスタッフに会いに来ている子もいます。人と人との関係性ができた時点で、「心の居場所」ができたともいえるのではないかと。それは、子どもの自己肯定感を上げることにもつながっていると思っています。

「特定少数だと居場所にはなるけれど、地域づくりにはならない」への解を探る

湯浅 : 今回、「居場所づくりと地域づくり」について、飛田さんが一つの問いを投げかけてくれました。「特定少数のための場は、居場所にはなるけれど、地域づくりにはならないと地域から思われることもあるのではないか。どんな要素があれば地域づくりといえるのだろうか」と。

 

この問いはとても大きな論点で、「一部の方たちがどう考えようと自分たちはやりたい」という考え方もあると思います。しかし、実際、地域には、「地域づくりにはならない」と考える人たちもたくさんいて、その中で活動をしていくわけです。「自分たちの活動は居場所づくりにはなる。でも、地域づくりにはならない」という居場所づくりがあるのかといったことも含めて、どう考えますか?

 

中澤 : まず、「地域づくりとは何だろう」という議論にもなると思います。私は、町の人たちが地域をつくっていくことが地域づくりで、地域の人たちがコミュニケーションを取る場をつくることすべてが立派な「地域づくり」だと包含して考えるといいと思います。

 

平岩 : 僕たちの活動は「地域づくりのためか」と聞かれると少し異なっていて、「子どもたちの居場所や健全な成長に貢献したい」、「そのためには親と学校の先生だけで子育てをするのはもったいないから、社会の面白い大人たちを巻き込んでいきたい」と思っています。

 

アフタースクール子どもたち

放課後NPOアフタースクールの公式サイトより。子どもたちが放課後を笑顔で過ごせるように、スタッフと地域の大人たちが様々な取り組みをしている

 

平岩 : 保護者からの「地域の人たちに子育てを助けてもらいたい」という声も反映した居場所づくりをしていますが、結果的に地域づくりにもなっているのなら、それは僕たちの活動の良いところなのだろうと受けとめています。

旧来型の地域が疲弊する中で求められる居場所づくりとは

湯浅 : 私自身は、ホームレス支援をしていた時代に地域社会からの理解をなかなか得られなくて苦労した時期が続きました。スタンダードな家族像や、正しい人生の枠からはみ出した人たちは受け入れられないのだと感じることもありましたが、自分自身はそういうものだと思っていたので驚きませんでした。だから、自分たちの居場所づくりは、地域づくりと関係なくてもいいと思っていたときもありました。

 

飛田 : 特定非営利活動法人(NPO法人)制度が施行されて25年経ちますが、当時のような旧来型の地域は、今、大きく疲弊している現状があります。神戸市でも旧来型の組織に対する抵抗感がある人はいると思っていて、そういった変化に気づいた人たちから行動を起こしていくことがとても大事だという見方もあります。

 

そういった中で、これまで「NPOって?」だった人たちの気持ちが、「NPOの人たちと接点を持ってみたら悪い印象ではなかった」と変わってきたように思います。湯浅さんが経験された旧来型の地域社会の反応との変化を感じられるほど、現在、地域が危機的な状況にあるのかもしれません。その危機感を地域住民とNPOが共有することで、新たな関係性が生まれのだろうと感じています。

水分と油は分離するけれど、マヨネーズなら融合できる

湯浅 : 飛田さんのCS神戸では、自治会連合会の事務局も担うなど、地縁団体の方々と接近しているNPOだと思いますが、融合についてはいかがですか?

 

飛田 : 生活面でも文化の違いを感じることは多いですが、最初は乗り気じゃなかった地域住民の方が、CS神戸が一緒に活動をする機会を作ったことで、若い層の人や多様な方と出会うことが楽しくなって、「新しいプロジェクトを一緒に行いたい」と言ってくれたことがあります。その地域住民の方は、今では「NPOと一緒にやることが大事」だと話しているそうです。

 

CS神戸立ち上げたい

CS神戸では、社会の役に立ちたいという市民のために「活動を立ち上げる」「ボランティア活動に参加する」サポートも行っている

 

飛田 : 水分(酢)と油は混ぜても分離するといわれますが、例えば卵黄を混ぜてマヨネーズにすると分離しない、というように、マヨネーズ状態のものを作る機会が効果を期待できるかもしれません。そういった小さな事例を積み重ねていくと、どこかの段階で広がることがあると思います。

 

湯浅 : こども食堂も、最初は地域になかなか理解されなかったけれど、現在では自治会の方々とも密接な関係が持てるようになったという話をよく聞きます。自治会が主体となったこども食堂も随分と増えました。そういった化学反応も起こっていると思います。

 

では、「居場所づくりは地域づくり」について、みなさんはどう考えますか?

 

中澤 : 私はやはり居場所づくりも地域づくりも両方必要だと思っています。仕組みとして整えていけるからこそ守れるセーフティネットがあって、さらに自由で多様な特定課題や特定のコミュニティがある。いろいろなコミュニティが存在しながら、マヨネーズ状態のように、理解し合えるからこそ融合し、変化していける地域になるような気がしています。ゆくゆくは、「どこの場所も居場所だよね」といえる状態が叶えられるのかなと思っています。

 

湯浅 : 居場所づくりと地域づくりの境界線がマヨネーズ状態になっているイメージですね。

 

平岩 : 地域に子どもたちのいろいろな居場所があって、子どもに関わる人たちがつながり合えれば、子どもたちにより良い効果が生まれると思っています。これからも、そういったつながりが進んでいくことを願っています。

 

一方で、現実的にはまだ連携が難しいと思うこともあって、「子育てはこうあるべき」「子どもはこういう過ごし方をするべき」といった大人の価値観がマヨネーズになりきれない部分になっていると思います。そういったときには、「子どもの声を聴こう」といった動きも広がりつつあるので、「子どもが思っていることを大人たちがみんなで考えるためにはどうすればいいだろう」と考えることで、水分と油の接着剤になれるのかもしれません。

 

飛田 : 特定少数の居場所を含めて、いろいろな居場所があっていいと思っています。また、CS神戸として推進している居場所は、インクルージョンとエンパワーを軸にしていて、地域に出て活動をする人が増えていくことで、エンパワメントする人たちが生まれてほしいと仕組み作りを続けています。地域から一定の場所に入ってくる人がいれば、居場所から地域に出ていく人もいるなど、多様な関係性だといいなと思っています。

「居場所づくりは地域づくり」に向かって

湯浅 : 今回、みなさんとの話では、自分たちのこども食堂の活動と重なる点が明確に感じられたような気がしています。では最後に、一言ずつ感想をお願いします。

 

平岩 : 今、居場所は、こども家庭庁でも施策の冒頭から出てくるほど子どもの世界では大きなキーワードになっています。これからも居場所づくりは注目度が高まっていくはずですので、みんなで連携しながら居場所を広げていきましょう。

 

飛田 : これまで、「居場所があることは地域づくりにつながる」と当然のように思っていました。目指す方向性など正解はないと思いますが、ただ一つ、居場所がいろいろな方のインクルージョンの場になるのであれば、旧来型の考え方や価値観の調整が難しいと思っていた地域と接し、考えること自体が居場所の継続性や存在意義を高めることにもつながっていけると思えました。そのあたりを自分の中で深めて、これからの居場所づくりの意味合いを見出したいです。

 

中澤 : みなさんの活動を通して、いろいろな側面がありながらも、最終的に居場所づくりや地域づくりにつながっていくことが革命的に感じました。これは地域づくりの真髄なのかもしれないと思っています。もし最初に考え方や価値観の壁があったとしても、最終的には融合につながるスタートラインなのだと考えることができてワクワクしました。

 

湯浅 : こんなふうにご近所さん同士のような活動をする団体がつながり合い、話し合うことそのものが新しい形を見出していくうえで大事だと思っています。ぜひ、みなさんには「居場所づくりは地域づくり」をスローガンに仲間でいてほしいし、今後もみなさんと情報交換をしていきたいです。

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まちづくり地域づくり居場所
この記事を書いたユーザー
たかなし まき

たかなし まき

1971年愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科卒業後、地元の企業に就職。その後上京し、業界新聞社、編集プロダクション、美容出版社を経てフリーランスへ。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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