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感謝の気持ちを、おくりたい。 参加者5,000人を超える金沢発の家を「おくる」プロジェクト(前編)

2015.10.24 

石川県金沢市から、お世話になった建物に感謝を込めてものを大切にする心を伝える取組みがはじまっています。今回は、「おくりいえプロジェクト」を続けているやまだのりこさんに話をうかがいました。 おくりいえの風景

おくりいえの風景

戦災を受けていない城下町である金沢には、歴史、伝統、文化を伝える貴重な資源である町家が多く残っています。しかし、近年では年間約270棟の町家が金沢から姿を消していました。町家を保存、再生して活かすことは大切ですが、町家を手放し、取り壊しに至ることも避けられません。

せめて、その町家の最期を彩り見送りたい、という思いから「おくりいえプロジェクト」はスタートしました。新たな住まい手がみつかれば「贈る」イベントも行っています。 2009年からはじまり、市内を中心に32回開催。遠方からの参加者も多く、これまでの参加者は5,000人を越え、笑顔が集う、あたたかなプロジェクトとなっています。

死化粧をするような気持ちでのはじまり

富 井 おくりいえプロジェクトはどのようにはじまったのですか?

 

やまだ 2009年に知人の隣家が数日後取り壊しになるということを知って、建築家仲間7、8人で自分たちにできることはなんだろうと考えました。そして、家も最期にきれいにして送ってあげられたらいいなと思い、動き出しました。そのときは家の中に物がある状態ではなかったので、掃除をして、毛糸を張り巡らして、最期に死化粧をするような気持ちでやりました。

家がなくなった後って「あそこに何があったんだっけ?」ということになるじゃないですか。それが、やっている最中に「あら、こんなとこに町家あったんやね」「近くに30年前から住んどるけど、中見たことないけん、見ていいけ?」という言葉が道行く人たちからたくさんあがってきて、「これは続けてやった方がいいな」と思ってはじめたのがきっかけです。 はじまりは、数日後に取り壊しが決まっていた町家。その存在がやまださんを、建築家仲間を動かし、その動きは道行く人の中に去りゆく町家の姿を残しました。 はじまりのおくりいえ

はじまりのおくりいえ

想いを共有すれば誰でも参加できるルールを

やまだ この頃は、「おくりいえ」という名前もなくて、やっている間にどこからともなくおくりいえやね、となりました。 最初は、基本的に取り壊される町家をおくることをやっていました。でも、5回目のときに新たに住みたいという方が現れて、それまでのさよならの「送る」からプレゼントの「贈る」になり、いまのおくりいえの元になっています。

その家は物がたくさん眠っていて、どうしようもないような状態でした。でも、状態がしっかりした町家だと、物をなくすだけでけっこう住めるんじゃないかと思ってやってみました。 雑巾持参で掃除をして、家にある物で欲しい物があれば持ち帰ってもらうので捨てる物も減って、とにかくきれいになります。多いときは、200人以上の方が全国からきてくれて、みんなの想いもあるし、みんなで掃除をしているとどんどんきれいに美しくなっていくので、「住めるかな?」という気持ちになってくるんです。

どんな想いで取り組んでいるのか、その想いを共有して誰でも参加できるルールだけが存在するおくりいえ。ひとりでは途方もないことも、集い、手を入れることで気持ちも開かれていく場所になっているようです。「取り壊すから好きにして」と言っていた持ち主が、美しく磨かれた姿をみて「まだ住めるかね?」と感じ、その後しばらくきれいな状態で保たれ、イベントが行われた町家もあったそうです。 おくりいえのルール

おくりいえプロジェクトのルール

小さくても大きくても、その気持ちがあれば、おくりいえ

やまだ どこも一緒だと思いますが、金沢の町家も状態のいい町家ばかりではなくて、朽ち果てて倒れそうな町家もいっぱいあります。もう倒れかけている町家を柱も何もかも入れ替えてまで直す必要はないと思っています。それだったら思い切って新築にすればいいですし、きれいに送り出せたらいいと思います。

でも、すごく状態がよくて物だけがたくさんあるような町家もすごくたくさんあって、そういうのはやっぱり、何かつなげてあげられたらと思います。どんどん、家と話ができるようになりました。 「おくりいえプロジェクト」をはじめて、それまで以上に町家の相談を受けるようになったやまださん。おくりいえの相談も、広報をかけて募集をしているわけでもなく、どこからか聞きつけて現われるようです。「家と話ができるようになりました」という言葉が町家との日々を物語っています。 雑巾持参でおくりいえ

雑巾持参で、おくりいえ

やまだ 続けることで、細々と伝わっていけば、それだけでもいいな、とも思います。でも根本は、家の最期に何ができるか、最期ではなくても、家がかたちを変えようとするときに何か後押ししてあげたいっていう感謝の気持ち、それだけだから、色んなことができると思います。

それこそ、最期に家族で神棚に「ありがとうございました」と言ってやれたら、それでおくりいえだと思いますし、もっとちっちゃいおくりいえでも、でっかいおくりいえでも、その気持ちがあれば、おくりいえになり得るという気がします。 おくりいえは、難しくありません。

誰とでも、家族とでも、ひとりでもできます。盛大に送ることも、心の中で静かに、じっと送ることもできます。この根っこにある、感謝の気持ち、ものを大切にする気持ちが活動を続ける力となり、誰でも参加できる場所をつくっています。また、みんなでおくりいえを重ねることで、おくりいえをする人々となって、わかってきたこともあります。 ひとりではできないこと、考えられないことが、変わっていく

ひとりではできないこと、考えられないことが、変わっていく

つなぎで集えば「つなぎ隊」

富 井 毎回来ているような、あの「つなぎ隊」というのはどのような方々なのでしょうか?

 

やまだ あれも、別にNPOとか団体とかいうことではなくて、その日つなぎを着てきたらつなぎ隊なんです。やっぱり作業しやすいですし、言葉もかかっているので、それぞれ勝手に買ってきてつなぎ隊になっている、という感じです。 話すときには明るめの色を薦めます。おくりいえは暗い色でやるよりも、明るめの色でやるといいなと思うので。

でも何でもよくて、好きな物を着て、好きなかたちで参加してくれたらいいと思っています。お金もかけず、無理もせず、長いこと続けていきたいと思うので。みんなそれぞれ仕事していますし、疲れないってことはすごく大事です。 2009年から32回を数え、参加者は5,000人を越えています。何度も、毎回のように参加しているつなぎ隊のような方々もいます。無理をせず、続けることで広がり、生活の中へと染み渡っています。 つなぎ隊

つなぎ隊

東京、静岡、岡山、名古屋…全国から集う人々

富 井 5,000人というのはすごいですね。すごく開かれた取組みになっていると思うのですが、参加者はどのようなところからいらっしゃっているのですか?

 

やまだ 色んなところからきてくれます。静岡からきた方は、車で夜出発して、途中仮眠をとって、朝から一日おくりいえやって、多少持って帰っていたけど、それ以上に家の掃除をしてくれて、「じゃあ!」って帰っていく。なんか、「すいません!」って思うくらい。そういう方たちが、色んなところから。東京からもくるし、岡山、名古屋、大都市圏からは毎回、決してそういう方々が多いわけではないんですが、毎回どこからかやってきます。 すごく大事な出会いがあったり、全国の色々な方と話ができるのは、すごくおもしろいし、家を介して交流できているから、やっぱりその家のおかげだと思います。 おくりいえに集まる人々

おくりいえに集まる人々

現在はホームページ上に開催情報を載せており、嗅ぎつけるアンテナを持った人々がどこからともなく駆けつけるようです。このしなやかな個人の、軽やかなつながりが気持ちのよい場所を生んでいます。そして、そのように一人ひとりが集っているからこそ、活動は続き、家を介して生まれるものが多くあるようです。  

>>後編へ続きます。

一級建築士事務所 あとりいえ。/やまだのりこ

1998.03 金沢工業大学工学部建築学科卒業 1998.04 - 2010.05 市内設計事務所勤務 2008.04 - 金沢工業大学非常勤講師 2009.06 - おくりいえプロジェクト 2010.08 - あとりいえ。 2011.04 - 金沢美術工芸大学非常勤講師

この記事を書いたユーザー
富井 俊

富井 俊

1986年福岡生まれ。九州工業大学大学院工学府建設社会工学専攻修了。小学校の校庭や都市公園、河川空間のデザインに取組む。修了後、宮崎県西米良村の観光施設運営、景観計画策定業務に携わる。その後、山梨県の総合学科高校建築デザイン系列助教諭。現在、再び西米良村に入りフリーランスとして活動。「ケアが生まれる場所を残し、つくっていきたい。居場所をつくる。」

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