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#社会・公共

なぜ寄付するの?寄付をしたら幸せになれる?〜寄付の“もやもや”を、データから考えてみた〜

2015.12.28 

前編では、日本の寄付市場の大きさと役割について税金と比較しながら考えてみました。最大50%が税金から還付される寄付税制という制度について触れましたが、全部が戻ってくるわけではなく直接的な見返りがあるわけではありません。

後編では、じゃあ実際に寄付をしたら、寄付した個人にどんなことが起こるの?ということについて考えていきたいと思います!

情けは人の為ならず? 他人のためにお金を使うことと幸福感の関係

TEDでも紹介されていますが、寄付と幸福感の関係について、ウガンダとカナダで行われた実証研究結果*1 があります。 マイケル・ノートン氏

TEDで紹介されている、マイケル・ノートン氏「幸せを買う方法」

文化的背景によらず、「自分のためにお金を使うより他人のためにお金を使う方が、より幸福を感じる」というものです。カナダとウガンダの被験者に20ドル、5ドルを渡し、それを自分のため・他人のために使ったときの幸福感の増加の寄与率を質問票分析により見た研究結果です。 図表5

(Prosocial Spending and Well-Being: Cross-Cultural Evidence for a Psychological Universal Working Paper.11-038,Lara B. Aknin, et al.より引用)

左側は主観的幸福値*2 の指標で、数字が大きければ大きいほど幸福だということを表します(1が最低、7が最大に幸福です)。白い方が個人的支出をした人、黒い方が社会的支出をした人であると(第三者によって)分類された被験者の平均値です。なお、アルファベットの「I」は、誤差の下限と上限を表しています。

 

カナダでもウガンダでも、個人的支出(自分のためにお金を使う)より社会的支出(他人のためにお金を使う)の方が、より幸福感をもたらしていることが分かります。 被験者の所得階層についてデータはありませんが、被験者820人のうち 140人がカナダの大学生(the University of British Columbia in Vancouver 487人がウガンダ学生(Mbarara University、Makerere University) 193人がカンパラの一般市民であることが分かっており、 ウガンダの大学進学率は6.6%*3 であること、高等教育費は公費によらないことから、所得階層としては“低くはない、しかし必ずしも金持ちではない”可能性が高いと考えられます。また多くが学生ですので、個人として自由に使えるお金が潤沢にある被験者ともいえないでしょう。

 

なお、お金と幸福度の関係については、ノーベル経済学賞受賞者であるダニエルカーネマン氏らによる「年収750万を超えるとそれ以上収入が増加しても、人生に対する満足感は上がるが幸福感(emotional well being)は上がらない」という研究結果*4 もあります。 お金で幸福が買えるか、という永遠の問いに対して、確かなYESという回答を与えるのが寄付というお金の使い方、とも言えるかもしれません。

国ごとに違う思いやりの境界線

もう一つ、今度は誰のためにお金を使うか、お金を出す人とお金の使い先との社会的関係について考察した研究結果*5 をみてみましょう。 図表6

日本と、韓国・香港・マレーシア・シンガポール・ドイツ・米国の7か国 (思いやりの境界線:米国・ドイツ・シンガポール・マレーシア・香港・韓国・日本の社会的割引率 佐々木,奥山,大垣,大竹2015より引用)

これは?「自分が0円もらう」か「見知らぬ外国人が7500円もらう」か、または「自分が1000円もらう」か「家族が7500円もらう」か、どちらかを選ばなければならないとしたらどちらを選ぶかといった質問を多数の人に投げかけ、各国の“思いやり”(他人に自己の資源を配分する意向)の強弱を分析した結果です。

 

当然といえば当然の結果ですが、どの国でも自分と関係性や物理的な距離が近ければ近いほど思いやりの傾向は強くなっています。 一方特徴的な結果も読みとれます。日本(と韓国)では、他の5か国と比べて家族以外の他人に対する“思いやり”の水準が低くなっています。つまり、家族かそうでないかが思いやりの境界線となる傾向があるというものです。 これは日本に“寄付文化”が根付いていないといわれることの、一つの現れといえるかもしれません。

今、日本で寄付している人はなぜ寄付をしているか?

では、寄付白書2015から日本で今寄付している人がなぜ寄付しているかについて見てみましょう。 アンケート結果(複数回答あり)によると、寄付の動機は以下のようにランキングづけされています。 図表7

(寄付白書2015を基に筆者作成)

第1位、「団体の活動の趣旨や目的に賛同・共感したから」など“団体への共感”が57.4%。 第2位、「毎年のことだから」「お付き合いとして」など、“団体や人との関係性”が55.9%。 第3位、「ボランティア活動をしたいと思ったから」「問題解決に役立ちたいから」など“社会貢献意識”によるもの49.4%。 第4位「自分に合った寄付の方法だったから(23.4%)」を含め、「寄付の特典」「満足や達成感」など“自己表現・自身のため”が34.5%。 第5位「倫理的かつ正しいことをしたいから」など“倫理観・道徳観”19.2%。 そして、「何となく」などその他10%となっています。

団体へ共感している証としての寄付と、つながり

1位にもなった「団体への共感から行う寄付」についてもう少し考えてみます。 NPOなど寄付を集める側の団体に対し、資金提供して事業をサポートしたという意味に加えて、その団体に価値を感じているという、社会的証明(お墨つき)をその団体に与えられるという意味があります。

 

政府によるNPOの認定制度も ・総収入の20%以上を寄付が占めるか、 ・年3000円以上の寄付者を100人以上集めた団体は、 パブリックサポートテストに合格した(社会からのお墨付きを得た)、公益に資する団体として自己収入にかかる税金の免除や寄付税制(寄付者を税制的に優遇し寄付を集めやすくするもの)の対象となります。

 

そのため、少額でも定期的な寄付者(マンスリーサポーターなど)に対して直接交流するような機会を設けている団体も多くあります。「将来働きたい!魅力を感じる!」という団体と接点を持ついい機会にもなるかもしれません。

自分が気になる分野に気軽に接点を持てる手段

寄付白書や経済学研究のデータを用いて、“もやもや“した寄付とその周りについて考えてきました。いかがでしたでしょうか? 私自身、寄付という言葉にはいまだにとまどいがあり、多くの“寄付”経験があるわけでも、多くの寄付をしているわけでもありません(微々たるものです)。

 

「何となく」「お付き合い」でこの人(たち)なら自分自身が実現してほしい未来を近づけてくれる、アクションを起こしてくれるかもしれない、という淡い希望を載せて、寄付のボタンをクリックしている気がします。

 

メールボックスにたまに来る、イベントのお知らせや活動報告を見て、慌ただしい毎日の中で、自分の中の「こうだったらいいのになぁ」という気持ちを思い出します。

 

寄付月間のキャッチフレーズは“欲しい未来に、寄付を贈ろう”。欲しい未来について考える機会を自分に贈る、という意味もあるかもしれません。 まだ寄付したことがない、けど興味があるという方は、自分の気になるけど接点を持てていない世界に気分が乗った範囲で関わる手段として、気軽に寄付してみてはいかがでしょうか。

 

前編はこちら

>> 日本の寄付市場は小さい?その役割は?〜寄付の“もやもや”をデータから考えてみた〜

 

関連記事

>> はじめての寄付控除入門〜NPOへ寄付したら、税金が安くなる?

 

*1:Prosocial spending and well-being: cross-cultural evidence for a psychological universal.Aknin LB1, Barrington-Leigh CP, Dunn EW, Helliwell JF, Burns J, Biswas-Diener R, Kemeza I, Nyende P, Ashton-James CE, Norton MI. J Pers Soc Psychol. 2013 Apr;104(4):635-52. doi: 10.1037/a0031578. Epub 2013 Feb 18.

*2:Lyubomirsky, S., & Lepper, H. (1999). A measure of subjective happiness: Preliminary reliability and construct validation. Social Indicators Research, 46, 137-155. The original publication is available at www.springerlink.com.

*3:http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/world_school/07africa/infoC70300.htmlから推計

*4:Does Money Buy Happiness? A Brief Summary of “High Income Improves Evaluation of Life But Not Emotional Well Being”PNAS Early Edition, September 6, 2010 By Daniel Kahneman and Angus Deaton

*5:思いやりの境界線:米国・ドイツ・シンガポール・マレーシア・香港・韓国・日本の社会的割引率(佐々木,奥山,大垣,大竹2015)  

関連リンク・参考文献

 

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この記事を書いたユーザー
佃 真衣

佃 真衣

ETIC.事務局/1988年生まれ、高知県高知市出身。東京大学文科三類入学、工学部卒。文部科学省で4年間、科学技術イノベーション政策、震災緊急対応、初等中等教育政策に携わる。教育関係のNPO勤務後、15年1月ETIC.参画。

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