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#社会政策

世界が変わる”対話”と”遭遇”のエンターテインメント〜ダイアログ・イン・ザ・ダークの2020年への挑戦

2017.10.11 

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視覚障害者の方にアテンドされて暗闇の空間を五感で感じる、世界41カ国で親しまれているソーシャルエンターテイメント「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」(以下DID)。

 

漆黒の暗闇の中につくられた森や公園で遊んだり、カフェで飲み物を購入してくつろぎながら、参加者同士での対話を重ねる体験を通じて、普段の世界では助けられることの多い障害者の方が健常者を助けたり、初対面の健常者同士が自然とお互いを助けたり、障害の有無・人種・外見・性別・社会的立場など全てがフラットになるために、対等な感覚と新しいコミュニケーションが生まれます。

 

そんなDIDが1999年に日本で初開催され、10年間の短期開催を経て2009年に東京・外苑前に常設されて8年目の今年8月末、常設会場では18万人が体験し一つの役割を終え閉館しました。そして9月、東京・日本橋馬喰町に「Tokyo Diversity Lab.」を開設し、企業・団体の暗闇でのコミュニケーション、チームワーク、ダイバーシティ研修やアテンドの豊かな感性で産業やサービスを共同開発していきながら、更に飛躍しながら活動を続けていきます。

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「ダーク=暗闇」での体験が日本では有名ですが、「ダイアログ=対話」シリーズには他にも様々な体験があります。現在、ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン代表の志村真介さんは、その全てのシリーズが体験できる「ダイアログミュージアム」Museum of Diversity and Inclusionを2020年東京にオープンするための準備を進めています。ダイアログミュージアムを通してつくり出したい新しい社会についてお話を伺いました。

 

セパレーションからインクルージョンに向かう社会変化を加速させる

 

DIDが挑戦しているのは、「障害者だから、◯◯◯はできない」と障害がマイナスになる社会から、「障害者だからこそ、◯◯◯ができる」というプラスへの転換です。DIDのアテンドスタッフの雇用条件は視覚障害者であること。ですが、本当に目指すべきは障害者=困っている人の雇用を促進することや障害者の擬似体験施設ではなく、"障害を能力に変えて共に働く方々とともに、社会変革を起こしていくこと"であると志村真介さん(以下志村さん)は話します。

 

志村さん「イスラエルの空港を降りると、イスラエルのオリンピック選手とパラリンピック選手の写真が展示されています。感動するのは、両者が分けられて展示されているのではなく、並列に混同されていることです。それと同じことが今の日本ですんなりできるかというと、まだ難しいのではないかと思います。つまりまだ日本では障害者と健常者をセパレートしているということなのではないかと思います。

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もちろん、ゆるやかに日本もいい方向に向かっています。少し前まではコンサートを楽しむためにも音楽ホールに車椅子の人は入ることはできませんでしたが、バリアフリーが進み、そのようなイベントで車椅子の方の入場もしやすくなっています。ですが、車椅子が入ることができるのは一番後ろの列だけなど、選択の余地がないことが多いのも現状です。

障害を持つ人も、アーティストの目の前で音楽を聴きたい人もいれば後ろの方で聴きたい人もいるように選択がしたい。なので障害の有無に関わらず好きなところで好きなように観られる社会構造が望ましいのです。セパレーションするのではなく、インテグレーションし、さらにインクルージョンしていく社会変化をもっと加速していきたいと思っています。そのために、2020年という機会を大いに活用したいと考えています。」

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暗闇だけじゃない、3種類の体験ができるダイアログミュージアム

 

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志村さん「社会変化を起こすには、ただ人の話を聞いたりするではない、エンターテイメントとして楽しい体験を通じた啓蒙活動を必要です。そのアプローチをより多様化していくために、2020年を目標に、3種類のダイアログシリーズを全て体験できるミュージアムの準備を進めています。」

 

志村さんの言う3つの体験とは、従来のダイアログ・イン・ザ・ダークに加えた以下の2つです。

 

ダイアログ・イン・サイレンス(以下DIS)

聴覚障害者がアテンドし、音のない世界を体験することができます。参加者は音を完全に遮断するヘッドフォンを装着し、表情やボディランゲージなど、ノンバーバルなコミュニケーション方法を見つけて周囲の人との対話を重ねます。1998年にドイツで開催されて以降、フランス、イスラエル、メキシコ、トルコ、中国でも開催。これまで世界で100万人以上が体験。

 

ダイアログ・ウィズ・タイム(以下DWT)

70歳以上の方がアテンドし、いのち・生き方・時間について、世代を超えた対話を重ねる体験です。年齢を重ねることへのネガティブなイメージや偏見から、歳を重ねることで豊かさや新たな可能性に気づいていくことをねらいとしています。これまで世界5か国で開催され、年間7万人以上が体験。

 

志村さん「DWTは2017年3月に、DISは2017年8月に、それぞれ試験的にイベントを開催し、どちらも大変多くの方々にお越しいただきました。

 

DWTは、まずある方の5歳から80歳までのほぼ一生涯を数分にまとめた映像を観るところから始まります。そこで伝えたいことは、私たちに与えられた時間は平等で、歳を重ねるということは対等だということです。DWTは、年齢や時間について日頃なかなか考えることのない私たちに、高齢者とともに考えるきっかけを提供します。

 

その後、アテンドする高齢者の方から、例えば"あなたは普段何歳くらいに見られたいと思っている?”と問いが投げかけられます。皆さんは何と答えるでしょうか? もし小学低学年くらいの子であれば、ちょっと大人っぽく見られたい気持ちがあるかもしれません。そして学生、社会人と時間を重ねていくと、どちらかというと若くみられたいと思う人の方が一般的には多くなります。こうした年齢に対する自分の概念を認識し、そのステレオタイプに気がつきます。DWTという場所で働く今を生きる高齢者の方は、存在自体が美しく思えます。そんな方に問われたら、歳を重ねること、時間を積み重ねていくことの価値について改めて考えさせられるのではないでしょうか。DWTでは、そんな対話を通じて、"歳を取ることは格好悪い"という価値観を変えていきたいと思っています。

 

さらに、今の世代だけにとって利益になることを選択するのではなく、これからは先の世代まで様々な資源や価値を残すための工夫が必要です。DWTでは、そのようなことについて考えるためのダイアログも行います。」

 

2020年に必要なおもてなしのカギは、"非言語コミュニケーション"!

 

東京オリンピック・パラリンピックの開催される2020年には、世界中からたくさんの違った文化や言語を持った人達が訪れます。今から世界中の言語を習得することはとても困難です。DISでは音のない世界での言葉の壁を超えたコミュニケーションを提供します。普段から音声に頼らず対話をする達人、聴覚障害者の方とともに、静寂の中で集中力と観察力をフル活用しながら、身振り手振りや表情など様々な手段でコミュニケーションを行います。言語によらないこうしたやりとりこそが、2020年に必要な本当の「おもてなし」の心が育まれるきっかけになるのではないか、と志村さんは仰います。

 

志村さん「DISを体験してみると、人は日頃から、"表情"を通したノンバーバルなコミュニケーションを行なっていることに気がつきます。他にも、ちょっとした仕草や、上座や下座といった座る位置が示すサインなど、たくさんの非言語の情報を日々交わしながら、周りの人と合意形成をしています。

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日本でのDIS初開催は8月。体験した人は、だいたい3つのことに気づいていく方が多いようです。まず"自分自身"の認識が変わること。海外留学に行くと逆に日本について改めて問い直す方が多いように、音声のない世界に行くことで自分自身のことを振り返る方が多くいます。二つ目は、非言語のコミュニケーションは意外にできる!という気づき。参加者の皆さんは、伝え方を変えることでこんなにも喜びに対する価値観や、豊かさの軸が変わるのかとだんだん発見していきます。

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三つ目は、耳を使わないと集中して見ることができる、という素直な感想も多いようです。また、日本の映画館で洋画を観ると当たり前のように日本語の字幕はついていますが、邦画を観るときそこに字幕はほとんどありません。ですから耳が聞こえない人には字幕の無い邦画はまだ情報が補償されていないために洋画のように楽しめない、ということに気づいたりします。日本語、英語、そして手話という言語、それぞれが並列に扱われる社会を目指していきたいですね。」

 

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変化の速度を上げて行くための"触媒”の役割

 

志村さん「ダイアログシリーズは、1988年にドイツの哲学者アンドレアス・ハイネッケ氏の発案でスタートしました。アンドレアスは、ダイアログシリーズを社会変化の触媒として機能させたい想いがあります。

 

触媒とは、自らは変化しないで変化の速度を上げていくために影響する物質のことを言います。例えば、水素と酸素を沸騰させても何も変わりませんが、そこに触媒として10円玉を入れると一気に水に変化します。プロジェクト自体は触媒のように変化しない存在でありながら、人や社会、人と人との関係を変化させていく、そんなふうに機能してきたいですね。」

 

触媒であり続けるために、志村さんは二つのことを大切にしているのだそうです。

 

志村さん「ダイアログシリーズでは、まず、文字通り”対話すること”を大切にしています。障害を持つ人と持たない人が横に並び、対等な立場で対話をする状況をつくり出しています。

 

また、もう一つ大切にしているのは、"対等に遭遇すること”です。遭遇することでお互いがインスパイアされ、お互いが成長する。社会での課題を解決に導くためには、一人一人がそれまでと違う物差しで世界を見て、行動を変えていくことが必要です。ですが、一人ひとりの"当たり前"を疑うということは非常に困難なことでもあります。だから、それまで接したことのない人や価値観に"遭遇”することが大切なのです。大きなインパクトを持つダイアログの体験で、それまで当然のように思っていた価値観を見つめ直すきっかけを提供しています。

 

そして、それだけでは障害を持つ人や高齢者の方にとってのインスパイアや成長の機会が足りません。私たちは彼らを雇用することによって賃金を支払います。中には"30年ぶりに給料をもらった!”という高齢者の方もいて、非常に元気になっていきます。自分のありのままの状態を表現し、肯定され、かつ稼いでいる状態というのは、とても大きな自己肯定感・幸福感に繋がります。今の自分でいいと自分で認められることは、これからの社会にとって重要なテーマであると感じています。」

 

コレクティブインパクトで目指す、ダイアログのその先の可能性

 

今までは企業からの支援は入れずに独立して活動を推進してきたDIDですが、今年からさまざまな企業と連携して活動を進めています。それぞれの企業の持つ価値を加えていけば、社会の変化をさらに加速するきっかけにできるのではと志村さんたちは考えたからです。

 

志村さん「企業と連携することで、イベントや非日常としての体験に留まらない、社会での日常に変化をもたらせる可能性が増えるのではないかと考えています。私たちが目指すのは、サナギが一気に蝶になるくらいのスピードでの社会変化です。この夏、DISは、鉄道会社、ラジオ局、建設会社などに支援をいただきましたが、そのような領域の企業が障害者の世界にコミットすることで、企業も社会も共に進化していくことができると思っています。

 

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現在も多くの企業で、すでに多くの視覚障害者や聴覚障害者が働いています。健常者並みに一般企業や団体で働きたい気持ちを持つ障害者の人は多くいますが、働き方によっては限界がある場合があります。これからやりたいと思っているのは、そのような人たちが一時的にDIDやDISで働けるような環境や仕組みをつくり出していけたらと。見えないこと、聞こえないことを活かしてリーダーになることができます。そして自らの可能性に気がつき、自信をつけて企業や団体に戻ったら、きっと組織の中でのインパクトは大きいのではないでしょうか。その中で障害に合った新しい働き方が生まれたり、その人だけではなく周囲にもいい影響を及ぼすイノベーティブな人材になることができると思います。」

 

顔認識テクノロジーや人工知能の活用など、非言語コミュニケーション領域におけるテクノロジーと掛け合わせる構想も志村さんの頭の中に描かれているとのこと。2020年とその先に向けて、さまざまな分野・領域とのコラボレーションにより進化し続けるダイアログシリーズに今後も目が離せません!

 

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