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2年遅れて大学に入学後、1年間休学してデンマークと東アフリカへ「人生で最も良かった決断だった」JICA・若者団体共同代表の休場優希さん【経験者が語る「戦略的休学のススメ」(2)前編】

2025.07.28 

「留学は、人生で最も良かった決断の一つでした。大学のスタートが2年遅れていた分、1年間の休学でもっと周りと差が開くかもと心配もしたけれど、留学して良かったと思っています」

 

こう話すのは、大学3年生のとき、1年間休学してデンマークと東アフリカ・マラウイに留学をした休場優希(やすみば ゆうき)さんです。現在、国際協力機構(JICA)で働きながら、一般社団法人アフリカ・アジア・ユース・ネスト(AAYN)の共同代表として、日本とアフリカの若者たちが共創するコミュニティを運営しています。

 

今回、休場さんに、社会課題に関心を持ち始めた背景、休学・留学の経緯や学んだことを伺いました。

 

休場 優希(やすみば ゆうき)さん

独立行政法人国際協力機構職員 及び 一般社団法人 アフリカ・アジア・ユース・ネスト(AAYN)共同代表、Youth TICADの創設メンバー

トビタテ!留学JAPAN8期生として、大学3年次にデンマークおよびマラウイに留学。2021年に横浜市立大学を卒業後、国際協力機構(JICA)に入構。本業の傍ら、副業として友人とともに一般社団法人Africa Asia Youth Nest(AAYN)を立ち上げる。AAYNとして、TICAD9ユースの政策提言プロジェクトやYouth TICAD 2025の企画に初期段階から参画。

 

大学受験が社会課題への造詣を深めた

休場さんが初めてアフリカの社会課題に関心を持ったのは小学生の頃。ある旅番組を通して、アフリカ・ケニアで行われていた無料の食糧支援を目にしたことがきっかけでした。アフリカで子どもの多くが食料難に遭っている事情を知ったとき、休場さんは、8歳年下の弟と重なり、とても他人事とは思えなかったそう。その後、学校の作文コンクールで「この問題を解決したい」と書いたと言います。

 

「そうしたら、私の作文が先生やお母さんたちにすごく褒められたんです。それがうれしくて。あれからアフリカの社会課題への意識が高まって、そのまま大人になって、アフリカの課題解決が仕事になっていました」

 

もう1つ、日本の社会課題に関心を持ったきっかけ、それは、高校時代、大学進学を考えたときでした。

 

「私が通っていた高校は、大学進学は当たり前の進学校でした。大半の親が子どもの教育を全力でサポートして、お金の心配も子どもは必要ない、そんな環境でした。一方、うちの親は『大学は行っても行かなくてもいい。やりたいことがあるならば、経済的に自立してからやりなさい』というスタンスで、高校生だった私には大学進学は厳しい道のりでした。

 

あの時期は、『生まれた家庭環境によって育つ環境が全然違う』と思い知らされたように思います。目の前では、まわりの子たちが自分のやりたいことを目指しているのに、自分には手に届かないと諦めるのはつらいと思っていました。

 

『もしかしたら、自分と似た思いを持つ人は多いのでは?』と、外に意識を向けたときに社会課題への造詣が深まったように思います。新しい世界が見えた感覚でした」

 

高校を卒業した後、休場さんは、2年間のアルバイト生活を経て、無事に大学進学を達成しました。

 

「世界は広い、と知ってもらえたら」自分の人生を考える中高生に伴走

大学入学後、2年生のときには、神奈川県主催の「マイプロ! For Kanagawa」(運営事務局 : NPO法人ETIC.)に参加し、中高生向けのキャリア教育支援を行った休場さん。同時に、認定NPO法人Learning for Allや通信高校での学習支援などにボランティアスタッフとして参加し、中高生たちのキャリア教育や学習面のサポートを続けました。

 

「私は大学受験ですごく苦労をしたのもあって、自分が人生で何をやりたいのかを考える時間がすごく多かったんです。『いまの中高生たちには、もっと早く自分の人生について考える時間をもってもらえたら』と思っていました。

 

その中で、『マイプロ』は、私を変えるきっかけになってくれました。自分の想いがあるとき、それをどう人に伝えたら人は共感してくれるのか、仲間になってくれるのかを学ぶ第一歩となりました。何事も一人ではできず、誰かに語らないと形にならないんだな、と強く感じたことを覚えています。

 

また、学生時代にボランティア活動をしていたのは、自分の人生を考える彼らの伴走が楽しかったからです。もし、『とりあえず大学に行かなきゃ』と思う人がいたら、私との時間を通して、『世界は広いことを知ってもらえたら』と思っていました」

 

デンマークで通ったデンマーク発祥の成人教育機関「フォルケホイスコーレ」

 

「自分の生き方について考える人が社会にもっと増えたら、一人ひとりの人生も社会ももっと楽しく、豊かになるかもしれない」

 

休場さんの中で留学への興味が大きく膨らんだのは、そんな意識を持つ人が北欧に多いと同級生を通して知ったからです。ダメもとで応募した「トビタテ! 留学JAPAN」の留学奨学金に採択されたことで、「せっかくだから」と休学と留学を決意したそう。その後、大学3年生で1年間休学し、デンマークと東アフリカのマラウイに半年間ずつ留学します。

 

「ベジタリアンは日替わりで」デンマークで社会課題に対する気軽さを体験

休場さんが留学前に設定したテーマは、「社会課題に関心を持つ若者を増やすために何が必要か」。まず先行事例が多いといわれるデンマークでは、生活を通して社会課題と若者との関係性を体感。18歳以上になれば誰でも通える、デンマーク発祥の成人教育機関「フォルケホイスコーレ」で、試験や成績のない教育環境を体験しながら民主主義的な学びを得ました。

 

デンマークのスクールで同級生や先生たちと

 

また、自分を見つめ直すことに向き合う社会人たちと出会いながら、グローバルな社会課題を学ぶコースで勉強の日々を送ります。そこで、休場さんは、「実は、自分自身が社会課題の当事者だった」と気づいたことで、社会に対する見方や考え方が変わっていくのを感じたそうです。あわせて、自分の意見を明確に表明することで周囲からの印象が変わってくることを体感するなど、自分の中で多くの変化を感じた半年間だったと話します。

 

「当時、デンマークでは、ジェンダーやフェミニズムへの関心が高くて、多様なセクシュアリティの包括についてもしっかり勉強されている方が多くいました。また、ちょうどサステナビリティの黎明期のような時期で、同級生も気候変動対策のためにヴィーガンやベジタリアンになる選択をする子がとても多かったのですが、バランスよく上手に楽しんでいました。

 

例えば、ベジタリアンになるのも友達3人で日替わりで(笑)。『火曜日は私がベジタリアンになるね』って。3日で1人のベジタリアンが生まれるというわけで、フルタイムでベジタリアンをしなくてもいいんです。友達とその両親とみんなで政治の話をしたのも楽しかった。出会った人誰もがすごく気軽に社会課題を話題にしていて、面白いなあって。私の中で社会に対する見方が大きく、もっと楽に変わる経験になりました」

 

アフリカの「月経貧困」問題を知り、古着で作った布ナプキンを配布する活動も

デンマークでの留学を終えて、次に半年間留学した東アフリカのマラウイでは、「今のキャリアにつながる社会課題を発見した」と休場さんは話します。

 

印象的だったのは、マラウイの文化や生活環境が、日本やデンマークとは大きく異なっていたこと。なかでもジェンダーや人権、特にサステナビリティに関する考え方や意識は、デンマークで社会課題に対する気軽さを体感した休場さんにとって、大きなカルチャーショックだったと言います。

 

東アフリカ・マラウイでのインターン先で

 

「最も印象深かったのは、女子教育でした。マラウイでは、女子生徒が途中で教育をドロップアウトする確率が高く、自分でも啓発運動に携わったのですが、女の子が学校を辞める大きな理由に、若年妊娠と児童婚があるんです。当時、アフリカでは、18歳以下で結婚する少女が全人口の50%以上だったと記憶しています。(※)

 

※現在、世界中で児童婚の割合が最も高い西アフリカと中央アフリカで、若い女性10人中4人近くが18歳未満で結婚しているといわれている(出典 : ユニセフデータ)

 

「東アフリカでは、私よりも年下の15歳、16歳くらいの女の子が大きなお腹を抱えていたり、赤ちゃんを抱っこしてお世話していたり、ショッキングな光景が日常的に見られました。『どうすれば、お母さんや子どもに幸せな人生を送ってもらえるのだろう?』と何度も考えました」

 

女子教育の中でも、休場さんが最も関心を持ったのが「月経貧困」でした。生理用品を買えない家庭の女子生徒は、生理になると学校を休むことが多く、休場さんはそんな当事者たちの話を聞いたことが印象に残っていると話します。帰国後は、学生向けビジネスコンテストで応募した「月経貧困」の活動が採択され、大手企業との連携で、古着回収を活かした布ナプキン作りの活動を始めます。マラウイで実際に配布する機会にも恵まれたそう。

 

マラウイで配布した布ナプキンを持って、生徒たち全員でポーズ!

 

「でも、活動を始めた約1年後の2020年2月、コロナ禍の報道が始まってから活動はストップしました。同時に、私自身、現地での活動に手ごたえを感じられず、布ナプキンだけでは女子教育の本質的な解決には至らないと痛感していました。そもそも学校のトイレや水が汚いなど、環境そのものの問題が山積みだったのです」

 

「少女たちに登校してもらうためには、インフラ自体から変える必要がある」

 

活動の継続を含めて悩んだ末、強くそう感じた休場さんは気持ちを固めます。

 

「インフラ整備のための予算を立ててもらうように政府を動かさなければ。それなら、自分たちが直接政府にアプローチできる仕事をすればいいと考えて、入職したのがJICAです。日本とアフリカの政府機関と協力しながらインフラ作りに携わり、社会課題解決に向けた事業を推進できると思ったんです」

 

やりたい仕事で役割を担えるのは、留学での気づきがあったから

デンマークと東アフリカに留学したことで、休場さんは、「自分がやりたいこと」を、日本とアフリカの社会課題解決の仕事に見出します。

 

「デンマークで社会に対する自分の目線が変わり、社会課題への造詣が深くなりました。アフリカでは、自分が望む社会との関わり方を言語化できました。自分の言葉でしっかり話せることは、JICAに入職できた理由でもあると思います。なぜ、JICAの職員という立場でアフリカと関わりたいのか。それは、政策に携わる立場の人たちと一緒に仕事をしたり、大規模なインフラ作りに携わったりしたいからです。

 

マラウイで布ナプキン活動に携わる現地の女性たち

 

自分がやりたい仕事を自分で見つけて、実際、JICAで仕事の役割を担える。そう言えるのは、東アフリカのマラウイでカルチャーショックを受けたり、女子教育の問題に触れたり、多くの気づきがあったからだと思っています」

 


 

後編に続きます(近日公開予定)。

 

>> 若者の声を届ける「Youth TICAD」で、アフリカと日本が共創する未来を。JICA・若者団体代表の休場優希さんが挑む政策提言プロジェクト【経験者が語る「戦略的休学のススメ」(2)後編】

 

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たかなし まき

愛媛県出身。企業勤務を経て上京。初めて書いた西新宿のホームレスの方々への取材ルポが小学館雑誌「新人ライター賞」入賞。食品業界紙営業記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。主に子育て、教育、女性をテーマにした雑誌やウェブメディア等で企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在は、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターと兼業。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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