副業から地方の仕事をスタートさせ、自分の仕事をつくろうとしている人たちがいます。本業をそのままに、地方の経営者と一緒に新規事業の立ち上げ・推進を行い、その経験を先の生業につなげていく。
今回は、長野と東京の二拠点生活をしながら、本業と副業を両立し、地域の魅力を再発見して届ける仕事に取り組んでいる、永井麻里(ながい まり)さんにお話を伺いました。
本記事は、首都圏等で働く人が、副業として半年間、長野市の経営者と一緒に、社会課題解決に向けた新規事業を起こすプログラム「NAGA KNOCK! (ナガノック)」を紹介する連載記事(全4回)です。長野市での挑戦をきっかけに、地方で次のキャリアや人生のトビラを開いた人や、副業人材の活用で新たなビジネスの可能性を感じている経営者へのインタビューをお届けします。
永井 麻里(ながい まり)さん
HAKOIRI事業責任者
1996年生まれ。東京大学文学部卒。ホテル運営会社、不動産プロパティマネジメントを経て、現在は新規ホテルの企画推進業務に従事。地域活性プロジェクトNAGAKNOCK!を通じ、2024年より、長野県限定のぶどう「クイーンルージュ」を使ったジュース・ジュレの新ブランド〈HAKOIRI〉のプロジェクトに参画。
聞き手 : 湯川卓海(NPO法人エティック「NAGA KNOCK! (ナガノック)」プロジェクトマネジャー)
※インタビューは2025年5月に実施しました
長野固有のぶどうをリブランディング。新ブランド「HAKOIRI」の事業推進プロジェクトに参画
──長野県との二拠点生活を始めるまでの経緯と、現在の仕事内容を教えてください。
現在は物流や不動産事業を手がける企業に勤務し、不動産事業部でオフィスビルや商業施設のプロパティマネジメントを担当しています。実は「ナガノック」がきっかけで、2025年7月にホテル企画推進の仕事へ転職することが決まりました。
過去に勤務していた会社では、建物が建ってから開業するまでの準備を担当していたので、その経験を活かして7月からフルリモートで長野と東京の二拠点生活を始める予定です。
──長野での二拠点生活はもともと関心があったのでしょうか。
私が長野を好きになったきっかけは長野県出身の夫と結婚したことでした。夫の実家は古い古民家で、古民家好きな私にとって帰省などで帰るのが楽しくて。次第に長野が好きになり、頻繁に足を運ぶようになりました。
いつか長野との二拠点生活がしたいと考えるようになり「長野」「副業」などのワードで検索したりしているときに「ナガノック」をたまたま見つけてプロジェクトに申し込みました。
──どのようなプロジェクトに参加されたのでしょうか。
長野県で伝統的な佃煮・総菜やお説料理を販売する老舗食品メーカ・株式会社エリモが、新規事業として行う高級ぶどうのクイーンルージュ(R)を使った新ブランド「HAKOIRI」の事業推進です。
長野が誇る、長野にしかないクイーンルージュをリブランディングし、そのぶどうを使ったジュースやジュレを作る「HAKOIRI」の事業展開には、とても興味をもちました。というのも、私自身、ホテル業界で地域の魅力を磨き直して再発見する仕事に携わってきたので、共通・共感する部分がたくさんあったためです。
未経験のイベントPR業務に挑戦。何度も長野を訪れ熱意を伝える
──プロジェクト期間中は具体的にどのような役割を担っていましたか?
このプロジェクトの原点は長野を愛し「長野にはたくさん良いものがある」という思いから。ブランドとしてもっと社会に出ていくポテンシャルがあるのではないか、という仮説をもとに、株式会社エリモが長野にしかないぶどう「クイーンルージュ」に着目したブランドを立ち上げました。
私がプロジェクトに参画したときは、他の参画メンバーによって商品はすでに企画されほぼ形になっていたので、商品のお披露目イベントを担当しました。具体的にはこの期間中、県内の自治体や長野市、長野県から協賛いただいたり、さまざまな県内企業をご紹介いただいたりしながら、商品のPRイベントを実施するという役割です。
──すでにプロジェクトが進み、多くの副業人材が関わる中で、大変な部分もあったと思います。うまくいったと感じた取り組みや工夫した点はありますか?
イベントを立ち上げるという経験はこれまでなかったので、進め方については自分でも手探りで進めていきました。ただ、プロジェクト期間中、長野に足を運び関係者の方々に直接お会いして、このブランドへの想いを直接伝える機会を持てたことは、自分にとって非常に大きかったと感じています。
イベントに参加していただくための熱意や「こういうことをやりたいんです」という思いを伝えるうえで、対面で直接いろいろな方とお話しできたことは、オンラインではできない経験なので、特に良かった点だと感じていますね。
お披露目イベントの様子 (中央左でマイクを持っているのが永井さん)
── 一方で難しかったと感じた点はありますか?
本業と副業のバランスを取るのが難しい部分がありました。どちらも忙しい時期が重なると時間のやりくりやスケジュールの調整に、最初は特に苦労することが多かったです。
また、イベントの準備についても、企業向けイベントは初めてだったので、招待状をいつまでに送れば良いのか、グラスをどう手配すべきかなど、細かな部分を手探りで調べながら進めました。もう少し計画的に進められたら良かったなと反省していますが、とても楽しくやりがいのある経験でした。これまでの仕事とは全く異なる新しい業務に挑戦することで多くの刺激を受けられましたね。
プロジェクト終了後、株式会社エリモは「HAKOIRI」ブランドのさらなる展開に向けて、新規事業の立ち上げや法人化を目指し、機動力の強化に取り組んでいます。ECサイトでの販売が始まっていて、私は今後も副業として引き続き関わっていく予定です。
観光を通じた地域貢献の価値に気づいた学生時代
──地域の魅力を再発見することの価値をなぜ感じるようになったのでしょうか。
私の出身である山梨県の富士河口湖町は富士山に近く、特に大学生になってからは、インバウンドの観光がとても盛んになった町です。観光客が増えるにつれ、シャッター街だった町にどんどん人が集まるようになり、新しいお店ができる様子を間近に見てきました。そういった中で、観光を通じて地域や社会に貢献したり、地域の魅力をより多くの人に伝えることに価値を感じるようになったのです。
また、学生時代に1年間留学した際、カンボジアのシェムリアップ(アンコールワットで有名な町)で現地の日系企業に半年間インターンとして働いていた経験も大きいと思います。そこでは、スパの運営会社や土産物店の運営会社で、現地の女性たちに技術や接客を教えるプログラムのサポートを行い、日本人観光客向けにサービスを提供したりと、観光を通じて地域に還元していくような仕事に携わりました。
その経験を通じて、やはり観光を通じた地域の盛り上げ方や、地域の魅力を再発見し発信することに携わりたいと思ったのでした。
古民家を活用し、地域の魅力を再発見して届けたい
──プロジェクトに参加したことで感じた変化はありますか?
やはり一番大きな変化は、転職を決意したことです。二拠点で働くということも視野に入れて転職し、その方向に動けているのは、自分にとって大きな変化でした。
長野に行く回数も非常に増えたので、以前よりも長野を深く知ることができましたし、東京にいながらそういった機会を得られたことはとても貴重でしたね。
また、古民家をどう活用していこうかということは常に私の頭の中にあるので、長野市内で古民家を再生された方が作った施設など、さまざまな方とのつながりができたことも大きな収穫です。
現在、自分たちが長野で住む古民家の改修作業を進めていますが、将来的には民泊や宿として貸し出せる形にしたいという思いがあります。その地域が古民家の修繕に補助金が出る重点地域になっているため、申請準備を進めているところです。
改修予定中の古民家
──活動の幅が広がっていますが、副業としての仕事と、本業の両立はどのように進めようとお考えですか?
その点については、私自身もとても悩んでいます。新しいことが一度に始まり大変な部分もありますが、今はできる限り全力で取り組もうと思っています。
根底には「地域の魅力を再発見して届けたい」という共通の思いがあるので、さまざまな方法を学びながら進めていきたいですね。時間の使い方については、今後さらに工夫が必要だと感じています。
「何かしたい」と思っていたことが明確になり、人生が大きく動いた
──長野市内での起業にチャレンジしたい人へアドバイスをお願いします。
私はプロジェクトを通して企業の社長さんなどさまざまな方と関わり、これまで漠然と「何かしたい」と思っていたことが、少しずつ明確になりつつあるのかなと感じています。
副業のきっかけはいろいろな探し方があると思いますが、私のように地方にどっぷり入ってみることで、普段とは全く違う業務に携わるなど新しい挑戦ができるかもしれません。もし少しでも「やってみようかな」と思っている方がいれば、まずはいろいろな話を聞いてみたり、とにかく飛び込んでみることをおすすめします。
私自身、ここで人生が大きく動いたと感じていますし、きっと良いきっかけになると思います。
──5年後に思い描く未来があれば教えてください。
「HAKOIRI」がより大きな事業に育ち、クイーンルージュの魅力を世界に発信できるといいなと思っています。
また、蔵や町家が立ち並ぶ歴史ある長野の地域では、高齢化の影響や交通の利便性などの問題で、にぎわいが失われ貴重な古民家が解体されたり、手つかずで傷んだまま残ってしまっている現状があります。
そうした地域にもっと活気が生まれ、まちが盛り上がる姿をつくり、蔵などの歴史的な建物が一つでも多く次世代に残せるような事業を立ち上げたいと考えています。
受け入れ企業・経営者の募集は例年4月頃に、参加者(副業人材)の募集は例年8月頃に行っています(2025年は8月上旬から募集開始予定です)。
>> その他の NAGA KNOCK! に関する記事はこちらからご覧ください
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