前回執筆させていただいた、「NPOの成長ギアをあげるのは"一之倉聡"だ」が大変大きな反響をいただき、おかげさまで、第一回で打ち切りの可能性もあるなか、こうして第二回を執筆させていただけることを感謝したい。
ミッション・ベースドに潜む誘惑
NPOやソーシャルビジネスは、掲げたミッション達成のために活動する。すべてはミッション・ベースドのはずだ。
「会議を行う」ことも、「出張する」ことも、「人材を採用する」ことも「ソーシャルメディアで発信する」こともミッションを達成する手段に他ならない。
しかし、そうはいっても先立つものが必要だ。組織フェーズに限らず、キャッシュが入ってこない、助成金に落選し続ける、会員や寄付者が増えないなど、先立つ資金の不足に悩むのは、市場からの資金調達に制約があるNPOの常かもしれない。
そんなとき、手っ取り早く収入になる話が舞い込んだりする。例えば、子どもたちに機会を提供することをミッションにするNPOに、高齢者への介護事業を行う企業から新規Webサイトを作って欲しいと頼まれる。自分たちであれば即座に構築できる。資金も入る。しかし、それはミッションとは外れた活動である。一方、財務状況は逼迫している。会議は紛糾するはずだ。「自分たちのやるべきことなのか」と。
議論が行き詰るとテクニカルに解決したくなる
お金は大切だ。その活動から給与を得て生活をしていれば、「お金は重要じゃない」とは言い切れない。そんなとき、「Webサイトは個人で受注して資金を得る。その資金を法人に寄付すればいいのではないか」と、頭の切れる人間が解決方法を提示するかもしれない。
少しだけ悩みの雲間に光が差す。組織ミッションはそのままに、社員個人からの寄付も入る。「それだ!」と。 このようなテクニカルな解決方法を否定しているわけではない。創業期は資金繰りに乏しく、組織より個人をプッシュすることで講演や執筆という仕事が得やすくなることもある。
給与支払いに現金が不足し、個人資金を法人に貸し付けたり、寄付として入れたりした経験は少なくない経営者が経験しているのではないだろうか。 それでもミッション達成のための知恵や時間を別のことに活用していると、自己矛盾に陥ってくる。「あれっ、自分は何をしたかったんだっけ」と。
そういう小さな矛盾が、合意された正当性のもとに積み重なることで、ミッション・ベースドな活動は崩壊の一途をたどる。当初の「これでいいのだろうか」という違和感は薄れている。そのような状況を察知し、身体を張って止めることができる「星崎邦夫」人材が必要なのだ。
"ピンポイント" 星崎邦夫
第18回講談社漫画賞を受賞した大島司氏による「シュート」という漫画がある。不世出の天才久保嘉晴が作った1年生だけの掛川高校サッカー部の快進撃を見た主人公田中俊彦が、中学卒業後に入部。久保嘉治は急逝してしまうが、残された1,2年生だけのチームが全国制覇を成し遂げる高校サッカー漫画だ。
久保嘉晴が残した、「トシ、サッカー好きか?」のフレーズと伝説の11人抜きゴールは、全国のサッカー小僧の心を打ち抜いた。 総体予選、激戦といわれたブロックを掛川高校は圧倒的な強さで勝ち抜き、いっきに優勝候補の一角に踊りでる(湖東高校 5-0勝利、西山高校8-0勝利)。
そして最初の山場であるシード校の浜野高校と対戦する。星崎邦夫は浜野サッカー部のアシスト王であり、得点の80%は星崎のアシストによるものだ。その正確なプレーについた異名は「ピンポイント」。どんな角度からも完璧に近いセンタリングをあげる。
ピンポイント・星崎邦夫(『シュート!』大島司、講談社を参考に作成)
浜野高校には県下で名を馳せるキャプテン川島太一のほか、中学時代「天才ゴールキーパー」として注目された新入生小坂部直樹がいる。点取り屋にしてエースである小坂部は、掛川高校との試合で、掛川高校ゴールキーパー白石健二に何度もラフプレーを仕掛ける(試合中断時には面前で蹴りも入れている)。
前半、浜野高校にビッグチャンスが訪れる。味方からボールを奪い、ドリブルを仕掛ける小坂部の前にいるのは白石一人。小坂部は言う。「これで最後だ!つぶしてやる」。
それでもミッションにこだわる
ゴール間際、先制点のチャンス。しかし、誰かが小坂部に体当たりをする。ボールはこぼれてゴールキーパーへ。体当たりをしたのが星崎邦夫だ。
地面に倒れこむ小坂部に対し、星崎邦夫は「いい加減にしろ!」と凄む。何が起こったかわからない小坂部は星崎を見上げながら「センパ・・・」と。 サッカーは得点を競うゲームだ。どんな形であっても相手より一点多く取ったチームが勝利を獲得する(PK戦は除く)。小坂部が一点でも多く得点を重ねて勝利するというミッションを忘れ、相手キーパーに一撃を食らわせようとしたからだ。
そのままであれば得点をあげると同時に、キーパーは負傷したかもしれない。しかし、星崎邦夫はそれを許さなかった。怪我のリスクを超え、ミッションから外れた行動をする仲間を、身を挺して止めたのだ。
掛川高校 vs 浜野高校の名シーン(『シュート!』大島司、講談社を参考に作成)
少しの勇気が組織を救う
経営者の立場として恥ずかしくもあるが、目の前のチャンス(資金など)に手を伸ばしたくなるときはある。しかも、"それなりの理屈"で自己防衛を張っているため、ややもするとミッションから離れた道に足を踏み出している自分に気がつかない。気がつかないふりをする。 経営層に限らず、スタッフやプロボノなど関係者は薄々感じているはずだ。
これまでだったら「それは僕らがやるべきことだろうか?」と真っ先に口を挟む場面で沈黙をしたり、“らしくない”言動でミッションからズレている決断を肉付けしたり。 そんなときに必要なのが星崎邦夫であり、少しばかりの勇気を持って、「それは私がほれ込み、人生をかけてきた事業とは違うのではないか」と声をあげられる人材だ。
ロジカルに説明されるかもしれない。感情的に反応されるかもしれない。それでもなお参画する組織がこれまでとは異なる方向に舵を切っていることに気がついているのであれば、組織を救う一言を、身体を張って声に出せる人材こそ、経営者にとっては宝のような存在に他ならない。
※星崎邦夫は決してマイナーなキャラクターではない。サッカー王国静岡県ドリームチームの一員として、全国大会に臨む掛川高校のためにひと肌脱ぐほどの実力者だ。
「NPOで大切なことはマンガから学んだ」前編
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