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非営利事業における「事業の成果」とは何なのか? どう測定されるのか―内閣府の「社会的インパクト評価に関する調査研究」報告書より

2016.07.08 

前回記事では、「インパクト投資」とは何か、そのコンセプトや今までの経緯(投資の仕方/され方の変化)を取り上げました

インパクト投資とは、「金銭的(経済的)なリターンと並行して、測定可能な社会や環境へのインパクトを生み出すことを意図する企業、組織、ファンドへの投資」(GIIN)とされています。

これまで非営利事業には多くの寄付や補助金が投じられてきましたが、お金の使い方をあらためて考え、社会課題を解決する「事業の成果」に対して積極的に投資をしていく流れが生まれつつあります。

では、非営利事業における「事業の成果」とは何で、どう測定されるのでしょうか。一般的なビジネス(営利事業)では、株価、時価総額、売上や利益などが事業の成果となりますが、例えば「ホームレスの生活習慣病予防」という事業における成果はどのように測るべきなのでしょうか。

先日(2016年5月)に内閣府から「社会的インパクト評価に関する調査研究」報告書がリリースされました。以下では、その概要と報告会の内容をご紹介します。

「社会的インパクト評価に関する調査研究」の背景と目的

本調査研究の背景には、人口減少や少子高齢化をむかえ、複雑・多様になっていく社会課題に対して、従来の行政の取組みだけでは対応しきれないとう社会状況があります。そういった状況下で、人材・資金・オペレーション能力といった民間のリソースを社会課題の解決に呼び込むことが必要とされています。こうした背景を踏まえ、下記3点の評価のあり方を検討することが調査の目的とされています。

  1. 団体の PDCA サイクルに資する社会的インパクト評価
  2. 人・モノ・金といった資源開拓・資源調達に資する社会的インパクト評価
  3. 多様なステークホルダーが目指す目標を可視化し、共有する上で有用となる社会的インパクト評価

報告書の構成は、第1章:調査概要、第2章:文献調査、第3章:国内事例調査、第4章:海外事例調査(米・英)、第5章:「社会的インパクト評価検討ワーキング・グループ」の内容となっています。以下では、第2章:文献調査(社会的インパクトとは何か)、と第4章:海外事例調査(英国)に焦点をあてていきます。

そもそも社会的インパクトとは何か

この報告書では「社会的インパクト」を活動に基づく結果の変化・効果を「初期アウトカム」「長期アウトカム」のセットとして定義しています。事業への参加人数、購入数といったよく「成果」として語られてきた指標は「アウトプット」に分類されます。

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出所:社会的インパクト評価に関する調査研究

 

非営利のマネジメントやインパクト評価、インパクト投資の分野で先行している英国、米国では、はやくから社会的インパクト評価が必要とされてきました。金融危機以降財政が逼迫し、限られた財源の中でより効率よくサービスを提供するために、行政や非営利団体においても事業の成果を求める国際的な潮流がうまれてきたのです。

イギリスでの調査によると、過去5年間に社会的インパクト評価への取組みを強化した理由として「資金提供者の要求の変化」が最も多く、半数以上を占めています。

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出所:社会的インパクト評価に関する調査研究

 

「Outcome Matrix」を活用した交通事業者のインパクト評価

Hackney Community Transportation Group (以下HCT Group)は、1982年に設立された、路線バスやスクールバス、高齢者送迎サービスを提供する社会的企業です。

HCT Groupがインパクト評価を実施し始めたのは2009年からで、当時は第三者機関と協力して経済(Economic Impact)、社会(Social Impact)、環境(Environmental Impact)、多様性(Diversity monitoring)の 4 つの要素を盛り込んだスコアカードを作成してインパクトを評価していたそうです。

2015 年からは、Big Society Capital が作成した「Outcome Matrix」を活用しています。SROI による社会的インパクト評価も検討したそうですが、HCT Groupの事業にはフィットしないこと、投資家がOutcome Matrixでのレポートを希望していたことからOutcome Matrixの採用にいたりました。

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出所:社会的インパクト評価に関する調査研究

定量・定性両方の情報提供を重視した隔年のインパクトレポート

IntoUniversity は、2002 年に設立された非営利団体です。貧困層や中間層の 7~18 歳の子どもたちへの学習支援サービスを提供しています。

IntoUniversity では2 年に一度インパクトレポートを発行していて、定量的な社会的インパクトだけでなく、詳細なケーススタディを作成するなど読み手に事業内容が伝わるよう工夫しているそうです。IntoUniversity で学習していた 13 年生(高校の最終学年)のうち、 79%が大学等の高等教育に進学しています。

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出所:社会的インパクト評価に関する調査研究

 

英国では、社会的な事業に対する投資を「産業(市場)」と捉えていて、社会的な事業に投資する資金(市場に入ってくる資金)とそれらを引き受ける事業者のキャパシティの双方を整備し、両者をつなぐ環境整備を積極的に行っています。

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出所:社会的インパクト評価に関する調査研究

 

こうした世界的な潮流のなかで、日本の行政もガイドラインの作成や事業の社会性に関するレポートの提出を義務づけた法人格の導入、法整備など社会的インパクト評価を実施するための環境整備を行うことで事業者の取組みを進めています。

行政のほかにも、中間支援組織などの「インパクト評価推進主体」(日本で言うNPOセンターなど)、事業者である「インパクト評価実施主体」(日本で言うNPOなど)にヒアリングをし、社会的インパクト評価に関する取組みをまとめています。(詳細は報告書をご覧ください)

日本国内においては、ロジックモデル、セオリーオブチェンジ、ランダム化比較試験(RCT)、社会的投資収益率(SROI)、事業者独自の評価手法を用いて、社会的インパクトが測られています。(詳細は報告書(第3章:国内事例調査)をご覧ください)

 

報告書のまとめパートから

資金を提供された事業者(非営利団体など)は、その資金をどのように使ったかを資金提供者に説明する責任があります。「事業の成果」を明らかにし、透明性を確保することは、投資家をはじめとする様々なステークホルダーへの説明責任を果たすことだけではなく、組織のキャパシティ・ビルディングにもつながっていると報告されています。

すでにたくさん存在する様々な指標ですが、インパクト評価を推進する中間支援団体は、いかに現場の声を聴きながら測定可能なものを作っていくか、投資家と事業者をつなぐ仲介者の機能を強化していくか、それらを様々なセクターのリソース(知見と資金)を活用しながら進めることなどが課題となっています。

インパクト評価を実施する事業者は、いかに自分たちの事業の社会的インパクトを可視化していくか、長期的な変化を視野に入れていくか、インパクト評価にかかるリテラシーを向上させるかが課題となっているようです。

 

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この記事を書いたユーザー
Erika Tannaka

Erika Tannaka

岐阜県出身。シンクタンク研究員を経て、現在は外資系戦略コンサルティングファームリサーチャー。プロボノとして政策提言や課題調査などNPOの支援に携わる。

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