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スーパー「ひまわり市場」の熱血社長ナワさんが語る「お客様は神様じゃなくて王様」の意味とは?〜連載"いいお店"第2回

2017.05.25 

「八ヶ岳の近くにすごいスーパーがある」。

その噂を聞いたのは、山梨に住む友人からだった。まず品揃えがすごいという。そして商品の紹介ポップもすごいのだそうだ。さらに店内放送もすごくて、その放送をしている店長がほんとうにすごいらしい。

なにがどうすごいのか? さっそく山梨県北杜市へ確かめに行ってみた。

ふつうのスーパーとは一味ちがうポップ、店内放送

八ヶ岳の麓側、南アルプスを一望できる斜面の市街地にあるひまわり市場。

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さっそく中に入るとまず野菜コーナーがはじまる。地元の生産者の、有機や無農薬、減農薬の野菜が並んでいる。どれも新鮮で美味しそうである。中を進んでみると、ふつうのスーパーには売っていないような調味料が並び、東京でもあまり見たことがない様々な加工品、そして海のない内陸なのになぜか新鮮な魚介類が。富山湾のノドグロやクエが並んでいる。そして目に飛び込んできたのはポップ。

 

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ふつうのお店にあるポップとは一味ちがう。見てみると、どのポップもやたらとテンションが高く、情報量も多いのだ。すると店内放送が聞こえてきた。

"旬のものを食べるのは、人間の権利であり義務であります!"

入荷してきた魚や野菜の美味しさ、ひと味ちがう加工品のこだわりポイントについて、何やらずっと喋っている。喋っているというよりもほとんどパフォーマンスである。あれが店長さんだ。忙しいお仕事の合間に時間を頂き、ひまわり市場の那和(なわ)秀和さんにお話を伺った。

名物社長・那波秀和さん「声が大きかったので鮮魚担当になった」

——お生まれは、このひまわり市場がある山梨県北杜市だったんですか?

那波秀和さん(以下敬称略):生まれは大阪ですが、父の仕事の関係で引っ越しをたくさんしてきました。物心ついたときには千葉、それから神奈川県の鎌倉、バングラデッシュ、藤沢、学校の寮、川崎、また藤沢、そして社会人になって山梨です。そして就職したのがヤオハンというスーパー。鮮魚担当として河口湖の店舗にいました。学生の時から人にものを売るのが好きだったんですね。

 

——魚には関心があった?

那波:全くないです(笑)。あさりとしじみの区別が付かないくらいでした。最初に入ったスーパーの人事の人が、「八百屋は背が高いヤツがいい、高いところに野菜を積むから。肉屋はやっぱりガタイがいいヤツ」。で「魚屋に向いているのは、声が大きいやつだ」と。それだけが理由で、魚の担当になったんですね(笑)。そしてヤオハンが無くなって、山梨の魚市場にしばらく居ました。そこでひまわり市場の先代の社長に会って、ここに来ることになったんです。

 

——ひまわり市場ではやっぱりお魚担当だったんですか?

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那波:いえ、いきなり店長をやれと言われました(笑)。何もわからない状態でしたから、鮮魚以外のことを全部そこで覚えましたね。その後、店長兼専務になって、いまは社長としてやらせてもらっています。

地域の人の心とカラダは、スーパーの食べものがつくる

——ひまわり市場の一番の特徴は、こだわりの商品だと思います。都会の普通のスーパーなんかよりもぜんぜんこだわった、選びぬいた商品が並んでいますね。今のようなひまわり市場のスタイルやお店の志向というのは、どうやってできてきたんですか?

那波:ひまわり市場を任されてしばらくは、どこにでもあるものしか並べていなくて、売り上げもあまり伸びなかったんです。他と同じものを売っていたら、安いところに負けるに決まっている。じゃあどこにも売ってないものを集めようと思ったんです。東京のスーパー、成城石井のバイヤーさんのところに飛び込みで教えてもらいに行ったりしましたね。あとは、いいものを仕入れられる目利きのスタッフを少しづついれていって、今のスタイルになりました。

 

——なるほど。そうやって他ではあまり見ない商品を増やしていったんですね。こうしたこだわりの商品を買ってくれるお客さんとしては、八ヶ岳という大きな別荘地があること、また北杜市は都心からの移住者が多い土地柄であるというのも関係していますか?

那波:地元住民の数はだいたい5000人。この規模のスーパーでは普通は成り立たない人数です。別荘に住んでいる方や、二地域居住されている方たちも、確かにお客さんとしてはいらっしゃいますね。

人間って、当たり前ですけれど、食べたもので生きていくじゃないですか。何十年間と食べてきたもので、その人の人生がある。店の都合でヘンなものや安いだけのものを食べさせていったら、その地域の人たちがおかしくなると思うんですよ。地域のスーパーの大事な役割はそこなんです。食べものが人をつくる。だったら胸を張って売れるものをひまわり市場では売りたい。そういう信念はありましたね。

 

——スーパーが、地域住民の心とカラダをつくるということですね。たしかに地域の胃袋ですよね、スーパーって。大事な場所ですね。

那波:大事ですよ! われわれの売っているもので、地域の人たちがほんとうに変わっちゃう。高い安いだけじゃなくて、いいものを食べて いたら、いい表情になる、いい人が集まる。うちのお客さんは健やかな人が多い気がします。ふつうのスーパーよりも割合ははるかに多いと思います。

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地域における野菜の重要性

——スーパーにとって、野菜というのは重要な商品なんでしょうか?

那波:一番重要ですね。この北杜市という地域は、野菜が旨いんですよ。小規模で有機栽培系の人たちが多い。自分のところでつくった野菜を、自分で食べている人ばかりなんですよ。大規模な農家さんだと、出荷用と自分の家用は別につくったりするじゃないですか。うちが取引している生産者には、そういう人は少なくとも1人もいませんね。胸を張って自分の作った野菜を食べている。それは野菜だけにかぎらず、お肉も調味料もお酒も同じですけれども。

 

——ひまわり市場の周辺に、そういう生産者さんが集まってくるんでしょうね。

那波:移住して農業をはじめた人が多いということ。あとは傾斜地なので反収、つまり一反あたりの収穫量が低いんですね。広い場所で、単一の作物を作り、大きな機械で一気に収穫、という大規模な農業スタイルではなく、一反二反という広さの畑を、主に手作業でやる。だから少量多品種で単価を上げて、気候や相場のリスクを回避しながら農業をしている生産者さんが多いんです。単品量販をしても外の地域に勝てない。つまりひまわり市場と同じなんですよ。

 

——なるほど。同じですね。そういう生産者との関係性も一つ一つ、作ってこられたということですね。

那波:ひまわり市場に置きたい、と言ってくれる生産者さんも多いです。ウチは絶対に、生産者にまけてもらうことはしません。値段は生産者さんに決めてもらう。100円で売りたいなら、その値段でウチは買う。その代わり売れなかったら、その値段に見合った作物になっていないということだ、と伝えています

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——大手のスーパーとはまったく違うやりかたですね。大手の場合は、スーパーの側、流通が値段を決めますよね。

那波:「いつまでにいくらで何百ケースもってきてください」というやりかたですよね。ウチは生産者に全部決めてもらいます。生産者にも、生活があって家族も居る、貯蓄も必要でしょう。だからそれに見合った商売をしてもらいたい。移住してきて農業をはじめた方が、うまくいかなくてまた都会に戻ってしまうということになると、地域のためにもならないですしね。幸い、いい循環が出来てきています。素晴らしい作物を生産者が出してきてくれて、それがお客様に認知され、勝手に店の評判もあがってきています。

 

——生産者も持続的にいい作物が作れるように、そしてそのいい作物を食べる地域のお客さんの身体とココロがよくなる。それぞれみんなが生きるように間に入っているのが、ひまわり市場ということですね。

ひまわり市場を見て、「ここに移住しよう」と決めたお客さんも

——お魚についてお聞きします。いまは九州と富山のものが入っていますね。

那波:浜から直接買っているのはその2つで、あとは築地の市場経由でも買います。山梨は海が無い、無いからこそ売る。富山からノドグロが入ってくる。山梨でクエを食べたことがある人も少なかったでしょう。標高900mのスーパーでウチワエビがバンバン売れている(笑)。

これはやっぱり、別荘に住んでいる二地域居住の方たちが、美味しいものを知っているというのもあると思います。「こんな山の中で、こんなものが手に入るのか」と驚いてくれる。ひまわり市場を見て、「ここに移住しよう」と決めた方もいます。伊豆に移住する予定だった人が北杜市にしたそうです。私が聞いたことあるだけでも20人はいますね。魚はそういう意味で突破口の一つになっているかもしれません。

どんなことであれ、地域に人を寄せる磁石のようなきっかけになれればと思っています。来てくれた人は地域でお金を回してくれますし、その人が活動することで、周りにもいろいろな面で触発する存在になる。

 

——山梨でクエが売っている、というのはある種エンターテイメント的なところがあるというか、「えー!クエー!」という驚きがあり、面白いですよね。

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楽しい店内放送、ポップは自分たちが楽しんでいるから生まれる

——先日この店にはじめて来させていただいて、単純にとても楽しかったんです。店長の店内放送のMCも楽しい。商品のポップも読んでいてほんとうに笑ってしまうくらい面白い。「お店が楽しい」ということにあらためてびっくりしたんですよね。お店の”楽しさ”、ということはなにか意識されているんでしょうか?

那波:もう単純に、自分たちが楽しんでいますよね(笑)。思い切りポップを書いたり、店内放送のMCをやったりというのも、もちろん売りたいというのはありますけど、あれをやることで自分のテンションがあがる(笑)。働いていてすごく楽しい。

たとえば店内放送で従業員をイジると、イジられたほうは恥ずかしいんだけど、でも楽しい(笑)。お客さんもイジられたら二度と忘れないでしょう。スーパーの店内放送で自分の名前を呼ばれたなんて(笑)。

 

——お客さんもイジるんですね(笑)。

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那波:イジりますよ(笑)。昨日も「このメンチカツを買いにはるばる東大阪からいらっしゃいました」って喋りましたよ。そうしたら別のお客さんから、「なんで? 東大阪から来る?」と聞かれたりして、「なんでかはご本人に聞いてみてください」、みたいなやりとりがありましたが(笑)、日々そんなのばっかりです。やっぱり自分で楽しみたいというのが一番です。

↓こちらから実際の店内放送が視聴できます。

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買い物って楽しいものじゃないと。今夜の晩御飯は何にしようかとわくわく考えるのは、その人の貴重な権利じゃないですか。だったらその権利を行使するために、楽しくてワサワサしていて、いろんな選択肢がある店に行く方がいいじゃないですか。

 

——あと従業員さんもいじられるとその気になる。目利きだと言われたら、がんばりますよね、きっと。

那波:店内放送でフザケているふりをして、「このレベルより下のものは売るんじゃないぞ」とメッセージとして伝えてるんですよ。それは彼らにスパスパと刺さっていると思います(笑)。

 

——店内放送による人材育成ですね(笑)。

那波:「あいつはこれだけの人間です、目利きですよ!」と言われたら、そこからさらに上に行こうとするのが人間だと思いますから。

 

——あの店内放送MCのスタイルは、いつ始まったのですか?

那波:新しい商品で変わったものを仕入れはじめたときに、たとえばあまり普段は見ない魚を仕入れても、ぜんぜん売れないんですよ(笑)。見向きもされない。じゃあそれを売るためにどうしようかと考えて、漁師に電話したりした。「これどうやって食ったらいいんだ?」と聞いたら、「これは富山では舟に乗った漁師しか食えないごちそう。顔はまずいけどこうやって食うと旨い。地元の人は大好物なんだ」というような話しを聞くわけです。それを覚えておいて、まずはポップに書くようになった。それから店内放送でも喋るようになったんです。

 

——最初は売れないものをどう売るかというところからなんですね。とにかく聞いているだけで楽しいので、買うか買わないはともかく、聞いてしまう、見てしまう。そして思わず買ってしまう(笑)。香具師とかバナナのたたき売りみたいな、商売の原点みたいなものを感じました。

那波:同じだと思いますね。大元をたどれば、その商品の特性を説明して、お客さんに興味を持ってもらって、楽しんでもらって、笑ってもらって、時には泣き落として、モノを売り切る(笑)。それは昔から変わらないでしょう。紀元前からおそらく変わらないでしょう。ネットでボタンひとつでモノが買えるようになっても、それは変わらない。

 

——あのMCをしている時、どんなことを考えているんですか?

那波:店内のいろんなところから、人や商品が出たり入ったりしているじゃないですか。無農薬の春キャベツが来た、飛騨から牛乳が届いた、サバのフライが出てきた、クエの刺し身が出てきた。自分の五感をくすぐるものがあっちからこっちから出てくる。それを見ながら、私の役割は伝えることなので、「あれも言わなきゃ、これも言わなきゃ」とマイクを通して喋るわけです。それを聞いたお客さんが、「あれが来ました~」というとあっちへ行く、「これが来ました~」というとまたこっちへ来たりして。そういう動きを傍から見ているのもとても面白いです(笑)。

”旬”ていうことじゃないですかね。「今これが来ました!」、「今あれができました!」というのは旬ということだから。旬以上にいいものはない。ウチの目指しているものは旬ですね。

 

——「旬を味わうのは、人間の貴重な権利であり義務!」というあのパンチラインはそこから来ているんですね(笑)。

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那波:いまネットが進化しているじゃないですか。リアル店舗がどんどん潰れていくという現実はあるかもしれませんが、逆にウチは出番だなと。それは人を売ってるから。人に会うためにはリアル店舗しかない。ネットは文字と画像と動画しかない。生きている人間の生きた商売ができるかといったらできない。そういう意味ではこういう商売はぜったいに無くならないと思います。

 

——ネットの時代だからこそ逆に、リアルでライブというものの価値はなくならないと。”旬”ということの価値ですね。

那波:規模じゃAmazonに勝てませんけれども、でもここに来たらAmazonには負けない。そのくらいの覚悟でやっています。

働いている人もやたらと活き活きしているようなスーパーをつくりたい

——最後に、那波さんにとって、”いいお店”とはどんなお店でしょうか?

那波:みんなが幸せになるお店ですかね。だれかを踏み台にするとか、搾取するとかではなく、作った人、運んできた人、売る我々、食べるお客さん。みんながそんなに大きく儲かるわけではないけど、必ずメリットがあって、幸せになる。そういう店を目指していますね。

だから、お客さんに頭を下げてなんでも安く売るなと言うことはよく言っています。生産者もお客様も我々スタッフもみんな同じ人間ですから、対等。

 

——”お客様は神様”ではないということですね。

那波:お客様は神様じゃなくて王様だと。王様は何をやってもいいわけじゃない。道に反していたらダメ、権力を失いますよね。ここは実はなかなか、スタッフにわかってもらえないところで。どうしても買う側の優越感のようなものがお客さんにもある。スタッフにも「仕入れてやっている」という意識がどこかにある。そうすると無茶を言われても川上がガマンしてしまったりする。そういうのを、ゼロにはならなくても、だんだんなくしていきたいんです。

「どうしてこれこんなに高いの?」とお客さんに言われても、「みんなの生きる糧が入ってますんで」とちゃんと言いなさいと。自分の利益のことばかりで、ひまわり市場のスタッフや生産者の生活のことを考えていないんだから、そういうお客さんの言うことは気にしないでいいと。

 

——ひまわり市場のようなお店が広がっていくと、社会の雰囲気も変わるでしょうね。

那波:こういうおもしろいおかしい店が取り上げられたりして、広がっていったらいいなと。「おれは買ってやってるんだ」みたいな横柄な気持ちのお客さんやお店のバイヤーが減っていくだけでもぜんぜん違う。間接的に男気でやってる店があるんだ、ってことが知れ渡って広がれば、人の足元を見てやってるお店が商売しづらくなる。

スーパーマーケットってやっぱりブラックな業界なんですよ。休みが少ない、給料は安い、土日も休めない。そこを打破したい。スーパーなのに、8時間ピッタリは無理だけどそれなりの勤務時間で家に帰れて、週休二日。給料も少しずつでも上がっていって、体を壊してしまったり事故にあったりのような事態のセーフティーネットもある。

働いている人もやたらと活き活きしているようなスーパー。

今なら作れるかなと思っています。ちゃんと人を人として雇用して、一人ひとりが輝けるような会社。日本で一つしか無い会社を作りたいですね。

 

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