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#経営・組織論

正解のわからない時代の意思決定とは。チーム全員がリーダーシップを発揮する組織「ビュートゾルフ」

2020.06.29 

大きな社会の変化が起きている今、どのような組織経営が求められているのでしょうか。そのヒントを得ようと、オランダ最大の在宅ケア組織である「ビュートゾルフ」よりタイス・デ・ブロック氏をお招きし、チーム全員がリーダーシップを発揮する組織経営についてお話を伺うイベントを開催しました。

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聞き手は、日本にティール組織のエッセンスを広め、組織開発を支援している嘉村賢州氏、そして数年前からティール組織の要素を実験的に取り入れているNPO法人ETIC.(以下、エティック)の宮城治男です。

「不安定かつスピードも求められる状況で、どう意思決定を進めればいいのだろう」「変化に対応できる組織にしていくための具体的なプロセスは?」。そんな問いに、ビュートゾルフの具体的な事例を用いてタイス氏が答えます。

 

〈ティール組織〉とは?

階層構造がなく、組織のメンバーがそれぞれ裁量権を持って動き、互いにそれを理解し合いながら業務に取り組む組織のこと。

〈ビュートゾルフ〉とは?

ヨス・デ・ブロックと一組の看護師チームによって、2006年にオランダで設立された非営利組織。現在同国最大の地域看護師の組織として、高齢者や病人の在宅ケアサービスを提供している。また、そのモデルを世界中に広めるべくアジア・ヨーロッパで展開中。その大きな特徴である組織構成は、15,000名の看護師・看護補助、50名の管理部門、21名のコーチ、2名のディレクター。

世界的ティール組織が語る、コロナ時代におけるリーダーシップとは

 

宮城治男(以下、宮城):今日タイス氏に伺いたいのは、例えばティール組織は正解のない時代にクリエイティブに仕事をしていく際に非常にマッチする考え方だと言われていますが、一方で今回のコロナ禍のような緊急時において、一人の強いリーダーシップが発揮される組織の方がスピーディーに舵を切れるとも言えると思うんです。各国の大統領のリーダーシップに国民が頼もしさを覚える側面もある中で、ビュートゾルフが今意思決定において大事にしていることは何でしょうか?

 

タイス・デ・ブロック氏(以下、タイス):おっしゃる通り、伝染病の蔓延や戦争など危機的状況においては、国にしろ組織にしろコントロールが強まる傾向があります。ただ私はそれは違うのではと感じていて、それぞれがリーダーシップを持つ考え方を伝えていきたいと思っています。

有事の際に大事なのは「調整力」です。正しい人たちに必要な情報を、適切なタイミングでどう届けていけるのか考える必要があると思います。オランダのビュートゾルフでは、コロナウイルス感染拡大に対して危機対応チームを作り、誰がどのような専門知識を持っているのかをまず集約しました。

また、オランダ政府がこの危機的状況の中最初に述べたことは、「政府が治療に必要な防護服をすべて用意し全組織に分配する」ということでした。しかしながら実際は在宅介護・医療の組織は配布リストの中でも一番下にあげられていて、「看護師の皆さんは患者の方から1.5 メートルの距離を保って自分たちの身を守ってください」といった方針が示されるに留まりました。もちろんそのような対応は不可能であると分かりきっていたので、私たちはどうやって従業員とクライアントを守ることができるのか考えることに注力しました。

そこで最初に行ったのが、フェイスマスクの作り方の情報提供でした。2つ目に、自分たちでマスクの供給元を探そうと奔走しました。結果、世界中の組織との協働が生まれ、中国国内に300万枚のマスクを2週間で届けてくれる団体を見つけ出したんです。当時オランダ政府は必要な器具が欠如していると言っていましたが、必要十分量のマスクを購入することができたので、他の在宅医療の団体とシェアすることにしました。

これらのプロセスにおいて、私たちは働いている看護師全員に同じだけの情報を提供して、医療用のマスクがいつ何枚届くということを伝えることでみんなが安心して信頼感を持って働ける環境を維持できました。

 

ビュードゾルフのホームページにはコロナウイルスに対する同社のスタンスがわかりやすく記載されている

ビュードゾルフのホームページにはコロナウイルスに対する同社のスタンスがわかりやすく記載されている

 

ティール組織の実際①:パフォーマンス管理はコミュニケーションで解決

嘉村賢州氏(以下、嘉村):ここからは会場からの問いに答えながら、ビュートゾルフの組織運営の実際について紐解いていければと思います。

まずは、これだけ拡大して大人数が働く組織では職員のモチベーションに温度差も出てくるのではないか、そうしたときに介入していくのか見守っていくのか、お聞かせいただけると嬉しいです。

 

タイス:ビュートゾルフにおいては、すべてのチームが従わなくてはいけない基本的な考え方があります。1つ目がすべてのチームが財政的に持続可能であること、そのためにおおよそ60〜62%の生産性を維持しなければいけないということ。2つ目は、そのためにも成果を比較検討できることが重要になるので、看護師は必ずビュートゾルフ WEBのシステムを使用すること。3つ目は、各チームが自分たちで採用を行うことです。これで組織文化は維持されるので、それ以外のことは自分たちで意思決定していくよう伝えることができます。その際、大前提としてチーム全員が意思決定の内容に居心地の良さを感じることを大事にしてもらっています。

その上でモチベーションについてですが、私の経験上看護師は金銭的な理由よりも人が好きで助けになりたいという想いで働いている人がほとんどなので、その在り方が組織運営にも表れていると思っています。そんな彼・彼女らにビュートゾルフモデルで大事にしていることを共有し、どのような役割を担ってほしいかコミュニケーションし続けることで、チームの一員というだけではなく「ビュートゾルフ」の人間なんだと感じてもらえることができるのです。

 

嘉村:とはいえ、実際に大幅に目標を達成できていないチームや個人があった場合、どのような対応をされているのでしょうか。

 

タイス:ビュートゾルフには21人のコーチが組織にいるのですが、そうした場合には彼らが動き、必要なアドバイスを伝えるようにしています。意思決定は本人たちに任せることで、何が問題なのか自分たち自身で気づくことができるんです。同様の課題が起こったときに他チームがどんな取り組みをしたのかも、コーチから聞くことができます。これまで管理部門から咎める必要があったような事例は発生していません。

ティール組織の実際②:コーチの存在

嘉村:コーチの役割は非常に重要なものだと思いますが、何か特殊な訓練をしているのでしょうか。

 

タイス: コーチはビュートゾルフの看護師として働いている人の中から採用されます。とあるエリアでポジションに空きがあった場合、基本的には他看護師の推薦で採用され、応募の場合には性格の特徴を見させていただいています。ジャッジメンタル(批判的)ではない、多様なアイディアに寛容な人であれば採用になり、その後1年間コーチになるための様々な訓練を受けます。

コーチが十分な役割を果たしていない場合には、チームから直接フィードバックが返ってくるので、自身の成長にもつながります。また、ビュートゾルフのメンバーはコーチは自分たちに指示する存在ではなく解決策を探すことを手伝う存在だと理解しています。

 

嘉村:日本でも組織内にコーチを育成していくときのポイントはありますか?

 

タイス:コーチの大切な素養はジャッジメンタルではないことです。あとは、他組織に同様の問いをもらったときには「まずマネージャーの人たちを候補として見てください」と伝えています。私の経験上マネージャーのポジションにいる人たちの中には、人に指示することに対して居心地がよくないと感じている人が多くいます。それよりは、メンバー自身が解決策を見つけるためのインスピレーションになりたいと感じているのです。

もちろんすべてのマネージャーがいいコーチになるとは限りませんが、二つの役割には何らかの重なりがあるので、そこを理解してスキルアップの機会を提供していくことが重要です。

ティール組織の実際③:チーム人数は、すべての人が意見を言える人数に定める

嘉村:ビュートゾルフのチームメンバーは12名とのことですが、その理由を教えてください。

 

タイス:日々の業務に関わらずとも、12人以上の人と「今日の夕飯はどこで食べよう?」と相談したらカオスな状況になると思います。ただ同時に、12人というのは業務分担するのに非常に良いサイズです。もちろん4〜5人のチームが劣っているわけではありませんが、15人以上は難しいなと感じていて、経験上12人がすべての人が解決策に対しての意見を言い合える環境を保つことができるベストな人数だと感じています。

ティール組織の実際④:採用はそれぞれのチームで行う

嘉村:人を採用する際にハレーションが起こる場合もあります。採用については組織内でどのような話し合いが持たれ、対立が起きたときにはどう対応されているのでしょうか。

 

タイス:オランダでは、在宅介護が必要な人口に対する看護師の数が十分ではありません。クライアントの数が増えすぎているんですね。新しいメンバーを必要とする場合には、まずそれぞれの家族や友人など身近なところで探すようにしています。難しければポスターを該当地域の公民館やスーパーに掲示して探します。そうすると通常20数名からの応募があり、チームの中で独自の面接を行い、チームに一番合った人をチーム全員で判断して採用しています。

チームメンバーが自分たちの同僚を直接採用すると、その新規メンバーとともに成果を目指そう、お互いにうまくやろうという強いコミットメントを持ちます。さらに看護師それぞれが採用の知見を深めていくことで、組織文化がより醸成されていくのです。

ティール組織の実際⑤:役割の違いによる衝突は起きない

嘉村:例えば管理部門と看護師の人たちとの信頼関係がこじれたときにはどうしているのでしょうか。

 

タイス:私たちの組織では、そういったことは起こりません。それは役割や役職ではなく、単純に異なる機能を持つ人々が一緒に働いているとフラットに捉えているからです。

上下の関係を作ってしまうと、下にいる人たちに自分たちの幸せを奪われないように動くメカニズムが働いてしまうので悪循環を生みます。ビュートゾルフにはおよそ15,000人の従業員がいますが、これが意味することは15,000通りの素晴らしいアイデアがあるということ。それらの声を一つずつ拾うことが組織の発展に貢献するのではないかと思っています。さらに現場レベルで何が起きているのかを把握することが、組織レベルでより良い意思決定をするのに大事なことではないかと私たちは考えています。

一組織が見ている、ティールへの旅路の途中の風景

宮城:エティックでも、ティール組織の書籍を参考にさせていただきながら、嘉村さんに伴走をお願いしてこの2年間組織改革に取り組んできました。ティール組織を知ったのは、自分たちが生み出していきたい価値と、組織の実際の在り方にずれを感じていた時期だったんです。

エティックは、「誰もが起業家精神を持てるはずで、それを解放していく」ということを大事にしてきた組織です。この「起業家精神」という言葉は、ティール組織で語られる「全体性(ホールネス)※」に置き換えられると思っていて、広く「自分の仕事と人生を取り戻す」といった思いを込めています。ただ、27年間ホールネスを社会に広げようとする活動を重ねていく中で、気がついたら自分たちがホールネスじゃなかったことに数年前に直面せざるを得なくなったんですね。社会的ミッションは大事ですが、ただそれを実現するための機能に自分たちの組織がなってしまっていたんです。

※ホールネス:組織内に心理的に安全で「ありのままの自分」でいられる環境を構築して能力や個性を最大限に引き出すという考え方。

 

良くも悪くも“レガシー”があった組織なので、ガラッと変えていくというよりは、ティール的概念を応用しながら緩やかに組織を変えていきました。まず役職をまず無くすといったことからではなく、組織文化やホールネスを支える考え方を進化させていくことを大事にしてきたと思っています。その結果、新しい取り組みが現場の中から生まれてくる文化が醸成されてきましたし、不本意なかたちで人が辞めていくケースが見られなくなってきたことを感じています。

 

嘉村:エティックも様々な仕事が増えて職員数が増える中で、全員が互いを深く知っていた時期と比べてコミュニケートの隙間ができてしまったり生まれてしまっていたり、新旧世代間にギャップが生まれてしまっていましたよね。そんな中ティール組織に感銘を受けた数名のメンバーからの声かけで始まった組織改革開発でしたが、「これから何が始まるんだろう」といった不安感から「そんなもの必要ないんじゃないか」みたいなハレーションの中で、様々な出来事を経験しました。

例えば、お金を稼ぐのが得意な人とミッションベースに人に寄り添いたい人はどうしても対立構造になりがちですが、本当は両方とも活かし合えば良いはずが両方とも選択できないという罠にはまってしまって、そこから少しずつ対話を重ねて相互理解を進めていきましたね。今はティール組織への旅路の途中にあると感じています。

何のために仕事をしているのか、何のためにこの組織はあるのかに立ち戻る

宮城:今日はありがとうございました。看護領域の危機的状況を前に本当に患者さんにとって必要なことは何なのか、看護師さんにとっての価値は何なのかということに立ち戻って、出てきた答えがこの組織のあり方だったのではないかと感じました。

このコロナ禍でホールネスを見出し始める人が多いのではないかと感じる一方で、むしろホールネスを見失ってしまう経営者もいるのではないかとも思っています。責任を抱え自分が支えなければと背負い込み、気がつくとコントロールする側になり日に日にそうした自分が強化されていく…そうしたことが起きがちなのではないでしょうか。その中で、ビュートゾルフの皆さんの「現場を信じて現場からイノベーションが生まれてきている」という感覚が本当に示唆的だなと思いました。

エティックでも先日経営状況を全スタッフにシェアして、それぞれ何ができるか考えるミーティングを設けました。そうするとそれぞれにアイデアがあって、様々な動きを始めてくれていたりするんですね。この時期だからこそ、改めて何のためにこの仕事をしているのか、この組織は何のためにあるのかという根本的なことに立ち戻ることで、今までこだわっていたことが簡単に手放せるものだったということがあるのかなと思っています。

 

嘉村:改めてありがとうございました。日本のあらゆる企業や職場で起こっていることが、これから一新されていく可能性の風景を見せていただいた気がしました。

 

タイス:新しい組織の在り方や働き方の探究に貢献できたことを嬉しく思います。引き続き繋がり続けていけることを本当に心から期待しています。

ビュートゾルフ・サービス・ジャパン ディレクター/ビュートゾルフ・ネーデルラント&アジア シニア・アドバイザー/タイス・デ・ブロック氏(Mr. Thijs de Blok)

2017年よりアジア太平洋地域のビュートゾルフのプロジェクト展開に従事。ビュートゾルフの仕組みに精通し、さまざまな国で政府・行政と連携しながら現地で「最高の在宅ケア」を実現すべく活動している。

場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi代表理事、東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授、コクリ!プロジェクト ディレクター/嘉村 賢州 氏

2015年に「ティール組織」の概念と出合い、日本で学びのコミュニティづくりや組織変革の支援を行いながら探求を深めている。

NPO法人ETIC.代表理事/宮城 治男

1993年より、若い世代が自ら社会に働きかけ、仕事を生み出していく起業家型リーダーの育成に取り組み、1500名以上の起業家を支援。

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この記事を書いたユーザー

桐田理恵

桐田理恵

1986年生まれ、茨城県育ち。医学書専門出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2017年からはフリーランスのライターとして活動している。

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