10月27日~31日の5日間、「ローカルベンチャーサミット2020〜withコロナ時代のニューノーマルを創る 地域×企業連携のための戦略会議〜」が行われました。主催は、地方発ベンチャーの輩出・育成を目指すローカルベンチャー協議会。その参画自治体および各地のベンチャーたちに、メーカー、物流、ゼネコンなどの大手企業も加わり、プレイヤー連携の最新事例を共有し、協働を生み出す場として毎年開催されています。
写真左上から時計回りに宮坂氏、浜田氏、﨑田氏、青木氏
4年目となる今年は、初の全面オンラインで実施。各日の基調セッションのほか30の分科会が設定され、5日間で延べ1,700名に参加いただきました。本サイトでも各セッションの内容をダイジェストでレポートしていきます。
この記事では、ローカルベンチャー協議会の3幹事自治体首長による基調セッションの内容を抜粋してお届けします。強いリーダーシップで先進的取り組みを主導してきた首長たちの声をぜひお聴きください。(本文中敬称略)
基調セッション:首長が語るベンチャー自治体の地方創生~withコロナ時代の挑戦~
【登壇者】
岡山県西粟倉村長 青木秀樹氏
宮崎県日南市長 﨑田恭平氏
北海道厚真町長 宮坂尚市朗氏
【モデレーター】
Business Insider Japan統括編集長・『AERA』元編集長 浜田敬子氏
岡山県西粟倉村(にしあわくらそん) 14年間で45の新事業誕生、公務員もプロデューサー型に
青木: 地域が存続するための手法として森林活用に取り組んだ西粟倉村では、村の取り組みに共感してやってくる移住・起業の流れを活発化させるため、2015年から移住・起業人材や新規事業を育てる「ローカルベンチャー推進事業」を開始しました。今では地域内に45の事業が生まれ、その売上総額は21億円を超え、人口1,500人規模の小さな村の存続可能性が見えてきたと感じています。その結果、2015年時点の人口推計では2020年に1,400人を下回る予想だったのが、今年9月現在1,437人と、減少カーブが緩やかになりました。また、一時126人まで減少していた子どもの数も、若者世帯の転入で147まで回復しています。
2017年には地方創生推進班を設置。村が次に目指す姿を提案すべく、課・室の垣根を越えて横断的にチャレンジできる態勢をつくりました。前例踏襲を廃し、公務員がプロデューサーとしての能力を身につけ、民間と連携して、ファイナンスや資金繰りまで含めたプロジェクトの創発に取り組んでいます。
そして今年は、民間と共同で一般財団法人西粟倉村むらまるごと研究所を立ち上げました。「テクノロジーは人を幸せにできるか」をテーマに、中山間地域の課題を民間の最先端技術で解決する仮説検証を行っていきます。
私たちは2008年、「百年の森林構想」(村面積の大半を占める森林資源の維持・活用、六次産業化)を立ち上げました。それに共感する若者の移住によって地域に多様な事業が生まれ、次第に森林に関わらないローカルベンチャーも出現して、好循環が起こっています。今後も社会資本を拡充し、「上質な田舎」を実現して、持続可能な村づくりを進めていきます。
浜田:子育て期に地方に住みたいという若者はコロナ前から増えており、コロナ後に加速したと感じます。西粟倉に来た若者たちは、村の何に惹かれたと思われますか?
青木:やはり地域性というか、外部の人の受け入れ方が大きな要素だと思います。地域の人たちはみな人懐っこいですし、歴史的に外部の情報を積極的に取り入れる姿勢ができている。それが大きいのではないでしょうか。
宮崎県日南市(にちなんし) 計画通りにいかないのは当たり前。変化を恐れず、走りながら考える
﨑田:日南はこれまで、行政にマーケティング手法を取り入れたり、商店街の空き店舗にIT企業や宿泊施設を誘致したり、民間との連携で注目されてきました。その中でローカルベンチャー事業を推進する意義は、過去の成功例とは違う手法を採用できること。過去の延長線上に未来はありません。特に「既得権益層が居座る地域」には、新しい人が入ってこない。常に変化が必要で、その変化に耐え得る地域をどう作っていくかが一番のポイントだと考えています。
日南でも、多くの若いベンチャーたちがそれぞれがんばっています。女子大生が酒造会館の事業承継をして焼酎の販売に挑戦した例。他県から移住した大学生たちがサンゴ養殖のビジネスを志している例。埼玉から移住した若者が山をひとつ買って、山ごと借りられる宿泊施設をつくった例、などなど。
もうひとつ、歴史的価値のある武家屋敷を宿泊施設に変えるプロジェクトがあります。文化施設をただ保存するだけでなく、積極的に利活用していこうという発想です。思い切って指定管理者制度から離れ、民間に改修から運営まで任せる仕組みにしたところ、JR九州とJALが手を挙げてくれました。
ローカルベンチャー育成は、ぴったり計画どおりに進むようなものではありません。変化を恐れず、走りながら考える。行政がこれを許容できないと起業型人材は呼び込めません。常に変化し、その変化に適応する努力をしっかりサポートできる日南市を目指して走り続けます。
浜田:﨑田市長ご自身、もともと宮崎県庁職員でした。どうやってこの「変化を受け入れる」素養を身につけたのですか?
﨑田:僕は行政出身なので、民間のセンスが弱いというのは自分でわかっています。それで、8年前の市長就任時、右腕となるマーケティング専門官として、リクルート社の元社員を役所の中に入れました。行政職員は地頭がいいし、バランス感覚もある。それに民間のセンスを融合させることで相乗効果を生む。今ではそれが職員にも根付いて、非常に柔軟にやっていける組織体制になってきたかなと思います。
北海道厚真町(あつまちょう) リクエスト型から起業型へ転換、厚真で自らの夢を実現してもらう
宮坂:厚真町は2018年に北海道胆振東部地震による大きな被害を受けましたが、復興の歩みは順調に進んでいます。営農は再開、浄水場の復旧も完了して今年の8月から給水が再開され、仮設住宅から災害公営住宅へ移る準備も進んでいます。これまで全国各地から多くのご支援を頂いたことに改めて感謝いたします。
2016年にスタートした厚真町ローカルベンチャースクールでは、いわゆる起業型の人材育成をしています。それ以前は、どちらかというと町でこれをやってほしいというリクエスト型の地域おこし協力隊を中心に、一次産業の担い手等を育成していました。それを方針転換し、この北海道、田舎という空間をもっと自由に活用していただける人材を育てて、われわれがしっかり寄り添っていくことにしたのです。
2019年までの4年間のスクール参加者は50名以上。その後、自身の目標をより明確に提案できる方々を集中して支援する体制に切り替え、2020年度のプログラムには現在11名が参加されています。
こうした施策の結果、厚真にもこれまで多様なローカルベンチャーが誕生しています。大手企業社員でありつつ厚真で地域おこし企業人として活躍されている方。鎌倉から移住して貿易事業を営む方。馬搬(ばはん:馬を使った木材の搬出)による森林管理に挑む方。ゼロから製材業を始めた方。トヨタを退社して厚真で新たなモビリティサービスを始めた方。完全に牧草だけで牛の畜産業を行う方。介助犬の繁殖を行う獣医の方など、これまでの厚真町では想像もできなかった、多様な起業家が生まれています。
浜田:町から「これをしてほしい」というのではなく、「厚真に来て何がやりたいですか」と方針転換したわけですね。それら外部から来た方々の存在は、震災復興にはどのように役立っていますか?
宮坂:災害復旧は国や行政機関が主体でやるものですが、復旧から復興に向かうフェーズにおいて町民一人ひとりが元気になっていくためには、旗頭となる存在が必要です。夢や希望を掲げて外から厚真へ来てくれた方々は、震災に遭ってもその旗を降ろすことはありませんでした。その姿を見て、地元の皆さんも自分たちも決して負けていられないぞ、と。そういう刺激を与えていただいた若い方々には本当に感謝しています。
ディスカッション・テーマ(1) どうすれば役場職員のマインドを変革できる?
浜田:地方創生のための改革を進めようとしても、なかなか役場職員の意識が変わらないという声があります。ご自身も行政ご出身の﨑田さん、公務員のマインドセット変革には何が大切ですか?
﨑田:よくそれを聞かれますが、僕は意外とこの点は苦労していないんです。公務員には「これをやっちゃいけない」という組織の呪縛があったりしますが、(自分が市長に着任した)スタート時点で、そんなことを考えなくてもいい、フラットで行こうと明言しました。「公平性の担保」など、公務員が不安に思いがちなところも僕は分かっているので、そこを不安に思わなくても大丈夫だよと。
浜田:外部人材も次々登用されていますが、公務員とうまくやっていくコツはありますか?
﨑田:民間人材を課長や部長として登用してしまうと、うまくいかない事例が多いのではないかと僕は思っています。日南の場合、彼らは全て委託業者であり、自由な動きができる遊軍です。市のマーケティング専門官という名刺は持っていますが、役所の組織上どこにも出てこないし、議会対応もしない。そうすれば、(たたき上げの職員のポストを奪うことがないという意味で)職員のモチベーションが下がることもない。民間人材は組織の中に組み込まない、というのがコツかと思います。
浜田:早くから「公務員はベンチャーたれ」という意識改革をされていた西粟倉はいかがですか?
青木:私の村は、このままあと10年間放っておいたら地域が存続できないかもしれない、という緊迫した状況です。役場全員ではなくとも、敏感な職員の間にはこのままでは絶対にダメだという切迫感、生き延びるためにはまず人材が必要、という危機感がありました。それで、地方創生班を作り、この当事者意識をみんなで共有してくれと。今までにない新しいものを作っていく、とにかく必要なものはやらないと生きていけないんだ、という実態がそこにあるわけです。私たちの村は小さいので、問題の所在が分かりやすく、だから行動にも出やすいところはあったかもしれません。
浜田:職員の間に温度差が出てきたときは、どのように解消していくのでしょうか?
青木:それは難しい問題です。将来を心配していろんなことを考え、焦っている職員もいるし、目の前のルーティンワークにも苦労している職員もいる。役所として村民がここで暮らしていくためのルーティンワークをきちっと実行した上で、いかに創造的な仕事へと発展させられるか。この辺が鍵ですけども、私もすごく悩んでいます。課題はまだたくさんあります。
浜田:厚真町では、宮坂町長が人材育成に関して方針転換したとき、皆さんはすぐ付いてこられたのでしょうか?
宮坂:地域おこし協力隊制度は2011年から活用していますが、隊員の皆さんは、思い切って人生の大転換をして厚真町に来てくださったわけです。だから、この方々の将来は町がしっかり責任を持たなければなりませんし、現場の職員もそう感じていたようです。ただ、協力隊員に対してリクエストするだけでは押し付けになる。彼ら自身の夢や目標を厚真町でしっかり成し遂げてもらいたいけれども、そのためには行政の既存の枠組みだけでは難しいと。ですから、職員自身も、与えられた使命だけではなく夢や希望を持って、(外から来た皆さんに)寄り添っていこうということになりました。それでスムーズな切り替えができたかと思います。
浜田:職員自身も自分の夢を意識するようになって、働き方は変わりましたか?
宮坂:はい。セクション横断的なグループ制を導入し、自分たちで町の課題解決など成し遂げたいことを柔軟に目標設定できるようにしています。実際に夢の実現が続くと、それが職員全体に広がっていき、積極的にリーダーシップをとる職員も現れています。
ディスカッション・テーマ(2) 企業x自治体の連携を成功させるためには?
浜田:自治体と組みたい企業は多いと思いますが、企業側に望むことがあれば教えてください。
﨑田:行政と企業の関係というと業務委託などが典型ですが、僕は民間が「行政にサービスを買ってもらおう」というスタンスなら受け付けません。大事なのはwin-winの関係づくりです。もちろん、単なる社会貢献で企業のスキルやノウハウを提供してもらうわけにはいかないので、例えば日南市と組むことによって行政の本音が理解でき、サービスのクオリティや発信力の向上につながるなどのメリットの提供が必要。そうやって、お互いwin-winの形を整えていくことに注力します。
また、あちこちの自治体でこういうサービスを導入したという実績は、うちにとってはあまり意味がありません。コピペではなく、カスタマイズしてもらうことが必要です。日南の課題を理解し、解決方法を一緒に作り上げていくマインドを持った企業さんと組みたいですね。
浜田:厚真町は、例えば大手通販会社フェリシモさんと組んでいますが、こうした連携がうまくいく要因は何でしょうか?
宮坂:厚真町では、場当たり的にパートナーを探している企業がたまたま厚真を訪れるということは、基本的にありません。これまでは北海道という特殊性、一次産業の町という特性を認めて、十分に市場調査した上でさまざまな提案をしていただいています。
フェリシモさんの場合は、たまたま三浦さんという社員の方が町に非常に興味を持ってくれて、ローカルベンチャースクールに参加されたところからご縁が拡大していきました。やはり人のつながりを大事にし、厚真町ならではの特性を十分に把握している企業とコラボするというのが大方針です。震災のあった町として注目度は上がっていますし、もともと北海道が持っている潜在力を掘り下げてくれる企業とタイアップしていきたいと考えています。
浜田:西粟倉では、外部企業とコラボするときに心掛けていることはありますか?
青木:村の95%が山ですので、まず山林整備が非常に大きな課題でした。持ち山という資産は、図面上で見ても実感は全然湧きません。これに航空測量の技術が入ってきて、山全体、樹木の様子を風景として見られるようになりました。そして今では、自分の山に木が何本生えているか、どれぐらいの材積があるか、どれぐらいのお金になるかなどが全て分かるような仕組みになっています。
そういった技術はもともと村にあったものではなく、民間企業から提供されたさまざまな技術の組み合わせで可能になったわけです。そのおかげで、山の仕事が合理化され、分かりやすくなって、山という資産を将来どうすべきか、個人でも見通しが立てやすくなっています。
他の課題、たとえば小規模農業の維持なども、同様に民間の最先端技術で解決につなげたいと考えて、「むらまるごと研究所」を設立したわけです。いろいろな企業さんに参加を呼びかけているところです。
▷質問1「プロデューサー的公務員を育成するにはどうすればよいか?」
青木:こうすれば確実、という答えはたぶんないと思います。もちろん個人の資質にもよりますが、やはり、あるべき姿・理想の姿をしっかり提示すること。それに向かう方法は職員の自由な選択に任せる。そして、理想の実現に近づいたときにはみんなでその思いを共有する。地道にそれらを積み重ねることで、職員は育っていくのではないでしょうか。
▷質問2「既得権益との戦いを乗り越えるためのヒントはあるか?」
﨑田:僕は不器用で、ぶつかっていって頓挫したこともあります。ストレートに持っていって、駄目だったらまた別の提案をしていく。その繰り返しでした。僕は“若すぎる市長”としてスタートしたので、中には「何も知らない若造が来やがった」という方もいて、その人たちにうまく入っていくのはずいぶん苦労したものです。ただ、自治会での説明などを通して、住民の理解を得ることはとても大事にしました。住民の方は何が本質かということをちゃんと見てくれていますから。
浜田:本日はとても勉強になりました。本当にありがとうございました。
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