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成功する社会運動に共通する6つのアクションとは?―「世界を変える偉大なNPOの条件」の著者と学ぶ社会の変え方(1)

2022.01.12 

社会課題が複雑化する中で、より多くの人を巻き込むソーシャルムーブメント(社会運動)の重要性が増す一方、世の中には「成功する社会運動」と「成功しない社会運動」があります。その違いは何でしょうか?

 

「世界を変える偉大なNPOの条件」の共著者であるレスリー・クラッチフィールド氏は、「社会運動はランダムに起こるのではなく、意図的に起こる」とご自身の研究をもとに語ります。今回、当メディアを運営するNPO法人ETIC.(エティック)では、クラッチフィールド氏をオンラインで招へいし、日本全国のソーシャルリーダーたちとともに、成功する社会運動の秘訣について学びました。

 

プロフィールトリミング後

レスリー・R・クラッチフィールド氏 プロフィール

米ジョージタウン大学グローバル・ソーシャル・エンタープライズ・イニシアティブ(GSEI)のエグゼクティブ・ディレクター。その前にはアショカのマネージングディレクターや、社会変革のための戦略コンサルティングファーム米FSG社で勤務し、同社のシニア・アドバイザーを勤める。共著「Do More Than Give: The Six Practices of Donors Who Change the World」は、”21世紀のフィランソロピーのゲームチェンジャー”と称賛され、FSG社とともにソーシャルセクターの実践や理論のデザインに取り組む。2018年には「How Change Happens: Why Some Movements Succeed While Others Don't」を出版。

なぜソーシャルムーブメントには成功するものとそうでないものがあるのか

 

クラッチフィールド氏 : ソーシャルムーブメントの重要性は、今も昔も変わりません。近年米国で起きた#MeTooやBlack Lives Matterなどは、ポピュリスト的な保守派政治家の施策によって社会情勢が不安定になったことに反対する動きとして生まれました。

 

一方で、こうしたポピュリスト政治家を支えたムーブメントは、白人至上主義やナショナリズム、外国人排斥など極端な保守主義を煽り、国内のアクティビズムを加速させるものでした。様々な社会運動が興亡する中で、なぜソーシャルムーブメントの中には成功するものとそうでないものとあるのでしょうか。今日ほど理解するのが重要な時期はないでしょう。

 

ソーシャルムーブメントは、偶然に起こるものではありません。例えば、米国の反タバコ運動は、タバコ企業による政治的ロビイングがあったにも関わらず、国内の喫煙率を劇的に減少させました。また、LGBTによる結婚の自由も、カトリック教会などの保守派層による組織的な反対にも関わらず、多くの州で合法とすることに成功しました。銃の所有権利は、全米ライフル協会(NRA)という500万人もの会員を抱える全国組織が、草の根運動を展開することで、規制緩和に向けた政策に大きな影響を及ぼしています。

 

左側のリストは、私たちが研究を終える時点ですでに起こった変化、右側は進行中の変化です。なぜ左側の変化は成功し、右側は困難を極めたのか、私たちは研究を通じてその違いを理解しようとしました。

 

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成功するソーシャルムーブメントが行った6つの実践

 

クラッチフィールド氏 : 成功しているムーブメントでは、6つの実践を行っていたことが研究を通じてわかりました。そして成功していないムーブメントにおいては、これらの実践が行われていない、または取り組まれていてもうまく実践できていないということが明らかになりました。

 

1. 草の根をゴールドに

 

成功するムーブメントでは、草の根によるアクティビズムを強めていくことが最初の鍵となります。ここでいうゴールドとは、アメリカ文化で成功や繁栄を象徴する金色を指しています。草の根を枯れ葉のように茶色く衰退させてしまうのではなく、金色に輝く活動に発展させていこうという意味を込めています。

 

例えば、銃の所有権拡大を推進する全米ライフル協会(NRA)は150年の歴史を持つ会員型組織で、もともとは銃の正しい使い方について啓蒙活動を行なっていました。それが近年では、500万人を超える会員を動員して政策提言を行なっています。

 

銃規制について、NRAに対抗できる巨大組織は歴史的にも長らくありませんでしたが、近年それも変わりつつあります。これまで銃所有に反対する唯一の非営利団体は、ブレイディキャンペーンという40万人程度の会員組織でしたが、悲劇的な銃乱射事件の連鎖に応える形で新たな活動が始まっています。これらの活動に参画する草の根の人たちは、今やNRAに対抗する規模の数になりつつあります。

 

反タバコ運動も、草の根の動員に成功した例の一つです。子どもの禁煙キャンペーン(Campaign for Tabaco-Free Kids)と呼ばれる非営利団体が、他の団体とネットワークを組み調整役を担うことで、これらの団体に所属する会員をムーブメントに巻き込んでいきました。メンバーの中には、近しい人を肺がんなどで亡くした当事者がいたことも、草の根のアクティビズムの強化に貢献したと言えるでしょう。

 

2. 10/10/10/20=50のビジョンを磨く

 

アメリカ合衆国は50の異なる州から成り立っているため、それぞれの州に異なる政治文化が存在しています。そのため、成功するムーブメントはそれぞれの州で通用する戦略を極めていく必要があります。

 

LGBTによる婚姻の平等を目指したムーブメントでは、各州に合わせたアプローチを取りました。例えば、ある10州では同性婚カップルに対する完全な婚姻を認める法律の成立、別の10州ではシビルユニオン(結婚に似た「法的に承認されたパートナーシップ関係」)の確立、また別の10州では同性同士の関係の承認、そして残りの20州ではLGBTに対する差別的法律の撤廃といったようにです。

 

大きな変化を起こすには、4段階くらいに分けて戦略をもつことが重要です。こうしたアプローチは、成功した他の運動でも見られました。連邦レベルでの変化を目指す場合でも、まずは州レベルのボトムで取り組み始めることが重要で、草の根のボトムアップによる推進がムーブメントには不可欠です。これは、50州の合衆国であるアメリカ特有のことではなく、日本でも言えることだと思います。

 

3. ハートを変える、政策を変える

 

政策変更だけでは、人々の見方を変えることはできません。例えば、女性に対する性的暴行やハラスメント行為を禁じる法律はたくさんありますが、性的差別はいまだ横行しています。変化を起こすには、政策に働きかけるだけでなく、人々の行動パターンやマインドセットを変えていかなくてはいけません。

 

反タバコ運動では、ソーシャルメディア使ったキャンペーンを通じて、子どもやティーンエイジャーのタバコに対する見方を見事に変えました。#CATmagedonddonという動画キャンペーンが爆発的にヒットした理由は、3つあります。Right Message, Right Messenger, Right Medium(正しいメッセージ、正しい発信者、正しいメディア媒体)を押さえたことです。

 

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一つに、このキャンペーンでは「タバコはあなたの健康に悪いからやめよう」ではなく、「タバコはあなたのペットの健康に悪いからやめよう」というティーンエイジャーの心に響くメッセージを送っていました。また、メッセージの発信者が、医者や母親と言った権威を思わせる存在ではなく、ペットの猫というティーンエイジャーにとって親しみある存在だったことも重要です。そして最後に、若い人に伝えるために、彼らがよく利用するプラットフォーム(この場合はyoutube)を考えて選んだことも、成功の秘訣だったといえます。

 

また、人々のハートを変えるには、ターゲット層の感情に訴えるメッセージを考える必要があります。反タバコ運動では喫煙に関する「真実」を知ることの重要性に光を当てました。LGBTの結婚の自由を求めた運動では、同性婚・異性婚のどちらにとっても変わらない「愛」という普遍的メッセージを中心に据えました。これこそ、人々の心を揺さぶるメッセージの本質と言えるでしょう。

 

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4. ビジネスとの従来関係から脱却する

 

ビジネスセクターは過去には、非営利セクターの敵として語られる傾向にありました。しかし実際には、非営利のリーダーたちは、ビジネスリーダーたちと協働することでムーブメントを大きく飛躍させることができます。ビジネスとの協働には4つの方法があります。

 

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一つ目に、企業は新たな取り組みの先発者として、変化を生み出すことができるアクターです。例えばアメリカでは、いくつかの企業は政府に先行する形で、独自の社内制度として社員の同性パートナーに医療保険や雇用年金などの福利厚生を認めました。ビジネスには、政府が法律を通すよりも早く変化を生み出す力があります。

 

二つ目に、企業は啓蒙活動やフィランソロピーとしての資金提供などを通じて、変化に貢献することができます。黒人市民に対する人種差別撤廃を求めたBlack Lives Matter 運動では、多くの企業が賛同し人種差別に対する反対を表明しました。そして、ムーブメントを資金的に援助することで、人種差別の根絶に向けて貢献したのです。

 

三つ目に、企業は商品イノベーターとして、新しい商品の開発・提供を通じて変化を起こすこともできます。喫煙率の減少においては、ニコレットガムというニコチンを含有したガムの開発と販売を通じて、喫煙者の禁煙を手助けしました。

 

最後に、近年のSNSの普及により、企業活動がより一般に対して露出された状況にあることも、変化に向けて有意に働くと言えるでしょう。もし皆さんのムーブメントがうまくいっていないなら、政治家や政策変更に働きかけるよりも、ビジネスリーダーに働きかけることでより早く変化を達成できる可能性があります。

 

例えば近年、Facebookに関するスキャンダルが多く報道されています。政府はFacebookなどのSNSプラットフォームが、10代の少女たちに摂食障害などの有害な影響をもたらしたり、選挙に関して誤った情報を流していた可能性について、どの程度把握していたのかを調査しました。その結果、社会に有害な影響をもたらすFacebookのようなプラットフォームには、広告を出さないといった意思決定を多くの企業が取り始めました。これはまさに、企業リーダーたち自身が、パワフルな活動家に転じた例と言えるでしょう。

 

5. 敵対する仲間と協働する

 

ムーブメントの推進には、共通の目的達成に向けて複数のリーダーが関与することがほとんどです。しかし、多くの場合それぞれが異なる戦略やソリューションに固執する結果、リーダーたちが仲間内で争うことでムーブメントが失敗に終わることがよくあります。成功するムーブメントには、異なるリーダーたちの間で共通項や共通のビジョンを生み出すための方策が必要不可欠です。

 

いかなるムーブメントでも、最初は争いや不協和は存在していて、それは極端な純粋主義と実用主義・穏健派の分断として表面化します。

 

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例えば反タバコ運動において、純粋主義はタバコ産業の根絶を求めた一方、実用主義者は喫煙率の減少とアクセスの制限を目指そうと唱えました。LGBTQによる婚姻の平等を求めた運動では、純粋主義は伝統的な異性婚婚姻のあり方そのものを否定した一方、実用主義者たちはより多くの人を味方にするために「権利」ではなく「愛」で人々の共感を勝ち取るアプローチを主張しました。そして銃規制の運動では、純粋主義は全ての銃の所有を禁止を主張した一方、実用主義は銃の所有は許可するが、免許所持や訓練の必須化、所有権の更新による厳しい管理を提唱しました。

 

全ての運動にこうした対立はつきものです。成功するムーブメントでは、これらの不和をはどのようにしてこの不和を乗り越えたのでしょうか?

 

その一つの方法として重要なのが、参画する団体間による覚書(Memorandom of Understanding)の締結です。こうした覚書には、互いに目指す共通のビジョンやそこに向けたアクションを記載するほか、異なる組織がともに協働しやすくするために、資金に関する取り扱いやドナー関係に関する但し書き、支援者リストの共有などについても記します。

 

団体間の争いの種となり得る事項について、未然に確認し紙面で合意することで、キャンペーン終了後も振り返れるようにすることが重要です。

 

6. 「リーダーフル」になる

 

ソーシャルムーブメントのリーダーシップスタイルは様々です。「リーダーの不在」により、あらゆる人が主導権を握っているために時として反乱が起こるカオスなものもあれば、「リーダー主導」で統率を重視し、独裁的なやり方で下の人たちを抑え込むスタイルのものもあります。

 

成功するムーブメントの特徴は、「リーダー不在」と「リーダー主導」の間をとった「リーダーフル」なスタイルにあります。完全な自由ではなくしかしコントロールをしすぎない考え方は、アメリカの黒人市民の公民権運動を組織したエラ・ベイカーの教えからきています。

 

例えばタバコの規制運動では、草の根団体のトップたちがネットワークを作って繋がりあっていたことが成功の秘訣にあります。子どもの禁煙キャンペーン(Campaign for Tabacco-Free Kids)のリーダーが、アメリカがん協会やアメリカ心臓協会、アメリカ肺協会などのトップたちと協働できるよう調整役を果たすことで、共通のストラテジーを描くことを可能にしたのです。

 

ここでいう子どもの禁煙キャンペーンの役割は、オーケストラの指揮者のような調整役だったと言えるでしょう。各組織はネットワークの中で、時にメロディを担当することもあればハーモニーを奏でるなどそれぞれの役割を果たしつつも、全体としては互いに調和して活動を展開したのです。

 

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さらに、ここでいう草の根とは、まさにこれらのNGOに参画する何百万人もの会員のことを指しています。彼らをタバコの禁止や課税の政策提言に向けて動員したからこそ、政策や法律の変更に影響を及ぼすことができたのです。

 


 

以上、クラッチフィールド氏が考える「成功するソーシャルムーブメントが行った6つの実践」についてお届けしました。

 

後半の記事では、「日本の社会を変えるには?」というテーマを中心に行った質疑応答の内容をレポートいたします。ぜひこちらもお読みください。

>> 日本で社会運動を成功させるには?―「世界を変える偉大なNPOの条件」の著者と学ぶ社会の変え方(2)

 

※本企画は、eBay Foundationが助成するGlobal Give: Rapid Responseプログラムの助成のもと実施されまました。この助成は、コロナ禍で社会課題解決に取り組む世界中のNPOを対象に、eBay Foundationが支援しています。

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川島菜穂

アメリカ、ドイツへの留学、インドネシアでの国際協力インターンシップの後、日本へ帰国。前職では、日本と外国の非営利セクターの若手プロフェッショナルを対象とした国際交流事業の企画実施に従事。多様なステークホルダー間の理解促進に貢献したいという思いのもと、2020年4月よりETIC.に参画。「異なる他者の対話」をテーマに、ファシリテーションやコーチングスキルを研鑽中。