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「桃太郎」で考えるダイバーシティ。多様性を知るための考え方とは?―Beyondカンファレンス2024レポート(4)

2024.07.30 

近年、ウェルビーイングへの注目が高まっています。

 

この言葉が初めて登場したのは、1946年の世界保健機関(WHO)設立時で、「健康とは、単に疾病がない状態ということではなく、肉体的、精神的、そして社会的に、完全に満たされた状態にある」と定義づけています。

 

経済的な豊かさを追い求める価値観、つまり「モノ」から「心の豊かさ」を重視する時代への移行のなかで、みんなが「幸せ」になるには何が必要なのか。

 

小金井市教育委員会教育長・大熊雅士さんによる、そのヒントに繋がる授業をレポートします。

 

※本記事は2024年5月31日、6月1日に開催された「第3回Beyondカンファレンス2024」(※1)のワークショップ「大人も子どもも役に立つ!多様性を知るための「考え方の考え方」公開授業」を基に執筆しました。

 

大熊 雅士(おおくま まさし)さん

小金井市教育委員会教育長

公立小学校教諭から区・市の指導主事を経験し、東京都教職員センター統括指導主事になる。その後、東京学芸大学附属世田谷小学校教諭・東京学芸大学教職大学院特命教授、カウンセリング研修センター学舎ブレイブ室長を経て、2018年4月より現職。

 

<ワークショップサポート>

株式会社電通「チームコマ犬」クリエータ―&プランナーのみなさん

ウェルビーイングの本質は、周りの人々も含めたみんなが幸せになる社会を目指すこと

 

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公開授業は、複合施設「羽田イノベーションシティ」内にある、PioParkで行われた。

 

今日は「ダイバーシティの考え方を身につけて、未来を変えよう」ということを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

 

大学の授業って、ちょっと堅苦しい感じがしますよね。授業中、教師は「よく考えなさい」「しっかり考えなさい」と言うだけで、具体的にどう考えればいいのかを教えてくれないことが多いんです。

 

でもどう考えればいいのか、表現すればいいのかをうまく活用して問題を解決していくことが大事です。ただ「問題解決」と言うよりも、みんなが幸せになる方法を考える、と言った方が正しいかもしれません。

 

では、ダイバーシティとは何でしょうか? この言葉は直訳すると「多様性」を意味します。

 

ダイバーシティとは、人種、年齢、性別、能力、価値観など、様々なバックグラウンドを持った人たちが、組織や集団の中で共存している状態を指します。今日も多くの人が集まっていますが、年齢も経験もバラバラです。そういった人たちがそれぞれの考え方を尊重し合って、みんなが幸せになる方法を見つけることが大切です。

 

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集まった人たちを前に話す大熊先生

 

実はこの考え方は、SDGs(持続可能な開発目標)にも通じます。SDGsには大きく分けて環境問題と人権問題がありますが、人権問題は多様な背景を持つ人たちが幸せになることを目指しています。ウェルビーイングの本質は、新たな価値観を創造することで周りの人々も含めたみんなが幸せになる社会を目指すことです。

 

「持続可能な社会にするために多様性の視点を身につけてみようよ」というのが今日の課題です。

どうして鬼が悪いって決めつけたんでしょう。

さて、突然ですが桃太郎の話をします。多様性を考える上で、これ以上いい話はないんです。

 

「おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました」とありますが、なぜ男の人が芝刈りに行くんですか? なぜ男性が焚き木を拾い、女性が洗濯するのでしょう。逆でもいいじゃないですか。

 

そこだけじゃないんです。大きな桃が流れてきて、桃から生まれた桃太郎が元気に育ちました。町で鬼が悪いことをしていました。桃太郎が「僕が退治してこよう!」と言って、猿、雉、犬がお供になりました。それで桃太郎たちは鬼をやっつけて宝を取り返してきましたとさ、って話です。

 

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この後、桃太郎の話を聞いてどう感じたか隣の人と話すディスカッションタイムが設けられさまざまな意見がでた。

 

桃太郎は鬼を悪者として退治しに行くんですが、どうして鬼が悪いって決めつけたんでしょう。なんでそう決めつけているのかを考えてみると「人間じゃない角がある」とか「村人を脅かした」とか「宝物を独り占めにした」とか「野菜を盗んだ」とか「人を食べるらしい」とか、そういう話があるけど本当に鬼がそんなことをしたって言える人はいるんですか?

 

違う習慣、嫌な態度、楽しくない状況、悪い噂。全てが「自分の視点からの決めつけ」であって、相手の立場には立っていない。片方の意見だけ聞いて両方の意見をしっかり聞いていない。

 

鬼の視点だったらどうなるか。

 

鬼と言った瞬間に「悪いやつ」と思うのが決め付けです。

 

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鬼の子供は、「桃太郎が突然襲ってきて、お父さんが怪我をさせられた」と思ってるかもしれない。

 

「僕たちと遊ぶときは本当に優しいんだ。いつも忙しくして畑仕事をしているんだよ。たくさんの農作物を持って仲間と助け合って生きているんだ。家族にとって頼もしいお父さんだ」と鬼の子供は思ってるかもしれない。

 

実は自分視点の決め付けは氷山の例に似ています。

 

海面に出ていて目に見える部分の氷山は、ほんの10パーセントぐらいです。90パーセントは海の中にあります。一部だけを見て「鬼は悪いやつだ」と決め付けず、普段は見えない部分も知って、みんなが幸せになれる方法を考えるにはどうしたら良いのでしょうか。まず相手の話を聞くことが大事です。

みんなを幸せにするためには、自分の中に「もぐろう君」を登場させること

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氷山の例をあげて、もぐろうくんの説明をする大熊先生。

 

自分では見えていないことがあるにも関わらず、見ない方が安心だからと決め付けてしまうことはありますよね。そんな時に、相手の視点も受け入れて可能性を自由に想像するために登場するのが「もぐろう君」です。もぐろう君は、海の中に潜って、海面に出ていない氷山の残りの90パーセントの部分を見ようとする存在です。

 

これからの世の中で覚えておいてもらいたいことは、みんなを幸せにするためには、自分の中にもぐろう君を登場させることです。

 

もぐろう君の登場で桃太郎をやったらどうなるかを、桃太郎の育った村人の視点で作ってみました。

 

桃太郎は元気に育ち、町で鬼が悪いことをしていたので退治しに鬼ヶ島に向かいました。猿と雉(きじ)と犬がお供もになりみんなで協力して鬼をやっつけました。「お宝を取り返してくれた桃太郎さん、ありがとう!」しかし、本当にお宝をとられたのか?

 

じゃあ、今度は鬼ヶ島の村人の視点を考えてみましょう。

 

桃太郎はとっても強くて怖いよね。鬼は一生懸命働いて、たくさんの作物を作っていたけど、桃太郎が来るってさ。攻めてきたら怖いよ。これまで一生懸命働いて作った作物を全部持っていかれちゃうんだ。これじゃ生活ができない。どうしよう。

 

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真剣に話を聞く参加者たち

 

自分の気持ちにもぐろう君を登場させて、決め付けから脱して未来を変えるにはどうすればよいか。

 

例えば、鬼を退治するんじゃなくて「一緒に平和に暮らす」「鬼の力を借りて世界一豊かな村にする」「鬼ヶ島をレジャーランドにする」とか。それが、自分と相手の視点に立ち、もぐっていくことです。もぐることは不安で自分の価値観がぶっ壊れることだけど、それをやることがみんなの幸せに繋がる。それがダイバーシティです。

 

桃太郎の物語を2つの視点で考えてみましたが、どうでしたか。

 

身の回りで決め付けていることって案外多いですし、それを発見するのはドキドキします。不安になるかもしれないけど、その不安を払拭しない限り、みんなの幸せは生まれない。だから今日はその不安を共有しながら、自分の中に新しい視点を持つもぐろうくんを作ってみたいと思います。

1枚書いたら自分を褒めて「私は天才」「私はすごい」と思いとにかく書きまくりましょう

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今日、皆さんにお願いしたいのは、自分の中にある決め付けを見つけることです。例えば「運動部員は足が速くないといけない」「眼鏡をかけている人は頭がいい」「関西人はみんな面白い」といった決め付け。

 

これまでに見たことがある決め付けを自由に書いて「この決めつけおかしくないか?」と思う事柄を付箋に書きだしましょう。

 

1枚書いたら自分を褒めて「私は天才」「私はすごい」と思い、とにかく書きまくりましょう。そして、100個目指して、100個書き出してみましょう。

 

他の視点から物事を考えることで、自分の中にある決め付けを見つけることが、多様性を受け入れることに繋がります。

 

これはみんなの考えを合わせることが大事なので、自分で付箋を書いたら4人一組になって、なぜそう考えたのか説明しながら、発表し合いましょう。

 

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みんなが幸せになれる社会を描いた絵本づくり

今回のセッションで一番大事なのは、みんなが自分の中にどんな決めつけがあったかを出してくれたことなんです。この後は、皆さんが考えたことを表現する時間にしましょう。

 

どの内容が一番深く考えられているかを話し合って一つに決めて、絵本を作るアイデアを考えてみましょう。

 

なぜ決めつけているのか、具体的に考えてみるために、まずはグループの中で1つ決めつけの例を選んでください。それを元に「なぜそんな決めつけがあるんだろう?」と考えます。例えば、「男の子は強くなければならない」とか何でもいいです。

 

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もぐろう君が描かれたシートが参加者に配られワークが行われた

 

次に、その決めつけをひっくり返してどんな世の中になれば決めつけがなくなるのかを考えます。

 

例えば、現状を描いた1ページ目を作ります。「男の子は強くなければならない」という決めつけがある世界を描きます。そして、2ページ目でその決めつけをひっくり返すストーリーを考えます。「男の子はどんな性格でも素晴らしい」「みんながそれぞれの個性を尊重する世界」などです。

 

絵本を通じて新しい社会を描き、決めつけがなくなった社会を考えることでみんなが幸せになれる方法を見つけてください。

 

もし、決めつけを選んで考えるのに迷ったら、「もしかして何々かも?」という視点で考えてみてください。これで新しいアイデアが浮かぶかもしれません。

 

さあ、みんなで素敵な絵本を作って、幸せな社会を描いてみましょう!

 

――この後、参加者の皆さんは、グループで一冊の絵本をつくり、交流しました。その様子は写真でご覧ください。

 

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4名前後のグループに分かれて、それぞれ出たアイデアからひとつ選び絵本をつくり始める参加者たち。

 

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1人1ページ割り振られ、協力しながらひとつの絵本を仕上げていく。

 

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ワークショップには小学生も参加し、自分のページをつくった。

 

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一人ずつ自分のイラストを描く

 

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最後は、他のチームの前で自分たちがつくった絵本の発表を行った。

編集後記

参加者の皆さんが、悪戦苦闘しながらも楽しそうに話し合いながら絵本制作をしている様子が印象的でした。

 

ただ聞くだけの授業ではなく、自分たちの決めつけを発見し、仲間と協力しながら絵本を通してアウトプットしシェアしあうことは、みんなが幸せになっていくウェルビーイングの第一歩なのだと強く感じました。

 


 

これまでのBeyondカンファレンスについての記事はこちらからお読みください。

 

この記事を書いたユーザー
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芳賀千尋

1984年東京生まれ。日本大学芸術学部卒。 20代は地元と銭湯好きがこうじ商店街での銭湯ライブを開催。 1000人以上の老若男女に日常空間で非日常を満喫してもらう身もこころもぽかぽか企画を継続開催。2018年からETIC.に参画。