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「理系女子という選択」が当たり前な社会に。抽選制の奨学助成金は中高生のジェンダーギャップをどう変える?

2022.07.05 

夕暮れの海にいる女子高生

 

成績不問。所得制限なし。何よりも、完全な抽選制で、「理系」に興味がある女子なら誰にでもチャンスがある。

 

そんなユニークな奨学金が生まれて1年が経ちました。メルカリ代表取締役CEOの山田進太郎さんが個人で立ち上げた山田進太郎D&I財団の「STEM(理系)女子奨学助成金」です。

 

7月7日(木)からは第二期のエントリー受付が始まります。今回の大きな特徴は、対象者を前回の中学3年生の女子から高校1、2年生の女子まで広げたこと。大学受験を前に理系か文系かを選ぶ必要がある女子にも応募の機会をつくりました。

 

社会の傾向として理系女子に追い風と感じる変化が表れている中、抽選制の奨学助成金がどんな流れをつくっていけるのか。

 

前回の抽選で奨学生となり、理系の高校へ進学した高校1年生の女子にも話を伺い、理系女子の思い、また彼女たちを応援する財団の挑戦に迫ります。

 

第一期スタート時の記事はこちら

>> 抽選で決まる理系女子のための奨学金がスタート。メルカリ共同創業者・山田進太郎さんと富島寛さんが再びタッグを組む理由

 

STEM(ステム)とは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の分野を総合的に学び、将来、科学技術の発展に寄与できる人材を育てることを目的とした教育プランのことを指します。

「理系女子を増やしたい」教育や社会に変化

 

「理系といえば男子」。日本では、こうした価値観が根強く、進路の選択でも自然なこととして受け入れられる風潮がありました。

 

OECDが行った国際的学力調査PISAでは、中学3年生の時点で理数科目の成績に男女の差はなく、OECDの平均を男女ともに上回っていることがわかっています。しかし、日本では大学入学時に工学や理学を選ぶ女性の割合は約20%と低く、大学卒業後はその傾向が顕著になる調査結果も出ています。

 

資料

山田進太郎D&I財団より提供

 

STEM分野における女性割合はOECD諸国に比べて最低ポジションという統計もある現状を課題として、今、社会が少しずつ解決に向けて動き始めています。

 

例えば、最近は教育機関の動きとして、2022年4月に奈良女子大学が工学部を開設、2024年度にはお茶の水女子大学が共創工学部(仮称)を開設予定など、国立の女子大学が工学部をつくるチャレンジにも関心が集まっています。

「好きだから」理系を選ぶ女子を応援したい

 

「ユーザーの大半を占める女性に向けたサービスをより強化するために、優秀な女性エンジニアを積極的に採用しようとしたら、人材自体がとても少ないことに愕然とした」

 

これは、山田進太郎さんが財団を作るきっかけとなったエピソードです。

 

財団では、2035年度の大学入学者のうちSTEMの女性比率を、2021年度の18%から28%へ高めることを目標にしています。比率を10%上げるために重視したのが、「理系女子になるハードルを下げる」こと。抽選制で、成績も所得も関係ない、オンライン応募の気軽なスタイルにすることで、オープンな新しい奨学金をつくりました。

 

その結果、第一期では計767人のエントリーがありました。奨学生が決まった後は、奨学生たちのための交流会も開催。また、今年は、エントリー期間中の7月23日に、理系に興味がある女子と保護者を対象にしたイベント「STEM Girls Festa」を行い、STEM分野を強みに活躍する著名人たちの話に触れられる機会を提供する予定です。

 

「好きなことに挑戦してみたい」。そんな気持ちを大切に、自分の道を自分で選択していけるように、財団では理系に興味がある女子たちを応援する仕組みをつくってきました。

「常識を変えられる人になりたい」理系を選んだ高校1年女子の場合

 

●中学1年の時から志望校を決めていた

第一期の抽選で奨学金を受け取った朝倉胡桃さんは、今春、横浜サイエンスフロンティア高等学校に合格し、入学しました。中学入学後に英語を使った仕事に興味を持った朝倉さんは、「自分に向いているかも」となんとなく理系を思い浮かべていたそうです。

 

朝倉さん

朝倉胡桃さん

 

「中学1年生の時、先輩が横浜サイエンスフロンティア高等学校に進学したことを知って、調べたらすごく面白そうで。ここに行く!とその頃から決めていました」

 

迷いのない決断には、両親やまわりの大人たちの関わりも影響していたようです。

 

「これまで両親から、最初に『なりたい大人』をイメージして、そうなるために今どうすればいいかを考えなさいと言われていました。理系の分野で英語を使った仕事がしたいと思うようになったのは、中学1年の時、父の会社の人と大学の話をしたことがきっかけです。横浜サイエンスフロンティア高等学校は、生徒の将来を見据えてプログラムがしっかりと組まれていて、ここでならなりたい自分になれるかもしれないと思いました。

 

あと、塾の理科の先生がとても面白かったんです。教科書には書かれていない、『なぜこうなるのか』の理屈を細かく教えてくれて、自分で納得しながら問題を解くことがすごく楽しくて、私はこういうのが好きだなあ、やっぱり理系に向いているのかなあと思いました」

 

●「発明家」になりたい理由

第一期の奨学金は、母親から「こういう情報があるよ」と教えられて応募したそうです。

 

「私が理系に進みたいと言った時、両親は応援してくれました。中学3年の担任からは、受験前の成績を見て、『わざわざ無理して理系にいく必要はないんじゃないか』と心配されましたが、押し切りました(笑)。落ちてもいいから受けると決めていました」

 

朝倉さんが奨学金に応募する時、志望動機に書いた将来の夢は「発明家」です。

 

「中学校の授業でSDGsについて勉強した時に、バナナの皮からバイオプラスティックを製造したトルコの女子高生のことを教えてもらって、こんなことができるんだ!と衝撃を受けたんです。今は常識だと思われていることを新しい発想で変えられたらと思っています。とんでもないところから生まれた発想ができる大人ってすごくいいなって」

 

具体的には、薬学の方面へ進みたいと朝倉さんは言います。なぜ薬学なのでしょうか。

 

「化学に興味があるのですが、その中でも自分に向いていると思ったのが薬学でした。今はまだ治療法が発見できていない病気を治せる薬を開発したり、副作用で苦しむ人たちがなくなるような治療法を見つけたりできたらいいなと思っています」

 

高校の授業についても聞いてみました。サイエンスリテラシーというプログラムでは、自分が決めたテーマを3年かけて研究していくそうです。1年生の今は研究するための道筋を探している最中。2年生でテーマを決め、研究を深めていきます。

 

「中学の時は化学の実験はしたけれど、自分が気になることを自分で研究するのは初めてで、すごく新鮮な気持ちだし、楽しいです」

 

●もっと働くことを考える機会を

高校での男女比は5対3とのこと。中学の時よりも女子が少ない中で、やはり男子の友だちが多くなるそうです。

 

「入学してから、私の席のまわりはみんな男子なんです。仲の良い女子が増えなくて少し困っているので、これからいろいろつながれたらなと思っています」

 

同世代の女子たちに対する思いも聞かせてくれました。

 

「今、どんどん人口が減っていて、女の人も仕事をしなければいけない時代がきています。そう考えると、もっと将来働くことについて考える機会が増えるといいのかも。理系、文系を選ぶためだけじゃなく、自分がやりたいことを見つけるためにも大切なんだと思います」

 

●働く大人が身近にたくさんいた

とはいえ、朝倉さんのように中学1年で志望校や働くことを考えることは多くはないのかもしれません。なぜここまで積極的に、具体的に自分の将来についてイメージができているのでしょうか。

 

「父の会社の人たちが家によく遊びに来るんです。みなさんから、会社の話や、大人になったらこういうことをするんだよという話をよく聞きます。理系の女の人もすごく多くて、男女関係なく、英語を使ってバリバリ仕事をしています。

 

働く大人が身近だったからか、将来、自分が働くこともすごくポジティブに考えています。つらいこともたくさんあると思うけれど、私は新しいことができるようになるのが楽しいので、仕事なら成長できることが多そうだなと思っています。仕事をするのが楽しみなんです」

 

抽選で奨学生になった時、「私は選ばれたんだ!」と自分に大きな自信が持てたと話してくれた朝倉さん。「選ばれたからには合格しなきゃ」と受験のモチベーションも上がったと言います。

 

「理系を選ぶことをすごく真面目に考える子が多いような気がします。理系ってみんな頭が良くて、すごく頑張らなきゃというイメージが強いけれど、もっと気軽に考えていいと思います。高校受験で理系を選ぶのは勇気が要るかもしれないけれど、早めに自分の進みたい道を考えることで具体的に向いていることも見えてくるし、例えば大学に入ってから方向性を変えてもいいと思うんです。だから、もっと気軽に考えてほしいです」

自分の一歩から社会を変えていこう

 

「『女の子だからとりあえず文系』という選択をなくしたいんです」と話すのは、山田進太郎D&I財団 事務局長の田中多恵さんです。

 

「『男子だから』『女子だから』という思い込みや周囲からの何気ない一言で、進路が左右される現象をこの世代まででやめにしたいと思っています。

 

抽選制の奨学金を通して、なぜ、女性が理系を目指しにくい状況が生まれているのかを、一人ひとりが考えるきっかけになればと思っています。また、『理数の成績がずば抜けて良くなければ理系を目指してはいけない』という思い込みもなくしたい。奨学金をきっかけに社会が応援してくれていると感じることで乗り越えられる壁もあると思います」

 

「理系への進路を選択する女子が増えてほしい」と田中さんは力を込めます。昨年、奨学金がスタートしてからの1年、「『なぜ女子だけを優遇するのか』という批判もあった」とも。

 

「財団では、『抽選制の奨学金はポジティブアクション』だと考えています。まず理系女子の割合を高めるためには、当事者の女子たちを応援する仕組みが必要で、これが先々のジェンダーギャップを解決する一歩になると。理系に興味がある女子には、ぜひ社会を変える一人になってほしいです。

 

財団や社会が応援しています。だから、自信を持って理系を選択してください。一人ひとりの前向きな行動を応援することでジェンダーギャップを変えていきたいです」

 

第二期では、応募の対象者を中学3年生から高校1・2年生まで拡大しています。第一期では、「多くの学生にとって文系か理系を意識するのは、高校1・2年で文理を選択する時なのではないか」という声も多数受けたことで、検討を進め、今回、対象学年を拡大してより間口を広げました。

 

人数についても、現中学3年生に対しては昨年と同じ100名、現高校1・2年生に対しては500名程度の給付を予定。また、今回、奨学金としてではなく奨学助成金とすることで、理系進学に関連した体験や環境を整えるための費用にあてることを想定しています。

 

「奨学助成金は一人10万円なので一見少ないと思われるかもしれません。でも、私たちの応援が前向きな選択につながればと思っています。

 

『理系』へのハードルを下げることが今の私たちの大きな役割です。理系に興味がある女子にたくさん知ってもらうことで、自分の『好き』を大切に自分の道をつくるきっかけになればとても嬉しいです。モヤモヤしている人こそ、ぜひご応募ください。自分は何が好きなのか、どんなことに向いているのを考える大事な時間になるはずです」(田中さん)

 

***

 

【STEM(理系)女子奨学助成金に応募したい方へ】

<募集期間>

中学3年生(2023年4月に高等学校へ入学予定の方):

2022年7月7日(木) ~10月10日(月)

高校1・2生(2023年4月 高校新2・3年生の方):

2022年7月7日(木)~12月18日(日)

 

詳細は以下のサイトからご確認ください。

https://www.shinfdn.org/

 

【無料オンラインイベント情報:7/23(土)13時から開催】

スプツニ子! さん、南場智子さん、落合陽一さん、山田進太郎さんたちがSTEM(理系) の面白さを語るオンラインイベントを開催します(保護者も歓迎)。

以下のサイトから詳細をご確認ください。

>> 中高生のためのガールズフェスタ~女中学生向けオンライン配信イベント

※スプツニ子! さんの「!」は全角の「!」です。

 

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