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障がいも不登校も関係ない 阿蘇の大自然で行うインクルーシブ教育―一般社団法人sol

2022.07.27 

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一般社団法人sol

・障がい児サービス(児童発達支援、保育所等訪問支援、放課後等デイサービスなど)の利用児童数は増える傾向にあり、2019年度は2014年度に比べて約2.3倍になった(※1)。

・小・中学校を長期欠席した児童生徒のうち、2020年度の「不登校(90日以上登校していないこと)」の児童生徒数は196,127人。児童生徒1,000人あたりの不登校児童生徒数は20.5人(前年度18.8人)と8年連続で増加し、過去最多となっている(※2)。

・「みてね基金」に採択された「一般社団法人sol(ソル)」は、自然体験と伝統あそびを軸に障がいがある子もない子も一緒に育つ場を提供している。

 

「みてね基金」は、すべての子どもとその家族の幸せを願って活動しています。今回紹介する助成先は、熊本県阿蘇郡の大自然に囲まれた環境でインクルーシブ教育を実践する「一般社団法人sol」です。

代表の中山千春さんは、未就学児を中心に子どもの発達や遊びに合わせた保育の場を10年ほどかけて一つずつつくり続けてきました。「みてね基金」では、市街から離れた自然あふれる場所で地域や親子の課題を解決しコミュニティ作りを進めたいという中山さんの決意を支援するため、2021年春より組織や事業の基盤づくりなどに助成しています。

遠方からも足を運ぶ親子がいるほど信頼を集める「sol」の活動で中山さんが大切にしていること、また、学校に行く行かないに関係なくみんなで過ごせる居場所づくりについて語っていただきました。

 

 

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(左から)一般社団法人sol代表 中山千春さん、堀真紀さん、熊谷明奈さん

 

※こちらは、「みてね基金」掲載記事からの転載です。NPO法人ETIC.は、みてね基金に運営協力をしています。

精神科で働き始めた理由

 

「子どもたちとの時間はもう幸せでしかなくて。どんなに大変なことがあっても、子どもたちと一緒にいるだけで元気になるんです。」

 

「sol」の中山千春さんは、にこやかな笑顔でこう話します。「sol」では、自然体験を中心とした未就学児のための「森のようちえん」、障がいのある子どものための療育(※3)を行う「Atelier MOMO(アトリエ モモ)」などを運営しています。

 

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中山さんと子どもたち 自然体験の現場にて

 

もともと作業療法士として精神科病院に勤務していた中山さん。10代から80代まで障がいや生きづらさをもった人が少しずつ自分らしさを取り戻し、人との関わりを再構築し、自分の暮らしに戻るサポートをしていました。

 

「学生の頃に受けた臨床実習で、脳性マヒのある子どもたちの間で差別が起きているのを見たんです。自分のなかに『障がいのある人は心がやさしい』という先入観があったと思うのですが、衝撃を受けて。『子どもの心の動きが知りたい、子どもの力になりたい』と思うようになりました。

 

児童思春期精神科で仕事をしようと思った時、大学の先生から『それなら、まず心の病をもちながら大人になった姿を知ったほうがいい』と勧められて精神科で働くことになりました。そこで働くうちに、家族の接し方が変わることで患者さんの心が元気になっていくのを見るようになったんです。子どもたちが精神疾患になる前になんとか予防ができないかと思ったきっかけでした。」

 

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「森のようちえん」のお散歩の時間

 

精神科に勤務していた頃、同じ作業療法士として切磋琢磨していた中山孝次さんと結婚し、出産。「子どもはかわいいけれど大変、もっと仕事がしたい」と産後のモヤモヤ、孤独感を味わった経験をもとに、自身の子どもの頃のように地域の人たちに見守られながら子育てができる環境を求めて家族で沖縄へ移住。その1ヵ月後、昔から地域で唄い継がれるわらべうたと出会い、うた遊びを通して2歳だった息子ともようやく向き合えた気持ちになれたといいます。

 

熊本県に引っ越しをしたのは、東日本大震災がきっかけでした。「九州に住むわが子の祖父母を大切にしたい」と動く中山さん夫婦に迷いはありませんでした。

 

「熊本では、最初にわらべうたの普及活動をする『わらべの森』を立ち上げました。そのうち『親子のために何かできないか』と思うようになり、親子を集めて小さなお散歩会を始めました。山や田んぼで遊びながら、『子どもたちみんなで育ち合えると楽しい』と身体に染みついた経験でしたね。」

 

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自然体験の現場にて

 

「ないからつくった」障がい児の通所支援事業所

 

障がいのある子どもたちが通う「Atelier MOMO」を始めたのは2019年です。

 

「沖縄にいた頃から、『いつかは作業療法士としてわらべうたで障がい児の療育をする』と決めていました。いよいよ活動を始めようとした時、大自然が広がる阿蘇の環境が気に入って、今の場所に引っ越しをしました。

 

ただ、この地域には、障がい児のための通所支援事業所がありませんでした。そこで、「ないなら私たちがつくろう」と始めたのが『Atelier MOMO』です。当初は、社労士さんに『市街にすれば人が集まりやすいのに。こんなところでなんて経営上では信じられない。』と呆れられましたけれど()。」

 

「sol」を夫婦で立ち上げたのも、「『Atelier MOMO』を始めるために必要だったから」と中山さんは軽やかです。現在、「Atelier MOMO」には市外から2時間半かけてやってくる親子もいるそうです。だから、市街から遠く人が来なくてへこたれそうになった日も、「来てくれる親子のためにできることを頑張ろう」と、中山さんはスタッフと笑顔で迎え入れる場をつくっています。

 

「普段は、子どもたちに叩かれたりいじられたり、いろんなことがあります()。ただ、こちらが子どもを心の底から愛した時、信じた時に伝わるものがあるんです。その時が、子どもが脱皮する瞬間です。

 

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自然に触れ、遊ぶ子ども

 

『Atelier MOMO』では、親御さんたちが気持ちを話せる場もつくっていますが、話を聞くと涙を流されることもたくさんあります。その時はたとえ辛い気持ちで話をされたとしても、親御さんは『Atelier MOMO』でありのままの子どもや自分が受けとめられていると感じることで、ゆっくり気持ちや接し方に変化が起きます。それが子どもにも伝わるように子どもの心にも変化が表れていきます。私たちにとっては、『こういう場をつくってよかった』と思える時ですね。」

 

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「森のようちえん」お迎えのひととき

 

人の育ちに必要なことは同じ

 

木登りやかけっこ、わらべうた遊びなど、阿蘇の自然との体験を通して子どもの成長を見守る「sol」の遊び場づくり。「子どもたちはどこでも自由に出入りできる」ことが、「sol」流のインクルーシブ教育です。

 

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森で家族ごっこやお店やさんごっこ

 

「例えば5歳の注意欠如・多動症(ADHD)をもつ発達障がいの子が『Atelier MOMO』に所属しているとしたら、『森のようちえん』に毎日参加してもOKです。もちろん、それ以外の遊び場でも遊べます。

 

最近は多様性とよく言われますが、人が育つために必要なことは障がいなど関係なく同じだと思っています。小さな頃から一緒に過ごしてお互いの共通点や違いを知っていくことが、差別のない世の中をつくっていくのではないでしょうか。」

 

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「Atelier MOMO」わらべうた療育の時間

 

子どもたちと接する時に願うのは、「自分を好きになってほしい」ということ。

 

「子どもたちには状況に合わせて『今どう思う?』など、自分の素直な気持ちに気づいてもらうための問いかけをします。問いは、その子を知りたいと思えば自然に出てくるんですよね。私たちは子どもたちが話してくれた気持ちを受けとめて安心してもらえるようにしています。

 

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桃の実をちぎっている子どもたち

 

成長するうえで一番支えとなるのは、子ども自身の『自分が好き』という気持ちです。

子どもがそう思えるためには、ありのままの自分がまわりの人に受け入れてもらえる安心感や信頼感をもてることが必要です。それは身近な大人がどれだけその子どもの持っている力を信じられるかにつきます。だから、私たちは、障がいの有無に関係なく、子どもたちが自分を好きになってくれるように、まずは目の前の子どもを信じることを大事にしています。」

 

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自然体験の場で子どもたちの好奇心が踊り出す瞬間

 

ここにいるだけでいい

 

「Atelier MOMO」を始めてしばらくすると、学校に行けなくなった発達障がいの子どもが来るようになったと中山さんはいいます。さらに、中山さんは、障がいのない子たちが不登校となって、行き場をなくしていることにも気づきます。「この子たちの居場所をつくってほしい」と自治体にかけあいましたが、2年たってもなかなか実現まで結びつかなったそうです。

 

「そんな時、『みてね基金』を知ったんです。『みてね基金』は、『ないなら自分でつくりたい』という思いを強く支えてくれました。」

 

不登校の子どもとママの第3の居場所「フレデリック」がオープンしたのは2021年10月でした。

 

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“おてんとさんごはん”をもらっている子どもたち

 

「何もしなくていいし、やりたいことがあれば自由にできる環境を大事にしています。子どもたちに合わせて、ボードゲームや散歩、サッカー、また大人と一緒にカレーを作ったり、炭をおこして肉や魚を焼いたりもしています。

 

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多世代交流のひととき

 

不登校になった子は、人が怖いと思うことが少なくないので、人っていいなと安心できる時間になればと思っています。ゆっくりとエネルギーを貯めてほしい。月2回来てくれる料理担当の方と、竹細工が得意な方には、『何も教えなくていいから、知り合いのおじさん、おばさんの関係でいて』と話しています。

 

これからもっと地域の人たちが子どもたちと関われるようにしたいですね。世代間交流がこの阿蘇の大自然のなかで賑やかに行われる場をつくりたいです。」

 

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子どものお迎え時間

 

親子と触れ合う日々を送る中山さんは、子育てで頑張るママやパパにこんな言葉を送ってくれました。

 

「自分を大事にしてください。ただそれだけです。子育てをする大人が自分を大切にできなければ、子どもを大切にすることはできません。『自分は今日もよく頑張った』と褒めてあげてください。一つひとつできたタスクを数えるのではなく、『今日も1日頑張った』とその日の自分をまるごと抱きしめるのです。

 

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美味しかったのでおかわりをおねだり

 

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物思いにふける時間

 

子育てで何か心配ごとが起こった時、自分を責める人もいますが、誰が悪いわけでもなく、みんな頑張っています。『今ここにいるだけでいい』と思ってもらえたら。大丈夫ですよ。」

 

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撮影当日集まった全員でチーズ!

 

< 取材後記 >

 

太陽のような笑顔と時折のぞかせる芯の強さがとても印象的な中山さんへの取材は、子どもを育てる親としても学びが多い時間でした。「ないならつくろうと思うところは昔からあるのかも」とお話されていましたが、親子が安心して過ごせる場を丁寧に実現していく中山さんの思いと行動力に励まされる人はたくさんいるはずです。ママやパパへの温かなメッセージもありがとうございました。(ライター たかなしまき)

 

中山さんの、子どもたちや、日々がんばる親御さんたちへの温かい視線が、「一般社団法人sol」の魅力だと思います。中山さんの温かい気持ちが原動力となり、熊本阿蘇の大自然の中で、これからもたくさんの子どもと親御さんたちと一緒に、さまざまな豊かな時が育まれて行くことと思います。今後もご活動を応援させていただきます。どうもありがとうございました。(みてね基金事務局 関 麻里)

 

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フォトグラファー : 畠山蔵

Lovegraph(ラブグラフ)フォトグラファー。長崎県生まれ。福岡を拠点に全国にてフォトグラファーとして活動している。ウエディングフォトを中心に年間100件以上の撮影を行う。

 

(※1)厚生労働省「障害児通所支援について」P5「障害児サービスに係る利用児童数等の推移(サービス種類別)」より

(※2)文部科学省 令和2年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」P15「小・中学校における不登校の状況について」より

(※3)療育とは、障がいのある子どもの発達を支える働きかけのことをいう。「発達支援」と同じ意味で使われることが多い。厚生労働省では、「児童発達支援は、障害のある子どもに対し、身体的・精神的機能の適正な発達を促し、日常生活及び社会生活を円滑に営めるようにするために行う、それぞれの障害の特性に応じた福祉的、心理的、教育的及び医療的な援助である」としている。厚生労働省「児童発達支援ガイドライン」P11より

 


 

団体名

一般社団法人sol

申請事業

地域と共に、すべての親子の居場所となるための体制づくり

 

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みてね基金
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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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