認定NPO法人CLACK
・「認定NPO法人CLACK」は、生まれ育った環境に関係なく、子どもが希望とワクワクを持てる社会を目指し、経済的な困難を抱える中高生にデジタルを活用した伴走支援を行っている。
・2025年2月、中高生にVRや3Dプリンター、レーザーカッターなどのハードウェアやデジタル機器を触る機会を無償提供するクリエイティブハブ「テクリエさぎのみや」をオープン。中高生自身が自走できるよう「経験」、「つながり」、「考え方」も身につくようにサポート。
・同施設にワッフルカフェを併設。中高生だけではなく、その家族や地域の人たちにとっても、集まりやすく、時には休んだり、頼ったりできる居場所になりつつある。
「みてね基金」は2020年4月から、すべての子ども、その家族が幸せに暮らせる世界を目指して、子どもや家族を取り巻く社会課題解決のために活動している非営利団体を支援しています。
「認定NPO法人CLACK(以下、CLACK)」は、9人に1人の子どもが相対的貧困状態にあると言われる日本で、貧困の連鎖を断ち切ることを目指して活動している団体です。主に困窮家庭の中高生を対象にデジタル教育とキャリア教育を行い、経済的自立と精神的自立につなげています。CLACKは、「みてね基金」第四期 イノベーション助成で採択され、現在、困難を抱える中高生へのデジタルを活用した自走支援モデルの確立に取り組んでいます。2025年2月、その拠点となるクリエイティブハブ「テクリエさぎのみや」を東京・中野区にオープン。具体的な取り組みや想いを、理事長の平井大輝さんにお聞きしました。
※こちらは、「みてね基金」掲載記事からの転載です。NPO法人ETIC.は、みてね基金に運営協力をしています。
ワッフルカフェの2階と3階が中高生の秘密基地に
中高生が1人でもふらっと行けて、しかも最新のデジタル機器が無料で使える。そんな場所を、CLACKは、2025年2月、東京中野区に新しくオープンしました。今回、「みてね基金」の助成が活かされた3階建ての建物です。
クリエイティブハブ「テクリエさぎのみや」。
最寄り駅から徒歩1分。1階は、明るい日差しがたっぷり入るワッフルカフェで、奥には赤ちゃん連れの親子でもゆっくり過ごせるオープンなスペースがあります。2階と3階は、最新のデジタル機器が並び、中高生にとって学校や家庭以外の「秘密基地」。
利用料金は、中高生ならすべて無料。1階のワッフルカフェでは、訪れた人が中高生のために購入してくれたワッフルチケットでワッフルを食べられます。2階・3階のデジタルエリアには、パソコンやタブレット、ペンタブのほか、電子工作やものづくりができる3Dプリンターやレーザーカッター、AR・VR、映像撮影や編集ができる機器などの最新デジタル機器を無料で利用可能。経験ゼロでも、気になったこと、やってみたいことを気軽に試すことができるのです。もっとテクノロジーを学びたい高校生向けに、完全無料のプログラミング教室「Tech Runway(テックランウェイ)」も開催しています。
ワッフルチケット(1個330円)を買えば、中高生たちにワッフル1個分を無料プレゼントできる仕組みに
ワッフルチケットに書かれた大人たちのメッセージの裏に、「おいしかったです」と中高生たちが返事も
気分転換をしたくなったら、1階のカフェエリアへ。ビートルズのアナログレコードが好きなときに聴ける落ち着いた雰囲気で、スタッフと地域の人おススメの漫画や絵本、本などを自由に読むことができます。
困窮家庭の子たちはピンチの数が多いから
CLACKは、2018年、理事長である平井大輝さんが仲間と始めた団体です。大阪市内で生まれ育った平井さんは、中学時代、父親の自営業が廃業し、高校卒業まで父親と2人、経済的に困難な状況で生活することに。その中で、「父子家庭であることやお金がないとか、自分の状況を知られるのはカッコ悪いと思っていたから、誰にも言えなかった」、「自宅から学校まで徒歩1分だったけれど、家に友達を呼べなかった」と精神的な辛さを経験します。その後、大学時代に「自分と同じような境遇で理不尽な思いをする中高生たちに何かできないか」と、主にひとり親家庭の学習支援を行うNPO団体の活動にボランティア参加し、そこで出会った学生に関わったことをきっかけにプログラミングを軸にした支援活動を始めました。
CLACK理事長・平井大輝さん
「学習支援のボランティア活動は大学1年から始めて、3年くらい1対1で数十人の子たちに勉強を教えていました。ただ、子どもたちを見ているうちに、勉強はすごく大事だけれど、高校生くらいになると勉強のサポートだけで本人の気持ちや状況を前向きに変えるのは難しいかもしれないと思うようになっていました。
その中で、家庭環境のとても厳しい中学3年生がいたんです。その子は志望校に合格して、『高校に入学したらプログラミングをやってみたい』と言っていたけれど、そもそもパソコンを持っていないし、生活保護家庭でいろいろ条件が厳しく、満足に学べる環境ではありませんでした。やりたいことをどうにかやらせてあげられないかと思ったんです。そこで、大学4年から1年間休学することを決めて、2018年4月、CLACKを立ち上げました」
CLACK立ち上げ当時の様子
CLACKの支援対象のメインは高校生です。特に、生活が困窮な状態にある家庭の高校生を中心としています。その理由を、「義務教育の小中学生と異なり、高校生に対する支援が不足しているからです」と、平井さんは話します。
「現在、貧困家庭の高校生は、支援とつながりにくい状況にあります。また、勉強が苦手な傾向もあり、日本の高校進学率が99%(2024年度時点)と高い一方で、20歳を超えて無職になる割合も増えつつあり、就労のサポートもあまり受けられていない現実があります(※)。
僕たちは、『高校生は子どもの一番最後であり、大人の一番最初の時期』だと捉えています。高校時代は将来を選択するうえでも重要な時期だからこそ、日本のほとんどの子どもが通っている高校で、生きるうえで役立つITスキルを活用しながら、先を見据えた支援をすることが大事だと考えています」
CLACKの活動の柱となる自走支援には、こんな思いが込められています。
「CLACKが支援している子どもたちって、困難にぶつかってしまう頻度が高いんです。支援した子どもたちが困難にぶつかったときに、誰かに頼りながらでいいから、自分にとって大事なことは自分で決めて、人生を自分の力で走ってもらえたらと願っています」
「楽しそう」「楽しい」リピート率が高いことがうれしい
平井さん曰く、「困難を抱えた高校生の支援を難しくさせている3つの壁」があるそう。
①支援者が支援したい高校生と出会えない、高校生に情報が届きにくい
②高校生に情報が届いても、なかなか一歩を踏み出せない
③高校生が継続して通うことが難しく、支援が続かない
今年2月にオープンした「テクリエさぎのみや」では、この3つの壁を超えるため、様々な取り組みに力を入れてきました。
まず、高校生にとって少しでも身近な関係性のある人とCLACKがしっかりつながり、情報を届けていく仕組みづくりを進めてきました。
「最初に中野区との連携体制をつくりました。中野区のネットワークを活かしながら、『無料でIT機器が使える面白そうなところができたよ』という情報が高校生まで広がっていくといいなと思っています。また、最寄駅の鷺ノ宮駅周辺は、近隣や沿線に中学校や高校、専門学校がたくさん並んでいて、『テクリエさぎのみや』はだれでも足を運びやすい距離にあるんです」
VRヘッドセットも自由に使える
ロボットやプログラミングと触れ合う機会も
中高生に届けたい情報は、少しでも「楽しそう」と思ってもらえることをとても大事にしているそう。
「一度でも『楽しそう』と思ってもらえれば、3つの壁さえも超えていけます。漫画が好きな高校生も多いと思いますが、例えば自分でも絵を描いている子が、『ペンタブでLINEスタンプも作れるよ』、『動画編集もできるよ』と声をかけられたときに、興味、関心から『自分でもできそう』と試してみて、『楽しい』と思える。そんな体験が、継続して支援を受ける難しさを超えてくれるはずだと考えています」
中高生が身近な存在にそっと背中を押されて、「楽しそう」と思えた経験から一歩踏み出すことができるようになる。平井さんたちは、特にデジタル環境を強化するとともに、価値観や興味が多様化している中高生たちに合わせて工夫を盛り込みました。
「AR・VRでもペンタブでも動画編集でも、どんなことでもいいんです。『やってみたい』とまず思えたら。そのまま、興味のあることにハマってもらえることをすごく大事にしています」
細やかな知恵や工夫を集めて創り上げた「テクリエさぎのみや」は、「面白そうだから」、「まわりの人に教えてもらって」と訪れる子どもたちが続いているそうです。
「『自分に合わなかったら帰ればいいや』と気軽に来て、そのまま通ってくれる子がすごく多いです。1回来ただけで終わらない。めちゃくちゃうれしいですね」
プログラミング教室「Tech Runway」の様子
VRヘッドセットを体験
やり切る、活躍できるチャンスを自分でつかむ
続いて平井さんは、これまで関わった子どもたちとの思い出を語ってくれました。例えば、大阪の卒業生の一人・Tくんは、CLACKの支援をきっかけに自分の道を切り開いている一人なのだそう。
「Tくんが高校2年生のときに出会ったのですが、彼は、中学生のときに辛い体験をしたことなどでコミュニケーションに苦手意識を持っていて、一人で電車に乗ることも難しい状態にありました。友達がなかなかできないという悩みを持ってCLACKに来てくれたのですが、プログラミングに取り組んでいるうちにスキルが上がっていったんです。そうすると、彼は得意なアニメの話だけでなく、学校の話もしてくれるようになってくれて。
その後、次のステップである3ヶ月のプログラム『Tech Runway』の受講もやり切って、最後のステップ『クエスト』では、連携先のNPO団体から依頼された公式サイトを、身につけたプログラミングスキルを活かしてクリエイターとともに作り切り、お金を稼ぐ経験もしました」
CLACKで1年ほど頑張ったTくんは、「ITの道にいこう」と自分で進みたい道を決めて 高校を卒業したそう。その後は、IT専門学校に進学しています。
「学校では、アプリ開発コンテストでチームリーダーに抜擢されて、インターシップにも参加したり、友だちもできて、同級生から頼られる存在だったそうです。就職活動では、3社から内定をもらって、現在は大阪市内でも有名な複合商業ビルが運営するサービスを開発するエンジニアとして働いています。ちょうど入社して1年経ったので、久しぶりに彼とご飯に行ってきたんです。もちろん彼なりの悩みはあったけれど、しっかり社会人として頑張っているようでした。
彼みたいな高校生がCLACKでどんどん増えているんです。それまで経験できなかったけれど、みんなの前に出て活躍したり、自分がちゃんと肯定されるチャンスがあれば、一気に変化できたり、じわじわ変わっていける。いろんな子たちを見てきてそう思います」
「高校生に作ってもらったんです」と平井さんが見せてくれたコルクのカッコいい名札。テクリエさぎのみやに通う子どもがレーザーカッターで作ったものだそう
「経験」「つながり」「考え方」が身につく体験を一緒につくろう
貧困家庭の子どもたちにとって、「経験」、「つながり」、「考え方」の不足が将来をつくるうえで大きな障害になっています。CLACKでは、高校時代に新しい「経験」、「つながり」、「考え方」を身につけられるように関わっているそうです。
「まず『Tech Runway』では、週2回を3ヶ月間通うことで学習習慣をつくります。例えば、『パソコンを開けて見ることから始める』、『計画を立ててみる』など、少しずつ自分でこれから先に向けた考え方をつくっていきます。
また、ChatGPTなどの生成AIもこれからの時代は使えた方が良いので、ちょっと触ってみるとか。そういった積み重ねの中で、何かをやり切った経験にまでつながってもらえるといいなあと。3ヵ月間、『Tech Runway』を通い切ることも実際すごいことなんです。 CLACKがどこまで中学生や高校生たちの役に立てるか、まだ試行錯誤は続きますが、子どもたちには、いろんな人や団体、公的機関とつながり、頼りながら自分の人生をうまく生きてほしいと思っています」
今回、オープンした「テクリエさぎのみや」の今後についてはこう語ります。
「中高生の支援については、自分たちが拠点を増やすのではなく、地域に根差した団体が必要な支援を展開することが望ましいと思っています。CLACKができることとして注力したいのは、『テクリエさぎのみや』で再現性のある事例をつくることです。事例をモデル化して、必要なところへ届けていきたい。
例えば、『テクリエさぎのみや』で販売するワッフルやシェア本棚。シェア本棚では、書籍や写真集、絵本など、地域の人が一つの棚のオーナーになっておススメ本を置いてくれている仕組みです。
地域の方々がおススメ本を置いてくれる「シェア本棚」
本棚に並ぶ漫画は、ほとんどが漫画を愛する平井さんのおススメ本とか。中高生の視点で大切に選び抜かれたラインナップが揃う
またワッフルは、「九州パンケーキ」というブランドが主宰する、地域に根差した事業づくりや働き方を応援する"47都道府県ローカル&ワッフルプロジェクト"という取り組みの一環で、良心的な費用で、地元の特産品を活かしながら自由にブランドや味を作ることができます。ワッフル作りは属人性が少なく、売り上げも見込めます。例えばうちでは1日200個くらい販売できる日もあったりするので、場所の維持費面で貢献しています。カフェを開きたいという支援団体さんがいる中、ワッフルならハードルが低く、子どもたちも入るきっかけになると思っています。ワッフル、美味しくて人気なんですよ」
自慢のワッフル
子どもたちの未来は、大人が想像できない生き方が当たり前かも
最後に、子育て中の家族にはこんなメッセージを送ってくれました。
「最近は共働き家庭も増えて、学校でもいろいろな課題があって、子育てが昔より難しくなっているように感じています。今の子どもたちが育つ環境は、親御さんたちの時代とは大きく違っていて、スマホも生成AIも当たり前。そんな子どもたちって、大人たちが想像できないような生き方や働き方をしていくのだろうとも思っています。
もしかしたら今後、超えることが難しい壁も増えていくかもしれない。これは僕の願いではありますが、だからこそ、親御さんは自分たちだけで育てようとせず、地域のいろいろなサービスやつながりを活かしてもらえたらいいなあと思います。周りの人たちを頼りながら、気持ちに余裕を持って育てていくことがすごく大事なように思うのです。『子育てはこうあるべき』に縛られず、子育てをしてほしいです。よかったら今度、『テクリエさぎのみや』にも寄っていただけるとうれしいですね」
取材後記
「テクリエさぎのみや」のお話では、子どもたちの興味や好奇心のアンテナにつながるような、とても丁寧な工夫に触れることができてワクワクしました。子どもが何か興味のあることに熱中する、そんな姿を見ることができる親御さんも幸せな気持ちになれるだろうなと想像しました。デジタル環境はもちろんですが、ふんわりと温かい空気感に包まれながら、中高生が赤ちゃんや高齢者の方と一緒に過ごしたり、漫画を読んだり、美味しいワッフルを食べたり、ゆっくり過ごせる場所が自分の町にあること、とってもいいなあと思いました。
(※)
①厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」P14より。2021年の離職率では20歳~24歳の男性24.2%、女性26.9%、25歳~29歳の男性19.6%、女性19.2%と、いずれも19歳以下の次に高い数値を示している。https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/22-2/dl/gaikyou.pdf
②厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/4-21c-jyakunenkoyou-r05_gaikyou.pdf
③厚生労働省「生活困窮者に対する就労支援について」主にP55よりhttps://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000185302.pdf
団体名
助成事業名
困難を抱える中高生へのデジタルを活用した自走支援モデルの確立
フォトグラファー
もみじ|坂口友海
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何気ない幸せな一瞬をカタチにします。
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