
2024年1月1日、石川県・能登半島で起きた令和6年能登半島地震。その後に発生した令和6年9月能登半島豪雨。甚大な被害に見舞われた能登は、今もなお、支援の手を必要としながらも、能登の皆さんが能登らしい創造的な復興に向けた歩みを続けています。
NPO法人ETIC.(以下、エティック)は、2024年1月の発災直後から2025年11月現在まで、被災地域の支援を継続しています。そのなかで、地震発生から1年10カ月が経ち、これまでの活動を振り返って、残すべき学びが見えてきました。
エティックの支援活動のうち、能登半島地震緊急支援事業(※)は、能登で復興支援を行う団体への支援事業です。支援した8つの団体の取り組みは、いずれも、これまでの被災地支援の考え方とアプローチの枠を超える画期的なものでした。
この連載では、エティックが助成を行った8団体が事業から生み出した成果を、「残したい能登からの学び」としてお届けします(8回連載)。今回は、合同会社ハピオブの中野彰太さんです。
本記事は、2025年3月開催の能登半島地震緊急支援事業報告会の一部と、8月に行った追加取材をもとに作成したものです。
※「能登半島地震緊急支援事業(休眠預金等活用事業2023年度緊急枠)」について
令和6年能登半島地震への緊急支援および中長期的復興を見据えた基盤強化事業です。災害弱者・広域避難者・小規模事業者等への緊急性の高いプロジェクトを実施するとともに、プロジェクトを通じて能登および周辺地域におけるリソース不足の解消を目指します。2024年1月から2025年3月まで助成を実施しました。

中野 彰太(なかの しょうた)さん
合同会社ハピオブ COO
人事コンサルタントとして、自治体・企業に向けた採用支援や人材育成、人材活用に関する施策の設計・実行を行う。2024年には能登半島地震の復興支援事業に参画し、プロジェクトリーダーとして地域企業の復興や事業展開に向けた人材マッチングを担い、コーディネーターの活動支援にも取り組んだ。
公式サイト : 合同会社ハピオブ
※記事中敬称略
ハピオブの取り組みと共通点を持つチャレコミ「災害支援会員制度」
合同会社ハピオブは、コミュニケーションの再構築を支援する会社です。石川県に隣接する富山県に拠点を置き、人材育成事業や人材採用事業、コミュニティ育成事業などを行っています。
今回、ハピオブが実施した事業には、エティックが事務局を務めるチャレンジ・コミュニティ・プロジェクト(以下、「チャレコミ」)が2022年に設立した「災害支援会員制度」に共通する部分が複数あります。
「災害支援会員制度」とは、災害が起きたときに、発災直後から多くの情報が集まってくる「地域のハブ」となるまちづくり団体に、期間限定でほかのエリアからコーディネート人材を派遣し、被災地での緊急支援の取り組みを助ける仕組みです。
今回、隣の富山県から、能登の企業や団体の復興を後押しするために、外部の情報やリソースを持った人材が被災地である能登に入ったことで、どのような動きが生まれたのか。それに加えて、能登地域の中でもコーディネート人材の発掘を行ったことで見えてきたものを、現場での難しさも含め紐解いていきます。
地域コーディネーター5名を発掘、育成──合同会社ハピオブ 中野彰太さん報告
中野 : 令和6年能登半島地震において、富山県内に拠点を置くハピオブは、大きな被害を免れました。しかし、富山県の氷見市(ひみし)は文化風土的に能登と縁が深く、能登地方と呼ばれています。そういった状況で「我々も富山から何か力になりたい」と、今回、合同会社CとHとのコンソーシアムで助成金を申請し、支援活動を行いました。
合同会社ハピオブの事業は大きく2つ軸があります。小規模事業者を対象にした新しい人材や価値観と出合う場づくりと、コーディネーター育成です。
今回の復興支援では、新たに地域のコーディネーター役となる人材を発掘し、県内外含めた地域外からの外部人材と地域の小規模事業者をつなぐ活動を行いました。また、外部人材が関わる復興支援プロジェクトを企画し、マッチングして、企画の実行まで関わることを目指しました。

支援先の一つ、珠洲市にある牧場「みんなの馬株式会社」SMOUTプロジェクトページより
中野 : 具体的には、ハピオブから2名のコーディネーターが能登地域の中に入り込み、地域に根差して活動している方を見つけ出しました。その後、2名の方が実際にコーディネーターとして活動できるよう働きかけつつ、結果として5名のコーディネーター発掘につなげています。
5名のコーディネーターの方たちとは、紹介を通じて出会うことができました。ハピオブはもともと能登地域に活動拠点を持っていないことが今回の取り組みにおける1つの壁となったのですが、能登地域でどんな方がコーディネーター的な役割を担っているかは、能登復興支援の中心的な立場にある株式会社御祓川や、珠洲市(すずし)に拠点を置く合同会社CとHなどから情報を得ました。
今回の事業を機に株式会社御祓川が運営するコワーキングスペースであるbancoに能登拠点を構えたことでも、より動きやすくなりました。
紹介いただいたコーディネーター候補の方たちそれぞれが、当時置かれていた状況なども調べて、災害支援でのコーディネーター的な活動が可能かどうかを検討し、相談をして、結果、能登地域に住んでいる5名の方をコーディネーターとして任命させていただきました。
今年2月で助成事業は終了しましたが、当初からの狙い通り、2月以降も5名の方は現地で活動しています。
地域コーディネーターの役割は大きい
中野 : 今回の助成事業活動では、大きな気づきが2つありました。
1つは、復興における地域コーディネーターの役割がとても重要だと実感したことです。地域コーディネーターには、人との関係性や活動のハブとなってまわりを牽引していくことが期待されています。また、自身で事業を営んでいる方もそうした役割を担っている場合があると感じました。
特に今回、能登で本業を持ちながら地域コーディネーターとしてさまざまな活動を行っている方の現場に関わることで、コーディネーター業務の重要性を強く認識しました。
気づきの2つめは、県外の人たちの能登の復興や現況に対する関心の高さです。今回の支援活動では、能登の生活に関わりのなかった県外の外部人材に、現地の活動に参画いただけるように働きかけましたが、彼らはとても熱意をもって能登の復興や現況を感じ取ろうとしていました。

支援先の一つ、珠洲市の「8番らーめん珠洲店」
今後は、いま、能登地方ではどういった支援が必要とされているのかを継続的に発信することが必要だと思いました。
広い被災地域の中で、状況に合わせて外部人材の受け入れを進める難しさ
中野 : 支援活動のなかでは、大きく苦戦し、成果が出せなかったと思う点もあります。主な原因は、次の3つだと考えています。
1つめは、復旧・復興の活動に対してマッチング先企業の選定が遅れたことです。広い地域が被災し、復興の進捗も地域ごとに異なり、一律の支援は難しいとすぐに気づきました。可能な限り柔軟な体制で臨んできましたが、マンパワーが限られており、すべてに対応しきれませんでした。
2つめは、当初、コーディネーター候補として想定していた、若手事業者や経営者が2024年9月の能登半島豪雨以降は、自ら復興支援に取り組んだことで、時間が十分に取れなくなってしまったことです。結果的に災害からの復旧フェーズが長く続き、計画が遅れてしまいました。
3つめは、地元事業者と外部人材のマッチングです。地元の事業者は、まずは復旧復興の現場で働いてほしいという思いが強く、外部人材はオンラインで関われることを探していて、互いのニーズ調整が難航しました。

中野 : しかし、事業の方向性はずれていなかったと思っています。ただ、見込みとしては甘かったなと。
原因は2つあって、1つは、今回の事業の計画した震災直後の2024年1月、2月から、事業がスタートする夏前くらいまでの数カ月で、現地の状況やコーディネーター候補の方の状況が大きく変わっていたことです。
復旧復興の段階では、現地の状況は日々目まぐるしく変わっていきました。
具体的には、コーディネーター候補の方たちは、当初から本業をもちつつ、地域に根ざして活動されていた方たちですが、被災直後と、少し復旧に向けて動き始めている段階では、本業の忙しさなど状況が大きく変わっていました。そのため、発掘から任命まで数カ月ほど経過してしまったのです。
2つめは、2024年9月の能登豪雨で、復旧から復興に向かいつつあった事業者さんが、また復旧に戻ってしまったということがありました。
そのなかで、外部人材のマッチングという画一的な枠組みの支援を広げようとしたのですが、振り返ると、もっと事業者さんや地域ごとの状況を早めにキャッチアップすべきだったと思います。むしろ、事業者さんに集まっていただくよりも、コーディネーターを発掘することを先に進めるべきだったと感じています。

中野 : 今後の方向性については、現在、2事業者に対して継続的に行っている人材支援と、求人情報プラットフォーム「能登で働く」に情報を集約し、発信させることを計画的に推進していきたいと考えています。
コーディネーター「生業として難しい」課題も。活動支援と重要性を広げる動きが必要
ここからは、活動報告会より5カ月後の2025年8月に、編集部が行ったインタビューです。
──2025年4月以降、地域コーディネーター支援と地元の小規模事業者に対する支援状況について教えてください。
中野 : 現在、能登には必要に応じて足を運んでいます。今回の事業をきっかけに、株式会社御祓川の七尾市にあるオフィスを拠点とした、採用支援と人材育成をワンストップで行う「能登の人事部」にハピオブも参画させてもらっています。
約1年間の助成期間が終了し、4月以降は継続的に能登の事業者向けの研修や講演への登壇を含めて、今回の復興支援で私たちが発掘・育成し、現在は「能登の人事部」を中心に活動中のコーディネーターたちが地域の中でより活躍できるようバックアップをしています。
具体的には2つあって、1つは、「能登の人事部」が行う採用支援です。能登で出会う事業者が人材採用に関心をもっていることがわかったら、そこにつないでいます。
もう1つは、ハピオブで発掘した5名のコーディネーターたちと何か一緒にできることがあればと、定期的に彼らと情報交換しながらさまざまな検討を進めています。
──能登復興支援での経験は、現在の仕事にどう活かされていると思いますか?
中野 : コーディネーターに関する現状として、地域のハブとなり自身や周囲の方々を巻き込んでボランティアをする人、外部から支援にいらっしゃるボランティアの方をコーディネートする人、そして復興のタイミングで移住をしてくる人などさまざまなタイプのコーディネーターの方がいると思います。
ただ、おそらくコーディネーターを生業にしている方は、地方においてはかなり限られると思います。そういったコーディネーターをされる方の資金面も含めた活動支援をしていくことで、復旧復興に向けて、スピード感が大きく早まっていくのかなと思う部分は大きいです。
具体的には、今回、地域に根ざして活動されている方を対象に、コーディネーターとして発掘・育成をしましたが、皆さんに話を聞いたとき、「そもそも地域の中で、コーディネーター的な役割には価値があると思ってはいるが、生業にはなっていない」とおっしゃっていました。
何か本業として仕事をしながら、プラスアルファとして、地域の人たちのためにコーディネーター的な役割をしている方がとても多いとも。極端な話では、自分で費用を負担して活動をしていたり、自分のリソースを含めて切羽詰まった状態でも、「まわりの人たちのために何かをしたい」という思いで活動をされている方が多かったです。
地域におけるコーディネーターの重要性や必要性といった面からは、コーディネーターの価値を、特に復興という段階ではもっと周知していく、価値を広げていくことが必要なのだと強く思いました。
そのうえで、現在は、ハピオブ自体がまだ社歴が長くないなか、今回の復興支援で、コーディネーターの役割は必要だと自分自身も痛感しました。そのため、関連の学びは深めていきたいと思っています。
ハピオブとしては今後も、コーディネーター的な役割を担う方を発掘・育成していく新たな事業の準備を進めているところです。そういった意味では、やはり復興支援の学びが今につながっていると思います。
画一的ではないボトムアップ的な情報収集を。コーディネーターによる情報発信も重要
──能登から得た学びとして、今後に残したいことはありますか?
中野 : コーディネーターという立場としての考え方ですが、行政という立場と地域のお一人お一人との関係性で、公(こう)というところだけでは、情報が十分に上がってこないと思っています。すると、どうしても画一的なやり方で復旧復興を進めていくことになってしまうと思うので、その間に立って情報を集めて伝えていくことの重要性は感じました。
特にローカルだからこそ、市や町の単位ではなく、もっと小さい集落の単位によっても大きく差が出てきていることが、この震災では大事にしたいこととしてあったのかなと思います。
──必要なのは、画一的ではない情報ということでしょうか。
中野 : 能登の人事部が運用する求人サービス「能登で働く」といった媒体も含めてですが、トップダウンで画一的な方法ですべて困っていることが解決するよね、というのではなく、ボトムアップ的に情報を吸い上げ、発信していくシステムが必要だと思いました。
そういう意味では、「能登で働く」の記事のように、一事業者に焦点を当てることは必要です。重ねて、コーディネーター的な役割に立つ方が、集落や地域ごとに、ミクロな情報を吸い上げていると思うのです。そういったコーディネーターによる情報発信の重要性もとても高く、その活動支援をしていく価値があると思います。

能登みらい創造ネットワークの人材募集記事
──今後、地元の富山県ではハピオブとしてどういう役割を担えそうだと思いますか?
中野 : 今の枠組みにおいて、富山県ではハピオブが、いわゆるコーディネーター的な役割をしている方の強いネットワークを持っていると思っています。

富山県の若手職員視察アテンドの光景
もし富山で災害が起きた場合には、まさにその情報集約だったり、今回の復興支援事業よりも少し大きなレイヤー(階級的な構造)にハピオブがあって、県内各地のコーディネーターの方を集約していく、ハブとなるコーディネーターとして活躍できるのではないかと思います。
そのひとつとして、今回の助成事業を通して、情報発信をしていくことや、外部との連携の重要性を改めて痛感したところです。今回の枠組みからの学びを活かしながら、富山が被災した際は、復興に向けて動いていけるのではないかと思っています。
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