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水、電気、熱の自給が可能なマイクログリッド集落を能登でつくる──株式会社こみんぐる 林俊伍さん【残したい能登からの学び(1)】

2025.10.27 

こみんぐるによる「真浦 SATOYAMA GRID」の構想

 

2024年1月1日、石川県・能登半島で起きた令和6年能登半島地震。その後に発生した令和6年9月能登半島豪雨。甚大な被害に見舞われた能登は、今もなお、支援の手を必要としながらも、能登の皆さんが能登らしい創造的な復興に向けた歩みを続けています。

 

NPO法人ETIC.(以下、エティック)は、2024年1月の発災直後から2025年10月現在まで、被災地域の支援を継続しています。そのなかで、地震発生から1年10カ月が経ち、これまでの活動を振り返って、残すべき学びが見えてきました。

 

エティックの支援活動のうち、能登半島地震緊急支援事業(※)は、能登で復興支援を行う団体への支援事業です。支援した8つの団体の取り組みは、いずれも、これまでの被災地支援の考え方とアプローチの枠を超える画期的なものでした。

 

この連載では、エティックが助成を行った8団体が事業から生み出した成果を、「残したい能登からの学び」としてお届けします(8回連載)。初回は、株式会社こみんぐる 林俊伍さんです。

 

本記事は、2025年3月開催の能登半島地震緊急支援事業報告会の一部と、7月に行った追加取材をもとに作成したものです。

 

※「能登半島地震緊急支援事業(休眠預金等活用事業2023年度緊急枠)」について

令和6年能登半島地震への緊急支援および中長期的復興を見据えた基盤強化事業です。災害弱者・広域避難者・小規模事業者等への緊急性の高いプロジェクトを実施するとともに、プロジェクトを通じて能登および周辺地域におけるリソース不足の解消を目指します。2024年1月から2025年3月まで助成を実施しました。

 

林 俊伍(はやし しゅんご)さん

株式会社こみんぐる 取締役

1986年、石川県金沢市出身。2016年、株式会社こみんぐるを創業、取締役に就任。貸切宿「旅音」事業をプロデュースする等、宿・イベントの運営等を手掛ける。2020年夏には、石川県珠洲市・真浦町の集落で空き家だった古民家を購入し、現代集落プロジェクトを始動。株式会社ゲンダイシュウラクを設立し、「限界集落」を「現代集落」に変える「100年後の豊かな暮らし」プロジェクトを実践している。

 

水を使うため、私たちには何が必要か。復興支援の3つの軸

僕たちが拠点を置く珠洲市(すずし)真浦町(まうらまち)の地域では、令和6年9月能登半島豪雨の発生後から5月までの約8カ月間、水が通らないという問題を抱えていました。

 

水を使えるためにはどうなることが必要なのか。水がいまだにこの地域に通っていない理由は何なのかなどを深く考えたとき、自分たちで可能な限り水と電気と熱を自給していく必要があると考えました。

 

今後も長くそういった意識を地域民の一人として持ち、取り組んでいきたいと思いながら今日まできました。

 

 

以下の画像は、今回の助成事業で感じた、短期アウトカム(成果)です。僕たちが復興支援の取り組みを始めた1年前、これら3点が重要だと捉えていました。

 

①「家に戻る人が少しずつ増えている状態」について、令和6年9月能登半島豪雨以降は、真浦町に残ったのは0世帯でした。約1年経ったいま、「真浦町に戻る」と意思表示をしている人たちは6、7世帯くらいです。

 

 

そういった状況で、②「復興ビジョンについて、住人と合意形成に向けた対話が進んでいる状態」に対しては、行政だけに頼らず、水や電気も頼れる仕組みや場所をつくってきました。そのために住民の皆さんと勉強会を開いたり、会話の場をつくったりすることも続けています。

 

 

災害が2回続き、特に、令和6年9月能登半島豪雨後は多くの住民が途方に暮れてしまっていました。しかし、少しずつ前を向いていき、いろいろな意見を交わしながら協力し合える関係性が育ち、仲間意識も強まっているように感じます。

 

③「定期的に通う人など関係人口が増え、住人にとって張り合いになっている状態」に対しては、真浦町の関係人口も少しずつ増えているのを感じています。そのなかでもうれしかったのが、ある高齢のご夫婦が、孫が集落に移住してくるのをきっかけに表情や接し方がすごく柔らかくなったのを目にしたときです。

 

電気・水・熱の自給型モデルルーム「SATOYAMA GRID」をDIYで

2025年1月から3月にかけては、電気・水・熱の自給型モデルルーム「SATOYAMA GRID」のDIYを行い完成させました。太陽光パネル、ポータブル電源、薪ストーブ、温水循環パネル暖房、太陽光温水機、水をパッケージ化したモデルルームを「SATOYAMA GRID」モデルとして、来年度以降は能登で5〜10棟まで増やしていく構想も持っています。

 

DIYでのモデルルームの内装工事の様子(中央奥が林さん)

 

DIYではボランティアの方や地元の方たちも協力的に動いてくれたことが印象に残っています。また現代集落の分野に詳しいメンバーと一緒に、東京科学大学の坂村圭先生にも協力いただいて勉強会を行い、どうすればエネルギーの自給生活が成り立つのか、真浦町に最適なマイクログリッドのあり方を何度も議論しました。

 

DIYで完成させたモデルルームの外観。太陽光温水器と太陽光パネルを設置

 

モバイル濾過装置

 

その結果、「重要なのはハードではなくソフト」と再認識し、住民がエネルギーをどれだけ使っているのかを自覚しながら生きていくことが大事だという結論が出ました。こういったことを体感できるカードゲームをみんなで手作りして遊んだことも、その後の意志決定や関係性の構築に大きく役立ったと思っています。

 

SATOYAMA GRID 制作のカードゲーム

 

こんなふうにさまざまな議論や取り組みを経て、関係人口も増えてくるなかで、プレイヤーのようにまわりを牽引しながら動く人も増えてきて、来年度以降の計画や目標が明確になってきました。

 

真浦以外の集落でも「自分たちでエネルギーを自給したい」と言っているプレイヤーが多数いてくれて、その人たちにノウハウや知恵を共有し合う勉強会を定期的に開いています。

 

 

エティックの紹介で、宮城県石巻市のモリウミアスやはまぐり堂にも伺いました。東日本大震災で大きな被害を受けた集落に地元の人も一緒に行き、勉強会を実施しました。

 

 

また、来年度以降を見据えて、これまで株式会社こみんぐるの事業として行っていた今回の取り組みをより推進していくために一般社団法人 現代集落も設立しました。集落の人たちの間により良い関係性をつくりながら、体制を少しずつ変えていこうといろいろな人たちと一緒に動いています。

 

オフグリッドの仕組み形成は、今後、災害時のロールモデルに

林さんによる報告が終わったあと、中越地震の復興に携わったNPO法人ふるさと回帰支援センター 副事務局長の稲垣文彦氏は、次のように話しました。

 

「地域づくりは『足し算』と『掛け算』と『整理』が重要です。足し算の段階は、地域との信頼関係、または地域の主体性をつくっていく期間にあたり、1年半から2年ほどかかるといわれています。

 

その後、住民や活動する方たちの思考や物事が整理できて、住民が主体となった動きをいろいろと起こしていくようになります。真浦町の集落では、このあたりの段階まで進展しているのだろうと思いました。真浦町のまわりにある集落でも、新しい動きが出て変わりつつあるのだ思います」

 

それを受け、林さんはこれまでの活動をあらためて振り返ります。

 

「真浦町以外の集落に関しては、僕たちと仲の良かった同世代の仲間が中心になって新しい取り組みを起こしてきました。他集落のメインプレイヤーとも協働し、活動を進めているところです。

 

真浦町は珠洲市の大谷地区にありますが、最近、一番うれしかったのは、大谷地区と隣り合う日置地区との間に信頼関係が感じられたことです。僕自身も、珠洲市の発展を目的に設置された『道の駅狼煙』の運営会社の経営に携わることになりました」

 

現代集落も運営に携わる「道の駅狼煙」(「道の駅狼煙」公式Instagramより)

 

また、一般社団法人イシノマキファーム代表理事の高橋由佳氏は「再生可能エネルギーを活用した、オフグリッドの仕組み化への取り組みは、今後の災害時対策においてロールモデルのひとつになりそうだと思いました」とコメント。災害時のロールモデルとしても、期待されます。

 

マイクログリッド集落を能登から。小さくても災害に強いまちを

報告会から4カ月後の7月、編集部は林さんにその後の活動についてインタビューを実施しました。

 

──助成期間終了後の2025年3月から7月末までの活動状況を教えてください。

 

林 : 5月、真浦町内をまた水が流れるようになったので、ひとまず安心しています。戻れた方はまだいないのが現状ですが、安心して戻れる環境を少しずつ整えていきたいです。

 

現在、真浦町の集落内では、「SATOYAMA GRID」の実装や勉強会を行う準備を進めています。「SATOYAMA GRID」は、どうすれば水・電気・熱を自分たちで自給できるようになるか、そのノウハウを体系的に伝えるもので、例えば、景観に配慮する、通常時は20%くらいの電力を太陽光に変更するといった体験型の提案ができればと思っています。

 

──住民の方たちを対象にした電気や水の勉強会はどういう状況ですか?

 

林 : 今年8月に「SATOYAMA GRID モデルルーム」見学会を開催しました。10月には、ほかの集落の方に向けた勉強会を行うことが決定しました。

 

この勉強会は、「オフグリッド」な仕組みの構築を目指すために、まずは、私たちの暮らしがどれくらいのエネルギーや水で成り立っているのかを「手触り感」をもって知るための勉強会です。

 

集落内の方に対する勉強会では、「SATOYAMA GRID」の話もするのですが、やはり皆さん、電気代など経済的な面を心配されている方が多いです。もっと実用的な良さを具体的に提示できるようにしたいと模索しているところです。

 

まずは、5世帯ほど実践してくれる世帯が生まれてくれたら良いなと思っています。最初に始めてくれた世帯を中心に、まわりの人たちが良い影響を受けて、「自分でもやりたい」と実践してくれる人たちが増えるように、今後もゼロから自分たちで暮らしのエネルギーをつくりたくなる土壌醸成に力を入れたいです。

 

今回、誰も答えを持っていない状態から、なんとか自分たちで答えを出そうとする取り組みだと思っています。行政と自分たちがお互いの良さを活かしながら、100年後も豊かな営みを続けられるようなバトンを次の世代に手渡せるのか、ひとつずつ着実に具現化していきたいです。

 

真浦の夕日

 

──今後の目標を教えてください。

 

林 : ほかの集落の方に向けた勉強会は、5から10地域くらいを対象に知識や経験を共有できる場をつくることができればと思っています。最初は誰でも参加できるようにして、どこかの段階でチームを作ることも考えています。

 

いまの大きな目標としては、今後2年ほどで能登に「SATOYAMA GRID」を広げられるようにしたいです。初めて、能登から水や電気、熱を自給自足するマイクログリッド集落をつくり、広げることで、災害や人口減少社会の集落維持に備えていく可能性を形にしたいです。

 

そのために現在、石川県の関係者とも作戦会議を行っています。誰も成し得たことのない地域づくりになるため、超えるべきハードルは多いですが、そこにおもしろさも感じています。

 

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震災復興防災能登半島地震
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たかなし まき

愛媛県出身。企業勤務を経て上京。初めて書いた西新宿のホームレスの方々への取材ルポが小学館雑誌「新人ライター賞」入賞。食品業界紙営業記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。主に子育て、教育、女性をテーマにした雑誌やウェブメディア等で企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在は、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターと兼業。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。