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子どもにまつわる不条理な課題を改善するには?―海外における子ども支援事例から考える

2020.07.02 

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前回の記事では「新型コロナ流行で深刻化する子どもの貧困、虐待、ストレス、教育機会の喪失…世界の支援策を緊急調査」と題し、新型コロナウイルス感染症の世界的流行下における海外各国の子ども支援施策に関する調査結果を紹介しました。

 

第2部となる今回は、国内の子どもに関する現状課題及び、海外における子どもを守る法制度・マルチセクター連携による支援事例について紹介します。本調査は「子どもの不条理」をキーワードに特定非営利活動法人エティック(ETIC.)による「子どもの未来のための協働促進助成事業」の開始に先駆け実施しました。

国内の子どもが経験する不条理な状況に関する課題認識

新型コロナウイルス感染症の拡大による休校や外出自粛により子どもの見守りの機会が減ったことで、虐待、貧困など子どもが経験する不条理な問題はより一層見えにくくなっています。ここではまず、国内における「子どもの不条理」とは何か、そしてなぜ「子どもの不条理」が起きてしまうのかについて整理します。

 

■「子どもの不条理」とは何か

 

子どもの社会課題には大きく以下の4点の特徴が挙げられます。

 

・子どもは「親」及び「親以外の大人(社会)」の影響により困窮状態に陥り易く、子ども自身単独では課題解決どころか援助希求することさえ容易ではない

・幼児期の逆境的体験は、大人になっても精神的・身体的影響を与え続け、場合によっては生命を脅かすこともある

・一度困難な状況に陥ると、世代を超えて不条理が連鎖する傾向がある(加害者である大人も、被害者としての経験をもつ可能性がある)

・他の社会課題と比べ、有権者ではない子ども(当事者)の声は政策に反映されにくい

 

本調査ではこれら「子どもならでは」の複雑な課題を背景に困窮状態にいるにも関わらず支援の手が届かない子どもが多く存在している現状を、「子どもの不条理」と定義します。

 

■なぜ「子どもの不条理」が起きてしまうのか

 

では、なぜ「子どもの不条理」が起きてしまうのでしょうか。複数の有識者へのヒアリングから「子どもの不条理」には家庭内(親)と家庭外(社会)の双方に要因があることが見えてきます。

 

家庭内の問題は子どもの成長に強く影響します。親の養育能力が低い、育児ストレスを抱えやすい、あるいは家庭が経済的困窮にあるといった問題を抱え、かつこれらの問題に対し適切な支援を得られない・支援を求められない状態(親の孤立)が続くと、虐待・育児放棄・子どもの貧困などの問題が生じ易くなります。そしてこれらの逆境的体験をした子どもは「周囲から愛情が受けられない」「自分の価値を否定される」「選択肢が与えられない」などと感じ、周囲から孤立し、更なる不条理な状況に陥り易くなります。特に親世代が社会から孤立していたり、物質的資源(お金・モノ)が不足していたりする場合、世代を超えた不条理の連鎖が生じ易くなります。

 

更に親子を取り巻く社会も「子どもの不条理」を生む要因の1つです。例えば、制度の未整備や支援者の不足といった社会的課題は、児童相談所や社会的養護の負荷を高め、結果として親・子どもへのケアが不足するといった事態を招きます。加えて、自己責任論の風潮や共助の希薄化といった側面も親世代を孤立させ、より家庭内の問題を招き易い環境をつくります。

 

このように「子どもの不条理」の解決には家庭内のみならず、既存の制度を含む社会全体の支援体制から見直すことが重要です。

 

海外における子どもを守る法制度

 

海外では虐待・貧困など家庭問題に対し、子どもの利益を最優先すべく司法が積極的に介入する場合もあります。ここでは海外における家庭支援に関する各機関の役割や、親権に対する定義の違いなどを法制度の観点から紹介します。

 

1.児童虐待防止法(アメリカ)

アメリカでは1974年に、児童虐待の定義、通告義務および児童虐待の調査手続きを規定する児童虐待防止法が制定されました。本連邦法により各州の裁判所は子どもの保護が適切であったかを審議する義務が課せられています。例えばフロリダ州では福祉局は子どもの保護後24時間以内に裁判所の保護審理を行う必要があり、裁判所は子どもの処遇及び福祉局の対応の妥当性を判断します。日本では司法が介入するのは「立ち入り調査を拒否された場合」「施設入居に親が同意しない場合」など限定的である一方、アメリカでは子どもの保護直後から裁判所が介入することで、迅速かつ適切な対応の実現を図っています。また「支援」は福祉局担当者、「介入」は裁判所と役割分担を明確にすることは、ソーシャルワーカーの精神的負担の軽減にもつながっています。

 

2.家族監督命令(オランダ)

日本を含め社会的養護の普及を図る国がある一方、オランダは家庭養護に政策をシフトさせています。オランダの家庭裁判所が下す「家族監督命令」は、1年間という期限を設定し、青少年保護局(BJZ)から派遣されるファミリー・スーパーバイザー(FSV)主導のもと、家庭内の問題解決を目指す制度です。監督期間中も、親はBJZ所属の家庭後見人の指示に従って養育する法的義務を負います。監督の結果、在宅支援が望ましくない場合は、FSVが裁判所に社会的養護措置を請求し一時的に家庭分離を促すこともありますが、最終的には家庭の再統合を目指すことを前提とした制度となっています。

 

3.配慮権(ドイツ)

ドイツでは1979年、民法典の改正に合わせ親権を親の「権力」から、親による「保護と補助の義務」とする「親の配慮(elterliche Sorge)」の概念を導入しました。子どもの利益を優先した本制度改正は、その後も関連する法整備にも影響を及ぼし、オランダ同様に家庭養護の普及に寄与しています。例えば、子どもの福祉が脅かされ親による改善がみられない場合は、親子関係を維持しながらも、居住指定権や教育の決定権といった一部の親の「配慮権」を制限することが認められており、短期里親などの措置を取り易くしています。

 

海外におけるマルチセクターによる連携事例先行事例

 

法制度のみならずセクターの垣根を越えて多様なプレイヤーが連携・協力し合い、子どもを守る仕組みづくりを進めている事例もあります。専門家がそれぞれの強みを生かしたマルチセクターによる海外の取組事例についても紹介します。

 

1.We Start(韓国)

韓国では貧困児童の支援を目標に、民間主導のもと、福祉・教育・健康の専門家が連携したプロジェクト「We Start」を2004年に実施しました。本プロジェクトは米国の“Head Start”、英国の“Sure Start”をモデルにした貧困解決アプローチです。12歳までの貧困児童およびその家族を対象として福祉(スクールソーシャルワーク、放課後プログラムなど)、教育(乳幼児の家庭訪問、早期教育的介入プログラム、父母教育及び養育支援)、健康(発達検査、健康管理、栄養・衛生指導、医療費の支援)の3領域でプログラムが実施され、中央日報社、子ども財団、社会福祉共同募金会など約50の団体が参画しました。主な特徴は次の2点です:

 

・学校、病院、企業、市民団体など、福祉・教育・健康の専門家を一か所に集めた「Weスタートセンター」を設け、ワンストップで地域の児童をケアできる体制を設けた

・学習環境が乏しい子どもが教育を受ける機会づくりの重要性を社会に訴え、市民や企業を巻き込むプログラムを実施することで支援の幅を広げた

 

本支援プロジェクトは、効果検証において未就学児の健康状態や幼児の社会性、小学生の問題行動、学校適応力などの改善成果を出し、2007年には同様の政府主導の国家プロジェクト「Dream Start」の開始にもつながりました。また児童福祉法の改正を促し、自治体に対し貧困児童への具体的な支援を義務付けることにも寄与しました。

 

2.ネウボラ(フィンランド)

ネウボラ(Neuvola)とはフィンランド語で「アドバイス(neuvo)の場」という意味で、妊娠期から子どもの就学まで担当の保健師が切れ目なく家庭を支援する公共サービスです。定期健診や発達相談を無料で受けることができる本サービスは、育児不安の解消や虐待を予防・早期発見することを目的としています。

家庭内の課題を早期発見・解決できている要因の1つとして、ネウボラ保健師と地域内の関連機関との密な情報連携があげられます。保健師は担当児童の定期的な状況報告を義務付けられており、国の情報ネットワークシステムを通じて、地域の医療機関、学校、保育園などの関係機関とタイムリーな情報連携を行っています。例えば、面談を通じ家庭の養育機能が低下していると判断された場合、保健師は、ホームヘルパーや関連施設のカウンセラーと情報を共有し、適切な支援を届けられる体制をつくるなどの調整を行います。

 

3.里親協会(オランダ)

オランダでは、ケアプロバイダーである民間の里親支援団体と政府を繋ぐ機関として公益団体「オランダ里親協会」が存在します。本協会は国内に3拠点設置され、里親支援団体に対しては全国各地の団体の取りまとめやシンポジウムの開催などを通じた情報交換の場を提供し、政府に対しては現場の声を反映した政策提言やロビー活動を行っています。乳児院の廃止により5歳未満の子どもの施設養護が認められなくなったオランダでは里親委託の必要性が高まっており、オランダ里親協会は里親制度の啓発や制度の改善に向け関連プレイヤーを取りまとめる重要な役割を担っています。

 

子どもの支援は、行政・教育機関・NPO・民間企業など、多様な立場の関係者が様々な切り口で長年取り組んできた領域です。しかし、子どもに関する社会課題の背景には、当事者とその家族の枠を超えた社会との関わりも複雑に存在しており、課題の解決にはより多くのプレイヤーが参画・連携することが求められます。日本でもETIC.が推進する「子どもの未来のための協働促進助成事業」を含め、セクターの垣根を越えた取組事例が増えてきています。今後も「子どもたちのために、何ができるか」という問いに対し、当事者意識を持ったプレイヤーが集い、様々な視点から議論を重ねることが求められています。

 

加えて、真の解決に向けては活動の「全体像の見える化」も重要です。「『子どもの不条理』の解決には、どこまでの施策が必要なのか」、「どんな施策は既に実行されており、まだ足りていない施策は何か」を俯瞰的にとらえ、各プレイヤーが個々の強みを生かし、ピースを埋めていくことで、真に持続可能な地域エコシステムが形成されます。

 


 

 

次回記事では、実際にマルチセクター連携を進めるにあたり課題の全体像を捉える為の考え方(フレームワーク)と、国内の企業による子どもに対する支援事例を紹介します。

 

デロイト トーマツ コンサルティング Social Impact Office による連載記事

【第1部】

>> 新型コロナ流行で深刻化する子どもの貧困、虐待、ストレス、教育機会の喪失…世界の支援策を緊急調査

【第3部】

>> “「子どもの不条理」解決マップ”で整理する、国内企業による子ども支援の現状

 

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デロイト トーマツ コンサルティング Social Impact Office

国際的なビジネスプロフェッショナル・ネットワークであるデロイトの一員として日本におけるコンサルティングサービスを展開するデロイト トーマツ コンサルティングにおいて社会課題解決を推進するチーム。多様なバックグラウンドをもつメンバーがビジネスコンサルティングの専門知を生かし、「経済合理性のリ・デザイン」を活動コンセプトとしてNPO/NGOや企業・行政との連携を通じた課題解決活動に注力。

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