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「メディアと一緒に、野生生物を守る」「日本の自然文化からAI活用の再生型新産業を」生態系の事業を動かす先輩たちから次世代のアントレプレナーへ──「ネイチャープレナー・ジャパン」(後編)

2025.11.11 

「ネイチャープレナー(※)を、経済の主役にする」をミッションに、2025年7月、生態系の先駆者たちをつないで次世代を育成するプロジェクト「ネイチャープレナー・ジャパン(以下、NPJ)」がスタートしました。

 

※ネイチャープレナーとは、Nature(自然)とEnterepreneur(つくる人)を組み合わせた造語。自然と共に価値を生み出し、社会や経済を突き動かしていく人たちのことを表している。

 

一般財団法人ネイチャープレナー・ジャパン

共同発起人 : NPO法人ETIC.、森章研究室(東大先端研)、一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン、株式会社エーゼログループ、深尾昌峰氏(龍谷大学 副学長)

Webサイト : 一般財団法人ネイチャープレナー・ジャパン(NPJ)

 

 

前編に続き、後編では、生物多様性の取り組みに挑戦中の若手ネイチャープレナー2名をご紹介します。

 

一般社団法人Rooting Our Own Tomorrows(以下、ROOTs) 代表の安家叶子(あけ かなこ)さんと、JINEN株式会社代表取締役の波崎大知(はさき だいち)さんです。また、次世代プレナーの育成を担う候補者、NPJへの参画者たちからも期待の言葉をお寄せいただきました。

 

「メディアの力を、野生生物を守る力に」安家叶子さん(若手ネイチャープレナー)

安家 叶子さん

一般社団法人Rooting Our Own Tomorrows 代表

国際自然保護連合日本委員会(IUCN-J) 副会長

野生生物保全論研究会 事務局スタッフ

 

「子どもの頃、ドキュメンタリー番組を何度も観て、『絶対に動物の研究者になる』と思ったんです」と話す、安家叶子さん。学生時代には生態学の博士号を取得し、アフリカなどで国際的な活動を行ってきました。2025年7月にはROOTsを設立し、国内外で野生生物保護の課題解決に取り組んでいます。

 

NPJの団体設立ともほぼ同時期に自身の団体の活動がスタートした安家さんは、NPJとROOTsの活動や思いについて語ってくれました。

 

「ROOTsでは、特に環境保全活動への取り組みを推進しています。私のようにメディアの影響を受けて動物が大好きになり、『動物のために何かしたい』と思う人は世界中にたくさんいるはずです。しかし、実際、動物のために何かできている人はすごく少ないなと、そんな矛盾に違和感を強く持っています。生きもの好きが、その生きものを守れるような行動を選べるよう、私たちはメディアの方々と連携をしながら取り組んでいます」

 

 

「私が、現代の生物多様性が損失する5つの要因から注目しているのは、野生種の直接利用と外来生物の問題です。この2つは、野生生物をペット目的などで利用、取引することで引き起こされることが分かっています。

 

特に、野生生物ペットなどの利用や取引が持続不可能なレベルや違法な形で増加することは、生物多様性の保全や、人獣共通感染症など感染リスク抑制でも大きな課題です。

 

しかし、日本においては、野生生物を『ペットとして飼いたい』と思う人の多いことが、あるアンケート結果で示されています。例えば、10代から50代の間では、4人に1人が『飼いたい』、『飼っている』と答えており、その理由には、8割近い人が『SNSやテレビから情報を得て』と、メディアによる大きな影響を受けていることが分かっています。実際に、日本は野生生物の消費大国の一つでもあります。

 

一方で、これまでは、法律規制、密猟地域でのパトロール、関税などでの水際対策、一般的な普及啓発に対して、多くの取り組みがなされてきました。しかし、『欲しい』という需要の蛇口を締めないことには、これらの施策は効果を期待できません。

 

ROOTsとしては、メディアによる情報発信が、受け取り手の自然を壊す行為を誘発するのではなく、私がメディアから夢をもらったように、自然や野生生物のために動ける人を増やせるよう、メディアに関わる皆さんと一緒に、野生動物や自然本来の魅力を映し出す多くのコンテンツが生まれるよう、尽力しています」

 

 

「IUCN日本委員会の副会長としても、さまざまな生物多様性に取り組んでいる団体の方々と協力し、エコシステム全体で人材育成、ファイナンス、または政策提言につなげる動きになるところをつくっていきたいです」

 

参考)安家叶子さんの記事

日本の若者は「謙虚に図々しくあれ」。大学院とNPOの二足のわらじ生活を送る研究者・安家叶子さんのキャリア観

 

「日本の豊かな自然資本を活かした新産業をつくりたい」波崎大知さん(若手ネイチャープレナー)

波崎 大知さん

JINEN株式会社 代表取締役

 

大学時代、地元が「消滅可能性都市」に指定されたことをきっかけに、「持続可能な地域」を意識した行動を始めたと話す波崎大知さん。2021年、屋久島に移住し、2024年7月にJINEN株式会社を創業。昔から息づく大自然が広がる屋久島を拠点に、リジェネラティブ・トラベル事業とサウナ事業を運営予定です。

 

「2つの事業のうち、リジェネラティブ・トラベル事業は、環境や地域社会を旅行前よりもより良い状態に再生・向上させることを目的としています。研究者の方たちと、再生型の『リジェネラティブな宿』を開発しました。この事業は、ミシュランの購買原則のように、研究者と共同で独自原則を作り、仕様に基づいた宿を海外の方やいろいろな方々にキュレーションするもので、2025年11月に正式リリース予定です。

 

2つめのサウナ事業については、実証実験を何度も重ねるなど開発に数年ほどかかりましたが、2026年3月に立ち上げ予定です。テーマは、“人が整えば自然も整う”です」

 

 

「サウナの実証実験での話ですが、私たちのような事業を運営するうえで、従来の建築が生態系にダメージを与える可能性を指摘した論文があるといわれています。

 

そのため、私たちは実証実験を重ね、バイオベンチャーやリジェネラティブ・アーキテクチャー(再生型建築)といった専門性の高い建築家など、いろいろな方からの協力を得ることで、自然にポジティブな影響がみられる建築を形にできるようになりました。

 

サウナが建ってそこに人が入ると、なぜか微生物が『外部から取り入れた物質を、自分にとって必要な成分に作り変えて同化していく』仕組みができることがわかりました。

 

また、サウナの建築から解体までライフサイクルを見据えた手法を取り入れ、省エネだけではなく、二酸化炭素排出量を実質ゼロにすることを目指す『カーボンニュートラル(脱炭素社会)』の達成に向けた動きもしています」

 

 

「私たちが目指しているのは、ナラティブ(物語)の暮らしがあるオリジナラティブです。自分の原点として、地元が消滅可能性都市に指定されたところから起業を始めていて、その後、7年間、世界各地を旅しました。

 

そのなかで気づいた、日本の地方にあるとても豊かな文化や自然を活かしながら、100年続く美しい風土と暮らしをつくることで、最終的には日本各地の10のエリアで自社運営のホテルを作り、それらをベースに新しい産業をつくっていきたいと思っています。

 

スタートアップ的なスピード感と、島的なゆっくりとしたリズム感の両方がバランス良く活かされた事業だからこそ、皆さんのような方々が支援してくださり、いろんなことにつなげてくださっているのかなとも思っています。本当にありがたいですし、引き続きご支援いただけけるとうれしいです」

 

参考)波崎大知さんの記事

屋久島を起点に、地域の未来をつないでいく。「再生型観光」の提案と島産木材の「循環」を促すサウナが始動──JINEN株式会社 波崎大知さん

 

「森林に生息する弱い生き物に、若い人たちと一緒に心を寄せたい」若林福成さん(先輩ネイチャープレナー)

ここでは、次世代プレナーの先をゆく実践者たちからの声をご紹介します。NPJの取り組みや若い挑戦者たちに対する期待の言葉を送っていただきました。

 

まず、次世代ネイチャープレナーの育成候補となる先輩ネイチャープレナーの埼玉県飯能市(はんのうし)・やまね酒造株式会社の若林福成(わかばやし ふくなり)さんです。やまね酒造では、ナチュラル酒製造所にて全量木桶(埼玉県飯能産西川材を使用)仕込み・純米造り・埼玉県産米の酒類製造、販売等を行っています。

 

若林 福成さん

やまね酒造株式会社 代表取締役

 

「私が愛してやまない、ニホンヤマネは、日本最古参とも言われる哺乳類です。国の天然記念物で、豊かな森を住処とするヤマネは、埼玉県飯能産の西川材が育つ森林にも生息しています。

 

私たちは西川材で作られた木桶を酒の仕込みに使っています。木桶は100年以上続く日本の大切な文化で、私は、木桶の文化を守るためにニホンヤマネを守っています。ニホンヤマネは、天然記念物のため触れることはできませんが、西川材で作られた木桶から、ニホンヤマネが息づく森の鼓動を感じます。

 

森林にいる弱い生き物に、若い人たちと心を寄せていきたい。一緒に守っていきましょう」

 

「自然資本を見える化し、価値に変える」関隆史さん(先輩ネイチャープレナー)

同じく、次世代ネイチャープレナーの受け入れ候補先となる先輩ネイチャープレナーでもあり、モデル事業助成候補の実践者から、ミドリクNbS株式会社のメンバー、関隆史(せき たかし)さんです。

 

ミドリクNbSでは、人工衛星やドローン等を活用した、CO2固定量の算定・水源涵養性評価(すいげんかんようせいひょうか)や、Spatial AI(空間知能)を活用した自然のデジタルツイン化・シミュレーションサービス、ドローン・ロボットを活用したモニタリングサービスを提供しています。NPJに参画した理由と、次世代アントレプレナー(起業家)たちへ期待の声を聞かせていただきました。

 

関 隆史さん

ミドリクNbS株式会社 代表取締役

 

「私たちが取り組んでいる人工衛星・ドローン・ロボットやAIを活用した自然資本の可視化・モニタリング技術は、まだまだ黎明期でもあるため、各地でプロジェクトを行うネイチャープレナーの担い手の方からのフィードバックはとても有益だと感じています。また、技術開発がブレークスルーするきっかけになることもあります。

 

その一つが、Spatial AIを活用したネイチャーデジタルツインの自動生成技術です。もっと手軽に、楽しく目の前の自然がデジタル上で表現できたら──。そんな声をもとに、誰でも簡単に手軽に自然の景観が再現でき、自然の機能や状態がシミュレーションできるシステムを開発しました。

 

この開発をきっかけに、わかりやすいかたちで自然資本の機能や価値を伝えることが可能となるため、合意形成や自然の魅力をPRする媒体として活用が期待されており、導入が進んでいます。海・山・里山・川の資源の魅力やストーリーをわかりやすく訴求し、その価値をのせて商品を流通させていくことができるなど、可能性を感じています。

 

生産者であるネイチャープレナーの方々の商品や取り組みの価値を高めることができるのは、結果として自然の再生回復活動が広がることにもつながり、循環を促進できると感じています。今後の次世代ネイチャープレナーの方々と一緒に挑戦できることを楽しみにしています」

 

「高い志とアイデアを持つ若者たちの可能性は大きい」山本麻希さん(設立賛同人)

続いて、設立賛同人の方々から、株式会社うぃるこの山本麻希(やまもと まき)さんです。山本さんたちは、鳥獣被害対策など野生動物と人間との間に生じる課題解決に取り組んでいます。NPJの取り組みへの期待を伺いました。

 

山本 麻希さん

株式会社うぃるこ 代表取締役

 

「日頃、若い人たちと関わるなかで、若い挑戦者がゼロから経営や資金調達を始めて、事業を継続させていくことがどんなに難しいかを痛感させられています。しかし、大きな実績がなくても、高い志とチャンスやアイデアを持っている若者たちには大きな可能性があります。彼らに関わろうと手を挙げたメンターの存在は大きいです」

 


 

現在、ネイチャープレナー・ジャパンでは、起業や研究者を志す学生・若者を対象に「次世代ネイチャープレナー・フェローシップ制度(事業・研究探求助成)」をスタートするべく、クラウドファンディングに挑戦しています。

 

次世代の地球環境再生に挑む起業家たちの挑戦を、ぜひ一緒に応援してください。

 

▼クラウドファンディングページ(2025年11月24日まで)

https://for-good.net/project/1002340

 


 

Webサイト : 一般財団法人ネイチャープレナー・ジャパン(NPJ)

 

<関連記事>

>> 「自然を再生させること」が経済と両立する社会を目指して。ETIC.コーディネーターインタビュー第1弾──倉辻悠平(前編)

>> 特集「PLANET KEEPERS 住み続けられる地球を次世代へ」

>> 生物多様性をどう回復させるか。実践者たちとの新しい挑戦―ETIC.30周年ギャザリングレポート(1)

 

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たかなし まき

愛媛県出身。企業勤務を経て上京。初めて書いた西新宿のホームレスの方々への取材ルポが小学館雑誌「新人ライター賞」入賞。食品業界紙営業記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。主に子育て、教育、女性をテーマにした雑誌やウェブメディア等で企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在は、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターと兼業。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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