TOP > ワークスタイル > 環境に縛られず、誰もが挑戦できる社会を。若者が学びの場を移動できるCampus Everywhereとは?──株式会社ウニベル 横山真輔さん

#ワークスタイル

環境に縛られず、誰もが挑戦できる社会を。若者が学びの場を移動できるCampus Everywhereとは?──株式会社ウニベル 横山真輔さん

2025.11.14 

 

横山 真輔(よこやま しんすけ)さん

千葉県出身。2010年 電通入社。新聞・テレビ部門のメディアバイイング/プランニング業務を担当。企業・大学・自治体と連携し、大学CSR事業のブランディングや学生コミュニティの立ち上げ、交通安全啓発プロジェクトなど、社会課題に向き合う複数のプロジェクトを企画・推進。2024年6月、株式会社ウニベルを創業。広島大学大学院にて、高等教育の研究にも取り組んでいる。「TOKYO STARTUP GATEWAY 2023」セミファイナリスト。

公式サイト : 株式会社ウニベル

 

生まれ育った地域や環境によって、若者の挑戦の機会が偏ってしまう──。横山真輔さんは、そうした“挑戦格差”の現実を変えようとしている起業家。「Campus Everywhere」というプラットフォームを通じて、学生が移動し、出会い、刺激しあい、挑戦する機会を全国に広げる挑戦を続けています。

 

なぜ今、この活動に取り組むのか。学生時代の原体験、大手企業での勤務経験中の気づき、起業後の実践を通じて、彼は何を目指し、どんな社会を夢見ているのでしょうか。じっくりとお話を聞きました。

 

商店街のおじさん、おばさんと一致団結した先にあった「ありがとう」の喜び

「早稲田リンクス」でサークル活動に取り組む横山さん(右から2番目)。サークルを通して得た喜びが活動の原点

 

──学生時代はどんな夢や関心を持っていましたか?

 

高校までは野球漬けで、浪人時代は偏差値30台前半。そこから猛勉強して早稲田大学に入りました。2005年頃は株式会社サイバーエージェント代表取締役・藤田晋さんら起業家が脚光を浴びていて、漠然とかっこいいなと起業に憧れていましたね。

 

大学では、学生向けポータルサイトやフリーペーパーを作る「早稲田リンクス」というサークルに入りました。そこでは商店街のおじさん、おばさんと組んでまちを盛り上げるイベントを企画し「早稲田のまちを盛り上げたいんだ」と熱く語り合いながら一緒に考えました。

 

その後もずっと心に残っていたのは、終わったあと地元の方に「ありがとう」と言われたことです。困っている人に直接働きかけることの喜びを実感してうれしかったですね。

 

──就職に至った経緯を教えてください。

 

大学時代ではその後、学生生活だけでは得られない視野を広げるために海外へ放浪したり、NPO法人ETIC.を通してIT企業でのインターンを経験しました。インターンでは、起業家と直接一緒に働くことで、社会のリアルな視点に触れ、進路を考えるうえで大きなきっかけになりましたね。

 

しかしまだ解決したい社会課題が見つからず、社会人経験を積むために2010年に新卒で株式会社電通に就職しました。

 

──大企業に入社し、起業のヒントにつながる出来事はありましたか?

 

大きな転機は、尊敬する先輩から依頼されて九州のある国立大学で就活に関するゲスト講師をしたときの出来事です。自身のサークルやインターンでの経験、就職活動や電通入社の話をしたら、ある女子学生から「地方で生まれ育ち、地元での就職が期待されている自分とは境遇が違いすぎて参考にならなかった」と初めてリアルな声を聞いて衝撃を受けました。

 

地方の学生は、チャレンジしたくても出会う人の数が少なく、経済的な制約もある。地域とともに挑戦の格差が存在しているという課題に、初めて深く気づかされましたね。

 

脱ワーストキャンペーンの年末強化月間に向け、協賛社を集めての会議で壇上に立つ横山さん

 

また電通の中部支社で勤務していたときには、愛知県の交通事故の死者数ワーストを減らす“AICHI 脱ワースト交通安全キャンペーン”を担当して、さまざまな大学から参加してくれた大学生を束ねて草の根活動をしていたのですが、そこで発言する学生はいわゆる名が知れた大学の学生に限られていて、もったいないと感じていました。

 

そこで参加してくれた学生が所属大学関係なく、主体的に関与してもらうために、各大学で交通安全シミュレータ車を体験できる機会をつくりました。各々が所属する大学内を交渉してイベントを実施するキャラバン形式を提案したんです。

 

すると今まで発言しなかった学生たちが大学側に働きかけてリーダーシップを発揮し見事にやり切ったんですね。打ち上げで楽しそうにそのときの苦労話を話す姿が印象に強く残っています。そのとき、“人は機会ひとつで変わる”と実感しました。多様な学生が混じり合い、挑戦できる場が必要だと痛感した瞬間でしたね。

 

「見ようとしなければ見えない世界」から始まる、“覚醒体験”のデザイン

起業後、成蹊大学で学生を前に「Campus Everywhere」について講義を行った

 

──起業した「株式会社ウニベル」では、どんな事業を行っていますか?

 

会社員時代の出来事をきっかけに、環境に制約された学生が自分の可能性を発揮できない「挑戦格差」という社会課題に向き合おうと決意し、2024年に、移動から新たな学びと勇気を引き出すことをめざし「株式会社ウニベル」を設立しました。

 

メイン事業である「Campus Everywhere」は、全国の地域・大学と連携し、学生が学びの場を移動できるプラットフォームです。このプラットフォームを通して学生は生まれた環境や所属に関わらず、より自分らしく生きられるようになる学びと挑戦が得られることを目指しています。

 

また大学が地方と都市をつなぐハブとして機能すれば、地方には全国から学生が訪れ、地域の課題解決にもつながります。そんな学びのプラットフォームをつくるプロジェクト「Campus Everywhere構想」を描いているのです。

 

東京都主催の「TOKYO STARTUP GATEWAY 2023」では応募総数2,963名の中でセミファイナリストに選出された。横山さんは下から2段目左から5番目

 

──「Campus Everywhere」は、紹介が紹介を呼ぶ形で教育機関との連携が広がりましたが、企業連携はどのようなきっかけで始まりましたか?

 

同年4月に開催されたBeyondカンファレンス(※1)というイベントでENEOSリニューアブル・エナジー株式会社(以下:ERE)の木戸健太郎さんと出会い意気投合し、地域課題などの熱い思いを共有し合いました。

 

また、日本航空株式会社(以下:JAL)の上入佐慶太さんとも、JALがポケットマルシェとタッグを組んで行っているプログラム・青空留学(※2)のなかで感じる課題感で一気に盛り上がり、建前抜きですぐに本音でつながれました。

 

「Beyondカンファレンス2024」で「Campus Everywhere構想」について参加者に話をする横山さん(右)

 

そして同年9月には、石川県能登町でERE・JALと連携した初めてのフィールドワークが実現したんです。

 

参加学生はあえて公式募集を積極的に行わず、つながりある大学の先生、職員の方に「くすぶっていたりモヤモヤしてるような学生を飛び込ませてください!」と熱く協力を呼びかけたところ、ほとんどが口コミで全国から16名の学生が集まりました。

 

──フィールドワークで学生や横山さんに生まれた変化はなんですか?

 

能登では、現地のまちづくりに関わる森進之介さん(能登町定住促進協議会)や小川勝則さん(元能登町職員、HERO’sLabo代表)、古矢拓夢さん(ケロンの小さな村)らとトークセッションをしながら、なぜヨソモノの上入佐さんが毎週のように能登に足を運び、個人として関わり続けるのかの思いを深く聞きました。

 

震災についてはニュースで目にしていましたが、比較的被害が少ないと聞いていた能登町を実際に訪れると、ブルーシートで覆われた家や隆起した道路が目の前に広がっていることに驚いた学生もいました。

 

石川県能登町でのフィールドワーク。学生を前に現地の状況を話す上入佐さん(中央)

 

その現実を見た学生のひとりが、印象的な言葉を口にしたんです。「世界は、見ようとしなければ見えないモノがたくさんあるんだ」と。

 

この言葉の通り、現地に行くからこそ得られる気づきがあります。移動し、慣れた環境を離れ、フラットな状態で人と出会うことで、学生は没入し、集中し、自己理解を深め、具体的な挑戦へ向かっていく。私たちがデザインするのは“覚醒体験”と呼ぶものです。学術的な言葉で言えば、これは越境学習というアプローチに基づいています。

 

学生を意図的に慣れない環境に置くことで、既存の固定観念に挑戦し、新たな視点を育むことを目的として設計されたプログラムです。このような場を今後もデザインできる手応えを得ましたね。

 

宿泊の壁をなくし、挑戦を支える居住地を能登につくるため短期移住を決意

──事業運営や資金面は今後どのように考えていますか?

 

資金面は課題だらけです。協賛金に依存する形では事業の安定性に限界があるため、現在は三つの柱で収益化を計画しています。

 

一つ目は、企業向けの研修事業。能登での企業研修受け入れがすでに決まっています。単に研修を行うだけでなく、大学生も成長機会として参加してもらい、企業の方々とフラットな交流の場を生み出す展開を考えています。

 

二つ目は、大学連携事業。これまで実施してきたフィールドワークを機に、複数の大学からカリキュラムとして一緒に作ってほしいという要望をいただくようになりました。これは、学生に独自の価値を提供するだけでなく、文部科学省が推進する地方創生や産学連携といった方針とも親和性が高いためではないかと思います。

 

そして三つ目がレジデンス構想です。学生にとって宿泊費は活動参加の大きな壁であり、それを取り除く居住地を能登につくるために、私は年内に能登へ短期移住を決め、実行しています。地域の方々と連携して拠点を活用し、企業の協賛などで運営するモデルをまず能登で実現し、それを全国に広げていく構想をしています。

 

2025年8月には域学連携に力を入れている淡路島 洲本市と連携したフィールドワークを実施

 

環境に縛られず、誰もが自分の物語を生きる社会へ

──横山さんが描く、一番の夢、実現したい社会はなんですか?

 

「Campus Everywhere」のフィールドワークに参加した学生が「もっと自分の考えで生きていいんだ」「自分はこんなことをやりたいと思っていたんだ」と気づく場面をたくさん見てきました。そうした覚醒体験の瞬間に立ち会うたびに、誰もが環境に縛られず、自分の可能性を見つけ、物語の主人公として挑戦できる社会をつくりたいと強く思います。

 

最近の大学生と接していて思うのは、良い子なんだけれど、本当に自分の言葉で話しているのかな、という子が多いことです。

 

大人が求めている答えを上手に返すけれど、心からそう思っているのか疑問に感じることがあります。だからこそ、彼らが自分自身の言葉を紡ぎ、自らの意思で挑戦を語れる場を広げたい。そうした経験を通じて初めて、自分の人生を自分の足で歩む力が養われると思っています。

 

このプラットフォームを通じて、年間で数十万人の若者が地域や大学、組織の垣根を越えて交流する場を育てたいと考えています。その交流から新しい視点や価値観が生まれ、地域や社会の中でイノベーションの種が育っていく。そんな未来を2040年までに実現したいと思い描いています。「Campus Everywhere」は、日本の次世代が持つそのポテンシャルを解き放つための事業です。

 

広島で実施したフィールドワークでは「⾥⼭で共に遊び、⾥⼭で共に考える」をテーマに学生たちと泥ワークを行う。前列1番右が横山さん

 

──その実現に向けて、どのような方々と共に歩みたいと考えていますか?

 

未来を変えたいと心から願い、行動できる方々とご一緒したいです。特に、移動や挑戦の機会が減ることで社会に分断が生まれている現状に危機感を持つ人たちと力を合わせたいですね。

 

単なる育成だけではなく、社会貢献の責任を真剣に感じている企業や個人と強く連携したい。そういう仲間をこれからも探し続け積極的に口説いていき、誰もが自分の可能性を発揮できる社会にしたいと思っています。

 

取材後記

横山さんのお話を伺いながら、どんな仲間と一緒に構想を実現していくのか、まだ見ぬ共創の可能性が広がっていてとてもワクワクしました。

 

横山さんの挑戦をもっと知りたい、仲間になりたい! という方は、下記のイベントで登壇されますので、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。

 

「Beyondミーティング#69」

 


 

(※1) “意志ある挑戦が溢れる社会を創る”ために、企業や大学、NPOが業界や事業規模の違いを超えて連携・協働することを推進する年1回のイベント(主催:and Beyondカンパニー)

(※2) 漁業などの一次産業の現場に、都市部の大学生が飛び込み、現場のリアルを知り、共にリアルな課題解決に挑む。ポケットマルシェと、JALがタッグを組み、2021年から始まった企画

 

この記事に付けられたタグ

社会起業家起業
この記事を書いたユーザー
アバター画像

芳賀千尋

1984年東京生まれ。日本大学芸術学部卒。 20代は地元と銭湯好きがこうじ商店街での銭湯ライブを開催。 1000人以上の老若男女に日常空間で非日常を満喫してもらう身もこころもぽかぽか企画を継続開催。2018年からETIC.に参画。