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Session 1 東北は地方創生のラボラトリーになりえるか 11/16開催レポート(2)

2016.02.15 

「地方創生チャレンジ in 東北シンポジウム〜東北を舞台に進める、地方創生の社会実験と企業の関わり方を考える〜」Session 1では、中央行政、商社、IT企業というそれぞれの立場から、東北の産業再生、地方創生と企業とのかかわりについて活発な議論がなされました。 1

東北では「“実験”せざるをえない」

まずはETIC.代表理事の宮城治男がモデレーターとして、「これからお話になる3人の方は、さまざまなかたちで東北をサポートしてきた方です。今後、企業や行政が、どのように東北を含む地方を見て行くかを議論できればいいかと思います」と語り、このSessionはスタートしました。 2 一般財団法人ダイバーシティ研究所の代表理事で、復興庁の復興推進参与でもある田村太郎氏は、東日本大震災の社会的背景を阪神・淡路大震災のそれと比べて、「人口減少」と「経済収縮」という現実を「みなさんの想像以上に高齢化が進んでいます」と強調しました。

 

田村氏によれば、総人口は1995年と2010年とでそれほどの増減はないが、たとえば18歳の人口は約177万人から約122万人へと約3割減っている一方で、65歳以上の人口は約1826万人から約2874万人へと6割近く増えています。また、生活保護世帯数は倍以上に、非正規従業員の割合も約1.7倍になっています。 3 「こうしたことを前提にしないといけません。阪神・淡路大震災のときはボランティアをしてくれる若者がたくさんいましたが、今回は若者のボランティアとか公的資金とかをあてにすることはできないのです。人が減っているだけでなくて、高齢化しているのです。だから復興には時間がかかるということを前提にしなくてはなりません。“実験”せざるをえないのです」 4 続いて、公益財団法人三菱商事復興支援財団事業推進リーダーの中川剛之氏は、三菱商事の震災への取り組みについて、「スタートは、がれき処理などのボランティアで汗をかきましょう、ということでした」と説明します。「しかし半年経って、最も困難な時期が過ぎたとき、地元の方から『あなたたち商社だよね?』ということをちらほら言われ始めました」と中川氏は振り返ります。 5 同社は2012年3月、「三菱商事復興支援財団」を設立しました。同財団は2014年までに被災地の大学生3695人に給付型の奨学金を支給し、また、NPOの活動425件に活動助成金を給付しました。その一方で、計44社の企業に「投融資」を行ないました。投融資とは「簡単にいえば、返していただくお金です。雇用をつくってください、ということで地元の金融機関と組んで始めました。『寄付』に向いていることと向いていないことがあると私たちは考えているからです」(中川氏)。

 

さらに同財団は福島県産のワインやリキュールを製造・販売する「ふくしま逢瀬ワイナリー」を立ち上げ、果樹農業の6次化を支援しているといいます。 6 ヤフー株式会社最高執行責任者(COO)の川邉健太郎氏は「まずは現地の人、世界の人に正しい情報を伝えるために、情報発信に取り組みました」とインターネット企業らしい震災への取り組みを始めたことを紹介しました。

 

その後は募金、そして東北の産物を販売する「復興デパートメント」を開始。募金は約13億7000万円、復興デパートメントの累計取扱高は約8億2000万円におよぶといいます。2012年には、より地域に根を張った支援拠点として「石巻復興ベース」を設立。自転車で東北をツーリングする「ツール・ド・東北」などのイベントや漁業支援「フィッシャーマンジャパン」などを通じて、継続的な支援を実行しています。 7 「私たちが東北で気づいたことは、インターネットの活用は『当たり前ではない』こと、そして『マーケティング』や『プロモーション』といった『横文字スキル』は地方の課題解決に役立つということです」(川邉氏)

これからも企業の知見が重要

それぞれの活動についての報告が終わると、ETIC.の宮城が3人に問いかけるかたちでディスカッションが行なわれました。 8 宮城は3人の報告を聞いて、東北の現状を「答えのないラボラトリー」と呼びました。

 

「結果的に、現地で新たな生態系ができて、そこの方々同士で、また有機的に事業が生まれているのです」 東北に人材を送ることについて企業はどう考えているかを宮城が尋ねてみると、川邉氏は「いちばん混沌としたところに人が行けば、プロデュース力、課題発見力などを急激に伸ばすことができます。成長させるために社員を行かせているわけではありませんが」とその意義を強調します。

 

「人は忘れやすいので、私たちとしてはツール・ド・東北も10年続け、復興デパートメントも黒字にして、持続可能なものにしていきたいと考えています」

 

中川氏も「弊社でもたとえば社是とかいろいろあるのですけども、『やるときにはやる』ということを、手前味噌になりますが、今回の震災で自認できたと思います。狙ってやったというわけではありませんし、副次的な効果ではありますが」と言います。

 

一方、復興庁の田村氏は「NPOは、課題の発見は得意でも解決は苦手ではないですか?」と厳しく問いかけ、そこに企業の役割を見出せることを指摘します。

 

「当初は緊急支援という側面が大きかったのですが、長期的にコミットすることが必須ではないかと思います」。この点についても阪神・淡路の経験が参考になりそうです。

 

「阪神・淡路では20年かかっていますからね。最初に来て大騒ぎして3年ぐらいで帰ってしまった企業さんは評判悪いんですよ(会場笑)」

 

それらを受けて宮城は「ETIC.も東北支援にかかわらせていただいて、NPOとしての真価が問われたと思います」と応じ、「私どもは右腕として200人以上の人材を東北に送り込んできました。これからも続けていきたいのですが、各社の社員をつなげていくことも重要で、むしろこれから企業の知見が必要になると思います」と今後の抱負を述べました。

 

参加者アンケートでは、「復興のスピードが阪神とはまったく違い、これまでのやり方が通用しないということを改めて感じました」、「『実験場』という発想は刺激的で、課題として先行していることは確かですね」といった意見が出され、関心の高さがうかがえました。  

>>Session 2 「データに基づく、社会実験のPDCA」

>>Session 3「2020年までの東北と企業の関わりを考える」

>>イベント概要、当日の配布資料はこちら  

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2/27(土)、地方創生をテーマに「ローカル・イノベーターズ・フォーラム2016」を開催。アメリカや東北を含む日本全国からゲストを迎え、地域の未来を考えます。

ローカル・イノベーターズ・フォーラム 2016

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粥川 準二

1969年生まれ、愛知県出身。明治学院大学ほか非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など。監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森本麻衣子ほか訳、人文書院)。

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