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#ローカルベンチャー

中小企業の跡継ぎ問題を官民連携で解決。石川県七尾市、宮崎県日南市の挑戦。~ローカルベンチャー・サミット2018レポート(2)

2018.12.20 

11月3日に東京・大手町で開催された「ローカルベンチャー・サミット2018」は、自治体間の、そして自治体と企業との連携を軸に、地方での新たな事業の創出を目指して約200人が臨んだ「作戦会議」だった。

▷ローカルベンチャー・サミット2018レポート(1)主旨説明およびオープニングトーク編はこちら

オープニングに続く18もの分科会は、ローカルベンチャー推進協議会(以下「LV協議会」)を構成する11のメンバー自治体がそれぞれに、あるいは連携してテーマを設定し、企画運営を担当したものだ。テーマは地域ごとの特徴や重点施策の多様性を反映し、観光、防災、不動産、アート、地域福祉から、事業承継、兼業・副業など新しい働き方、交付金に依存しない自治体の資本戦略まで、多岐にわたった。

本稿では、これらのうち「事業承継」をテーマに宮崎県日南市と石川県七尾市がホストした分科会をレポートする。

写真01:分科会の様子A

「Reベンチャー」~新しい事業承継の形~

▽登壇者

日南市ローカルベンチャー事務局 総合プロデューサー 土屋有氏(ファシリテーター)

日南市産業経済部商工マーケティング課 課長補佐 田中靖彦氏

七尾街づくりセンター株式会社 戦略アテンダント 友田景氏

 

七尾市と日南市は、いずれも人口5万人台前半。九州南部と能登半島という気候の違いはあるが、海産物をはじめとする一次産業や観光など、恵まれた自然を生かした産業構造は似ている。そして、そのローカルベンチャー推進施策も、新たな起業家誘致だけでなく、既存事業者の事業承継にフォーカスしているところが共通する。その背景はこうだ。

両市とも、地場産業を支えるのは中小企業が中心でオーナー経営者が多い。いわば元祖ローカルベンチャーたちである。法人化していない個人事業主の割合も高い。しかし、その多くが高齢化するなか、たとえビジネスは順調でも後継者がいないという理由で休廃業するケースが後を絶たないのだ。そこにテコ入れしなければ雇用はますます失われ、若い世代の流出は止まらず、地域の持続可能性に赤信号が灯る。

もっとも中小企業の後継者問題は全国共通だ。2016年の中小企業庁の資料によれば、60歳以上の経営者のうち半数超、個人事業者に限れば7割が「自分の代で廃業」を予定しており、その理由の3割近くが「後継者難」だという。

画像01:中企庁資料より

中小企業庁「事業承継に関する現状と課題について」平成28年11月

が、上のグラフをよく見ると「子供に継ぐ意思がない」「子供がいない」が2割以上を占める。つまり、家業の「跡継ぎ」といえばいまだに親子の問題、すなわち「相続」の範疇で考えられていることが多いのだ。両市はそこに「Reベンチャー」という新たなコンセプトを提示し、ベンチャーマインドを持った「他人」をも承継プランに巻き込んでいこうという試みを始めている。

満員御礼となったこの分科会では、まず両市からその仕組みと現状を共有した後、ファシリテーターの土屋氏や会場との質疑応答で課題と可能性を浮き彫りにしていった。

七尾市の「事業承継オーケストラ」について(友田景氏)
写真02:友田氏

友田景氏:コンサルティング会社で企業再生や事業承継、サステナブル経営支援、地域活性化支援などに幅広く携わり、2017年に株式会社ビズデザイン大阪を設立。社会課題と経営課題の両方を解決することを目指す。同年10月に七尾街づくりセンター株式会社の経営戦略アテンダントに就任。

七尾市は今年2月、金融機関や業界団体、士業など、およそ経営に関するすべてのステークホルダーに呼びかけて、「事業承継オーケストラ」という仕組みを創設。黒字でも後継者不在で岐路に立たされている市内の事業者約300社を対象に、事業承継支援を開始した。23機関が参加するこのネットワークについて、友田氏は「おそらく全国初の試み」だという。

ビズリーチが運営するスタンバイという求人検索エンジンの中に、七尾市の特設サイトがある。そこには、「七尾市で後継者候補として力を発揮してみませんか?」というコピーとともに、5件ほどの求人情報が掲載されている。友田氏によれば、「ステーキしいたけと呼ばれる特大しいたけを栽培している農家や、能登半島で唯一温泉遺産に選ばれているこだわりの温泉宿など、ニッチで面白いことをやっている事業者ばかり」だそうだ。

画像02:七尾スタンバイサイト

サイトを公開しただけでも問合せが来ているというが、友田さんらはさらに東京へ乗り込んでマッチングイベントを開催。30人ほどの参加者を前に事業者自らプレゼンを行い、10月には逆に七尾の現地を見学してもらう1泊ツアーも実施した。その結果なんと4人が手を挙げ、これから選考に入る段階だという。他にも、承継者ではないが、営業継続が難しくなっていたキャンプ場の運営者として市外から移住してきた若者もいるそうだ。

そして、友田氏らが準備中のもうひとつの施策がローカルファンドを作ることだ。

「外から来て事業を継ぐ人は、移住、経営に加えて、多くの場合設備の継承などで借金もしなければなりません。三重のリスクを背負うわけです。そのうち借入れの負担だけでもファンドが資金を出すことで軽減できれば、ハードルを下げられます」

この「事業承継オーケストラ」はマスコミにも取り上げられ、注目度は上がってきている。ただ、それでも「(後継者不在で危機にあるという事業者の)情報がなかなか出てこない」(友田氏)というのが現状だという。とかくクローズドな世界で語られがちな「後継者探し」をオープンなものに変えていくには、地域の文化やマインドの変革も必要とする。忍耐づよい取組みが求められそうだ。

日南市の「事業承継ネットワーク」について(田中靖彦氏)
写真03:田中氏

田中靖彦氏:日南市出身。日南市役所にて税務、管財、高齢者福祉、観光関係を経て、2015年より現職。企業誘致担当として、油津商店街を中心にIT関連企業を誘致。2016年度からはローカルベンチャー事業担当として、創業の支援、移住者の支援、産業との人材マッチングなどを行っている。

宮崎県は今年6月、行政、商工団体、金融機関、士業など48の機関で構成する『事業承継ネットワーク』を立ち上げ、県内の事業承継案件の支援を始めた。これに加えて日南市は、より地域の現状に即した支援策を打ち出すため、商工団体と金融機関の三者で市単体の『事業承継ネットワーク』を発足させるべく準備している。

画像03:日南市単体事業承継ネットワーク
田中氏は、日南における事業承継の実例をいくつか挙げた。

ひとつは、市内で鋼材卸売を営む60代の前社長から20代の新社長へ、親子間の引き継ぎがスムースに行われたケースだ。先代が元気なうちに経営権を息子に譲り、国の助成制度も活用しながら新社長をサポートする体制をつくって成功したという。これはいわゆる「きれいな事業承継」(田中氏)といえるが、次の二例は少々ユニークである。

まず、酒造組合が運営する日南酒造会館。市内酒造会社のほとんどの焼酎を取り扱っている店だ。その販売責任者が高齢で引退することになったが、後釜がおらず、どうやって探せばいいかもわからない状態だった。そこで田中氏らは、全国から参加者が集まるビジコンで事業プランとともに承継者を募集する方法を試みた。

「実は、コンペで出てきた案の中からは採択に至らなかったのですが、運営スタッフとして参加していた大学4年生が手を挙げてくれたのです。彼女が1年休学して事業プランを考え、それがある程度軌道に乗ったところでだれか別の人に本格的にバトンタッチする予定です」(田中氏)

もうひとつは、「まちの社宅」事業だ。アパートの空室をなんとかしたい大家さんと、社宅として使える物件を探している企業の間にはマッチングのニーズがある。そのニーズを掘り起こしたのは、日南市のマーケティング専門官として民間から起用された田鹿氏だ。しかし、既存の事業者に声をかけても手を挙げる人がなかなか現れない。そこで田鹿氏個人がまず事業化の先鞭をつけることになった。そして現在、その「まちの社宅事業」の経営を引き継いでくれる人を募集しているというのだ。

これらはいわば「二段階パターン」である。理想的とは言えないのかもしれないが、すぐに適切な人が現れない場合は現実的な対応といえるのだろう。

また、七尾と同様に承継案件の情報が出てこない問題があるか問われると、田中氏は、「情報共有の難しさや後継者の不在そのものよりも、事業所や関係者の危機意識が薄いことが今の課題」だと応じた。たしかに、当の本人たちが困っていないなら積極的に支援の手を出すのは難しい。

が、田中さんらには、地域の持続可能性というマクロな視点からの施策が求められている。「小さくても地域にとって『残したい仕事・企業』をきちんと残していく」(分科会紹介より)には、粘り強い取り組みと相応のコミットメントが必要になろう。

跡継ぎは他人・未経験者OK。ただし行政などが間で緩衝材に

つづくトークセッションでは、ファシリテーターの土屋氏が両氏に質問しながら論点をまとめていった。

写真04:土屋氏

土屋有氏:宮崎県出身。東京のITベンチャー企業数社の役員、ウェブ制作会社の事業部長を務めたのち、宮崎にUターン。地元IT企業の執行役員を経て、現在は宮崎大学の地域資源創生学部・企業マネジメントコースで教鞭をとる傍ら、日南市のLV事務局総合プロデューサーを務める。

 

▶ヨソモノ、未経験者でも大丈夫?

 

冒頭で触れた通り、両市の取り組みの斬新な点は、「相続ではない事業承継」を念頭においていることだ。「他人がやっても暖簾が守れればよいでしょう、ということ」(友田氏)である。

しかし、ヨソモノが来て本当に家業の後継者として受け入れてもらえるのか。まして、その業界の経験がなかったら、そもそも承継など可能なのか?

「むしろ業界未経験のほうがベターです。なまじ経験があると、こだわりの違いからケンカになることもありますが、何も知らなければ教えられたことをとりあえずそのまま受け入れられますからね。その上で、業界常識にとらわれずに新しい挑戦をしてもらえればいい。あえて未経験から飛び込む、ベンチャーマインドを持った人に期待したいです」(友田氏)

「地元の人は、承継者に対してあの店の味を守ってほしいなどと期待するかもしれませんが、何一つ変えずに引き継ぐのではなく、新しいことを始めていいと思うんですよ。むしろ地域の側に『お前には継がせない!好きなことはさせない!』というのはもう古いんだ、ということを示したい」(田中氏)

 

▶本当に継がせてもらえるのか?

 

土屋氏が次に投げかけた疑問はこうだ。なるほど、未経験で入って修業を始めるとする。個人商店などの事業承継とは、しかし、単なる技術の伝承だけではない。店主個人の「想い」を受け継ぐことでもある。その「染め上げ」(土屋氏)にはどれだけの時間を要し、実際に経営移譲されるまでどのくらいかかるのか。ベンチャーマインドにあふれた人ほど、長くは待っていられないのではなかろうか。

「基本的には数年かかります。特に一次産業は1年に1回しかPDCAが回せませんから、他の産業と比べてどうしても長くなります」(友田氏)

「実は、農業生産者のところへ後継者を複数件マッチングしたのですが、難しいですね。やりたことがあってもなかなかやらせてもらえず、結局ケンカ別れとなったケースが続きました。周りがもっと早く気付くべきだったと思います」(田中氏)

だからこそ、「染め上げ」の期間中、行政や中間支援組織が間に入ってコミュニケーションを円滑化する仕組みが必要なのだろう。ここではまた、七尾市が構想する「ファンドによる(一時的な)所有権の取得」という形態が力を発揮する可能性もある。

「個人事業の承継では、親子の間でさえ面と向かって話さないことが多いんですよ。そこに我々が入ると緩衝材になってコミュニケーションが進んだりします。また事業承継ファンドが資金を入れれば、適切に経営に関与して経営者の独りよがりを防ぐこともできるでしょう」(友田氏)

写真05:分科会の様子B

 

▶「承継」という言葉のイメージをくつがえす

 

七尾市の事業承継ファンドについては、会場の関心も高かった。どのような考え方なのか、もう少し説明していただく。

「ファンドが資金を入れるということはファンドがオーナーになる、つまり経営と所有を分離するということです。ただし、経営が安定したら(たとえば10年後)、経営者(承継者)がファンドから所有権を買い取るのが理想と考えています。なお、そのファンドには市民に参加してもらうことを考えていますが、この仕組みの理念や狙いを理解し、地域の意向を大切にする人を集めたいですね。また、投資先を決定する際のメンバーは多すぎない方がいいので、適切な規模を考えたい」(友田氏)

しかし、ファンドがオーナーであるうちは、承継者はいわば“雇われ社長”のままだ。借金というリスクを背負わなくてよい分、「諦め」も早いかもしれない。土屋氏が指摘したのはそこだ。引き継いではみたけれど、「やっぱりやめます」という人が出たらどうするのか。

「10年くらいがんばってくれた上でそうなったら、また新しい人が来てくれればいいと考えています」(友田氏)

つまり、一度継いだら生涯そこに固定される前提でなくてもいい。そうやって引き継ぎを重ねていくスタイルでもいいではないか――。たしかにそれも従来の「承継」という言葉のニュアンスとは違う、新しい考え方だろう。

引き継いでいく、という意味では、スパンは違うが日南酒造会館や「まちの社宅事業」のような「二段階方式」も同じだ。間にワンステップが入ることで、「承継のプロセスが細分化される」(田中氏)、つまり、「ゼロからイチにするところを誰かがやり、軌道に乗ったら譲渡というケースもあり得る」(土屋氏)わけだ。

 

▶エバリュエーションの手法とは?

 

さて、譲渡する側も承継する側も、やはりいちばん気になるのはお金である。これら小規模事業者の経営譲渡の場合、その対価はいったいどのくらいの規模なのか。会場から出た質問だ。

大企業のM&Aなら値付け、つまりエバリュエーション手法が確立しているが、“田舎の個人商店”の多くは、そもそもフリーキャッシュフローなどという概念すらない。「いいものを作ることにはこだわっていても、自分の商売にどれだけ価値があるかなんて、そもそも興味がないケースも多い」(田中氏)という状況で、誰がどのように評価するのか。

「基本的には売上規模から査定するのでしょうが、都会のような規模感には至らないと思います。個人事業者であればそもそも売れると思ってない人が多いですから、誰かが『このくらいでどうか』と提示して、お互い納得する方法になるのでは。ただ、そこまでいった例はまだないので早くモデルケースを作りたい」(友田氏)

「個人事業者の場合は、その業態によっても金額は変わってきますね。モノづくりなら設備という資産がありますし、サービス業だと権利だけの場合もある。店の2階が自宅という商店街モデルなら、結局は物件の売却ということになります。いずれにしても東京の感覚よりはかなり小規模で、最後は握手で決まる世界でしょう。理想的には、客観的な評価者として地元の金融機関が小規模売却のノウハウや冷静な相場観を形成し、提示してくれるとよいとは思います」(土屋氏)

相続、終身を暗黙の前提としてきた地方の中小事業承継のありかたを、根本的に変えようとしている「Reベンチャー」の取り組み。まだ緒に就いたばかりで、もちろん多くの課題がある。しかし、日本における中小企業の存在は大きい。小規模企業(製造業で従業員20人以下、商業・サービス業で従業員5人以下)に限っても、わが国の全企業数の9割近く、全雇用の4分の1を占める。その中から「本当に残したい仕事・残したい企業」を見極め、持続させていくことは、地方創生の肝心要ともいえるのだ。

七尾事業承継オーケストラ、日南事業承継ネットワークの今後のニュースに注目したい。

この記事を書いたユーザー

中川雅美

中川雅美

神奈川県川崎市出身。東京の外資系企業数社で20年以上、翻訳・編集・広報・コーポレートブランディングの仕事に携わったのち、2014年初から福島県へ。復興庁からの派遣職員として、当時全町避難中だった浪江町役場の広報支援に入る。任期終了後も福島県に残り、現在は福島市を拠点にフリーのライター&広報アドバイザーとして複数の団体を支援中。 ブログ「Life in Fukushima 50歳からの単身地方移住日記」https://lifeinfukushima.com/

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