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遠野で、自分らしいお産と出会える場をつくる。Next Commons Lab・渡辺敦子さん(後編)

2016.06.25 

現在、渡辺敦子さんは女性の産後を支える新しいプロジェクトを遠野で始めようとしています。お産を経て、渡辺さんの目の前に広がる世界はどう変わっていったのでしょうか。そしてそこから、どんな女性としての生き方の可能性が見えてきたのでしょうか。  

>>前編はこちらDSCF2069

お産をめぐる知恵にひかりをあてる

桐田: そういった産後の知恵が広く知られていないのは、人によっても差があり過ぎるからなのでしょうか。

 

渡辺: うん、多分そうですね。妊娠中はみんな大事にしてくれるし、情報だったり気づかいだったり、いろいろ「ある」感じがしませんか? 産むのが痛いのも何となく知っているし、陣痛が痛いというのもよく聞くし。けれど、人によっては産んだ後のほうが痛いんですよ。それを私は知らなかったし、産んだら責任を持ってお世話をしなきゃいけないし、けれど自分の体も相当ボロボロで……。

そんな状況まで想像できていなかった自分がいるから、そういった産後の情報までセットで教えてもらえて、備えていられるようになった方がいいんじゃないかなって思うんです。

私は友人から、産んだら3日後に、妊娠中いっぱい出ている女性ホルモンがゼロになって、妊娠中何もしなくても調子がよかったお肌の感じも終わるからね、とか(笑)聞いてはいました。ホルモンが本当に変わるから、精神状態もとても変わるんです。私なんてずっと夫に八つ当たりしてました(笑)。そういう、ホルモンの変化によって精神的に不安定になるだとか、不調のメカニズムが伝わっていたら、皆もうちょっと気持ちのやり場を持てるのかなと思っているんです。 IMGP9360 桐田: たとえば「かぐれ」がグリーンファッションを普通の人が「おしゃれだよね」と感じるものに編集し直したように、これから渡辺さんはお産について同じようなことをされていくのかなと感じています。お産についての知恵も、ずっと前から存在しているとは思うのですが、かなり意識的に求めないと届かない場所にあったり、一般的な感覚の人が好んで受け取るようなかたちになっていないのかなと思っていて。

 

渡辺: そう、そう。何というか、隠されちゃっているというか。

 

桐田: 何かちょっと、怖いかんじというか。

 

渡辺: そう。キレイなものじゃないとかね。

 

桐田: だから個人的には、もしかしたら「かぐれ」みたいな道のりを歩むプロジェクトになるのかなと感じています。

 

渡辺: 本当に。これは女の人だけの問題じゃないと思っていろいろ調べていたんですけど、産後クライシスという言葉が流行っていましたよね? これは、母子家庭になった時期が子どもが0~2歳のときが30%強と最も多いということなんですが、それくらい女の人の精神状態は追い込まれちゃうんですね。

赤ちゃんの成長とともに少しずつ楽になっていくし、どんどん状況は変わるんですけど、そんなこと考えられないぐらい目の前のことが大変で。「理解してもらえないんだったら、別れるわ」という気持ちになっちゃうんです。だから、男の人にとっても産後をいい状況で乗り切るというのはすごく大事なことで(笑)。

 

桐田: そうですね〜!(笑)。本人たちも別に悪気はないんでしょうから。

 

渡辺: わかっていないだけだから。女の人だけの問題じゃなくて、もうあなた自身の危険性があるんですよということも伝えていきたい(笑)。 DSCF2073 桐田: 同じ時期に子どもを産む妊婦さん同士のコミュニティーみたいなものは生まれるものなんですか?

 

渡辺: うーん、少なくとも私の周りではあまりないですね。そういったものもあったほうが絶対いいですね。

 

桐田: 夫以外のはけ口が必要ですよね(笑)。

 

渡辺: そうそうそう、本当にそうなんです(笑)。でも、産んで1か月の一番辛いときは外に出れなくって。本当に動けないし、2〜3時間おきにお世話をしなきゃいけないから、寝れないですし。その一番辛いときこそ誰かの手が欲しいんだけれど、助けを求めに外にも行けないんです。来てもらえるようなサービスもあるんですけど、残念ながら遠野にはまだなくて。だから、私はここでいろいろやることがあるなと思っています。

 

桐田: そんなにやることがいっぱいあって、なぜ今までそういったサービスが生まれてこなかったのでしょうか?

 

渡辺: 一つには、その辛い時期が過ぎて、子どもはどんどん成長していくことにあると思います。お産の直後には産後への問題意識があったとしても、すぐに保育園入園の時期がきたり、自分の社会復帰に向き合わなきゃいけなかったり、状況が目まぐるしく変わっていってしまうんです。そうして小学校まで進むと、それこそ問題がいっぱい起こってきて、知らず知らずのうちに過去の問題には取り組まなくなってしまうのかなあと。多分、あまり表に出てこない理由はそういう感じだと思うんです。

 

桐田: 一度産んでしまうと、目の前のこと以外に対応できないくらい大変な時期が続くということなのかもしれませんね。フローレンスの駒崎さんも、同じようなことをおっしゃっていました(参考記事はこちら)。渡辺さんは、産むタイミングに迷いはありませんでしたか?

 

渡辺: 私はそれまで、全然子どもが欲しくなかったんですよ。だからいつ産もうとか、そういったことを考えたことがなくて。でも、36歳くらいになって、やっぱり子どもがいるっていいかもしれないと思って。よく考えたら、子どもが欲しいとか、仕事をもうちょっとゆるやかにしたいとか、もう一回地方に戻りたいなとか、いろんなことが同時期に進んでいたのだと思います。

身体的に考えるとやっぱり高齢よりは、出産は早いほうがいいのかもしれないと私は思うけれど、やっぱり企業で働いている人にとっては20代最初の勤め始めで出産になってしまうと、気持ちに焦りが出てしまうのかもしれないですね。そうして自分のキャリアが気になっている状態だと、子どもに対して100%ポジティブな気持ちでいられなくなってしまうかもしれません。

 

桐田: そうですよね。たとえば私の年代ですと色んな言説が出てきたタイミングで、出産とキャリアの板挟みになって苦しんでいる女性が多いような気がしています。そして悲しいことに、そういった女性間での思想の違いで微妙に対立が起きてしまうんですよね。

 

渡辺: そうそう、それが嫌ですよね。もうどっちでもいいじゃないって(笑)。

 

桐田: 本当に(笑)。それぞれが幸せだと感じる状態を、気持ちよくつくっていけたらいいですよね。 IMGP9385

やることがちょっと変わるだけで、言うことは何も変わらないだろうなぁと

桐田: 渡辺さんは、これまで「かぐれ」で“もの”を通したご自身の美意識の表現をされてきていたように思いますが、そういったことには今後も関わられていくのでしょうか?

 

渡辺: そうですね、“もの”からは離れないとは思います。自分の興味という意味では、ずっと続いていくことだと思うので。あと実は、これから遠野で、地域の食に関わっていくプロジェクトも進めていて、一つは市内にコミュニティカフェを作るプロジェクトで、それこそ空間づくりから始めていくんですよ。 IMGP9359 桐田: わあ。以前おっしゃっていた、「場所の力」ですね!

 

渡辺: そうそう。だから、そこはやっぱり結局やるんだなという感じです(笑)。以前の取材のときにお話していた「空間の力」を持つ場所にしたいですね。遠野は自然が豊かで美しい景色はたくさんありますし、古民家も素晴らしいですが、今回はもう少し新しい感覚で、古い商店を古材を生かして改装します。いろんな人が集まって出会う、コミュニティの中心になるような場にしたいと思っています。

もう一つの食の事業では、発酵のことを扱っていきます。遠野には発酵醸造文化が根付いているし、それこそ発酵を得意とする素晴らしい料理人の方がいらっしゃるんですよ。その方と一緒にプロダクトを開発したり、ブランドを作っていこうと思っていて。

 

桐田: 発酵も日本古来の文化ですし、それを編集し直すという視点からみたら「かぐれ」から変わらずにつながっていますね。

 

渡辺: そうなんです。“もの”を通して以前やっていたことは「もっと暮らしを見つめましょう」「自分の体を見つめましょう」ということでしたけど、これからやっていくことはその延長にあることだとは思っています。だから、産後ケア施設をやっても「冷えとり」をすすめると思いますし、「自分の体を見つめましょう」って言いますし、「それは毎日の食べ物とか暮らしからできているよ」と伝えると思います。

やることがちょっと変わるだけで、言うことは何も変わらないかもしれません。 でも、やっぱり食べることと子育てって、切っても切り離せないことで、だからこそ地域の食文化を考え直す、そういった場所をつくるというのも、すべてつながっている感覚はあります。それが今回は、まちをあげて本当にダイナミックに動いている状態ですね。

 

桐田: 最後に、以前お会いしたまだ「かぐれ」で働いていた渡辺さんと、現在遠野で地域の未来を考えている渡辺さんの間で、変わったことはありますか? たとえば以前は、「自分のことは自分で幸せにしてくださいって思っちゃう(笑)」とおっしゃっていましたが、「灯台もと暮らし」の記事(記事はこちら)を拝読して「周りの人が幸せじゃないと、普通に自分も幸せじゃないなって自然に思うようになった」とあったのが印象的で。子どもが生まれたことで、関わる社会の範囲が変わったのかなと感じていました。

 

渡辺: そうですね、それは広くなった気がします。子どもを通して世界が開けるというか、「地球のことを考えるようになる」みたいなことはよく言われますけど、本当にそういうことですね。この先、この子があと何十年も生きると考えると……。私は、あと50年生きないだろうなあとか(笑)。だから、どうしても学校の環境とかが気になってしまいますし、学校に限らずこの子が生きていく環境が気になります、やっぱり。

あと、お母さんたちの幸せの事も考えますね。お母さんが笑顔でいると子どもも家族も笑顔になりますよね。そのために何ができるかなって。 出産後、抗いようのないからだの変化や、自分の力だけではどうしようもないことがたくさんあったんです。周囲の助けが必要だという体験を通して、自然とそれからの変化があったのかもしれませんね。 IMGP9454 IMGP9397   渡辺さんが関わる新しいプロジェクト「Next Commons Lab」はこちらから。

「本当の資本とは、貨幣ではなく人間の創造力である」というコンセプトを掲げ、「ポスト資本主義」を「今を生きる人たち」の手で具現化する取り組みです。

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桐田理恵

1986年生まれ。学術書出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2018年よりフリーランス、また「ローカルベンチャーラボ」プログラム広報。

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