賃貸住宅に住みたいと思っている高齢者の方が増えているのをご存知ですか?持家があっても配偶者の方が亡くなって家が広くなりすぎたり、定年退職して住環境を変えたいという方が少なくありません。
今回インタビューした山本遼さんは、2015年5月にそうした高齢者の方々へ向けた賃貸情報サイト「R65不動産」の運営をスタートしました。平成2年生まれ、26歳の若者である山本さんは、なぜこのような事業をはじめたのでしょうか?
目指すは「ソーシャルな地上げ屋」
— 事業をスタートされてから約1年経った現在、どのくらいの規模で事業を展開されているのでしょうか?
エリアは東京、埼玉、神奈川、千葉の1都3県で展開しています。お部屋探しについてはこの全エリアで行っていますが、物件の内、うちで扱っているものもあれば、別の不動産会社さんが取り扱っているものも少なくありません。サイト上には常時30件ほど掲載していますが、なかには載せていない物件もあるので、状況に応じて問い合わせがきたらご紹介しています。
あとは物件の管理に関しては、高齢の入居者さんのサポート体制をつくり、物件のオーナーさんにとっても、安心のできる仕組みをつくるという意味で、必要性を感じています。うちは杉並区の高齢者見守りの登録機関になっているのですが、NPOや民生委員のように、定期的に高齢の方のお宅を訪問する方や普段の生活で接する機会のある方と一緒になって、地域ぐるみで高齢の方が普通の住宅で暮らす事をサポートできるような体制になってきました。 — 山本さんはR65不動産を通じてどんなことを実現したいのでしょうか?
みんなにギョッとされるんですけど、僕はソーシャルな地上げ屋になりたいんです。R65不動産は、65歳前後の高齢者へ向けた物件探しのサポートだけでなく、地域の古い物件をリノベーションして面白い店子さんを地域に増やす取り組みもしています。例えば、これから施設に入るから今まで住んでいた1戸建をどうしようかと悩んでいる人に対して、「じゃあ地域のために使いませんか?」と提案させていただいています。
そうした取り組みの中で、最近も1件、秋葉原でリノベーション物件が生まれました。 1階はアトリエにして、2階はアーティストが泊まれるような部屋にしているのですが、これは僕が仕掛けたのではなく、そこの店子さんが頑張ってやってくださったことで。おばあちゃんが残した狭小住宅なんですが、そういった物件をうまく住み繋いでくれる人を見つけて、地域の拠点としていけたらおもしろそうだなと思っています。そういった感じで、とある社会的企業がとある物件に入居しますということになると、その周辺はすごく社会性が高くなりそうじゃないですか?
いかに地域とおもしろい店子さんを結びつけられるかが、町の入口である不動産屋としての使命なのかなと思っています。その結果として、地域の方が気軽に遊びに来られる、縁側のような場所をつくれたら最高ですよね。 — そうした感覚は、いつ頃からお持ちだったのですか?
地元の広島で小さな薬屋を営んでいた祖母の影響はあるかもしれません。うちのおばあちゃん、風邪薬1個売るのに1時間ぐらいかけていたんです(笑)。
そういう思い出を振り返ってみると、おばあちゃんの薬屋みたいに店舗が外に開いているところは、地域の方がいかに愛してくれるかが大切だなと思うんです。そういった視点から新しい店子さんを生み出していくことは、実は僕たちの事業でもできるような気がしているんです。
独立のきっかけは、祖父の一言「鶏口となるも牛後となるなかれ」
— 自分で事業をはじめるイメージは昔からありましたか?
そういった思いはあまりなかったです。けど、最近取材されて思い出したのは、祖父に就職するタイミングで挨拶に行ったときに「鶏口となるも牛後となるなかれ」と言われました。就職するタイミングで、最悪ですよね(笑) その言葉がずっと頭に残っていて、結局「鶏口」というのをやってみたいと思って会社を辞めたように思います。
— 実際に事業をはじめてみていかがですか?
僕、平成2年生まれの26歳なんですけど、R65を始めてから後輩におじいちゃんみたいになりましたねって言われて。確かに1週間に3日ぐらいは高齢者の方に会いますけど…。結構ショックです(笑)。 — 山本さん、飄々とされているからかもしれませんね(笑)。高齢者の方に会うというのは物件を探している方にですか?
探している方ももちろんですが、実は貸したいという方もお会いすることが多いです。同年代の方から、同年代の方をご紹介いただくという感じで。貸したい側の場合は、先ほどお伝えしたように「施設に入るから、自分の持っている空き家を何とかしたい」とか、「持家がちょっと広すぎて、手がつけられていない」といった理由が多いです。
おかげさまで色んなご縁をいただいていますが、その反面、不動産屋的発想でオーナーさんが強くて入居者さんが弱いみたいな、ありがちな関係にならないための「倫理観」は常に試されているなと思います。
単純にオーナーさんの利益だけを考えるのではなく、秋葉原の物件のように入居者さんの要望を取り入れてリフォームしたケースは非常に上手くいきました。倫理観を大切にすると、オーナーさんが資金をかけて、リスクを取らないといけないこともありますが、お金以外のところで入居者さんに返せることは何だろうっていうことを一緒に考えることが本当に大切なんです。
財布を落としても死なない社会がいい。
— オーナーさんの金銭的な利益だけでなく、他地域とのつながりができることによるメリットとか、オーナーさんの評判が上がるとか、そういう部分へと換算できるといいんでしょうね。
そうなんですよ。その点ではやっぱり紹介っていいなって思っているんです。お互いがwin-winになるようなものを上手にマッチングさせてしまえば、お金もかからないですし。そして、紹介でおもしろい方からおもしろい方へとどんどんつながっていけば、地域社会全体がおもしろくなると思うんです。最終的にはその結果として、「財布を落としても死なない社会」ができたらなと。
— 「財布を落としても死なない社会」、ですか?
財布を落としても、事業が失敗しても、死なない社会が周りでできていたらなと。先日、海外35か国を周ってきた方とお会いして伺った話のなかで印象に残っているのが、フランスには餓死がないということで。路上生活者もいらっしゃるんですが、それでもどうにか生きてるそうなんですよ。
それは社会保障とかの最低限のセーフティーネットからもこぼれる人の存在とか、人と違った生き方とかを許容するという文化の有無の違いなのかなと考えています。そういった暮らしが日本では何でできないのかというと、許容度が足りないことが問題なんじゃないかなと。僕の場合、こうした多様性を受け入れる世の中をつくるためにできることは、おもしろい店子さんを育んでいくことなのかなと思うんです。
働き手の平均年齢もR65に!
— これから何かに挑戦したい!という若者に伝えたいことはありますか?
僕自身が若者で、今頑張っているとこですけど(笑)。環境は大事かなと思います。
新しいことに取り組みやすい環境とか、業界の知見が得られる場所だとか。自分だけで一生懸命やっていても、例えば税金のこととか専門外のことになってくると、どうしたらいいのかわからないことも多いと思うんですよ。だから同じように何か事業を行っている方や専門知識のある方に意見を聞けるような環境に飛び込むことって実はすごく重要なんだなと思っています。
— スタートアップの方々からは「仲間が大事」というアドバイスをいただくことが多いのですが、山本さんの場合、仲間というよりは「パートナーシップ」というスタンスが近いのかなという印象を受けました。
そうですね。自分で時間を決められたり、自由なのが好きなんです。それに人を雇うのは怖いと思うタイプなので(笑)。グイグイと引っ張っていくタイプであれば、人を巻き込みながらできるのかなとは思うんですけど、僕にとってはパートナーシップでwin-winになるような設計を組んでいくほうが、持続性はあるのかなと思っています。
でも先日、66歳の方が「私も働きたいんです」というご連絡をくださって。ケアマネジャーの仕事をされてた方で、宅建をとったので働かせてください、と。一緒に働いたら、平均年齢が40歳くらいになりますよね。ゆくゆくは平均年齢もR65でいきたいなと思っています。
— 働き手も!
そのほうが、僕がわからないことをいっぱい知っているので、教えていただけますから。あと、あまり雇うという感覚にならなくて、どちらかというと教えてもらって、フラットに仕事ができるのかなという思いもあるので。
ここら辺は人を雇ったことがないので、これからの課題です。仕事が増えてきたタイミングで、何かしらの決断が必要とは思っています。 とはいえ、抱えるものを少なくしてやっていきたいと常々考えています。目の前にいる方が幸せになって、それがつながっていって地域ができていくのだろうなと思っているので。
不動産も、高齢化社会も先がすごく長い話ですから、一足飛びにこれをやったら何かできるということでもないですからね。
山本さんは、社会起業塾イニシアチブ(以下”社会起業塾”)のOBです。社会起業塾は、セクターを越えた多様な人々の力を引き出しながら、課題解決を加速させていく変革の担い手(チェンジ・エージェント)としての社会起業家を支援、輩出する取り組みで、2002年にスタートしました。興味のある方は、ぜひチェックしてみてください!
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