政府や専門家等による従来の予想が大きく上回る巨大な地震が発生した東日本大震災は、私たちに多くの反省と教訓をもたらしました。
中でも地震による津波の被害は甚大であり、防波堤や防潮堤を大きく越え、破壊された海辺の街も多くあります。東日本大震災後に内閣府が実施した中央防災会議では、防波堤等のハード面に依存した対策だけではなく、最大クラスの津波に関しては被害を最小化する「減災」の考え方に基づき、ハザートマップ整備等、一人一人が安全な場所に「避難」できるようにするためのソフト面の対策を併せて推進するべきという防災に関する基本的な方向性が示されました。現在も各自治体による防災推進計画が進められ、国土交通省では全国の自治体の推進状況をウェブサイトで公開しています。
しかし、私たちはいざ災害が発生した時、普段から馴染みがあり土地勘を持つ場所にいるとは限りません。もちろん全ての自治体の安全な避難場所を常に把握し続けることは不可能です。
では出張や旅行時に頼りになる情報はどこで手に入れたらいいのでしょうか? 自治体・行政の視点で考えると、外国人観光客も増える昨今、情報伝達の仕組みや住民一人一人の意識改善のための取り組みが必要であることは容易に想像がつきます。中央防災会議の報告書でも、円滑な避難行動のための体制整備とルールづくりのための5つの視点が示され、「受け手の立場に」立った津波襲来時の情報伝達の改良や津波避難ビルの指定要件の見直しなどについても記載されています。
そんな中、新しい津波対策「オレンジフラッグ」は、誰もが視覚的にわかるオレンジ色の旗を利用して、津波の到来や避難場所を伝えるツールとして自治体への導入が進んでいます。このオレンジフラッグの普及啓発活動を進める一般社団法人防災ガールによるサミットが、日本財団共催のもと2017年10月20日に開催されました。当日の模様とともに、オレンジフラッグの取り組みや防災ガールの想いについてお伝えします。
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"海とともに生きる未来"を目指す「#beORANGE」とは?
島国である日本の多くの地域にとっては、海が重要な観光資源であることは珍しくありません。海を持つ自治体にとっては、津波対策によって海を恐怖の対象として人々から遠ざけるのではなく、住民や観光客に海水浴やサーフィンなどの海のレジャーを楽しんでもらえる場所でありながら、万が一の際にはしっかり一人一人の安全を確保できる、海とともにあり続ける対策が必要です。
そのような自治体から近年注目を集めているのが「オレンジフラッグ」の存在です。オレンジフラッグの合図としての二つの役割は、
【1】海にいる人々に津波の到来を知らせること
【2】海から上がった人たちに安全な避難場所を知らせること
です。スマートフォン等を持たず、周囲の音も聞こえにくいサーフィンなどの海のレジャーを楽しむ最中に地震が発生しても、あるいは、日本語のわからない外国人観光客であっても視覚的に認識のできる合図として効果を期待され、鎌倉市では250本の導入が決定されています。
#beORANGEは、オレンジフラッグを全国へ普及するために一般社団法人防災ガールと日本財団が協働で進めるプロジェクト。2016年から活動をはじめ、高知県で75本、宮崎県で44本など全国7084の市町村、合計224本のオレンジフラッグが設置されているそうです。
時代・地域・人とともに変化し続ける防災のあり方を実践する。
一般社団法人防災ガールは、女性向け防災グッズブランド「SABOI」など新しい防災の概念を時代や地域に合わせて発信している団体です。代表理事の田中美咲さんはオレンジフラッグの活動について、「未だかつてないスピードで全国に届けていきたい」と話します。
田中さん「次に来る津波に向けて今私たちは何ができるだろう?とずっと考えてきました。防災ガールの活動を通して海の近くに住む方々やサーファーの方々とお話すると、海への愛着を非常に強く感じます。海とともに生き続けるにはどうしたらいいのだろう?という被災された方々や海を愛する方々と考えている中で、神奈川県鎌倉市のマリンスポーツ連盟のみなさんが東日本大震災後に考案されたと言われている"オレンジフラッグ"の存在を知りました。すでに、オレンジフラッグが独自に制作・活用されているところもありましたがそれらの活動は点在している状況でした。
ならば、自分たちがプラットフォームとして活動をすることで、コミュニティづくりや普及活動を行い、オレンジフラッグという運動そのものを加速するとができたらいいなと考え、#beORANGEの活動が始まりました。現在はわたしたちと日本財団が共催という形でオレンジフラッグの普及活動を進めています。
海に出ていると、地震の揺れも音もわかりません。住民の数より観光客の数が3倍から10倍の地域では観光客への周知も必須です。オレンジフラッグは超アナログですが、視認性は高いツールです。障害を持ち音が聞こえない人でもわかるという利点もあります。高齢者の多いエリアでは、よりわかりやすくするためにオレンジフラッグに文字を大きく入れているケースもあります。シンプルなツールがゆえに、地域に合わせたアレンジも生まれやすいのも特徴です。」
鎌倉市でのオレンジフラッグを軸にした防災活動
日本でも有数の観光地でもありある鎌倉市は、2016年に公開した津波シミュレーション動画も話題になりましたが、他地域や外国からの観光客が多い町でもあるため、市民を巻き込んだ防災対策には従来より力を入れて推進しています。#beORANGEサミットでは、鎌倉市防災安全部長﨑聡之さん(以下長崎さん)による、地域一丸となったオレンジフラッグの導入事例の紹介もありました。
長崎さん「オレンジフラッグの普及のために、まずは基本的な取り組みとして、避難訓練での活用、海の家での設置、防災計画やハザードバップへの記載等を行なっています。鎌倉市は観光地という土地柄、万が一の時には海の家や商店街の方々がお客さんたちを安全な場所へ誘導する"避難誘導者"となってもらう可能性があります。そのため、行政として防災対策を考えるにあたっては市民のみなさんとうまく連携する形で考えることが欠かせません。
地域の商店街の方から、"避難誘導者になるために万が一の時に使える統一したツールがあると便利"という声をいただいたこともきっかけとなり、海の家や商店街には、観光客の方々を安全な場所へ誘導するツールとしてのオレンジフラッグも配布しています。海の家や商店街がオレンジフラッグを通して団結するきっかけにもなっており、地域ぐるみの防災活動を起こしていく良いツールとしても機能しています。そのほか、オレンジフラッグのミニバージョンを作成して地域の関係機関に配布をするなどの意識向上をはかっています。」
地震を含む自然災害が起こる恐れがある場合に発せられる"注意報"については、現行の気象業務法施行令 第13条で「鐘音又はサイレン音による」と定められています。この記載があることで、注意報は鐘またはサイレンによる聴覚情報に限られてしまっています(2017年10月現在)。そのため視覚情報であるオレンジフラッグでは公式に情報を伝達する手段としては使うことができません。
長﨑さん「この法律の記載を変更するため、神奈川県知事と鎌倉市長が共同で国土交通大臣と気象庁に要望書を提出しました。これまでのオレンジフラッグに関する活動を踏まえて、視覚的伝達も法律の中で認めるよう施行規則の見直しを求める内容です。耳の聞こえない人や日本語のわからない人にとって、視覚情報は非常に大切です。沖合いから一番目立つ色であるオレンジを、行政としてきちんと公式な情報として発信しやすくするための法的整備も進めていきたいと思います。」
オレンジフラッグの広がり
オレンジフラッグの輪は九州、宮崎にも拡がっています。
宮崎県初の学生消防団のある宮崎大学では、団体に所属する学生たちが消火栓の使い方や心肺蘇生の訓練を日常的に行ったり、地域で火事などが発生した時には救助に駆けつけるなど、実際の現場も含め様々な活動を行っているそうです。宮崎でのオレンジフラッグの活動は、2017年5月にこの「宮大学生消防隊」が中心となり#beORANGE宮崎実行委員会を発足。クラウドファンディングを利用して資金を集めオレンジフラッグを購入するなどの活動を実施してきました。#beORENGEサミットには、#beORENGE宮崎実行委員会代表の竹田卓生さん(竹田さん)による発表がありました。
竹田さん「宮崎での活動は、意識調査などからスタートし、今年の夏には沿岸部10地域でのオレンジフラッグ贈呈キャラバンを行いました。8月下旬から9月上旬にかけての防災週間には、宮崎の有名な観光地である青島海水浴場でイベントを開催し、オレンジフラッグのPR活動や観光客やサーファーの皆さんへ意識調査を実施しました。今後の課題は、オレンジフラッグの日常での活用方法を地域に提案していくことです。オレンジフラッグは管理者がいないとなかなか浸透しないという問題があり、継続的な住民への認知度を向上していくためにも沿岸地域と密になった活動を進めていきたいと思っています。まずは各地でのサーフポイントでのオレンジフラッグの設置普及を目指し活動を続けていきます。」
今回の記事でご紹介した鎌倉市と宮崎県のほか、高知や静岡など続々とオレンジフラッグの導入地域が増加しています。鎌倉市のようにオレンジフラッグをきっかけに地域住民が団結するきっかけとなったり、宮崎県のように学生が主導するケースもあったり、導入のパターンは地域によって様々です。オレンジフラッグをきっかけに、地域一丸となった防災計画を後押ししていくことにに興味のある方は、ぜひ一般社団法人防災ガールのみなさんへぜひご一報を!
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